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エピローグⅠ&エピローグⅡ

エピローグⅠ


俺はチンピラに胸ぐらを掴まれていた。

場所はススキノの俺の店の出入り口付近。

今日はめでたい日なんで、店は休みだったんだけど、かなみが常連客だけを呼んで店を開けようと言い出したのが、午後10時頃。髭を含めた常連客に次々電話し、集まったかなみのファンは十五人。

他の娘たちは休みだから、俺とかなみで全ての業務をこなしていた訳。ちなみに俺は調理免許を持っているからね。

どこかの闇医者と一緒にしないでよ。

そんで、何故俺が胸ぐらを掴まれているかと言うとだね。

かなみが呼んだのは常連客だけなんだけど、店は開けているからさ。新規の客が一人入って来ちゃったのよ。

かなみは来る者拒まず、去る者追い掛けるっていう人間だからさ。今日は女の子休みですって言ってる側から、店内に入れちゃったのさ。

その酔っぱらったチンピラくんは、この店がどんな店だか知らなかったみたいでさ。

酌をするかなみの尻を触ったり肩を組んだりで、髭を含む常連たちと揉めちゃったの。

それを諌める為に存在する俺は、まあまあまあって言いながらこのチンピラくんを此処まで押し出して来たんだけど、怒っちゃってね。

それで、俺は今胸ぐらを掴まれているって訳さ。

かなみは常連客の怒りを鎮める為にカラオケステージに昇ってライブ中、常連客は皆ステージに齧りついてかなみに夢中だ、そんなチンピラくん居たかでもない。

基本的にお触りはナシっていう店なんだと何度説明しても、酔っぱらいのチンピラくんが聞いている訳も無いんだけどね。まあ、それに対して俺も彼が何か叫んでいるクレームの言葉を全く聞いてないんだけどさ。

同道巡りの俺の説明とチンピラくんの怒号が階段側の出入り口付近で暫く続いているんだな。

ちなみにコロンはこの業界を去った。子供の頃からの彼女の夢は調香師になる事で、今はその勉強をしながら、この近くで雑貨店をしている。コロンの作った香水がこの前コンクールで入賞して、今は寝る間も惜しんで次の作品の制作中。今日ここに来る予定だが、まだ来る時間じゃない。

太郎くんは相変わらずの引き籠りだけど、今日はかなみと一緒に来て、上の階の事務所に居るけど、店が開いている場合、彼が店の方に降りて来る事はない。

多分寝ている。

先輩の連れて来た美少女リンちゃんも一緒に来た、最近は結構日本語も上達して来たけど、13歳だ。事務所のソファで当たり前だが寝ている。今の時間は午前2時だ。ちなみに集合時間は午前3時の予定。

これは先輩が言い出した事なんで、先輩が責任を持って主賓を迎えに行っているのね。だからあの脅威の戦闘能力に期待は出来ない。

めでたい日ってのは、六郎くんの事だよ。

昨日刑務所から出たんだけど、釧路の知り合いに挨拶してからこっちに向かうという言葉を聞いた先輩が、それじゃあ迎えに行くって言い出してね。

その辺に違法駐車されていた車の鍵を突然壊して奪って行ったのが、昨日の正午頃かな。ちなみに先輩は無茶苦茶な人だから、その辺の路肩に寄せて停車している車に全く容赦がない。先輩が言うには、『落ちている物を拾って交番に届けようと思ったんだが、交番が何処か判らないし、俺って死んだ事になっているから、警察には行けない』だ、そうだ。

確かに駐車場に停めない運転者は多いけど、レッカーじゃなくてそのまま持ち去られるってのも、なんとも乱暴な印象だけど、いつもの先輩らしい行動でもある。

戦場とかで制限速度を守って走っていたら的になるだけだってのは判るけど、スピードも出し過ぎな感じはあるかな。それに札幌は戦場じゃない。慣れっていうのは恐ろしい物だね。

大体最後は小樽に停泊している外国の船の傍に停め、後は外国人が勝手に持って行っているらしいよ。札幌に住む人は先輩が滞在している時は路肩に駐車するのには気を付けないといけないね。

そんな先輩が六郎くんを迎えに行ったのが恐ろしいけどね。また何処かでバトルになってなきゃいいけど。

そんな回想している場合でもないんだけどね。

もう、結構この商売に鞍替えしてから長いんで、こういうこの店を知らないチンピラくんにも慣れちゃっててさ。でも最近にしては珍しいパターンではあるかな。

かなみがこの店に勤めるようになってからは、太郎くんがかなり手を回して、こういう人が来られないような店になっていたんでね。多分この手の事件は一年に一度も起きないって程度になっている。チンピラくんの喋り方に違和感があるから、ひょっとして本州からの旅行者かも知れないな。

そんな事を考えていたけど、流石に首の辺りが苦しくなって来た。このままでは不味いな。

暴力を禁止している店のオーナーである俺が暴力に訴える訳にも行かないし、俺が暴力向きじゃないのは皆知っている事だ。困ったぞ。金で解決も考えてみたけど、こうもチンピラくんに密着されては財布も出せないな。

そう思っていると、突然胸にあったチンピラくんの手が離された。俺は頑張って背伸びしていたので、宙には浮いていなかったが、突然その手が消えたので、その場に尻もちを付く。

「洋泉。お前はこういうのに向いていないと何度言わせれば判るんだ? 懲りない男だな。ところで、こいつは殺して構わんのか?」

チンピラくんの足が宙に浮いていた。後ろから突然現れた人物に立ったままでスリーパーホールドされているんだ。俺は首を横にブンブン音を立てて振った。このビルで死人が出るのは困る。いやはや、いつもタイミング良い人だよなぁ。随分早いお着きで、先輩。

その後ろには、これまた随分と成長した感じのする男性、これは六郎くんだな。体型は殆ど先輩と変わらない。中学生当時にゴシップ雑誌に目線付けられて載っていたのと顔の造りは殆ど変っていないのが不思議なくらいだった。

「そうだな。こんな目出度い日にこの店の周囲では軽犯罪一つ起こって欲しくないのが人情だろうからな。何処で始末してやろうか?」

結局殺すのかよ。という俺のツッコミは喉元まで出掛かったが、先輩のこういう人種に対する冷たさは折り紙つき、止めた所で聞く耳持たないだろう。

しかし、それは珍しく先輩の冗談だったらしく、このチンピラくんはこのビルから100メートル程離れた隣の町内の電柱に縛り付けられた状態で明日の昼頃発見される事になる。

「こんなに酔っているからな、少し記憶を失って貰えば問題あるまい?」

そう言って六郎くんの方にチンピラくんを向けた。六郎くんは困った顔をする。

「どこかの一族じゃないんですから、そんなに万能な能力じゃないですよ」

「そうか、あれも使えないのか。お前の能力も随分半端だなぁ」

先輩は楽しそうに言うと、チンピラくんを連れて階段を降りて行った。多分殴って彼の記憶を消すんだろうね。ナンマイダーナンマイダー。

六郎くんが手を差し出し、俺を起こしてくれる。体はでかいが心は優しい人物だ。

「いやぁ、久し振りだねぇ。鷹刃氏六郎くん。俺の事は覚えているのかな?」

「ああ、大丈夫。クラスは違ったけど、洋泉ヒロシを忘れる筈がないさ。それに、刑務所の中でも割と普通にテレビは見られた。これは俺が模範囚だったからだけどね」

そう言って頭を掻く。これは先輩に聞いていたから知っているだけなんだけど、彼は頭を掻くのが照れた時の癖なんだ。

「それにしても、随分早かったんじゃない? 釧路からだから、もう少し時間掛ると思ったんだけど」

俺の問いに、六郎くんは頭を更に掻いた。

「いや、今度からは何があっても自分の足で帰って来る事にするよ」

ああ、先輩の運転が相当ヤバかったか、それとも何かのバトルが勃発したのかな。それにしても早いお着きだった。まあ、詳しい事はこれからいつでも六郎くんに聞けば良いからね。仮釈放じゃないんだから。

そして、当然チンピラくんを処分した後だから一人で戻って来た先輩は、六郎くんを店の中に案内するように俺に言い付けると、階段を更に昇って事務所の太郎くんとリンちゃんを呼びに行く。最初に出会った頃に比べると、先輩は随分笑うようになった。5年前は冷徹って言葉以外当て嵌まらない人だったからね。

俺は六郎くんを伴って店に戻る。ステージの上で歌って踊っていたかなみが、突然マイクを投げ捨てた。ステージ方向に夢中になっていた常連客が驚く。

「六郎くん!!! おかえりぃっ!!!」

ステージから十五人の常連客を飛び越えて、一度床に着地してからもう一度ジャンプ、俺はかわしたが、六郎くんはそのまま彼女を受け止めた。六郎くんの首にかなみがぶら下がっている。

一同唖然とする中、かなみは六郎くんの首にぶら下がったまま、お姫様だっこの状態で宣言する。

「みんなぁーっ! 紹介するねっ! この人がかなみの旦那さんになる六郎くんだよっ!」

新規の客でも居れば呆然だろうが、此処に来ている客は皆常連だ、全員がかなみの彼氏の事を知っていた。かなみは自分の兄の事以外は結構客に喋ってしまう人間なんだ。常連客は皆かなみの事を好きだろうが、それは決して恋愛感情ではない。妹みたいだったり、歌声が好きだったり、彼女を見て和んだりするのが、ここに居る常連客たちだ。

「おめでとうっ!! かなみちゃんっ!!」

髭が持っていたグラスを揚げた。他の常連客も同じくグラスを揚げて叫ぶ。そして割れんばかりの拍手と乾杯の嵐。つい先程チンピラくんと揉めた事も忘れたらしい。

俺はその拍手の嵐を聞きながら、カウンターに入って適当に酒の瓶を20本程出す。

「今日は目出度い日なんだよ。だから、朝まで飲んでくれっ! これは俺からの奢りだぁーっ!」

六郎くんの首から飛び降り、かなみがカウンターに来て、その瓶をかっさらい持って行く。常連客からは歓声が上がる。そして六郎くんはまた頭を掻いていた。突然の結婚宣言だから仕方ないよね。

俺はそのままカウンターでつまみの準備をしながら、この平和な空気感を楽しんでいた。

基本的に先輩は店に顔を出さない人なんで、その間事務所で太郎くんや起きたばかりのリンちゃん、そして新作の香水を持ったコロンが合流して、何か話をしていたようだ。俺はカウンターで料理の腕をふるい、かなみはまた歌う。六郎くんは主賓なので、その場を去れずにカウンター席でずっと頭を掻いていた。

その後、長引いた常連客との飲み会は5時まで続き、彼ら全員が帰ったのは5時半を回った頃だった。

最後に帰った髭に散々握手された六郎くんは、かなり面食らったようだ。

「あの人って、確かテレビ局のディレクターだよね。洋泉の出演していたテレビにも出ていた人だろ?」

「ああ、ウチの店の常連さ。今は偉くなって、ドラマの監督とか演出もしているけど、飲みに来ればあの通りの人さ。あの髭は前から全然変わらないな」

俺はグラスと酒瓶を片付けながら答える。髭の姿が完全にエレベーターの中に消えた頃、先輩たちが階段で店の方に降りて来る。

「盛り上がっていたな」

かなみの頭を撫でながら先輩は上機嫌だ。太郎くんは少し寝むそうだが、六郎くんと握手して、再会を祝う。初見のコロンが挨拶し、最後にリンちゃんがたどたどしい日本語で挨拶する。

そして、内輪の飲み会が始まる。

「では、洋泉ヒロシプレゼンツっ! ビストロヨーゼン指名率ナンバーワン! かなみちゃんと、札幌一の果報者、鷹刃氏六郎くんの結婚パーティを始めますかっ!!」

全員にグラスを渡し、酒を注ぐ。先輩とかなみとリンちゃんはオレンジジュースだがね。

「じゃあ、かんぱーいっ!!」

その日の集合写真は今でも俺の事務所の机の上に飾ってある。

シルヴィス・ウィンザール先輩を含めた俺たち全員は家族だ。どんなに離れていても、例え死に別れても永遠にね。そう誓った日でもあった。

先輩に影響されたのかね。俺は後ろ向きな性格の方だったんだが、今ではかなりの前向き青年実業家だよ。皆、過去に何かを背負った人達だ。先輩もかなみも太郎くんも六郎くんもコロンもリンちゃんもね。だけど、考えようによっては、全員が今は前を向いている。皆も前向きに生きる事を勧めるね。俺はそれで救われた気がしているからさ。

俺は店を切り盛りしながら、実は今も演劇の勉強を続けている。今度髭と一緒にドラマ撮影する話もあるんだ。

コロンは香水を造る勉強を続け、その勉強の手伝いを太郎くんがしている。太郎くんは自分が家に籠っていられれば幸せなので、籠る口実にコロンは調度良いらしい。ついでにリンちゃんの日本語教師も買って出ているし、引き籠る為に前向きだ。太郎くんは何でも楽をしたいんだ。やっぱり5年近く世界を放浪しながらかなみの世話をしたのが相当堪えたみたい。

かなみは相変わらずこの店の指名ナンバーワン。驕る事のないかなみの態度は、常連客だけではなく、新規の客にもウケが良い。夫になった六郎くんには、この店の用心棒になってもらった。不定期だけどね。たまに実家の手伝いとか言って休むけど、そんなに頻繁に問題の起きるような店でもないんでね。そう言えば、六郎くんの実家って何をやっているんだろう。

先輩は傭兵稼業を辞めたけど、世界にとっての大事な事を今も探し続けている。その傍らにリンちゃんを伴ってね。相変わらずなのは、挑まれた勝負事は徹底的に相手を痛めつけるって事くらいかな。先輩にとってそういう人たちは地球上に必要ない物らしいから。相変わらずおっかない性格だけど、俺たちには優しい面も見せてくれるようになった。

おっかないで思い出したけど、この前リンちゃんに用があると言って訪ねて来た黒いコートのお兄さんは怖かったなぁ。あれは最早人間じゃないくらいの怖さを持った人だった。先輩の友達は皆おっかない人ばかりだけどね。でも見た目よりは良い人が多いかな、その人もリンちゃんが失くした養父さんの日記とかいうのを届けてくれたからね。リンちゃん喜んでいたもんなぁ。俺みたいなタレント崩れが言うのもどうかと思うけど、暗い過去を乗り越えると、そこには明るい未来が待っているものだよ。先輩も早く見つけられると良いよな、世界にとっての大事な事と明るい未来をさ。俺たちの家族に乾杯。



エピローグⅡ


カーテンが閉め切られた部屋にコンピュータディスプレイの明かりだけが光っていた。多分六畳程の広さしかない部屋、そこには古今東西の古書から漫画までが所狭しと積み上げられて、天井にまで達していた。地震が来ればひとたまりも無さそうな程、不安定な積み上げ方だ。

その狭い部屋に二人の青年が居る。一人はベッドの上に寝転んで漫画を読み、一人は難しい医学書を椅子に座って読んでいる。漫画の方は黒い髪、医学書の方は髪を金色に染め上げている日本人だ。二人に暗さは関係ないらしい。

漫画を読んでいる方に医学書の方が声を掛ける。

「ねぇ、最近あんまり聞かなくなったけど、あの伝説の傭兵シルヴィス・ウィンザールの名を継いだ日本人傭兵って、札幌に戻っているのかな?」

漫画の方はその漫画が面白いらしく、顔も上げないが、話は聞いている。

「ああ、鉄朗さんの話では戻っているそうだよ。どうやら前の作戦で怪我をして、引退を宣言したとか聞いたけど。あんなの傭兵を辞める口実だろうさ。彼には大事な家族が居るからね」

「ああ、そうなんだ」

そう言うと医学書の方はコンピュータディスプレイに目を向けた。

「彼の傍に居る自称右腕諜報員兼闇医者兼引き籠りの男が僕のコンピュータ友達なんだけどさ」

「どうせ会った事はないんだろう? 電子メールだけの友達ってのはどうにも理解出来ないな」

「そうかい? これから世の中もっと狭くなるよ。最近は携帯電話も普及して来たし、あれにフルの電子メール機能が付いて、金額が定額にでもなれば、世界中の人間が携帯電話以外見なくなるんじゃないかな?」

漫画の方が顔を上げる。

「そんな世の中は嫌だな。大体、電話を見るって表現はおかしい。電話はかける物だ」

「まあね。でも、世の中の人間は君と違って便利な物に目が無い。僕もだけどね。だからこうして君の傍で僕は修行しているだろう? 僕にとっては君の一族の能力も便利な物のひとつだからね。僕に素質があると言ったのは君だし」

「でも、今は修行なんて大層な事は出来ない。母さんが居ないからね。鉄朗さんでも見つけられないらしいよ。まあ、家族に見つけられない人間を魔界の王が見つけられるって話は無いと思っていたし、魔界に嫁いでいる姉さんでも駄目だった。まさかその闇医者や傭兵に頼んだりしないだろうね? 人間としての彼らは有能だけど、相手が魔界も含むとなれば話は別になると思うよ。あの傭兵の傍には結構良い人員が集まっているけど、ちょっと半端な気がするね。鷹刃氏家の六郎さんは刑務所暮らしが長くて対魔物の修行も殆どしていないしさ。もう一人フリーの退魔人が居た筈だけど、彼女は18歳で引退して、確か今は雑貨屋になっている。まあ、普通に札幌で生涯を送るだけなら過ぎた力だから、そんなに数は居ない方が平和ってものだけどね」

「そういうもんかねぇ。僕には羨ましい程の仲間たちだけど」

「あの傭兵の傍に居る人間で最も注目すべきはあの妹さんだよ」

「元タレントの開いた店で指名率ナンバーワンのあの娘かい? ちょっと頭に春風が吹いているって聞いているけど、君が気になるレベルなのかい?」

漫画から顔を離し、寝転がったベッドから起き上がる黒髪の青年は、苦笑いの顔を作る。

「それは上辺の姿だよ。彼女は僕の家に伝わる退魔の方法の殆どを実は知っている」

医学書を一旦置いて、キーボードに向かって何かを打ち込んでいた金髪青年がその手を止めた。

「なんだいそりゃ? 修行もしないで、知り合いに退魔師も居ないのに、どうして彼女がそんな事を知っているんだい?」

「あの一族は不思議な能力を持ち合わせているんだよ。傭兵の兄の方は、世界中の言語を話せるし読める、これも勉強したからではなく、彼に最初から備わっている能力だよ。単純な武力でも、人間離れしているしね。彼女の場合はその不思議能力が退魔の力を最初から知っているって事なのさ。体は弱いのかも知れないが、彼女は亡くなられた父上の持っていた格闘技術を全て持っているしね。フリーの退魔師にでもなれば、日本でこの兄妹に匹敵する一族は居ないかな」

金髪の青年は呆れ顔だ。

「僕は結構厳しい稽古を君や母君にしてもらって、やっと覚えたというのに。それは反則だね。まさか君の一族まで能力的に劣るとか言わないよね?」

「まさか。今の所そこまでの力はあの兄妹にはないさ。それに、母さんは別格だよ。それと同じくウチも含めた四家も別格さ。だけどその四家も後継者不足だからね。これから先、四家に代わる存在に成長する可能性はあるかな。関東の神埼家も後継者居ないし、鷹刃氏家はこれからかな。六郎さんがその妹さんと結婚したみたいだしね。神社野家も今の当主で最後だろうから、これからの退魔人はフリーが注目されるだろうね」

「成程、鷹刃氏家以外は君も含めて次の世代が居ないんだな」

「嫁いだ姉さんに子供が複数出来た場合は、ウチに一人回して貰う約束はしているけどね。確かに今の所我が家も後継者には恵まれていない。そういう時はもう少し一族が多いと助かるとは考えるけどね。これからの対魔界の魔物に関しては、君のようなフリーの人間が相手をしていかなくちゃね」

「僕も少しは役に立ちたいとは考えているけど、君以外にも仲間を作って組織を作っておかないと、連携が取れていない独立愚連隊の寄せ集めで防げる魔物なんて、あの羽魔物くらいだろ?」

シルヴィスがやっとの思いで倒した羽の魔物は下っ端であるらしい。

「まあ、王族クラスになってしまったら、今地球上で相手が出来るのは、母さんと神社野さんくらいだね」

「その中に君は入ってないのかい?」

「寝転がって漫画を読むのが趣味の人間にそんな大物の相手なんて出来ないよ。喋るくらいが関の山さ。今の君より強いだけだからね。十指にはランクされるかも知れないけど、五指はギリギリだろうね」

「魔物も全てが鉄朗さんみたいな良い人とは限らないからね。その為にも対抗組織を僕は作りたいと思うんだけどさ」

「それは大和叔父さんが今作っているから、任せるさ。地球初の対魔物用軍隊だからね。一から作り上げるのは、そういうやる気のある人に任せるのが一番だよ」

「君は相変わらずだな」

金髪の方は話の途中からディスプレイに視線を戻して、また何かの作業を行う。黒髪の方は持っている漫画が読み終わったらしく、次の漫画を積み上げた本の中から探していた。

「それにしても、珍しいね。仲間を羨ましがるなんてさ」

「まあね」

二人は静かに笑ってそれぞれの作業に戻った。

あの家の長男とこの医学書を読み漁る金髪の青年は、多少の超能力じみた事を習得しているが、当然これから起きる事を知らないし、そこで自分たちがどのような活躍をするのかも知らない。

人間の住むこの世界は、少々の紛争を除いて、概ね平和を謳歌していた。

了。


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