プロローグ
「冗談でしょ。積んでいるとかそんなレベルじゃないんだけど・・・・・・」
調べ上げた結果に思わず絶望のままに頭を抱えてしまう。
本当にどうしようもないよねこれ。5歳にして人生が積んでいるって悟ることになるとは思いもしなかったよ。
できれば今度こそは長生きしたかったんだけども、これは20歳まで生きるのも難しそうだね・・・・・・。
いきなり愚痴を聞かせてしまって申し訳ない。
ボクの名前はアリアシエール・ユーリア・レイペスト。
人口3億人を超える大国ベルゼリア王国の下級貴族、レイベスト準男爵家の次男。そして、3か月前に前世の記憶を取り戻した転生者でもあるんだ。
別に頭がおかしくなった訳でも、5歳にして中二病を患った訳でもないからね。
ソコのところは間違えないでね。
話を戻すけど、ボクの前世は此処とは違う世界、地球の日本に暮らす20歳の大学生だった。
ロボット工学を専攻する平凡な大学生だったのに、気が付いたらこの世界に転生していたんだ。
その事を、前世の記憶を取り戻した5歳の誕生日に知ったんだよ。
記憶を取り戻したばかりの頃は本気で混乱したよ。死んだ事をなかなかすぐには消化しきれなかったんだよね。
言い訳をする訳じゃないけど、これは仕方がないと思う。気が付いたら死んでいて別人になっていた訳だからね。
まあ、結局は嘆いた所で前世に戻れる訳がないって素直に受け入れる事が出来たよ。これは夢なんだなんて現実逃避を続けていても仕方がないしね。
そんな訳で、前世のサブカルチャーでは定番中の定番の異世界転生をした事を受け入れたボクは、まずは今の状況をシッカリと把握する事を決めたんだ。
現実として、異世界転生した事を受け入れると、やっぱり元日本人としては興奮せずにはいられないし ね。
だけど、異世界転生に舞い上がって何の情報もないままに動き回るなんてバカのする事。
前世に呼んでいた転生物の物語でも、転生した世界の奴隷法について調べもしないまま、奴隷ハーレムをつくるんだととかして犯罪者一直線の道を突き進んだとかそんな失敗談のエピソードも山ほどあったしね。
それに、5歳までの記憶でしかないから、それ程色々と知っている訳ではないけど、今世の記憶の中にこの世界は剣と魔法の世界で、魔物の脅威に晒されているて言うお馴染みのパターンの情報もあったんだ。
うん。剣と魔法を自在に操って魔物を相手に無双する。
異世界転生チートのお馴染みの展開だよね。
正直、そんな事が出来たら良いなと思わなかったと言えばウソになるよ。
前世日本人のボクが実際に自分の手で魔物、世界を脅かす脅威とは言え生き物を殺す事が出来るのかっていう根本的な問題は意図的に無視してね。
そんな訳で、異世界転生チートを夢見ながら僕は、この世界の脅威である魔物の事や、その脅威に対抗する為の力である魔法がどんなモノなのかについて調べたんだけども、その結果は。
チート無双とかムリに決まっているだろって言う非情な現実だったんだよ・・・・・・。
と言うか、この世界の魔物強過ぎ・・・・・・。
正直バカじゃないのってくらいに強いよ。
どのくらい強いかって言うと、ファンタジーの定番の最弱モンスター、であるゴブリンもこの世界の魔物の中に入るのだけども、それですら前世の地球の基準なら銃火器でシッカリ武装してないと倒せないくらい。
次いで、くっ殺っで有名なオークになると、バズーカでも用意しないと倒せやしないし、ゲームとかで序盤のボスクラスの扱いになったりするオーガになるとそれこそ戦車を中退単位で用意してようやく倒せるんじゃないかなってレベルの強さ。
ワイパーンとか最強種たる竜の亜種とかになるとそれこそ、弾道ミサイルの直撃にすら平然と耐える様な化け物なんだって・・・・・・。
ボクの気持ちは判ってもらえるよね。
この魔物の強さを知った時には本気で絶望したよ。
だって、普通に考えて勝てる気がしないと言う以前に、戦うとかどう考えても絶対にムリだよね。
どう考えたって転生チートでどうにかなるレベルじゃないよ。
なにコレって本気で狼狽えたけど、その後で、でもこの世界の人たちはそんなデタラメな強さの魔物の脅威を退けて、平和な暮らしを守っているんだよなって気が付いて、でもどうやってって考えて、当然魔法だよねって生きついて魔法について調べたんだけど。
うん。この魔法も全然普通じゃなかったよ。
調べてまず思ったのは、えっ? こんなの覚えられるの? だったよ。
何この超絶チートの凶悪技術?
いやさ、あんな凶悪な魔物に対抗するんだから、それに見合うだけの凶悪さが必要なのは判るんだけどね。
この世界の魔法は万能とか、それこそ全知全能とかいうくらいの非常識なものだった。
うん。魔法で火や水、風や土なんかのいわゆる四大属性を操れるとかそんなちゃちなレベルじゃない。ある程度の熟練者になるとそれこそ小型の太陽を生み出すことも容易とか来るからね。
・・・・・・そうなんだよ。書くとかも平気で作り出せるし操れるんだよねこの世界の魔法。
しかも、ヒドイことにその効力が発揮される場所さえも指定できたりするんだよ。
どういうことかと言うと、地球を丸ごと破壊しつくせるような威力の核爆発を、直径10メートル四方程度の空間の中だけに限定して発動させることすらも可能という、本気で訳の判らないことが平気で出来てしまったりするのがこの世界の魔法なんだよ。
当然だけど、死者蘇生とかも可能。
末期癌とかどうやっても治療の余地がないような重病も一瞬で完治させられる。
だから、そんな魔法について知った時、僕が思ったのはスゴイじゃなくて、えっ、こんな非常識な魔法を覚えられるの? だったのはむしろ当然だと思う。
と言うか、こんな非常識な魔法を普通に覚えられると考えるほうがどうかしていると思う。
転生チートとかを期待するにしても、ちょっとハードルが高すぎると思うのはごく自然な反応だよね。
その上で、なによりも最悪なのが、どう考えても魔物と戦うとかムリがあり過ぎるのに、実はレイベスト準男爵家の次男て言う立場に生まれた時点で、魔物と戦うのをどうやっても避けられない事なんだよ。
詳しく話すと長くなるから、とりあえず簡単に説明すると、要するにこの世界の王族とか貴族とかは、特権海峡にある代わりに魔物の脅威に対抗する義務を負っているって事。
つまり、まがりなりにも貴族階級にある家に生まれた時点で、ボクは魔物の脅威に立ち向かう為に己を鍛えて、いずれは戦場に立たなければいけない事が生まれた時に既に決まっていたかだ。
だからこそ、冒頭のすでに積んでいるって発言になった訳だけど、理解してもらえたかな?
いや。死なないために必死になって強くなる努力はするつもりだよ。
だけどさ、どう考えても初陣で死ぬ未来しか見えないんだよね。
むしろ、それ以外の未来とかありえなくない? ってレベルだと思う。
と言うか、自分が初陣を切り抜けて、それ以降も凶悪な力を持つ魔物たちと戦い続ける未来を想像するとか普通にムリだよ。
特にワイパーンとかそんなのを相手に無双しているとか、どう考えても想像しろって方がムリだよね。
そんな訳で、絶賛ボクは前世の記憶を取り戻したと思ったら、死亡フラグしかない自分の身の不幸を嘆いている訳。
うん。それでも諦めるつもりはないよ。
ほんの僅かな可能性でも生き残る方法はないか捜し出して努力をするつもりだよ。
それでも、生き残れる気がまったくしないけどね・・・・・・。
そんな訳で、どう考えても明るい未来がないボクの転生人生が始まったんだ。