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サクラ  作者: 初永姚
2/2

廊下

指摘をください(懇願)

夜の十二時。


同年代の学生に限らず、大半の大人でさえも眠りについているであろう時間に、俺は自分の家であるマンションの一室を出た。家の中では両親が寝ているので、もちろん精一杯足音を消して。


マンションの正面玄関を抜けて家の前に横たわっている通りに出る。


集合時間は十二時三十分なので、そんなに急ぐ必要はない。あまり急いで夜の学校で一人で皆を待つ、などというパターンは心底御免なのであくまでゆっくり通りを歩く。


通りに繋がっているキツめの坂を上りきって学校の前に着く。


夜で、しかも明かりのついていない学校は、新しめの校舎だからと言って怖さを感じさせない訳がない。こういう物は、見た目よりも雰囲気で怖くなるもんだよなぁ…と考えながらも俺は学校の柵に足をかけてできるだけ音を立てないように上って、柵の向こう側に降りる。


忍び足で学校の昇降口の方に向かう。一瞬視線を感じたので、なんとなく視線を感じた方向に目を向ける。


そこには、カーテンの少し開いた理科室の窓があった。


「…気のせいか。理科室から視線を感じる何て、ある訳ないしな。」


これがホラーゲームだったらフラグになるような独り言を言いながらももう一度昇降口の方向を向いて歩いていく。校舎内から(・・・・・)吹いてきた風は、どことなく生ぬるかった。


少し歩いていくと、少し声が聞こえてくる。


「おっ、皆集まってきてるっぽいな。」


なんとなく呟いてから昇降口のドアを開けて中に入る。


「おーい。水清、到着したぞー。」


アニメなどでよくあるような言い方で自分が到着したと知らせる声を下駄箱の方に向けて放つ。


「こんにちは。あれ、こんばんはかな?」


「おー。これで全員揃ったなー。」


「えっ、もしかして俺が最後だった?」


「おう、そうだぞ?」


自分が一番最後に来て、どことなく意気地なしになってしまったような気がしたのでがっくりと肩を落とす。


「まあまあ。そんなに落ち込むなよ。一人で夜の学校にいるのは怖いもんな。」


自分の内心を綾地に悟られてしまったことにさらに肩を落としていた俺に更なる追撃がかけられる。


「仕方ないよ。一人で夜の学校にいるのは怖いのは、皆一緒だもの。」


「あ、秋山さん!?」


秋山さんに俺がビビったことを知られてショックを受け、俺がビビったことを皆の前で言った綾地を軽く睨む。


俺の視線を受けた綾地は、笑いを噛み締めていた。


おのれ。お前、故意でやったのか。


そんな恨み言を心の中で吐きながらも秋山さんに精一杯の言い訳をする。


「ち、違うんだ、秋山さん。俺は、その、ちょっとやるべきことがあった、と言いますか…。」


「ふふっ、何それ。やるべきこと、なんて言い回し、森周くんみたいだよ?大丈夫、私はちゃんとわかってるからね!怖くなったなんてこと、皆には言わないから、安心してよ!」


いや、一番君に知られたくなかったんだけどな、秋山さん。なんてことは言えない。恥ずかしさで下を向きながら綾地に言う。


「そ、そうだ綾地!他の人たちはどこに行ったんだ?見たところ、俺らしかいないみたいだけど…。」


「ああ、他の奴らはもう先に行ったよ。後、大は熱だしちまったんだってさ。」


仕方のない奴だよなー、と言っている綾地を視界に入れながら、俺は秋山さんに聞く。


「も、もしかして、俺のこと、待っててくれた?」


「うん、そうだよ!」


花も恥じらうような満面の笑みでこちらを見てくる秋山さんから目を離す。俺自身で、自分の顔が赤くなっていることが感じられたからだ。


「あれ、どうしたの、水清君?」


しかし、秋山さんはそんなことに全く気付かずに俺に顔を近づけてくる。


「顔赤いよ?熱でもあるの?」


そんなラブコメの主人公のようなことを言いながら秋山さんは俺の額に自分の額を当ててくる。


「やっぱり少し熱いね。大丈夫?家まで送っていこうか?学校の中で倒れたら大変だよ?」


そんなに顔を近づけないでくれ、と言おうにも何で?と問われそうだったので声を震わせながらも秋山さんに返す。


「いや、大丈夫だよ、秋山さん。ホントに大丈夫だから。」


そっか…と言って秋山さんは俺から顔を離す。視界の端では、綾地がさっきよりも深く笑っていた。


「さあ、行こう、二人とも!」


「お、おう!」


「ほいほーい。」


上履きを履いて三人で学校の中に入る。


「ねえ水清くん、最初は何階から探検する?」


「お、俺?そうだな…。やっぱり、定番は一階から、じゃない?」


「そうだね!それじゃあ、一階から回っていこうか!」


元気よく廊下を歩いていく秋山さんの後ろに急いでついていく。再び、生ぬるい風が吹いた、気がした。



―――――――――――――――――――――


「よし、ここには何もいないね!」


二階の教室を覗いて中を閉めた秋山さんは、元気よく別の教室の方に進んでいく。


「なぁなぁ、竜也。」


俺の隣で歩いている綾地が声をかけてくる。


「何だよ?」


「そんなにめんどくさそうな声で返さないでくれよ…」


少し落ち込んだような声を出しながらも綾地は問いかけてくる。


「お前、昇降口のところで秋山さんに顔を近づけられてたけど、どんな気分だった?」


「ちょっ!?」


「ん?水清くん、どうかした?」


少し大きな声を出してしまったので秋山さんが振り向いてくる。大丈夫だよ、と返してから、今度は秋山さんに聞こえないように綾地の耳に口を近づけて言う。


「ちょ、なんで今そんなことを聞いてくるんだよ?」


「いやー、あの時のお前の顔、真っ赤だったなー、なんて思ってさー。」


あの時、と言われ俺は昇降口で秋山さんに顔を近づけられた時のこと、秋山さんのパチクリとした瞳、薄いピンク色の唇、茶色の綺麗な髪の毛、ほわりと香っていた香水の香りを思い出す。


顔に、血が逆流していくのを感じた。


「ちょ、顔また赤くなってんぞ!」


顔が赤くなっていることを自分でも理解していたので、首を振って何とか顔の火照りと胸の鼓動を押さえつける。そんな俺を見て呆れたように綾地は言う。


「お前、初心すぎるだろ…」


「う、うるさいな。今まで付き合ったこともないんだから、当然だろ…」


「いやいや、それでもあんなアニメのヒロインみたいにはならねーから、フツー。お前、たぶん、その赤面症のおかげで、お前が秋山さんのこと好きなの皆にバレてるぞ?」


「えっ」


動きを硬直させた俺に慌てたように綾地は言う。


「いやいや、別に秋山さんにはバレてないからな?」


「そうなのか?ハァ、よかった…。」


心底安堵しきった声を出す俺に再び呆れた目線を向けながら綾地は続ける。


「いいか竜也。皆にバレるくらいわかりやすいリアクションしてるのに秋山さんにはバレてないってことは、お前に全く関心がない、または、お前のことが好きでお前の前では自分を綺麗に見せることを考えていて、お前のことを見る余裕がない、のどっちかなんだ。」


秋山さんが自分のことを好きかもしれない、という言葉に反応してまたもや赤くなっているであろう頬を音が出ないように二回叩いてからできるだけ平静を装って綾地に聞く。


「だ、だからなんだって言うんだよ?」


「声震えてんぞー」


さらに声が震えていることに反応されたので否定してやろうと思うが、逆にからかわれそうだったのでやめておき、もう一度問いかける。


「だからなんだって言うんだ?」


「おっ、だんだんからかいに耐性を付けてきたな?」


そんなどうでもいいことを言ってからいきなり真面目な表情になって綾地は俺に言った。


「だから、告白しちまえよ。」


「なっ、何でそうなるんだ!?」


「だってさ、たぶん秋山さんもお前のー」


そこまで言ったところで綾地は喋るのを止める。


「ほら、着いたよ!」


秋山さんが次の教室に到着したからだ。


「ほぉー。ここは…。」


「そう!肝試しの定番、理科室だよ!」


綾地と秋山さんが喜んだような声を上げているにも関わらず、なぜか俺の心は冷えていた。

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