第一話~走馬灯~
少し残酷な描写があります。苦手な方はご注意を。
私は生きる希望を失った。会社をクビになり、家族にも逃げられ、借金生活。再び職に就く気力も無く、有り金を全て使ってから死ぬ事にした。
その晩は最後の晩餐として高いワインやつまみを大量に開けた。
気づけば私は寝ていた。
「ぐ..飲みながら寝てしまったのか」
立ち上がろうとするがフラフラでとてもじゃないが立ち上がれない。
「くそ..こんな時に妻がいれば..!」
悔しさで床を殴る。くそ..だがいい。この苦しみからも、もうすぐ解放される。
這いながら深夜の自宅マンションのエレベーターに乗り込む。
行き先は屋上。そこから飛び降りる。それで全てが終わる。
屋上につく。恐怖感は無く、これで楽になれると思うと笑みが溢れる。
気づけば立ち上がれるようになっている脚と手をフェンスにかける。
よじ登り、体の力を抜く。同時に訪れる落下の感覚。
走馬灯、というものをみた。幸せだったあの頃。懐かしい..あの頃に戻れたらどれだけ幸せか。
瞬間、世界は暗転する。
目を開けると、私は布団の上にいた。横には若い頃の妻と、まだ幼い時の娘。
「夢?いいや、この感覚は現実だ。戻ってこれた..のか?」
過去に戻った?そんな事があり得るのか?
そんな事を考えていると、妻が目を覚ます。
「ん..あなた、おはよう」
若い頃の妻の笑顔。思えばこの笑顔に惹かれたんだっけな..
「おはよう。私は今、凄く幸せだよ」
「なあに突然。変なひと」
クスクス笑う妻。本当に戻ってきたんだ..
眠っている娘を撫でる。この頃はかわいかったな..
妻が朝食を作るのを、娘が手伝う。
「まま、私もやる!」
「じゃあ、このボウルの中のものを手のひらで押してくれる?」
「うん!」
微笑ましい..こんな時代が私たちにもあったな..
懐かしい風景。
だが異変に気づいた。
「おい、何を混ぜているんだ」
「ぱぱー」
白目をむいた娘が、血液のついた肉をこねている。
「あなたもてつだってくれる?」
同じく白目をむいた妻が包丁で自分の手を切っている。
「おい..手..」
「あなたがてつだってくれないからきっちゃったじゃないのォォォォォオ!!」
ヒステリックに叫びながら包丁を振り回す。
なんだ..ここは異常だ。戻ってなんかいない。
ここは...地獄だ。
「ぱぱー」
娘が肉を持ちながら追いかけてくる。
「よるな!化け物が!」
その顔はもう娘ではない。白目をむき、口からは泡を吹き、首の骨が折れたようにぷらんぷらんと揺れている。
「あなたはむかしっからそう!いつもみているだけで!なんにもしないで!」
叫び続ける妻のようななにか。
この地獄がいつ終わるのか..
ガシッと娘のような何かに抱きつかれ、脚を折られる。
それは私を壁まで運ぶと、壁に私を大きな釘で打ち付ける。自然と痛みはない。
私はここで一生。この狂った家族のようなものを傍観し続けなければいけないのか。
終わりがあるのかわからない地獄。
それから何年の月日が経過しただろう。
同じ光景を何度も見ている。
ご飯と言われ水分の多い謎の肉片を口に押し込まれたり、遊びと称して笑いながら壁に頭を打ち付ける家族。
こんなのを永遠と見なければいけないのか...
私の人生、どこから狂ったんだろう..
作品の淡雪雫です。
読んでいただきありがとうございます。
今回はホラー短編をシリーズものとして投稿させていただきました。
普段から怪談が好きでよく聴いているので、色々な怪談の影響を受けると思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
今回は、死の直前に見る走馬灯について。
走馬灯では、過去の記憶から助かる術を見つける、というのを聞いたことがあります。
その走馬灯が、過去の美しい記憶を狂気に染め、恐怖を与えてくるかもしれない。
死の直前に何があるかなんてわかりませんよね。
今回の話は、色々な解釈ができる思います。
怪談の醍醐味である、様々な考察をしながら楽しむことが出来るよう、濃密で奥深い怪談を書いていければな、と思います。
では、また次お話で。