仮想/現実④ 「変身」
仮想/現実④
「変身」
二番手の人生というものがあると思う。勉強もスポーツも普通よりはできるけれど、天才的にできるやつがほかにいて、結局僕は二番手のグループ。女の子にもてないわけではないけど、好きな女の子と付き合えるほど、器用なわけでもない。僕のキャラクターは、ゲームで言ったら星4個、というところか。
二番手の僕は、女子高の先生になった。もちろん、二番手人生を抜け出すためだ。が、同期に僕よりも背は高く、学歴も高いやつがいたのだ。二番手体質はここでも絶好調だった。
もうこれは運命だ、逃れられないのだ、とあきらめかけていたある日、朝起きたら犬になっていた。かなりかわいい柴犬の子犬。こんなあり得ない一番を望んでいたわけではないのだ。しかし、僕はかなりポジティヴにこの出来事を受け止めることにした。こうなったら、学校に行こう。授業のためではない。僕の受け持つ学年で一番かわいい、犬大好きのあの娘に、頭をなでてもらいに行くのだ。幸い、僕の家は学校のすぐ近くだったので、少し冒険はしたけれど、無事に学校に着いた。さて、昼休みだ。僕は彼女のいるクラブの部室へと急いだ。幸運にも彼女は部室の前にいた。柴犬の僕を見た途端、
「かわいい!」と駆け寄ってきて、頭をなでてくれた。僕の願いは叶えられた。こうなったら、抱っこもしてほしい、と思った時だった、
「どこからきたの?」と僕を抱っこしたのだ。もう、このまま犬で良い。そこで、夢から覚めるような言葉を彼女は発した。
「そうだ、私の好きな人を見せてあげる!」
誰なのだ、少なくとも僕ではない。僕は彼女の胸に抱かれてデレデレしている柴犬だ。嫌な予感はした。嫌な予感は当たった。
「先生!見てみて、かわいいでしょ、ワンちゃん!」
目の前にいたのは、例の僕より学歴も背も高い同期のやつだった。
「え、何?それ、野良犬だろう、汚い。病気とか持っていたらどうするんだ。早く保健所に電話電話。」と走り去ってしまったのだ。
野良犬、病気、言い過ぎだろう、と思ったとき、彼女の流す涙が僕の頭に当たった。僕はなでてもらいたかっただけなのだ。彼女を泣かしたかったわけではない。僕は彼女を慰めようと必死になった。しかし、クンクンワンワン、犬のままなのでこれが限界だった。そうしたら、彼女は僕の方を見て、こう言った。
「心配してくれてるの?大丈夫よ、大丈夫。ああ、もうがっかり。あんな嫌なやつ好きだったなんて、ばかみたい。うん?よく見ると、誰かに似ているね、君。誰かな、あ、そうだ。」と、胸ポケットに入れていた眼鏡を犬の僕に合わせてみた。
「そうだ、やっぱり。」と、僕の名前を呼んだのだ。彼女が僕の名前を呼んだ途端、僕は人間に戻ったのだ。この状況どう説明すべきだ、と真っ青になる僕をみて、大声で笑いだした彼女は器の大きい人間だと思う。なんでワンちゃん?なんで先生?と笑い続けていた。そして、笑いながら僕たちは二人だけの秘密を持った。
今でも彼女は僕と一緒にいてくれる。僕に足りない、あと一個の星は彼女がプレゼントしてくれたのだ。
FIN.