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黄昏時に  作者: 凡凡帆凡
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九話 会談

 延々と続く山脈。城の右側手に真っ直ぐ進んだ所にある一際大きな山の頂上に大きな灰色の一角狼に抱き着く童女と左右に凛然とした男女が座る。そこに向かって膝をついて頭を垂れるのは大天狗、外道坊だった。


「お疲れさん。先に戻っとった四人に大まかには聞いてるけど、どんな感じやった?」

「はい。化け狸と化け狐が争っておりました」

「予想はしてたんけど、こんな早く見つかる思わんかったわ。安全そう?」

「私程度の力量で妖力を感じ取っておりましたのでどうと言うことも無いかと」

「外道坊、相違ないな?」

「ご安心ください黒羽様」

「副党首様、相手が弱いのならば好都合。海は岩礁多く流れが激しい故、人魚とて住めますまい。なれば此処で出来うる限り情報を得るべきかと」

「大海坊殿が仰られるならそうすべきかと」

「黒羽ちゃんもか。おっしゃ!皆んなで行けば余裕やろ。案内頼むで外道坊」

「ははっ。しかし一つ言上しとう御座います」

「何かヤバそうなん?」

「いえ、余り数を揃えて行かれますと戦と思い違いをする恐れが御座います」

「あー、わかったで。確かにせやな。ほなら郎党の皆んなは休憩しててや!」


 そう言うと灰色の巨狼、禍獣衛門は角を輝かせる。突如、ドス黒い曇天が空を覆い、風が吹き荒れ、周囲に居た子弟一族達を巻き込み空へ舞った。

 郎党の者達は禍獣衛門達を見送る。その目には敬服の思いがありありと見て取れた。


 ◆◆◆◆◆


 緑の狸と赤い狐は戦を中断して震えながら野原に正座していた。乱世を生きていく中で目上の者として畏敬される側だった彼らが恐々と上司を待つ臣下の様な心持ちで。

 赤い陰陽師に化けた狐、吉貞は老いて冴え渡る頭で考える。あの大天狗は三百年の時を生きた自分にとっても余りに力にあふれて居た。対等な関係と言うのは望むべくも無い。彼一人で後ろに並ぶ部下共々、それどころじゃ此処周辺を更地にすることが出来るのは察せたからだ。ならばどうやって生き残るかそれだけを考え続けた。

 思考をグルグルと続けていると小憎たらしい若僧狸の龍宗が話しかけてくる。


「おいジジイ。あの大天狗、どう見た?」


 自分の思考を遮った若僧に苛立ちながらも今は争うべきでは無いと思い答えた。


「勝てん。何をしようと最後は力で捩伏せられる」

「ッチ。死に損ないと同じ考えたぁ焼きが回ったな」

「ハッ乳臭い小僧が漸く分別を知ったか?これは愉快、愉快」


 そう言い合って互いに睨み合う。

 土地柄、川や山などの断たるもの無く数十年争って来た間柄故こうなるのも仕方ない。今は少しでもこの後の交渉の為、威厳を見せようと人の姿であるが元が狐と狸だけに獣らしく唸っ威嚇し合っている。


 だがその唸り声が途切れ殴り合いが始まりそうになった途端、空を黒雲が覆う。続けて不思議と自分達に直接降りかかる事は無いが暴風が吹き荒れた。ひっくり返りそうになるのを何とか地に手足をへばり付けさせ耐える。

 今しがたその暴風によって左右の森の木々がヘシ折れたがそんなことを気にしている余裕は無かった。少しでも威厳をと思い人の姿に化けていたが、その変化は立ち所に乱れ丸々太った狸と細く老いた狐が現れる。小柄になった分、風を受け流すにはちょうど良かったかも知れないが左右の大将の後ろに控えていた者達も軒並み変化が解かれてしまい、頭を地に伏せる狐と狸の群れが出来上がった。


 音も無く強大な気配が頭上に現れる。降り立ったのだ災いが。否、禍が。角を生やした灰色の巨狼の姿を象った禍が。


 ゆっくりと座った巨狼の前に小柄な天狗と武者姿の女天狗、水の妖が陣取る。彼等は悠に外道坊を超える妖気を発していた。更にその左右に外道坊に並ぶ力を持った妖達が外道坊含め十二も侍っている。今度は大将達含めて狸と狐、双方共に土下座体制で気絶した。


 ◆◆◆◆◆


「ウキャ?」

「どしたんや比々衛門」

「ウキャー。外道坊殿の言う通りかそれ以上だったみたいで」


 あちゃーと頭を抱えたのは袴のみを纏い猿楽の翁の面を被った、上半身の背から指先を短毛に覆われた長身猫背で筋肉質の短髪男だ。よく見れば腕が常人より長く手足が大きい。この者は禍獣衛門の一族で狒々の捲笑まくえ 比々衛門ひひえもんである。彼は覚ほどでは無いにせよ相手の考えを読めるので気づいたのだ。


「皆、気絶してまさぁ」

「え・・・なんでや?」

「棟梁が強すぎるんでさ」

「えっ!?嘘やん、俺?」


 ウンウンと頷く妖達の中に二度目の禍獣衛門の嘘やんという呟きだけが響いた。

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