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黄昏時に  作者: 凡凡帆凡
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七話 評定

 三十九。これは本丸の広間に詰めた妖達の総数である。3人の絶対支配者の棟梁達と12人の子弟、其々の家から一族が二人づつ評定を行う為に集ったのだ。


 さて、こうなった経緯である。田畑が無くなり食料入手が出来るか怪しい事に気付いた三人は妖達と城の周囲をある程度散策した後、町に取り敢えず敵影無しとの触れを出して城へ帰り、自分達の屋敷と城の倉庫の物資の確認を行った後に三人で集まり相談した。


「取り敢えず食べ物は沢山あった。って言うかゲームの時のまま倉庫は満杯みてぇだ」

「じゃぁ、確か一石が成人男性一人が一年に食べるお米の量で米蔵の内臓量が千石。それが百棟。えーと十万石で兵士十万人が一年食べていける」

「ならメッチャ余裕あんねんな」

「いや、待って。城下町の人達の事も考えなきゃ」

「あ!」

「えーと。僕らが3、子弟が12、一族が48、郎党が240。だから戦闘員総数が303。

城下の人口は子弟一族郎党合わせた数の百倍にボーナスがあって合計が33,303人。特に何も無ければ三年は持つね」

「え?ちょ待って。俺らん肩にそんな数の命かかってねんか?」

「・・・この状況だとそうだね。皆んないろんな意味で僕らの事を上に置きたがるし、要は僕等は三年の内に三万三千三百三人が食べ物を作り食べ続けられる状態にしなくちゃいけない」


 大太郎太と禍獣衛門は事実を認識し重圧を感じる。自分達に政治家の真似事が出来るだろうかと。しかし九十九丸がなんと言うこともない様に言う。


「ならサッサと取り掛かろうぜ。そう言う事なら早いに越した事は無いだろ。確か死神君トコに良い感じのが居たよな?」

「おっおう、せやな。てか何さっと決めてんねん!決断力あり過ぎて当主ギルドマスターらし過ぎやろ」

「え、マジで?」

「うん久々に頼もしい。僕なんか町の人の顔が浮かんで胃が痛いよ。取り敢えず皆んなを呼ぼうか。天守の広間でいいよね?」

「うん。それはともかくもう一回褒めて。ドヤ顔したいから」

「・・・・・」

「・・・・・」

「あ、ちょっオイ!その顔やめて、心に来るから!!ゴメンて!」


 その後、直ぐに収集をかけ食に関する問題を説明し、目の前に座る妖達に九十九丸は言った。


「てな訳で田圃を作らなきゃならない。その事について話し合いたいと思って集まって貰った」


 更に左右に並ぶ二人の副当主が続く。


「何か意見があれば遠慮なく教えて、僕らじゃ把握しきれない事もあるだろうから」

「皆んなんええ智恵、期待してんで!田んぼ作る前にした方がええ事とかそういうのも聞きたいねん」

「失礼」

「おお、淵刹斎さん。何何?」

「はっ!城内の米俵は玄米や白米の備えは有れど種籾は無く、城下の倉庫には相応に有りましょうが、未だ収穫量が分かっておりません。しかし其れでは先が見通せぬこの状況で少し不安が残ります。そこで山外を見回り種籾を交換出来る者たちを探して見ては如何でしょうか?

 又、以後同じ事が起きても対処出来るよう城内に種籾を備蓄しておくべきかと」


 上座三人にとっては表情にこそ出さなかったが目から鱗であった。

 城に有る食料庫の中身はゲームの頃、士気を上げるために良いものばかりを集めていた。そもそもタネの状態では城に入ってこず即ち最低でも玄米でこの城に有るのは綺麗に精米までされており種としては使えない物ばかり。

 考えてみればわかる事だったが其れさえ気づかず、三人は己のアホさに揃って頭を抱えたくなった。それに比べ淵刹斎は万が一に備えた案まで出す。何と頼り甲斐のある事だろうか。


「うむ確かにの。城下にどれだけ余っとるか分からんが多いに越した事は無い。一度は上手くいったとして翌年、翌々年に不作の可能性もある」

「せやね、なら他所から種籾を得んと」

「私も賛成するっちゃね」

「うん、俺もいいと思う。皆んなはどうだ?」


 数人が同意し九十九丸が問うと全ての者が同意した。早急に手をつける事であろうし反対する意味もない。当たり前だ。


「そうですね。なら取り敢えずは偵察について話すべきでしょうか?やはり機動力がある方にお任せすべきでしょう」

「うん、文ちゃん。それ採用」

「ありがとう御座います大太郎太様」

「御三方、その偵察の任。私達に任せて頂けませんか?我らが家は天狗の者ばかり。山を越え偵察を出すに丁度良いかと」

「ええな。じゃぁ黒羽さんには上空からの偵察を頼んでええかな?」

「ははっ!」

「せやったら大海坊は海を頼めへん?外敵が居るかどうかも調べといたほうがええやろ」

「お任せください」

「そうだ!ついでに安全そうな場所で食べ物探しておこうよ。川や湖は汰皿ちゃん、森の中を茶釜親分に任せても良いかな?其れと田んぼ制作を淵刹斎さん、牡丹ちゃんに」

「解ったちゃね」

「任せてくだせぇ!」

「承りました」

「はいな」

「ニャ!若助もニャにかしたいニャ」

「それでしたら城下の見回りをしては如何でしょーか?種籾の確認などもせねばなりませんし」

「そーだな翠ちゃん。じゃあ若助、街の警護と備蓄してある種籾の確認を稲荷さん、喜代助さんと一緒にしてくれね?」

「ニャ!」

「承りまして御座いまして御座います」

「あいよ!」


 取り敢えずすべき事は決まった。次は田の制作に関してで有る。これについては死神の所に居る妖に助力を乞う形になった。死神はガシャドクロで此の家の構成は死霊的な者が多く主に未練を残したりして妖となった者で構成される。その一人に丁度、田圃の知識の有りそうな者・・・妖がいた。


 スッと立ち上がった白肌赤眼の花魁、牡丹は大きな桶を持った半透明の大男を連れ左右の妖達の間を抜けて三人の前に進む。彼女がシャナリとした歩みを止めて座るとその横に大男が胡座をかき桶を置いた。


 ニュッと正にそう擬音を発さざるおえない様に桶の淵二ヶ所に泥が懸かる。よく見れば其れは指の様な形状をしていて、続いて出てきたのは泥の小山と言えば良いだろうか?隆起して溢れ出すそれに垂れた髭と垂れた眉が浮き出た。彼は泥田坊という妖で事、田畑に関しての知識が深いと予想され此処へ連れて来られたのだ。


田守たもり 泥兵衛でいべえに御座いますじゃ御三方」

「泥兵衛さん。よろしくお願いしますね」

「御任せくだされ。此の命に代えても任を果たして見せますじゃ」

「じゃぁ米作りの簡単な説明を」

「ははぁっ!まず米作りには九の工程。白米にするならもう一つ工程を加え十のすべき事が御座いますじゃ。

 一つ、田起こし。此れは地力を回復させる為に田の土を耕し肥料を混ぜますじゃ。

 二つ、代搔き。根が張りやすい様に土を細くする為に田に水を張り掻き混ぜますじゃ。

 三つ、籾蒔き。苗代に種籾をまき発芽させますじゃ。

 四つ、田植え。苗代で七寸《約20㎝》から一尺《約30㎝》程に育てた苗を本田に移植しますじゃ。

 五つ、手入れ。雑草を取ったり肥料をやるのですじゃ。此の時、水田に鴨の雛を放すと良いですじゃ。稲穂が垂れるまでは雑草や害虫も喰らいますし糞は肥料の代わりになりますじゃ。

 六つ、稲刈り。そのままですじゃ。水を抜き稲を刈るのですじゃ。

 七つ、乾燥。稲木などを使って天日干しにしますじゃ。

 八つ、脱穀。稲と茎を分けますじゃ。此処で種籾にする物と脱穀する物とを分けてしまいますじゃ。

 九つ、籾摺り。土臼を使って玄米にしますじゃ。

 十、最後に精白。玄米を杵でついて白くしますじゃ。

 簡単にですが此の様な仕儀になりますじゃ」

「って事は取り敢えず水田と苗代ってのを作れば良いの?」

「はいですじゃ」

「よし、じゃぁ一気に作ろう。地形操作は得意だし食料調達と田圃作成を手伝うよ」

「せやったら俺らは偵察やな。機動力には自信あんで」

「んじゃ俺は街の見回りと種籾の確認に行くかな」


 一度、話が途切れる。九十九丸は周囲の空気を感じ取り苦笑いを浮かべて後頭部を掻いた。どうやら当主らしさを見せなければならないらしい。


 腹から声を発した。


「各々、各任、抜かり無く!!」


「うえーーい!」と言うテンションの高めな二人分の返事と、「ははっ!」と言う不退転を思わせる三十六の返事が合わさり三十九の締まりの悪い空気が流れた。


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