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黄昏時に  作者: 凡凡帆凡
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五話 天狗と牛鬼と鵺

 城下町を百鬼夜行が練り歩く。総ての者が人に近しい体型を取り、黄金の円内時一字を背に刺繍された黒羽織を纏う三ツ時一門の妖達。その様はまさに百鬼夜行。


「広いな」

「うん」

「せやな」


「メッチャ居るな」

「うん」

「せやな」


 彼等が歩くのは細道大通りと言う城下町を城に向かって一直線に進める最も長く大きい大通りだ。城下町を配置すると好きにレイアウトが出来るシステムであり収益上昇と人口増加の領地ボーナスの為に総構え内は城へ真っ直ぐ続く大通りが東西南北に通っている。


「フーン、フンフー、フン、フフフー。

フーフフ、フンフフ、フフ、フンフー」

「懐かしな。帰るの遅くなり過ぎてオカンにシバかれたん思い出したわ」

「そういや此処を作ったのって喜代さんか。あの人やたら鼻歌歌ってたよな」

「アレやで。妖怪とかのイメージある言うてたな。何時頃の歌なん?」

「えーっと。江戸時代の童歌だったかな?」

「マジか。髷結って歌ってんじゃねーか」

「まぁ、せやろな。てか自分ら周りと現実見いや。なんやねんこれ」


 世間話に花を咲かせてるていでチラリと背後を見る。静々歩く娘達の背後を何処がカクカクと歩く妖達。

何故ああも緊張しているのか疑問に思いながらも前を向く。すると城下町を練り歩くオブジェクトだった妖や人の民達が大通りの左右に並んで、狂った様な熱気を持って歓声を上げている。


「なぁ九十やん。自分、何とかしてや」

「何回も無茶言うんじゃねぇよ!つーか散歩に誘ったの禍獣衛門じゃんか!?」

「うーん。アレだけショック受けてたんだし無闇矢鱈に声をかけるのもどーかな」

「てか城下町の熱狂エグ過ぎやろ!」


 声を潜めて怒鳴ると言う無駄な高等技術で言い合う。妖達を励まそうと思って提案した筈の城外確認護衛と言う建前の遠足はよく分からない熱狂に包まれていた。さて頼りない三人衆は置いといて娘達である。


「父上様方。御悩みになられてどうなさったのでしょうか・・・」

「きっと父母と会えなくなってしまわれた皆様をどう励ますか思い悩んでおられるのでしょう」

「せやな。そんなん考えただけで胸が張り裂けそうや。ウチらもみんなを支えんと」

「そーですね。宵、貴方は本当に優しー子です」

「ええ。私達で皆を支えましょう」


 父達よりもよっぽど腹が座ってた。


 それに続く子弟は薇式のブリキ人形かよく言っても数年前の二足歩行ロボットの様になってしまっている。水晶の様に人型を象っていた大海坊は何処かカクカクでポリゴンの様、左右にいる茶壺と稲荷に水を泡だてた様な声で願った。


「し、設楽の親分殿、尾無殿。

わ、私程度が姫様方に続いてしまって恐れ多い。何方か変わってくれないか?い、今にも形が崩れそうだ」

「やめてくれぃ。儂も恐れ多くて緊張しとる。

気持ちはわかるが気張ってくれ!兎湯煮氏の後継じゃろう!!儂ゃ無理じゃ!!!」

「せやせや、私なんて二番手でも心臓が飛び出しそうなんどす。大海坊はんなら誰も文句は言わんやろし頑張ってぇな」

「ヌゥ、堂々として居られる黒羽殿や淵刹斎殿、笑み崩さぬ雷也殿が羨ましい」

「おお流石海坊主、背後でお見通したぁ流石じゃの。で、そんなに落ち着いとるんか?」

「流石やわぁ」

「あ、すまない。黒羽殿と淵刹斎殿が凄い首振ってる。横に」

「・・・・・」

「・・・・・」


 誤解を解いてフゥと同時にため息をついた何時もならば凛然とした美女と寡黙な美中年は互いに目を合わせる。

 美女というのは常闇の様な黒髪に白雪の如き肌を覗かせる顔に鼻から下を隠すカラスの嘴の頬当て。背に髪と同じ真っ黒の羽根を生やした女天狗は穀潰地蔵の子弟で名を嵐火あらしび 黒羽くれは

 美中年というのは青みがかった髪を右側だけ前に垂らし左側の髪を後オールバックにした長髪の男。左の額から牛の角を生やした以外は一見、普通の男に見えるがその実は牛鬼。虎褌の子弟であるきの 淵刹斎殿えんせつさい

 彼等を左右に置いて進むのは逆立った黄髪に虎の様な体毛を生やした四肢と胴体に尾骶骨の辺りから緑蛇と紫の蛇二匹を生やした猿顔の歌舞伎者。鵺にして電 喜代助の子弟、でん 雷也らいやである。

 妖達の中で唯一人、緊張せずニヒルな笑みを浮かべ歩く雷也は何時もの頼もしさのカケラもない二人に快活な笑顔で諭した。


「お二人さん落ち着きなよ。

御三方が俺達を気遣った上に目立たせてくれてんだ。確かにお緊張するけど気負うのはダメさ」

「う、うむ貴公の言う通り。しかし何故この様に様に城下を歩かれるのかが分からない。

御三方は殊更目立つのを嫌うと思っていただけに真意を図れず戸惑っている」

「それについては予想ができる。おそらくは民の心思ってだ」


 淵刹斎の言葉に二人は成る程と頷いた。自分達が不安だったと言うのに民達がそうでないとは言えないからだ。

 そう考えれば摩訶不思議な事が突如として自身の身に降りかかり、諦めては居たが其れでも親に会えないとわかってショックを受けて、立て続けに事が起きて混乱していたと言えど三ツ時一門の者として心構えが足りていなかった様に思えた。そしてそれ以上に民を思えなかった己らが身勝手にも詰めかけたと言うのに其れを責めるでも無く心配してくれるなど慈愛の深さに感嘆せざるおえない。特に雷也は冷や汗が流れた。


「ハハハ・・・お二人さん。悪いんだけど場所変わってくれない?」

「雷也殿、諦めてくれ。御三方のお考えを気付かされては絶対に無理だ」

「うむ。練り歩くだけな上、突発的とは言え初めて城下町で行う三ツ時一門の御披露目行事。悪いが隊列を変えるなどして躓きたくは無い」

「・・・だぁよねー」


 必然、全ての者が存分に緊張しながら練り歩いた。


 ◆◆◆◆◆


 大通りにの左右に陣取り熱狂を持ってして支配者にして強者の勇姿に歓声を上げる民達である。

彼等は一刻と少し前に一斉に視界が暗転したのだ。支配者達と同じ様な状況になった訳だが、そうなったのは一瞬の出来事だった。問題はその後だ。戦の経験のあるような力強き者が何故か石の様に固まっていた。順々に其れは解かれていったが更に恐ろしい事が起きたのだ。


 総構えから外の地形が警鐘も無く変わっていた。


 これは民達にとって尋常では無い異変。総構えの外の地形が変わる事象が起きる時と言うのは籠城戦が始まる時だけである。しかし其れは警鐘と法螺貝が鳴らされ白煙と共に気付けば皆が銘々の武装をし敵を迎え討つ筈が、警鐘も無く武装もされなかった。

 皆が戦を経験が有り、やたら自由に動けるとは言え武装無しに戦うはあまりに不利。其れでも敵を迎え討たんと体制を整えようとした。しかし一向に敵影が見えぬのである。取り敢えず安堵したが田が無くなった事に気づき、更には敵が来ないと断定は出来ず混乱に拍車がかった。

 群集心理とでも言おうか周囲の者は総て不安を抱えており己とて其れは膨れ上がるというのが全ての民の心を揺さぶった。焦燥は増し誰もが狂乱を予感していた所で大手門が開かれる。城へ続く門より出でて進む三ツ時一門の英雄達は散歩の様な足取で進む。然し彼等から溢れ出る力が混乱の坩堝にあった民達を大いに安堵させた。

 あぁ、彼等がいれば何に恐る事も無いと。狂乱も伝染していくものだが狂喜もまた然り。戦も無しに英傑達を眺めるのは初めての事であり、恐怖混乱を意識の彼方へ放り出し唯歩く英雄に手を振った。其々が其れなりに勘違いをしながら総構えの外に向かって行脚は続く。

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