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黄昏時に  作者: 凡凡帆凡
20/23

二十話 山淵の鬼

明けましておめでとう御座います。


今年も暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。

「父上、誠ですか!?狐と狸が手を組んだたと!?」

「そう言えば五割谷いかつだにの小倅の行方が知れねぇ。もしやアレを大義に狸を丸め込んで我等を攻めようとしたか!!」

「待てよ、事はそう単純か?

 長年争っていた奴等が手を組むとも思えん」

「だが彼奴等の背後に富中ふちゅうの謀神でも居れば分からんでも無い」

「有りえそやな。その線で言えば拙僧が考えるに瀬渡せと波宮はみやの線もある」

「波宮の奴等め狸小僧との交易で急に羽振りが良くなったそうではないか。そこに何や有るやも知れん」

「誰にせよ嫌らしい事よ。ようやっと山淵國やまふちのくにの統一が成ったと言うのに」


 其々、服の上に熊の毛皮を纏う人妖入り交じって喧喧諤諤と意見を交わす。場所は山淵國やまふちのくにの中心部にある山中田郡やまなかたぐん広田城ひらたじょうである。


 一国を収める割には土地柄、山と斜面が多く収入に乏しい為に簡素な一室で此の国の主が溜息を一つ吐いた。


 齢十二で家督を継ぎ、長きに渡って山淵國やまふちのくにを治めていた五割谷いかつだに家の分裂に乗じ、主家の姫を娶って敵対勢力を壊滅せしめ実権を握った堅岩かたいわ嶽満たけみつである。


 現在、齢は五十四であるが鬼と人の半妖で諸術に優れており、見目は皺はあれど目立つ程ではない。

 額から伸びる牛のような大角は左右不揃いで左側の砕けた其れは敵術者との勇戦による傷であった。


 厳しい顔に薄い笑みをうかべ得意の水行術を使い水球を弄んで皆の意見が出揃うのを待ち、皆が言いたい事を言い終え黙ると切り出した。


「さて皆の衆。山淵を統べた今、我等は海を得ねば成らん。それは理解しているな?」

「勿論だ義玄丸ぎげんまる。山淵の木材と金で生まれた財を尽く塩と米に変えておるのだからな。それさえ無ければ飢える民も減ろうものを」


 嶽満の幼名を呼ぶのは嶽満の叔父に当たる棚田たなだ岳澄たけすみだ。山淵國の棚田郡を治めている為、棚田たなだ堅岩家の家長である。

 老いてはいるが山淵一の巨漢で赤褐色の肌を張ちきれさせんばかりの肉体を持ち、真っ白い糸の様な髪を束た赤鬼は溌剌として衰えを知らない。額から目を通り頬まで達する傷を代表に身体中に戦傷が有り、太刀と大太刀を同時に使う武辺者で軍略と武勇は家中随一。近辺に山淵の大赤鬼と言う異名を轟かせている。


 そんな叔父の言った堅岩家の戦略目的を此の場全員に強く印象付けるために強く頷くと嶽満は続ける。


「そうだ。そして私達が立地上、攻め込めるのは富中の浮島ふじま、瀬渡の波宮はみや、出龍の南田。見よ」


 背後の箪笥から地図を取り出し広げる。しっかりと情報を書き込んだ様な物ではないが位置関係は大まかに分かる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーー以北省略ーーーーーーー

~~~~~~~~~~~◇◇◇◇++ー

~~~~~~~~~~◇◇◇◇+++ー

~~~~◯~~~◇◇◇◇◇++++ー

以~~~◯◯~◯△◇◇◇◇◇+++以

西~~~~◯◯◯△◇◇◇◇◇◇◇+東

省~~~~◯◯△△△◇◇◇◇◇++省

略~~◉◯◯△△△△◆◆◇◇◇◇◇略

ー◉◉◉◉◆◆△△△△◆◆◆◆◆◆ー

ー◉◉◉◆◆◆◆△△◆◆◆◆◆◆◆ー

ー◉◉◉◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ー

ーーーーーーー以南省略ーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

*◇出龍國・◯瀬渡國・△山淵國・◆富前、富中、富後・◉出剣國

*+未開の陸地・~海

*ー空白


「よいか?出龍は瀬渡、富中、そして我らの山淵に面しておる。此の國其々において未だ大勢を決していないのは出龍のみ。奴らが手を組んだとておかしくは無い」

「だが楽観的過ぎはせぬか?それでは万が一の時に困る」

「まぁ、聞け。故に富中の謀神と瀬渡の人魚に出龍攻略迄の同盟の使者を送る。其れも飛び切り向こうが得するかたちでな。そして同盟を結ばぬのなら金輪際取引はしない」

「成る程、塩の取引はその二国から行っている。我等に出龍を取られては困る奴らに敢えて交渉を突きつけ立場を明確にさせるつもりか。

富中は我等の出す金が無ければ困ろうし瀬渡は木が足りなくなると」

「うむ。もし同盟を受け容れず此の均衡を崩す事になる様な真似をするのなれば後ろ暗きことが有ると一先ず仮定出来よう。幸い我等が山淵は敵に備えるには過ぎた地、出龍さえ取れればどうとでもなる」

「ふむ、殿の申す通り山淵國は山と谷に囲まれておる。岳澄様が五割谷の峡関かいせき城に居られれば富三国を収める浮島が万の兵を率いて来たとて跳ね返せましょうな。そして波宮が参らば私を山堤やまつつみ城に入れて頂ければ彼奴等を追い払って見せます」


 そう気炎を吐いたのは年若い男。今は無き妖術と弓術の冴えた嶽満の乳母兄弟兼腹心の遅くに生まれた子で、顔立ちは凛々しく若さだけでは無い自信が見て取れた。幼名を無病丸むびょうまると言い、今は蓮池はすいけ繁増しげますと名乗っている。


「その時は江木斎こうぼくさい殿の話をよく聞くのだぞ無病」

「なっ!殿、私とてそ程度の分別は有りますぞ!!」

「ホッホッホ、落ち着きなさいな繁増殿。拙僧が思うに殿は心配症なんや」

「全くだ。俺達の事よりも心配してるんだから妬けるぜ!」

「ちげぇねぇな!ブハハハハ!!」

「うぅむ」


 話に混ざったのは河童で外交僧の湖住こずみ江木斎こうぼくさい。揶揄ったのは細身な青鬼の半妖であり嶽満の次男で五割谷家を継ぐ仁嶽ひとたけと、大柄な赤鬼であり嶽満の嫡男で堅岩家を継ぐ嶽信たけのぶで有る。


 さてと嶽満が手を鳴らし皆の注目を集めるとグルリと視線をやった。


「さて、皆。我が一案に反対と言うわけではなさそうだな?」

「拙僧が思うに殿の一案は皆、成すべき事ではあろうと思うております」


 江木斎が言うと皆しっかりと頷く。


「良し!江木斎殿、二家との交渉お任せする」

「はっ!」

「叔父上と繁増は其々城に籠る準備を」

「うむ!」

「ははっ!」

「仁嶽と嶽信は儂と共に出龍出兵の準備じゃ」

「は!」

「おう!」


 嶽満が頷き「皆ぬかるなよ!」と言えば「おう!!」と五重の声が帰ってきた。


 彼等はまだ知らないのだ。何故、出龍國で世代を超え戦をしていた者達が手を組んだ理由を。

 彼等は聞いた事が無かったのだ。出龍國に巨大な龍穴が有ったという事を。


 それによってどうなるかは未だ誰もわからない。


 ◆◆◆◆◆


 従四位上渡世官の府三条由教は一つの地図に見入っていた。横に居る九十九丸が曰く大事なヤツは別の所に保管していると言っていたが十二分に驚嘆せしめる物が目の前に掲げられていた。


「此の地図、比率とかはともかく位置的には大体は合ってると思うんで、報告すんのに使って良いですよ由教さん」

「こ、此れはどうやって作られたので?」


 由教が震える手と声で問うたのは出龍國と龍背國の周辺の地形をある程度記した物だ。出龍國と龍背國が分割される前から見地をしていたのは聞いていた故に理解できるが、敵国にも渡る可能性を鑑みれば地図という軍事的重要性の高い物をこんな安易に見せられるとは思っていなかったので有る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

~~~~~~~~~~~岩~~~~~~

~~~~~~~~~~岩岩~岩岩~~~

~~~~~~~~~岩岩~◯◯岩岩~~

~~~~~~~~岩山山◯◯◯◯岩~~

~~~~◉◉岩岩山山◯◯城◯◯岩岩~

~~~岩◉◉◉山山◯山◯◯◯◯◯山岩

~岩岩岩山◇山山◯◯◯◯◯◯◯◯岩岩

ーー岩〓山◇◇山山山◯山◯◯◯◯◯山

ーー岩〓〓岩◇◇◇山岩火山◯山◯岩山

ーーー岩岩岩◆◆山山岩岩火山岩岩山山

ーーーーー山山◆◆山山山山山岩岩山山

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

*◯龍背国・◉魚和郡・◇水背郡・◆山塩郡・〓峡路郡

岩・岩山や崖など切り立った岩山地

山・人の手が入っていない山の集合体

火・火山

城・黄昏時城

*~海

*ー空白


「魚和郡、水背郡、山塩郡はまだ解りますが、交友のない峡路きょうじ郡まで記されているのはどういった訳で?」

「あぁ、戦の時に大まかな地形を調べる天元通の術ってのを使ったんですよ」

「此の様な広範囲を見渡せるので!?」

「あー。まぁ、前に言った様に俺らが居た所って、こういう術が発達してるんです。

 いやー呪詛返し(レジスト)されないかヒヤヒヤもんでした」


 由教は九十九丸の言葉に頭を抱えたくなった。辛うじて自制はしたが顔が強張るのは止められない。


 僧は説法で前世の功徳によって仏が今世の力を分け与えていると言うが、それは兎も角として凡そ術というのは内包する力の量で優劣が決まる物だ。陰陽術、巫覡術、仏法術など何れも又然り、故に術を治めて居て万一彼の術を察知したとても術を防ぐことさえ出来ないのは明らか。

 実感が湧かないのは分かるが彼等の己を知らな過ぎる所は常に由教の頭を悩ませる。いかんせん人が良すぎて外に出た途端海千山千の大名達に振り回される様な未来が透けて見えてしまう。愚かな訳ではないので直ぐにでも気付くだろうが、その力故に短期間でどれ程の損害が発生するか考えたくもない。一瞬浮かんだ騙されたことに気付いた九十九丸が山河を更地にする妄想を頭から追い出して世間話に興じた。


「それにしても、こうして見ると出龍國の石高も高そうですね」

「人が少なく木々に覆われてて小さな国に見えますけど、上手くやれば概算で三十万石前後の国力を得ることができます」

「うぅむ。そうなってくると郡が増えることになるやも知れませ・・・アレ?」

「どうしました?」

「龍背守、そうすると此処は六十万石程の国力を得る事になるのでは・・・」

「あ、ほんとだ」


 由教は近い内に胃薬が必要になるかもしれない。そんな彼に気付かない九十九丸は手をポンと叩いて言う。


「そう言えば禍獣衛門と大太郎太が塩釜焼きするそうなんで食べません?」


「おぉ、祝い事ですか!」


「あ、いや。やたらデカくて赤い肉付きのいい鯛っぽいのが大量に取れたらしいんでみんなで分けようって話に」


「大紅鯛ですか?」


「・・・聞いたことないんですけどタイの種類っすか?てか、食って大丈夫なのか聞こうという魂胆もあるんで」


「・・・」

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