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黄昏時に  作者: 凡凡帆凡
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十三話 一週

 七日だ。此の大きな盆地に突如城ができて七日目。


 此の盆地はまだ誰にも見つかっていないものだった。故に唯草が生えているだけの土地だった・・・そう、過去形。今は違う。

 絢爛豪壮な城が立ち、理路整然とした城下町がそれを囲む。

 城の正面には広く長い道が出来て港と塩田へ続き、城の斜め後ろに畜産農業施設が広がり、更に城の真後ろから湖に流れ込む川の先には採掘場があった。


 一周間の出来事を追えばなかなかのハードスケジュールだ。


 二日目は報告会議と農民への水田の受け渡し。茶壺達の捕まえてきた鴨を入れる畜舎作りと九十九丸が資材資金の確認を行い、城下の生産者との擦り合わせが再度行われた。

 三日目は禍獣衛門が茶壺と稲荷をそれぞれ化け狸と化け狐それぞれの元に連れて行き交渉の引き継ぎ。その間に残った者達で道と塩田を制作を開始。

 同日、禍獣衛門が帰り少量交換した米の確認をした所、買い取った米より自分たちの育てている米の方が二倍程生産量も味も良いと解り、交換した米は当面の家畜の餌としての使用を決定させた。

 四日目は鉱山作成。大太郎太主導で採掘場を建て土手に道を敷き、岩で堰き止めていた水門と橋を完成させ鍛冶場が稼働。此の日、始めて銃火器の硝石生産が課題として上がった。

 五日目は大太郎太の刺身を食べたいと言う理由で大海坊と胡瓜達が漁業を行い、その間に岩礁を削り港と小舟三隻が作られた。

 六日目は職業訓練。勢いで漁業施設を作ってしまった為に早急に対応した。大海坊と汰皿が責任者に抜擢。初の役職持ちとなる。


 漁業などの新たな産業はゲーム時代でさえ無かった施設に配置されたNPCはてゲーム時代に歩いて買い物をしているだけだったNPCが割り当てられる事となった。


 そして今日である。三人は遂に粗する事が無くなった。子弟達が我こそはと仕事をしてくれるおかげであるし、思いつく限りのことを終わらせた為である。そんな訳で大太郎太の趣味と実益を兼ねた菜園で土をいじくっていた。いや、正確に言うなら何本のもの棒が刺さった畑の一画、その淵に三人揃って両の手を添えていた。


「はぁっ!!」


 大太郎太の一喝。土を割いてが蠢き蔦が出て棒に巻きつきキュウリが出来る。


「おりゃぁ!!」


 九十九丸の一喝。畑の土の上に黒い水の様な物が広がった。


「っそいぃや!!」


 禍獣衛門の一喝。キュウリの蔕と身が風によって断ち切られ黒い水に落ちて吸い込まれていく。


 趣味と実益と言うのは果物を食べたい大太郎太が此方ぬ来た三日目に始めたのがこの適当青果制作である。当初は自分達が食べる為であったが町人や城下の人々に請われ売り出したのだ。農民も老若男女問わず一人当たり1.7反耕す事になるので、彼等は余裕だと言うが流石に野菜や果物までとなると忙しいだろうと三人で一気に栽培、収穫し御用商人に卸す事になった。


 ちなみに今日は浅漬けの為の胡瓜と味噌汁の為の大根や白葱。更に味噌や醤油に使うための大豆である。デザートは気分的に肥乃國レイド報酬の蜜柑である。作り方は卑怯と言われるほどの大太郎太の能力で旬どうこうガン無視だが、アップデートが中々されず倉庫の肥しだった特産品植物の種シリーズが漸く役に立つ時が来たのだ。


「よっしゃ。帰ろうぜー」

「せやな」

「オッケー。キュウリ食べる?」

「うーん。貰おうか」

「頂くわ。塩ないん?」

「はいコレ」

「持ってんのかい」


 塩を入れた小さな壺を渡し大太郎太は考える。不確定要素も多いながら禍獣衛門の話を聞く限り、物資過剰で戦力は甚だ多くある程度の災厄に見舞われたとてどうと言うこともない。此の状況でどうしようもないのならばその時は諦めざる終えないだろう。


 九十九丸も禍獣衛門も頼りになるし子弟一族郎党は何故か忠誠度が吹っ切れていて町人は朗らかだ。だからだろうか?彼らの為となる事には精力的になれる自分が居た。まぁ、かと言って何か大変な事が有ったかと問われれば特に無い。


 何せ無茶苦茶な能力を持っているのだ。植物を生やすのは種子があれば瞬きのように、無ければウインクぐらいの労力であるし地形を操作するのは指パッチンくらいにしか疲れない。

 大太郎太はつくづく狡い(チート)ものだと思う。しかしこの程度の能力もなければおそらく自分達や元NPC達、三万三千三百と三人は瓦解し最悪殺し合っていただろう。

 それほどの事だ。祭り上げられたのは政治を知らぬ三人で、人妖と住処だけで突如として右も左も分からない地へ放り出されたのだから。故に狡いとは思いつつも其れは良い意味で、此の心地の良い状態を保てるのならば降って湧いたように手に入れた自分の能力を出し惜しみする積りは無かった。


 雲ひとつない空を眺めカリカリとキュウリを齧っていると禍獣衛門と話していた九十九丸が話を振ってきた。


「なぁ、大ちゃんはどう思う?」

「うん?何」

「いや、ほら千年くらい年前の伝説あったやん」

「あー。吉貞さんと宗龍さんの言ってた龍がどうこうってやつ?」

「おう。何でもメチャクソでけぇって話だろ?此処が巣だとしたら襲ってくるんじゃねぇのかと思ってな。妖怪が豪族やってるような世界だし、実際龍が収めてる国もあるんだろ?」

「そう言えば兎油煮さんは山くらい大きかったしおかしくはないんじゃない?

・・・そう言えば兎のパエリアって美味しいのかな?」

「おい大ちゃん。話変わってんで」

「あぁ、ゴメン。でも大丈夫だと思う。此の土地に入れ込んでるなら城ができた時点で使者を出して接触くらいはするでしょ。其れが無いって事は此処に興味が無いか、もっと遠くにいて変化を知らないって事だから襲って来るなら遠征して来た所をボコボコにすれば良いんじゃ無いかな?」

「おー。さすが知将やな!」

「いや、兎油煮さんの話の後にそのあだ名は嫌がらせでしょ。てーかそもそも恥ずかしいから」

「ハハハ!いんだよ。兎油ちゃんは軍師だからな、ち・しょ・う」

「・・・おー、勇将。僕はあの啖呵をもう一度聞きたいね。年に一度の天下分け目の大合戦で総大将だった時のヤツ」

「すいませんでした。恥ずかしいです、勘弁して下さい」

「九十ヤン、ご愁傷さんやな」


 じゃれ合いながら朝の散歩を楽しむ。ゲームを除いても数年前までは良くこんな下らない話を交わしたものだ。九十九丸の行きつけの飯屋によって決まったメニューを頼み、ゲームの事や学校の頃の思い出を語ったものである。


 どうでも良いような気を緩む世間話を交わしながら進むと、それぞれの家の子弟一族郎党と商人達五百人前後が朝早く門前広場で待っていた。彼等には仕分けを手伝って貰うのだ。各家の者には手伝ってくれた分だけオマケを渡し、商人達には取引の際に優遇措置を取る。


 暫定的な物だが三ツ時一門下に於ける青果と魚取引はこの様な形であった。


 やくざ者の出迎えの様に迎えられ、彼等を引き連れ門をくぐり大きな瓦屋根の壁のない建物に並び準備を始める。

 五百人が入り青果が並べられて尚もスペースの有る此の建物は仕分けのために即席で作ったにしては確りした物だ。此れが市場だった。


 黒い粒子が九十九丸の前で覆う。否、此の場合は黒い塵だ。何時もは液体の様に身体を這うそれが九十九丸の前に集まり濃霧の様に漂っていた。


「いくぞー」


 九十九丸が声をかけるとその塵の中に木箱を突っ込まれる。同時に塵が箱に集まり直径40㎝程の黒い球体となって木箱を包みこみ直ぐに塵へと戻る。


 木箱には三十本の胡瓜が詰め込まれていた。大量の胡瓜をマンパワーで仕分けて行き其々の家や商人の荷車へ積み込む。


 一方、大太郎太や禍獣衛門は残りの者達と即席の台に大根を広げ、葉を紐で括り五本づつ纏めるか、数日前に作って無理矢理乾燥させた大豆を振って豆を莢から振り落としていた。


「なんかアレやな。大根まとめるのはともかく大豆降るんは面倒や」

「ふぁーふぁいふはんひふぁほふへふぃほぉほふぁ?」

「大太郎太てめ、コラ摘み食いコラ」

「いや、違うよ?大豆なんか生で食べられないよ!?竹筒に餡子入れてたのを水鉄砲みたいに押し出して食べてただけだからね」

「それはそれで何してんねん」

「おい待て。そのアンコ作る砂糖どっから持ってきやがった」

「・・・黙秘で」


 スパーンと破裂音が響いた。


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