十一話 国造
郎党達を拾って、背の高い山々を見下ろし空を飛ぶ。
彼等の眼下、獣道さえ無き龍背山脈と呼ばれていた山々は個々が高く急勾配で有り、背の高い巨木がお生い茂り連なっていた。向こうの世界で言えば禍獣衛門の地元から隣県の紀伊山脈がもしも道路やトンネルが敷かれておらず、手入れもされていなければこの様であろう。未開の地とも言えるものだが雄大で偉大なものだ。
それらを目に収め成る程、此れは未開の地というにふさわしく故にあの盆地には人が居なかったのだろうかなどと禍獣衛門は考えた。
山々を越えると三ツ時一門が心血を注いだ城が目に入る。しかし口から出たのは一仕事終え力を抜くような一息ではなく、疑問符付きの声だった。
「え?なぁ、あんなに田んぼあったっけか?」
「いえ、私が海を見に行った帰りは平野が広がっておりました」
「大太郎太、どんだけ作ってんねん」
禍獣衛門がそう言うのも仕方ない。城が移された此の盆地は空を飛んだ禍獣衛門の見立てでは八割の平地と二割の丘陵地で形成された盆地で、三つの川が流れている。
しかし目の前に広がるのは、水田と菜園に丘二つを利用した果樹園。更に水田の為なのか二つの川が繋げられており、溜池なのか小さな湖まで増やされ、もう開墾とか言うレベルを超えたものだ。
有り体に言えば浅く広い一本の川を除いて大太郎太が手を加えていた。
禍獣衛門達が絶句していると薄緑の神神しい光に包まれていた巨人が手を振ってくる。
見覚えのある。と言うかまんま下半身のプラスされた大太郎太で、取り敢えずは話を聞こうと果樹園近くの彼の元に降り立った。
「禍獣衛門お帰えっ?!なんかデカくない?・・・まぁ、いいや。見てよこれ!」
降り立った途端そう言って果樹園へ引張られる。人の姿に変わりながら付いていけば、其処には白桃や梨に蜜柑と言った果物や、茄子と胡瓜や白菜を入れた大きなザルを抱えた妖達がいた。
「何やこれ?」
「ふふーん、凄いでしょ」
「どうやって手に入れたんや?まさか倉庫から態々、出してきた訳ちゃうやろ」
「うん。半分正解」
「何やそれ?ますます分からへん」
「ほら、大合戦とかの報酬で國別の名産品の種があったでしょ?それから作ったんだ。しかも一回作れば種も要らないんだよ!!」
「待て、落ち着きや。高くて買えへんかったモンが食える様になって嬉しいのは分かるけどテンション上がりすぎて訳わからんで」
「あ、あぁゴメン。ちょっと嬉しくてね。取り敢えず見てみてよ」
そう言うと大太郎太は3㎝程の種を10数m放り投げ地面に手を添える。すると土が蠢き種を飲み込んだ。そこからは早送りの様に進む。芽が出て苗木が幹となり木となって、枝が伸び花が咲いて葉が茂り、最後に白桃の実が垂れる。
興奮した様に大太郎太は言う。
「無い方が気持ち疲れるけど、種無しでも出来るんだ。
要はゲームで出来てた事以上の事が出来る様になったんだよ。しかも応用を効かせて」
「アレか。大太郎太の妨害技の一つにあった木とか草とか生やすやつやな?」
「うん。そう言う事」
「・・・それ米にも出来るんちゃう?」
「あ!」
「あ、ちゃうわ。
・・・ん?ちょっと待て!俺、せっかく交換出来そうなヤツ見つけたんに意味無くなってもぅてんやんけコレ!!」
「いや、交換はしとくべきでしょ。備えておいて損は無いよ。てゆーか寧ろ外に知識と文化を持った相手がいるって知れたことの方が大きいんじゃない?」
「・・・意外やな」
「何が?」
「大太郎太が食いモン以外の物を重要視するとか明日あたり矢玉の雨やな」
「僕をなんだと思ってんだコノヤロウ」
「ハハハ、すまんすまん。取り敢えず果物持って九十やん所、行こうや」
「そうだね。撤収ー!」
そう言うと子弟一族郎党の応と言う返事が重なり銘々、青果の入った籠や猫車を持ち城に向かった。
「いや~。お互いに良い知らせが出来そうだね」
「せやな。にしても美味いな此の茄子。ほんのり甘いで。
そう言えば地元の知り合いの野菜畑言った時にもろた水茄子に似とるわ」
「それ確か和泉乃國の大合戦報酬だし近いんじゃ無い?
そもそも普通の茄子は生で食べられないから水茄子であってると思う」
「メッチャ地元近いやんけ」
そんな話をしながら二人は一つづつ収穫物を運び、水田の真ん中に作られた道を延々直進する。総構えの門を二人揃って開けると夕日に照らされる城下は活気にあふれて居た。
農民の子供が駆け回り、こちらに気づくと手を振り、年頃の男女は喜び迎え、大人達は会釈をして労いの言葉をかけてきた。
禍獣衛門と大太郎太は仕事を完遂した満足感に包まれながら手を振り城へ帰る。此れだけ慕ってくれる人妖の民がいるのだ。満足感は今までに得た事のあるものの比では無い。
笑みを浮かべ大太郎太に言う。
「なぁ、大ちゃん。頑張ろうや」
「うん。そうだね」