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Ghost helpers!  作者: 北風
第二章
33/38

32話 白樺 雪 6

「いやー、昨日は酷い目に遭いましたよ! 誰かさんのせいで!」

「お前以外の何者のせいでもねぇよ」


翌日の昼休み。

ここ数日は蒸し暑い日が続いている。

そろそろ屋上も長時間居座るには適さなくなってくる時期だ。

にも関わらず、布倉は今日も元気が有り余っている。

昨日の一件で少しは懲りたかと思っていたが、どうやら全くの見当違いだったようだ。


「何言ってんですか! 先輩が閉じ込められたりなんてするから悪いんですよ!」

「それも本を正せば布倉のせいだろ。あと柊」


むしろ俺は被害者だ。

責任転嫁も甚だしい。


「あー……、あたし二割、柊八割ってとこですかね」

「なんの内訳だそれは」


意地でも自らの非を認めたくないらしい。

つくづく腹の立つ後輩だが、多大なリスクを負ってまで俺達を助けてくれたのは事実だ。

あそこまで林堂先生を恐れるのなら、わざわざ叱られにいくようなことをせず、見て見ぬふりをして一人帰ってしまえば良いだけの話なのだから。

二割と言えど、責任も感じていないわけではないようだ。


「布倉先輩八割ですよ」


と、不満そうに言う柊。


「そして小森先輩が二割です」


お前ゼロか。

いや、だが昨日の一件に限ればそうかもしれない。

あのときは有耶無耶になってしまったが、嫌がる柊を強引に問いただす形になってしまったことに対しては、俺も多少の罪悪感を覚えて──


──ん?柊?

待て柊?

なぜ柊?


聞き慣れた声についついスルーしかけたが、一拍遅れて何かおかしいことに気付く。

声のした方向にぱっと視線を向けると、屋上のフェンスに凭れてパンを食べている雪の隣に、ちょこんと柊が正座していた。


なぜ柊?

なぜ正座?


「ええぇ!? 柊お前っ……なんで高等部(ここ)にいるんだよ!? え? いやっ、そもそもいつから……」

「ついさっきですよ。布倉先輩が俺に責任を擦り付けようとした辺りからです」

「本当についさっきだな……」

「だからそう言ったじゃないですか。昼休み始まってからずっと先輩方のこと探してたのに、なかなか見付からなかったんですよ。全く、昼食くらい大人しく教室で食べたらどうです」

「……」


何か物凄く理不尽なことで怒られている気がするが、それよりも柊がここにいる強烈な違和感の方に気を取られてしまう。

思えば、今まで部室棟以外で柊と顔を合わせたことが無かった。

知らず知らずの内に柊と部室棟をセットで認識していたのかもしれない。

いや、それ以前に──


「……ちょっと小森先輩。何です、その顔。俺がここにいちゃ駄目ですか?」

「い、いや、そういうわけじゃないが……」


そういうわけじゃないが、驚いた。

確かに一度頼まれて協力したこともあったが、今までの柊は基本的に俺達のことを煩わしがっていた。

初めて会ったときも、つい昨日だって。

柊は俺達を比較的はっきりと拒絶してきたはずだ。

それなのに、昨日の今日で自ら高等部に赴くとは、どういう心境の変化なのだろう。


「俺だって好きで来てるわけじゃないんですよ。用事の一つや二つくらいあります。暇な布倉先輩と違って」

「やめろ柊。なんでお前はそう一言多いんだ」

「あ!? やんのかガキがぁ!」

「布倉もすぐ手を出そうとするんじゃない!」


いきり立って柊に掴みかかろうとする布倉を、慌てて牽制する。

相変わらずこの二人は顔を合わせる度に一触即発状態に陥っている。

柊も、用事があるなら布倉を煽っていないで単刀直入に言ってもらいたい。


「……で、何なんだ用事って」

「伝言ですよ。小森先輩と白樺先輩に」

「伝言?」

「はい、林堂先生から。『昨日のお礼がしたいから、放課後にでも中等部の職員室に来てくれ』だそうです」

「あ。あぁ……」


そういえば昨日の別れ際、「後日礼をさせてもらう」とか何とか言っていたような。

ああは言われたものの、社交辞令だと思っていたので期待などしていなかったし、まさかそれが翌日のことだとは思ってもいなかった。

意外と律儀な人だ。

別に林堂先生に感謝されるようなことをしたつもりは無いので、何かお礼してもらうのも気が引けるが、行かないならそれはそれで失礼に値するだろう。


「じゃあ帰るときにでも寄るか。雪、今日の放課後空いてるか?」


と言っても、(こいつ)に大した予定など無いのは俺が誰よりも知っている。

あるとしても、テレビの心霊特番かホラー映画の地上波放送くらいだろう。

何にせよ、放課後の僅かな時間を惜しむほどの用事が無いのは、九割九分確かだ。

林堂先生だって主に礼を言いたいのは俺よりは雪の方だろうし、雪に断る理由は無いはずだ。

しかし、そう思っていた俺に返って来たのは、予想外の答えだった。


「い、いや……僕はいい……行かない……」

「え? 行かないのか?」

「……ああ……」


そう言って頷きつつも、雪はどこか気まずそうに目を逸らした。


「あれ? 白樺先輩行かないんですか?」


柊も意外そうに首を傾げている。


「う……ごめん、柊……」

「何か予定でもあるんですか?」

「! いや……そ、そういう……わけじゃ……」

「じゃあなんで行かないんです?」

「…………えっと……」


柊の怒濤の追求に、徐々に萎縮していく雪。

よく分からないが、何だか見ていて気の毒になってきた。

だが、俺も理由くらいは聞いておきたい。

教員直々に名指しで呼ばれたのだ。

昨日、布倉のDVD捜索に付き合うのを断ったのとは訳が違う。

ただ林堂先生が苦手だから、というだけの話ではないだろう。

柊を止めた方が良いのか否か、うろうろと迷っていると、布倉が怒ったように声をあげた。


「こら柊! 白樺先輩をいじめるなー!」

「いや、別にいじめてるわけじゃないんですけど……はぁ……まぁ良いです。俺から先生に言っておきますよ」


布倉に迫られて諦めた様子の柊は、溜め息を吐きながら立ち上がった。


「じゃあ伝えましたから。俺はもう行きますね」


そう言い残すと、柊は屋上から去っていった。

用事とは、本当にそれだけだったらしい。


「ふぅ……相変わらず嫌な奴ですね」

「お前は本当に柊のこと嫌いだな……」

「当然ですよ! あたしはああいう年上に舐めた態度で接する人間が一番嫌いなんです!」


なるほど、これが同族嫌悪というやつか。


「あたしだって腐っても体育会系ですからね。上下関係は重んじるんですよ!」


自分の行いを棚に上げて熱弁を振るう布倉。

辛うじて腐っている自覚はあるらしく、少しほっとする。


「そうだ。白樺先輩、大丈夫でしたか?」


一通り言って気が済んだらしい布倉は、フェンス際で小さくなっている雪に声をかけた。


「先輩は正直者ですねー。ああいう時は適当なこと言って誤魔化せば良いのに」

「……苺果……」

「ん? どうしました?」


雪は、いつも通りのほとんど変わらない無表情で、それでも少し嬉しそうに呟いた。


「……あ、ありがとう……」


「……」


思わぬ感謝の言葉に布倉は五秒ほど唖然としていたが、その後ゆっくり俺の顔を見上げると、今まで見たことも無いような幸せに満ち溢れた笑みをその顔一杯に湛えた。


「……ふぉわぁあぁ……! き、聞きましたか小森先輩! あたし、白樺先輩にやっと懐かれましたよぉ……!」

「懐かれたってお前……」


雪を警戒心の強い野性動物か何かだと思っているのだろうか。

いや、大差ないのかもしれないが。


「これはあたしを弟子にしてくれる日も近いんじゃないですかね!?」

「それまだ諦めてなかったのか! 何回断ったと思ってるんだ!」


思い返せば、俺の要求を布倉が大人しく飲んでくれた試しがない。

どんな人生を送ってくれば、たった14、5年でここまで我の強い人間が育まれるのだろう。

布倉の半生に本気で興味をそそられていると、校舎内から昼休み終了の予鈴が響いた。


今日もまた、ろくに休めないまま昼休みが終わっていった。

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