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Ghost helpers!  作者: 北風
第二章
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25話 布倉 苺果 2

「あたし、喧嘩クソ弱いんですよ」


場所は変わり、屋上。

黙々と本来の目的である食事を進める俺と雪の前で、布倉は唐突に謎のカミングアウトを始めた。


「昔からあたしは同年代と比べると体が小さくてですね。力も弱かったんですよ。取っ組み合いの喧嘩では勝った記憶がありません」


それは先程のやりとりでなんとなく覚っている。


布倉はフェンスに寄りかかり、後ろ手で網目をいじっている。

昼食は無いのだろうか。

それとももう食べてきたのだろうか。

もし前者だった場合、大人しく中等部に帰って昼食を摂った方が確実に背が伸びるだろう。


「でもあたしの家って空手教えてるんですよー。ちっちゃい頃はあたしもやらされてたんですけどね? まあこれが驚くほど上達しなかったわけで。父直々に教える見込み無しと告げられてしまいまして」


楽しそうにカラカラ笑う少女。

とてもリアクションに困る。


「で、中学に入学して空手部に入ったんですけど、今現在部が存続の危機に瀕してまして」

「存続の危機?」


俺が聞き返すとええ、と彼女は頷いた。


「ある事情がありましてね――まあ、とは言ってもうちの学校は部活の掛け持ちに制限がありませんし、そんなに大人数の部でも無かったので、あまり気にしている部員はいません。でも、あたしはそれじゃあ困るんですよ」

「まあ……お前はそうだろうな。空手に拘りがあるんだろ? 他の部じゃあ意味無いよな」

「あ、いやそうじゃなくて」


俺としては妥当な相槌を打ったつもりだったのだが、さらりと否定される。


「空手部に部員が集まらないのって、他の運動部と比べて厳しいからなんですよ。顧問が一昔前の熱血系みたいな教師でして、ことあるごとに走らされるわ、ちょっとしたことで怒鳴られるわで人気が低いんです。そんな部に入る輩なんて、どうしても空手をやりたいって人か、あたしみたいな物好きくらいなんです」

「ちょっと待て。お前は前者じゃないのか?」

「へ?」


本気でキョトンとされた。

今のお前にキョトンとする権利は無い。


「いや、あたしが入部したのは空手部が厳しいからです。空手そのものに拘りなんてありません」

「は?」

「いや~、他より厳しい部活に所属するってのは大変なことですが、その分力も養われるじゃないですか。あたしでも多少は喧嘩が強くなれるかなって思いまして」

「お、お前……空手の技術を喧嘩に使うつもりなのか?」


俺だって武道に詳しい訳では無いが、何となくそれが御法度なのは分かった。

空手や柔道の有段者は、それだけで武器を所持しているのと同等の扱いを受けるのだと聞いたことがある。


「あたしは強くなることさえできれば手段は問いません」


真顔で言うな恐ろしい。

先刻までの豊かな表情はどこへ行った。


「何でそんなに強くなることに対して貪欲なんだよ? 喧嘩で勝ちたい相手でも居るのか?」

「勝ちたい相手ですか……。別に特定の相手は居ませんが」

「じゃあ良いだろ、強くなくても」

「駄目なんですよ!!」

「うわっ、びっくりしたぁ!」


突然声を荒らげた布倉は、俺を真っ直ぐ指差すと高らかに主張する。


「さっきも言いましたが、あたしは喧嘩で一回も勝てたことがありません! それって物凄い劣等感なんですよ! コンプレックスなんですよ!!」

「コンプレックスってそんな堂々と言えるものなのか?」


公言できないからコンプレックスと言うのでは。


「うるさいです! コンプレックスったらコンプレックスなんです! あたしは強くなりたい! 鍛えたいんです!」

「空手を頑張って試合で勝利するという選択肢は無いのか?」

「あたしはあたしが気に入らない相手を個人的にぶちのめしたいんです。恨みも何も無い人間を倒して何が楽しいんです? 空手なんてただ体を鍛えるためのツールですよ」

「全国の空手を愛する人々に謝れ」


多分結構な数存在するぞ?


「とにかく! あたしは強くなりたい! でもその手段としている部活が存続の危機! で、白樺先輩に弟子入りしたいんです!」


話が急に飛んだ。

いや、戻ったのか。


突然名前を呼ばれてびくっと反応する雪。

彼は未だ布倉から距離を取るようにして俺の陰に隠れている。


「いやぁ、高等部の先輩方の中には喧嘩がお強い方が沢山いらっしゃると思いまして。あたし、学内最強を探して数日前から聞き込みをしてたんですよ。で、一年生を牛耳る方に最強は白樺先輩だとお聞きした次第です」


満束あの野郎。

面倒事を押し付けてきやがった。


「と! いうわけで!! 白樺先輩、ご教授いただければ幸いです!!」


布倉はそう言うと、俺の背後の雪に向けてぺこりと頭を下げた。


「……」

「……」

「……」

「そ、宗哉……どうしたら……いいんだ?」

「それを俺に聞くのか!?」


暫しの沈黙の後、雪は俺にまさかの問いを投げ掛けてきた。

雪は未だ俺の後ろから出てこようとはせず、オロオロと戸惑いの表情を浮かべている。


「俺だってどうしたら良いのか分かんねえよ。お前が頼まれてんだからお前が決めろ」

「だ、だって! 頼み事とか……今まで…………されたこと無かったし……」

「……」

「……」

「……」


場に二度目の沈黙が下りた。

先程のそれよりずっと深い。


布倉はずっと礼の姿勢で静止している。

空手で鍛えられた礼儀の賜物だろうか。


「……」

「……」

「……」

「…………」

「……というわけで布倉。悪いがそれはちょっと……」

「えぇ!? 何がというわけなんです!?」


布倉は顔をガバッと上げて叫ぶが、仕方無いだろう。

この気まずい数秒間の中で俺が必死に出した結論がそれなんだから。


適切な判断だとは思う。

きっと雪のコミュ力ではこの少女に太刀打ちできないだろう。

いや、それ以前に手加減を知らない雪のことだ。

シンプルに危ない。


が、布倉は不服そうに俺を睨み付けてきた。


「何でダメなんですかぁ! 良いじゃないですか!」

「そんな事言われたってな……」


お前死ぬかもしれないんだぞ?


「困ってる後輩を見捨てるんですかー!?」

「見捨てたんじゃ無い! むしろ救ってやったんだよ! ……ん、そういえば、どうして部が存続の危機になんて陥ってるんだよ。弟子は無理でも、そっちは何か手助けできるかも知れねえぞ?」

「うっ……それはですね……」


俺の申し出を聞いた布倉は、何故か言葉に詰まった。


「?」

「……いやぁ……それを話すとなると……うぅ……」


先程の強気な態度とは一転、目を泳がせて口の中でもにょもにょと何か言っている。

表情が忙しない奴だ。


「何だよ。話せない理由でもあるのか?」

「いやっ……そういうわけじゃないんですけどね……何というか………………笑わないでくださいね?」

「は?」


笑われるような理由って何だ。

首を傾げる俺に対し、布倉は声を落として、やや恥ずかしそうに言った。


「うちの部室の窓から見える、部室棟裏に…………おばけ出るんですよ」


俺は雪と顔を見合わせた。

彼の瞳にはキラキラとした光が宿っていた。

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