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Ghost helpers!  作者: 北風
第一章
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18話 沖花 桃菜 8


俺の言葉を受けた桃菜は、面倒臭そうに視線を滑らせ、口を開いた。


「あー……そう言えば見られてたんだっけ」


俺が杏菜に会いに行ったあの日、杏菜と桃菜は何か言い争いをしていた。

それからだ、杏菜の様子がおかしくなったのは。

あそこまで執着していた御守りの捜索を断念し、いつも居た路地裏から姿を消した。

原因は間違いなく桃菜との会話にあるだろう。


「別に。あの子、私が御守りを隠した後も探し続けてたからさ。教えてあげただけだよ? 御守りは私が先に見つけて、あんたに見付からないような場所に隠し直した、って。泣いて理由を訊かれたけど、教えなかった。もう会う事も無いと思ってたからね」


杏菜は淡々と言う。

確かに、この話には不自然さは無い。

それを本人も分かっているのだろう。

未だ余裕の表情を保ったままだ。


「杏菜……」

「?」

「俺がお前の正体に勘付けたのは、根拠があったからだ」

「な、何? 突然」


俺の言葉に余りに脈絡が無かった為か、桃菜はややたじろぐ。


「お前の兄ちゃんに言われたんだよ、『桃菜は運動も勉強もできなかったが、人を騙したり操ったりするのは巧かった』ってな。ま、実際あいつは末恐ろしい子供だったし、そう聞いても俺は大した違和感は覚えなかったんだがな……あの日、お前と杏菜が口論になってた時、ふと思ったんだよな──『逆』じゃないかって」

「へぇ……それがどうしたの?」

「そう仮定して考えてみたら、全てが繋がった。だからまあ……お前の正体に気が付いたのは証拠あっての事だった訳だが……ここから先の話には根拠も証拠も無い」


でも、俺が最も明らかにしたかった、するべきだと思った話でもある。


「……で? 何の話なの」


桃菜の目に、僅かだが警戒心が宿った。

口許はまだ平静を装って笑みを浮かべているものの、先程とは違う緊張感が場には張り詰めている。


「だから、あの時お前と杏菜が話していた事についてだよ」

「……それはもう話し──」

「いや、まだだ。」


俺は強引に桃菜の言葉を遮った。

桃菜は笑顔を消し、表情を曇らせる。


「まだ、お前は全部話していない」

「……」


桃菜の表情が固くなる。


初めに見せた、無感情な無表情でもない。

貼り付けたような怯えでもない。

余裕を含んだ笑みでもない。


焦り。


今の桃菜の表情からは、何かが露見する事を恐れた、焦燥感が見てとれた。


「図星みたいだな」

「ちが……違う……私は……」


桃菜は何か言おうと口を開いたが、すぐに歯を食い縛って押し黙ってしまう。

焦りを滲ませた瞳は忙しなく泳ぐものの、何を捉えるでもなく空回っていた。


俺の考えが正しければ、桃菜が杏菜に真実を喋った理由は他にある。

『杏菜が御守りを隠した後も探し続けてたから、教えてあげただけ』?

教える理由は無いだろう。

杏菜への未練を断ち切る為に隠し直したというのに、わざわざそれを杏菜に伝えていては意味が無い。


これではまるで──


「ヒントみたいだ」


俺の言葉に、桃菜がぴくりと反応する。

逃げ道を探すかのように動き回っていた視線は、無意味に彼女の足元で止まった。


「お前の行動は、杏菜にヒントを与えてるみたいだっつってんだよ」

「…………!!」


全身を硬直させ、桃菜は目を見開いた。


「え……? どういう……」


雪が怪訝そうに訊ねてくる。

まあ、この流れで理解しろという方が無理がある。

俺も最初は信じられなかった。

いや……今の今まで、確信を持ち切れてもいなかった。


「雪、俺は──俺達は、ずっと桃菜(コイツ)に利用されてたんだよ」

「……?……」

「桃菜は、杏菜に御守りの在処を仄めかすような事を言って、杏菜が動くのを唆したんだ。すると連鎖的に動かざるを得ない人物が居るだろ?」


いや、と言うより……連鎖的に動くこと(・・・・)が出来る(・・・・)人物。



「俺だ」


『……?』

「…………?」


杏菜と雪が『それはそうだろう』とでも言いたげにきょとんと首を傾げる。

俺は杏菜から御守り捜索の依頼を受けた張本人であり、桃菜以外で杏菜を認識する事の出来る唯一の存在でもある。

そんな俺が、依頼主である杏菜の様子がおかしくなった時、最も不審に思うのは当然の事だろう。


「俺が杏菜の事を調べるのを前提に、桃菜は杏菜を唆したんだ」

「え……じゃあ……」

『……!』

「ああ。桃菜はきっと、自分の正体が明らかになる事を望んで──」


「待って!!」


俺の言葉を遮り、絹を裂くような叫び声が響いた。


「待ってよ…………私は……私は……そんな……」


俯く桃菜の足元に、涙が零れ落ちる。

彼女は、嗚咽を漏らしながら糸が切れたように座り込んだ。


「やめてよ……そんな……こと……」


感情と声を失った少女。

実の妹を羨み、成り替わろうとした姉。

桃菜が必死に貼り付けていた仮面が、剥がれ落ちていく。

本性が、露わになっていく。


「そんな事、お兄ちゃんが知ったら……」


後に残ったのは。


「お兄ちゃん……私の事…………嫌いになっちゃう……」


ただ兄に構って欲しかっただけの、一人の子供だった。

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