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Ghost helpers!  作者: 北風
第一章
17/38

16話 沖花 桃菜 7



場の空気が凍り付いたようだった。


杏菜は泣き出しそうに顔を歪め、数歩後退する。

まるで俺が苛めているような雰囲気になり、余り気分は良くなかったが、それでも。

真相を明らかにする義務が、俺にはあるように思えた。


知ってしまった者として。

気付いてしまった者として。

生者と死者の橋渡しができる者として、全てを明らかにしてこの少女達を救う義務がある。


だから、俺は言葉を続けた。


「そんな演技をする必要は、無い。俺はもう……全部分かっている」

「……」


俺は肩越しに背後を窺った。

少し離れた露ころに桃菜が立ち尽くしている。

こちらの視線に気づくと、こぶしを握り締めて覚悟を決めたように頷いた。


「杏菜」

「…………」


杏菜は瞳を揺らして怯えたように俺を見上げた。



「お前の口から話してくれねぇか? 今回の事、最初から全部」



「――――」



                  ※


「…………? 宗、哉?」


雪の声がどこか遠くから聞こえる。


俺の言葉を聞いた途端、それまで恐怖が濃く映されていたいた杏菜の目から、一瞬だけ光が消えた。

初めて出会った時のような、無機質な目になったのだ。

だが、すぐに。


彼女は、口元に薄く笑みを引いた。


そして、小さな唇が動く。



「……凄いね、本当に分かったんだ」



雪が息を呑む気配が伝わってくる。

俺は目を閉じて深く溜め息を吐いた。


さすが双子。

桃菜と同じ声色だ。

だが、彼女とは声の調子がだいぶ違う。

女児らしい高い声音だが、妙に落ち着き払っていて大人びている印象を受けた。


この二人は顔だけ見れば区別が付かない程似ているが、喋ればこんなにも大きな違いが露見する。

それほどまでに、『喋り方』というのはその人の個性が表れるのだ。

声真似の類も、単純に声が同じなら良いという話ではない――口癖やイントネーションの置く位置、語彙の量、話す時の態度等の全てが一致して、初めて違和感が消える。

それをやってのけるのは至難の業だ。

特に小さい子供となると、たくさん練習してどうにかなるものでは無いだろう。


そう――小さい子供。


俺は目を開けて眼前に佇む少女を見据えた。

彼女は静かに微笑んで、再度口を開く。


「でも、分かってるなら……私の事を『杏菜』って呼ぶのは、間違ってるんじゃない?」

「ああ……そうだな」


今度は間を開けずに、一息で言い切る。



桃菜(・・)――お前は、双子の姉の、沖花桃菜だな?」



「………………」


眼前に佇む少女は──桃菜は、笑顔を貼り付けたまま黙っている。

本物か偽物か分からない笑顔。


──これも、真実に辿り着く道標となった。


桃菜はゆっくりと口を開き、言葉を吟味するように語り始めた。


「……ハッタリとかじゃなくて、本当の本当に分かったみたいだね……じゃあ、良いよ。私の口から全部話すね」


と、後ろから右の袖を引かれた。

振り向くと、俯いている一人の少女が立っていた。

──杏菜。


『……ごめんなさい……』


彼女の口から零れたその一言は、誰に向けられたものなのか。

どんな意思を込めたのか。

俺には分からなかった。

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