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Ghost helpers!  作者: 北風
第一章
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12話 沖花 春 4

満束の話によると、沖花の御守りが無くなったのは4日前の事らしい。


「そんな長え間隠しとく筈じゃ無かったんだよ。そいつイジりやすいから、苛めるっつーかちょっと遊ぶだけのつもりでさ。御守り盗って適当な所に隠して……探すトコ見て楽しむ予定だった。使われてない体育倉庫見つけたからそこを隠し場所に選んだんだ。でもこの前見に行ったら──」


無くなってたんだよ、と彼は話を終えた。


一応申し訳なく思っているらしく、バツが悪そうに目線を地面に落としている。


「でもオレがどっかに移動した訳じゃねえ。間違いない、誰かが持って行ったんだ」



     


     ※



「面倒な事になってきたな~」

「ですね……」

「…………」


満束を屋上から追放し、俺達は食事を再開した。


御守りが盗まれたとなると、持っていった人物を特定する事は容易ではない。

ひいては奪還も難しくなる。

てか無理だろコレ。


振り出しに戻った──と言うより双六本体が燃え落ちてしまった感じだ。


「だが諦める訳にも行かないしな……取り敢えずその体育倉庫にでも行ってみるか」


今はそれしか出来る事は無い。

そこで何か手掛かりでも見付かる事を祈ろう。




     ※



その日の放課後。



「えっと……」


俺達三人は体育館裏で途方に暮れていた。


白前は一貫校では無いが付属の中学もあるため、無駄に学校の敷地が広い。

入学してまだ日の浅い俺は、この学園内の施設の配置をまだよく理解しきっていなかった。

故に、満束に『体育倉庫』と言われても今一ピンと来なかったのだ。


まあそれは良い。


学園内を歩き回った所、体育館裏にあるのを発見出来たから。


だが……。



「…………多くね?」



目の前に広がるのは、軽く10棟を超えるであろうプレハブ小屋。

しかも一つ一つがやけにでかい。


「えぇえええぇっ!? 多くね!? コレ全部体育倉庫!?」

「……みたい、だな……」

「これは……多いですね」


二人も流石に引いている。


いや意味が分かんねえよ……これら全てにそれぞれ存在意義はあるのか?


疑問に思って体育倉庫群に近付いてみる。

やたら綺麗に羅列しているそれらからは、謎の威圧感すら感じる。


「……ん?」


よく見ると、体育倉庫の扉一つ一つに、15㎝くらいに切り取られたガムテープが貼りつけられていた。


一番端の倉庫に貼られたガムテープには、『授業用1』と書かれている。


「こっちのは『サッカー部&野球部』です」

「『授業用2』……」

「ああ……何だ、ちゃんと用途が分かれてんのか。部活は兼用なのか……まあこんだけでかければそうか」


良かった。

それなら話は早い。


使われていない倉庫──つまりテープが貼られていない倉庫を探せば良いのだ。


これだけあれば一棟では無いと思うが、大分絞られるだろう。


「よっし! 二人とも、全部見て廻ってくれ。テープ貼ってないの有ったら教えてくれよ」


俺がそう呼び掛けると、二人は頷いて倉庫の扉を見にかかる。


最初は嫌がらせかと思ったんだが、まあ何とかなりそうだな……。




「えーと、『テニス部&バスケ部』」

「『バレー部&バド部』ですね」

「『陸上部&ゴルフ部』……」

「『ソフテニ部&クリケット部』……クリケット部!?」

「ぽ……『ポートボール部&卓球部』です」

「……『ホッケー部&ラグビー部』」

「『スキー部&スケート部』!? ウチの学校にこんなの出来る施設あるのか!?」 

「『スカッシュ部&射撃部』、です……?」



以下略。



「……まさか全部使われているとはな……」

「でも何か……自由な校風が生み出した悲劇の温床でしたね……」

「…………」


そうだ。


白前は校風が非常に緩い。

つまり、部活を作るのも容易いのだ。

確か部員三名以上、顧問一名以上居ればほぼ無条件で承諾されるんだったか。

今時無いぞ?そんな学校。

更に部の掛け持ち数に限度は無く、中には一時のテンションや受け狙いで創られた部活も数知れず存在する。


それで、この倉庫の量か……。

やっと理解した。


恐らくノリで創ったけど飽きたから放置してる、半ば廃部状態の部活があるんだろう。

きっとその部が使っていた倉庫を満束は見付けたのだ。


「あ~っ畜生めんどくせぇ!! もう満束に直接訊こうぜ?」


てか最初からそうしていれば良かった。


そうすれば入る気もない運動部の知りたくもない事情に首を突っ込む必要も無かっただろうに。


「あ、満束さんなら早退しました」

「えぇ!?」


沖花がさらりと発した一言に、俺は少なからず衝撃を受ける。

サボりとかじゃなくて、早退?

何故?


「なんか白樺さんにあっさり倒されたのが悔しかったらしくて……」

「ああ……」

「もうしばらくは学校来ないそうです」

「メンタル弱っ!」


ウチの学年の(元)番長打たれ弱っ!

……確かにあそこまで瞬殺されたらショックだろうがな……。

メンタル面では俺の方が遥かに上だな。


……いやいやいや。

何ちょっと嬉しくなってんだ俺。

些細な事過ぎるし、事態はむしろ悪い方向に進んでいるというのに。


「待て待て……えっと? じゃあ俺達、こんだけある倉庫をしらみ潰しに調べて、あるとも限らない御守りの手掛かりを捜すのか?」


「……」

「…………」


無言で項垂れる二人。

場の雰囲気から「無理だろ」といった空気を感じ取れる。


いや……俺も無理だとは思うが。

今の所、手掛かりは体育倉庫しか無ぇし……。


「よ、よっし! 取り敢えず動こう! 動かない事には始まらねぇ!」


折れそうな心を誤魔化すように、俺は無理矢理ポジティブに呼び掛けた。


「まず使われてなさそうな倉庫から行くぞ! 沖花は『スパタクロー部&リリアン部』、雪は『円盤投げ部&懸垂部』を調べてくれ! 俺はこっちを調べる!」


強引にテンションを上げ、早速『カバディ部&握力測定部』の倉庫を開け放った。

やはり久しく使われていなかったらしく、引き戸を引いた途端に埃がもうもうと舞い上がる。

咳き込みながら顔を反らすと、倉庫の扉を開ける雪が目に入った。

向こうも向こうで暫く使われていないらしく、扉が錆び付いているようだった。

上手く開かないらしく雪は悪戦苦闘していたが、最終的には蹴破るという力業で解決していた。

器物破損。

教師に見つかったら今後の学園生活に支障を来すので、適当に誤魔化さなくてはならないのが面倒だが、捜して貰えるのは助かる。


「……うしっ!」


俺は気を引き絞めて目の前の倉庫に踏み込んだ。



     ※


午後5時。


「…………」

「…………」

「…………」


疲労困憊。


俺達は大量の開け放たれた倉庫の前で座り込んでいた。

その脇を怪訝な表情を浮かべた野球部員が通って行く。


「…………そーや……」

「……あ?」

「……僕達……何を……捜して……たんだっけ…………」

「そりゃアレだ………………………………御守り……の手掛かりだろ」


15秒程本気で解らなくなっていた。

完全に思考が濁っている。


重苦しい空気の中、沖花がゆっくりと口を開いた。


「あの……お二人とも本当にありがとうございました」


彼も彼で疲弊しきっていたが、恐らく俺達に気を遣っているのだろう、無理矢理顔に笑顔を貼り付けていた。


「ですが、もうこれ以上ご迷惑はお掛けできません」

「沖花?」


沖花は一度俯き黙り込んだが、息を一つ吐くと笑顔で顔を上げた。


「もう御守りは諦めます。小森さん、桃菜にそう伝えて下さい」



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