10話 沖花 桃菜 3
「お、居た居た」
以前桃菜に会った場所に行くと、彼女は退屈そうに道路で三角座りをしていた。
俺は周囲に人が居ないことを確かめると、桃菜に向かって手を降る。
「よっ! 桃菜!」
『あ! この前の……』
桃菜は俺に気付くと笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。
『また来てくれたんだね! 私なるべくここに居るようにして待ってたんだよ』
そう言ってこちらを見上げる桃菜。
一瞬、悪くないと思ってしまった。
違うぞ?
俺はロリコンではない。
『お兄ちゃんとはもう会えた?』
「ああ、お陰様でな。……何か、めっちゃ良いヤツだった」
『でしょでしょ!? お兄ちゃんは私と違って凄い性格良いの!』
自分の性格が所々悪いことについての自覚はあったのか。
『ん、ところで今日は何しに来たの?』
あ、そうだ。
目的を忘れかけていた。
なるべく早く終わらせて帰らなきゃな……。
あまり長く雪を留守番させておくのは心配だ。
雪が、ではなく雪によってもたらされる可能性のある我が家の被害が、だ。
もう食料は調味料しか無いと思うが……アイツは何をしでかすか分からない。
『もしかして私に会うためだけに……!?』
口元を両手で覆い、顔を赤くしてわざとらしく目をキラキラさせる桃菜。
「いや違ぇよ……ちょっと聞きたいことがあってな」
『聞きたいこと?』
「ああ。桃菜って妹居るんだよな?」
『え?』
そう尋ねた途端、桃菜は先ほどまでの笑顔を消し固まってしまった。
驚いたように目を見開き、無言で俺を見ている。
「あ……と……桃菜?」
『! ご、ごめん……えっと何だっけ? 妹?』
だが俺が話しかけると桃菜は慌てたように笑顔に戻った。
『も、しかして、あ……杏菜の事かな?』
「ああ……そうだが……どうかしたのか?」
『えっ!? あ、いや、その……私杏菜の事教えてないのに、どこで知ったのかなーって』
目を泳がせながら桃菜はそう言う。
何でこんな反応を?
……聞いちゃマズかったか?
「沖花から……あ、沖花……春から、聞いたんだ」
『ふ、ふーん、そっか。まあそうだよね』
何とか平静を装っているようだが、桃菜の顔には僅かな焦りの色が滲み始めたように見えた。
やっぱりこの前は故意に杏菜の事は口にしなかったのか……。
だとしたら何故だ?
『──私は、杏菜の事が嫌いなんだ』
俺の心を見透かしたかのように、桃菜はぽつりと言葉を溢した。
「え……嫌い……?」
『そ、嫌い』
「ふ……双子なのにか」
『……うん、それはあんま関係無いね』
ふは、と桃菜は何故か寂しそうに笑った。
それは桃菜のような少女には似合わない、色んな感情が混ざり合ったような複雑な笑顔だった。




