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Ghost helpers!  作者: 北風
第一章
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プロローグ 小森 宗哉

 子供の頃は、いつも泣いていた。


 寂しくて、理不尽で、怖くて、孤独感に苛まれていた。


 人と違う視界が、そのせいで孤独を強いられるのが、嫌で嫌で、悲しかった。




 ――どうして、ぼくにだけみえるの?


「それは、宗哉(そうや)が優しい心を持ってるからだよ」


 ――やさしいこころ?


「うん。宗哉(そうや)にだけ見えるのは、可哀そうな人たち。みんな、助けてって言ってるの」


 ――かわいそう……


「その優しい心で、みんなを助けてあげて。きっとそれが、宗哉の生まれてきた意味なんだよ」


 ――……わかった






            ※



 幼い頃から死人が見えた。

 いつから見えるようになったのかは分からない。きっと初めから、この世に生を受けた時から、そうだったのだろう。

 物心ついた時にはもう、俺の世界に生と死の境界線は無かった。


 それが異様なことだと知ったのは、俺が見ているものが忌み嫌われる対象だと知ったのは、3歳の時だった。

 幼稚園という生まれて初めて属す小さなコミュニティに、俺は全く馴染むことができなかった。

 特別人見知りだったわけでも無い。むしろ積極的に皆と仲良くなろうとした。

 だが、そんな俺の姿は、他者の目には時に何も無い所に話しかけているかのように映った。

 そんな子供は、当然不気味がられる。

 年を追うに連れ、両親の俺を見る目も変わっていった。


 そんな俺が心を閉ざさずに済んだのは、歳の離れた姉のお陰だった。

 彼女は俺の世界を受け入れ、肯定し、それに意味を与えてくれた。


 優しい姉だった。


 本当に、優しい姉だった。


 そんな姉と暮らしていたのだから、俺はとてもとても穏やかな性格に……




 なってもよかった



   なるはずだった



     ならなかった




 まあ、つまり。

 端的に言うと――グレたのだ。


            ※


 俺、小森宗哉は中2でグレた。


 グレた。不良になった。不良。ヤンキー。犯罪者予備軍。まともな人生から14歳にして逸脱した。


 いくら姉が優しくても、自らの視界を受け入れることができても、俺と他との違いは埋まらない。

 幼稚園から小学校にあがっても、俺は孤独なままだった。近づいてくる輩はいたが、そいつらの目はどこか俺を対等な存在として見ていなかった。怖いもの見たさ。好奇心。そいつらにとって、俺は退屈しのぎの道具だ。

 中学生になってからはいじめが始まった。

 「幽霊男」「近づくと呪われる」などと陰口を叩かれ、ついには教科書を盗まれたり、靴を隠されたりした。

 そんな日々が一年近く続き、中1の冬、鞄を池に投げ込まれた時、とうとう積もり積もった鬱憤が爆発した。

 俺をいじめていたグループのリーダーを、思いっきり殴ったのだ。

 予想外にそいつは吹っ飛び場は騒然となり、俺は両親の呼び出しときつい説教を食らった。だが、そんなものは一切響かないほど、俺は高揚していた。いじめられっ子から畏怖の対象へ。圧倒的すぎる立場の変化。俺は一気に生きやすくなった。

 俺は学んだ。他と違う者が迫害されないためには、強さが必要だ。誰にも見下されないくらいの、強さが。

 それから、俺は強くなろうとした。いじめられれば容赦なくやり返し、売られた喧嘩はすべて買い、他校の生徒とも殴り合った。

 そんな日々が続くこと2年、いつしか学校で俺に敵う人間はいなくなっていた。  


            ※



『まもなく、東京、東京。お出口は――』


無機質なアナウンスで目を覚ます。

生まれて初めての長旅、しかも一人旅で体は疲弊しきっていたが、ここで降りないわけにはいかない。上京早々地下鉄で迷子なんてごめんだ。

俺は眠い目を擦ってノロノロと立ち上がり、スーツケースを引いた。



15歳、春。

俺は東京で一人暮らしを始めることになった。

高校生の一人暮らしなんて相当な理由が無い限り止められて然るべきなのだろうが、両親は二つ返事で承諾した。彼らも昔から不気味に思っていた息子がグレて、持て余していたに違いない。厄介払いができたと思っているのだろう。俺だってこんな居心地の悪い家にはいたくない。高校生になったら離れようと、常日頃思っていた。

だが、それとは別に上京を決意した理由はある。

喧嘩だ。

暴力に怯えていたひ弱な少年だった俺は、ここ数年喧嘩に明け暮れ、その魅力に憑りつかれていた。

喧嘩をしている時は余計な事は何も考えなくて良い。しかも勝てば達成感も地位も手に入る。なんて楽で便利なんだ。

もっと喧嘩をしたい。もっと頭を空っぽにしたい。最近はそんな思考を繰り返すようになってきた。

そんな折、後輩に聞いた噂があった。東京には悪名高い不良校があると。学費も安くて名前さえ書ければ誰でも入れる、社会から既に外れている少年少女の受け皿のような学校があると。

もともと喧嘩に明け暮れていて勉強はからっきしだ。それに喧嘩もできる。調度良いと思った。



            ※


アパートの一室に荷物を運び入れた頃には、もう夜も更けていた。

眠気と疲れでろくに荷解きをする気にもなれない。

流石に入学式前日に上京は無理があったか。若干後悔している。


「ふぅ、あぁ……」


思い切り欠伸をすると、更に眠気が加速した。

もう良い、今日は眠ってしまおう。明日に支障が出たら困る。

部屋に積み上げられている段ボールから布団一式を引っ張り出すと、俺は横になった。

目を閉じ、高校生活に思いを馳せる。

不良校とはどのようなものなのだろうか。中学は地方ということもあって不良らしい不良はいなかった。せいぜい小学校で権力を握っていた悪ガキの延長だ。だが都会となるとそうもいかないだろう。

俺は刺激を得られるだろうか。今よりももっと強くなれるだろうか。

きっと、そうに違いない。

期待と興奮で頭は冴えていたが、肉体の疲れには敵わない。

俺は静かに眠りに落ちていった。

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