母竜の思い
どうしたものか? 決定打を与えられない。属性的にはシャインのブレスに聖属性を付与しているのであのラヴァリッチドラゴンを浄化できるだろう。しかし弱点となる背後をあのように守られてたら意味がない。
ただ向こうの攻撃も距離を取っていれば当たることはない。マグマポーンはビショップとルークになってしまい、ラヴァリッチドラゴンの背後に控えて動かないのでラヴァリッチドラゴンだけを注視していればいいのだ。こんな状況なのでどちらも決め手に欠けている。
幾度目だろうか、炎弾と炎岩を避けて回り込みマグマルークとマグマビショップごとブレスで焼き払った。だけどこの攻撃もさっきまでと同じようにルークが盾でラヴァリッチドラゴンとマグマビショップをかばい、マグマビショップは体力の減ったマグマルークの回復とこちらへの牽制となる弱い魔法弾を放つ。
完全に倒すにはコアを叩かなければいけないが、マグマルークを倒さない限りコアを狙い打つというのは不可能だろう。だけどマグマルークを一撃で倒すのは属性の相性的に無理だ。水属性の付与をかけてもいいがそうすると聖属性の付与が消えてしまう。また聖属性をかけなおすのは残魔力的にもタイミング的にも難しい。
反対に正面から打ち合ってみたこともある。やはり炎弾でシャインのブレスは減衰するし、炎岩に至ってはこちらのブレスでは岩を破壊できずにラヴァリッチドラゴンに影を落とすだけだった。その影の中にコアが逃げ込まれていたら別角度からもう一つ攻撃が必要となる。さっきと同じ戦法でも良いかもしれないがルークとビショップがどう動くかわからないのも問題がある。
やっぱりパーティメンバーを倒されると辛い。攻撃のレパートリーも減るし、相手の狙いも分散できず、陽動だったり挟み撃ちといったこともしづらい。ほんとにこれって適正レベルいくつのクエストなんだよ。ボス戦3連戦でしかも聖属性ないと詰むなんて。もしかしたら聖属性なくてもいけるのかもしれないけど検証なんてもうできないしする気もない。
いろいろと考えてみたし、試してもみたが、やはり粘れるが倒すには至らない。多少削ったくらいではビショップに回復されてしまうし、相手の魔力が尽きるまでというとこちらの精神力が持たなそうだ。
まぁ負けるわけにもいかないのでこのまま粘らせてもらう。しかしながら何らかの動きがなければじりじりと追い詰められて負けることは確かだろう。
先ほどから奥に続く洞穴から何らかの地響きのような低い音が聞こえるのだ。しかも次第に大きくなっている。敵か味方かはわからないが敵の敵は味方ということもあるし、それに敵だったとしたらもう為す術もなく負けるだけだ。それに重い足取りで近づいてくるということは何が来るかは推測できる。状況にもよるがきっと戦闘にはならないだろう。
この希望的観測をもってラヴァリッチドラゴンと一進一退の終わらない戦闘を継続する。もう大きな一撃は狙わない。細かい牽制だけで攻撃を打ち消すのと一方的に攻撃されるのを防ぐだけだ。
守りと省エネを重点において渡り合うこと数合。地響きを鳴らしていた正体が現れた。
溶けた岩が辛うじてドラゴンの形を象る。翼の先や頭の天辺からは溶岩が雨垂れのように滴り足元から再度吸収されていき体となしている。実際問題ラヴァリッチドラゴンよりドラゴンの形状は保てていない。しかしそちらに気を取られたようで攻撃は止んだ。
「なんの騒ぎなんだ!? 最近は不愉快なことが多すぎる」
『来てはなりません! 我が子よ。お前はこの島の奥で平和に何事にも囚われず過ごすのです』
「お前は誰だ。この島の溶岩を止めたのはお前か?」
『変わり果てた私の姿のせいでわからないのね。私はお前の母よ。そしてこの島の溶岩は私の体。お前はまだ私の胎内で守らなければいけないから』
「いや俺の母は死んだはずだ。俺のために魔力を使い果たして目の前で砕け散ってしまった」
『ラーヴァ、お前が心残りで岩と同化し地脈から魔力を吸い上げて蘇ったのよ。さあ外に煩わされずこの中でゆっくりと過ごしなさい。お前が世界を拒絶するなら私があなたを守り侵入者を排除するわ』
言葉と同時に炎岩がこちらに向かって放たれた。同時にラーヴァもこちらを認識したようだ。一瞬目が合ったような気もする。しかしながらイベントに気を取られており、ほぼ不意打ちに近い状態だったので回避するタイミングを逃し直撃してしまった。きりもみして地面に叩きつけられる。そしてラヴァリッチドラゴンを見ると翼を広げてその中に眩い炎球が発生していた。さっきまでの炎弾の比じゃない威力があることが容易にわかる存在感だ。飛んで躱すことも魔法で防ぐことも時間が足りずできない。絶体絶命と思ったその時、ラヴァリッチドラゴンを横から溶岩の津波が襲った。その衝撃でラヴァリッチドラゴンの放とうとしていた炎球はキャンセルされ霧散した。
『ああー!!、何をするの母親に暴力をふるうなんて。いつからそんな子に‼ ただお前のためを思って侵入者を消そうとしたのに』
「確かに最近、いろいろとありすぎて外とは関わりたくない。誰とも会いたくない。そんな思いもあった。だけどせっかく友達が遊びに来てくれたんだ。たとえお前が母親だったとしても友達を攻撃して追い返すなんて真似はさせない」
『友達、友達って、お前はまだ幼い。私の庇護下にあるべきです。もし友達というならば私が選びます』
「そうだ。俺はまだ何も知らない。生まれてから100年、ずっとこの島で誰とも会わずに暮らしてきた。だけど新しい世界がひとつ近づいてきたんだ。俺はこの新しい世界を知りたい」
『それではもう私は必要ないというの?』
「ああ、今まで守ってもらってありがとう。母さん、俺は新しい世界に出るよ」
『ああ、新しい世界が憎い。我が子を私から取り上げる新しい世界が憎い! そしてその世界を連れてきたお前が憎いぃぃ!!』
呪詛を吐き出すとオレンジだった体が黒く染まり、流れるように対流していたマグマの体も所々が赤く光る粘性の高い岩のようなマグマとなった。やばそうなのでまたシャインに乗り空中に退避する。そして新たに調べると
【
イビルマザードラゴン
子を思う想いが積もり心を闇に堕としてしまった者
自我が敵と認識したものへの敵対心のみとなり、敵を倒すためなら周囲への影響も考えず攻撃する
】
最終形態かな。疲れたよ。さすがにこれで4段回目。竜の依頼というだけで推奨Lvは高いのだけれどきつい。
しかもさっきはその場から動かなかったのが今度は動くようになってる。鈍重だが攻撃方法も変化しているのだろう。さっそくやってきた攻撃は翼を地面に叩きつけてその衝撃で部屋のいたるところから噴石が弾け飛ぶ。ダメージ自体は少ないがシャインに石が当たった時の揺れで酔いそうになるのだ。ただでさえ急旋回やら宙返りなどアクロバティックなことをしていて三半規管がおかしくなってきそうなので勘弁願いたい。
ついで迫るのは天井から滴り落ちるつらら状の岩。直撃しそうなものは撃ち落としてはいるがすべてではないのでシャインの体にも当たりこちらも揺れがひどいし、場合によっては翼に弾かれてあらぬ方向へ跳弾する。ダメージ的にはシャインの皮膚を貫くほどではないので気にしなくてもいいが、跳弾でこちらをかすめるものは結構な割合で体力を削ってくる。自分の防御にもバフが必要なようだ。
「危ない!」
とっさにイビルマザードラゴンとの間に赤い影が入り込み爆発する。ラーヴァが火炎弾から守ってくれたようだった。
「大丈夫か? ラーヴァ」
「炎系の攻撃は俺が引き受ける。一発で成仏させてくれ!」
飛ぶのが上手ではないラーヴァであるが前に出てこちらに飛んでくる火炎弾と岩を弾いてくれる。これならばシャインは溜めて渾身の一撃を打てる。聖属性の付与に攻撃アップ、魔力も大半を使い最大限のバフをかけた。
またラーヴァが受け止めたのか爆発で一瞬だけイビルマザードラゴンが見えなくなった。こちら側から見えないということは向こうからも見えないということで、更に相手はあまり動きは遅くないから大体の場所はわかる。ということは攻撃のチャンスだ。
「シャイン! いけー!!」
シャインは爆発の起こった個所をかすめるように翻り突っ込む。煙幕が晴れた先には横を向いているイビルマザードラゴン。そこに向けて今までシャインが口元で溜めていたブレスを思い切り吐き出す。一瞬部屋が白に染まり、白銀の濁流を受けて黒い炎はみるみるうちに明るいオレンジに色を変えて、そして消えた。
『もう私は必要なかったのね。我が子は一人で歩き始めたのかしら。ここにいるとまた心配で身を焦がし我が子を縛ってしまいそう。もう行くわ。次の命へ。我が子は心残りだけどこんなに良い友達がいれば大丈夫よね。いつまでも幸せな人生であるように。そして気立ての良い仲間に囲まれるように祈ってるわ。愛してるわラーヴァ』
心の中に優しい母親としての声が流れ込む。きっとラーヴァにもこの声は聞こえているのであろう。彼は炎が消えた位置をずっと見てるのだ。
「ずっと守っていてくれてありがとう。ずっと愛してくれてありがとう。ただ俺はここから出ていくよ。新しい自分になってみせる。母さんは安らかに眠ってください」
ラーヴァの体が光りながら縮んでいく。光が収まった時には幼竜の大きさとなっていた。彼も疲れたのか眠っているようだった。
溶岩も冷えて固まったこの島では彼も生きづらいだろう。一度、ドラゴンの里に連れて行って長老に相談だな。シャインの背に乗せて出口を目指そうとすると足元に絡まる一つの尾。いつの間にやら逃げていたレイの尾だった。彼は口の中から赤い宝石を吐き出す。調べてみれば
《フレアドラゴンのコア》
【長い時を経たドラゴンのコア
最上位の宝石の一種
杖の素材としても炎を操る触媒としても最上級
聖属性で浄化されているので意志は感じられないが回復魔法も適正あり
】
気づかなかったが先ほどの炎が消えた場所に落ちていたのかな。ちゃんと気を抜かずに探索しないといけないと身に染みて思う。とりあえず取り残しのものがないのか調べて出発しよう。
一応見渡すと鉱物やら魔道具の触媒やらと結構なアイテムを入手できた。しかし洞窟は守るものがいなくなったせいか先ほどから地震が発生している。そしてその間隔はどんどん短くなっているのだ。
ギリギリまで探索しようと粘っていても突然床が裂けていきなり水が噴き出した。採取はもったいないけど打ち切り、シャインに飛び乗り上を目指す。どこかに縦穴があればいいのだけど。
後ろから濁流が迫る。分かれ道でも反対側のところからも水があふれている個所があったり。しかし水がない方向は上へと通じているわけで、とっさに判断し正解と思われるルートを選び取る。何度目かの分かれ道。急な縦穴にぶつかったのでそのまま地表に出れた。そして眼下に見えた光景は今までいた島が海に飲み込まれる姿だった。
これでラーヴァの帰る島はなくなってしまったのだと思うと少し寂しい。こいつは竜の里でうまくやっていけるのだろうか。
このまま帰ったら長老に相談してみようか。
「よし、じゃあシャイン。竜の里へ帰ろう」




