溶岩洞窟
ラーヴァの住んでる島の上空まで来たが島は以前とは違い、至るところから煙が上がり、島の表面も黒い岩が転がる荒涼の地面だったのが、今は赤いマグマが水溜まりのように所々に吹き出している。そして極めつけは時おり聞こえる爆音とそれと共に飛んでくる憤石だ。それは方向を定めず様々な方向に飛んでいくのだが上から下から横からもと予測もできない方向から飛んでくるので危ない。それでも次々に飛んでくる憤石をかわし、時には魔法で打ち落とし次第に高度を落とす。
この間入った洞窟付近の岩場に降り立ったが地面は脆く岩がシャインの体重で潰れ砂になる。すると足がズブリと沈みこむのでバランスを崩し傾いだ格好でようやく止まった。その時の衝撃で俺たちシャインの背中に乗ってたメンバーはポーンっと跳ね上げられて地面に放り出されてしまった。
ザラザラの岩が皮膚を削り致命的ではないが体力が減る。他のメンバーはと見れば、クロガネは手足頭を引っ込め甲羅だけになっていたが、やはり自重で甲羅の半分が埋まってる。のそのそと周りの砂を崩し穴の中から首をもたげゆっくりと辺りを見回し安全だとわかると器用に穴から出てきた。ステータスを見てもダメージはないようだ。コウは宙に浮き地面への激突は避け、レインは吸盤でシャインの背中にくっついていたし、エンは熱い岩場に身を擦り寄せて気持ち良さそうにしてた。
一番ダメージを負ったのは俺のようで安心したようなちょっと悔しいような。そして目の前のシャインもレインが降りたのを確認すると人化した。しかしその人型の体の現れる場所が悪かったようでさっきまで足が埋まってた穴に転がり落ちてしまったのだ。覗きこめばそんなに深い穴ではないが縁は脆く体重を乗せれば崩れてしまう。結局穴の縁をクロガネが崩したあと首を伸ばしくわえて穴から引っ張り上げた。
「ありがとークロちゃん。それにしても熱いねー、またー。それに地面がサラサラでふかふか」
「この間はここまで酷くなかったけどな」
地面から立ち上る熱気は精神力を奪っていくし、安定しない足場もいつもより疲労が貯まる。クロガネ、エンは砂場でも器用に歩いていて不自由なく楽しそうだし、シャインも疲労は感じていないようだった。それでも歩き続けようやく洞窟の入り口に着いた。俺とコウはすでに熱気に当てられてへばっていたし、クロガネの甲羅も肉が焼ける程に熱くなっていて最初は甲羅にへばりついていたレインも途中から俺の頭の上に移動してきた。
シャインもいつの間にか丸い幼竜に変化している。人の身体より熱耐性は高いが攻撃にはちょっと不安がある形態だ。しかしこの先待ち構えている洞窟では狭さの問題で成体にもなれないし完全体なんてもってのほかなのでしょうがないのだろう。あとは話し相手がいなくなって俺が少し寂しくなるくらいか。
そんな苦労をして到着した洞窟からは熱風が吐き出され、唸り声のような低い音も風に乗って聞こえる。これは風の音なのか、それともラーヴァの声なんだろうか?
それを確かめるのに洞窟を進みたいが、まずはこの熱風をなんとかしないとな。前回は耐性付与でしのいだんだっけ。だけど今回はメンバーが多いしそれぞれに必要な耐性の強度も違うんだよな。そしたらいつもシャインの背中に乗ってる時に使う結界魔法で何とかなるかな? とりあえずやってみよう。
「災厄を退け安寧と平穏をもたらす神よ我の周りに平穏あれ」
『セークールス スクートゥム』
俺を中心にシャボン玉のような膜が広がった。味方まで覆ったので垂れていたコウもさっきまでよりは楽になったようだ。しかし足元から立ち上がる熱気はどうしようもなく、まだコウは俺の首に巻き付いているし、レインも頭の上から動かない。試しに地面に水系の魔法を放っても焼け石に水ですぐに蒸発してしまい逆に体に湿った空気がまとわりついて不快だった。
そんな状況でも飾りのような翼だけなのに不思議な力で浮いているシャインと種族的に熱い場所が好きなエンは結界の外でも元気に動いている。なので前衛はこいつらに任せようと決め指示をだした。
入口でもう心は萎えかけていたがそれでも結界のおかげでなんとか進めそうだ。
そして洞窟に入れば先ほどまで出会わなかった敵もあらわれる。炎がこうもりの形をしたフレイムバットやマッドゴーレムの亜種であるマグマゴーレムにサラマンダーなど火属性の魔物が主だ。メインはクロガネの土属性のスキルとコウの水魔法を使って倒していき、動きが素早いフレイムバットにはシャインが牽制で足止めしているところを狙い撃ちした。結界の外で一番元気なエンと、環境適応で属性を変えたレインでは攻撃役としての活躍は難しいのでやはり牽制と盾役だ。
しかしのんびりと攻略していけるわけでもないのが現実で俺の結界の維持で刻一刻と魔力は減っていく。なので本当はもっと素早く攻略したいのが実情だ。
だがダンジョンというだけあって分かれ道はあるし溶岩に行く手を遮られることもあり、なかなか前に進めない。そしてどこが目的地に通じる道かわからなくなってしまう。とりあえず溶岩の流れを頼りに下に向かっているが溶岩の流れ自体も蛇行しており、道が途中で途切れていることもあった。
そして結界の維持だけで魔力を半分以上使ってしまい一度引き返そうと思った頃だった。沿って歩いていた溶岩の川が大きな池に注ぎ込んでいる場所まで来たのだった。
「やっとなんかありそうな場所に着いたな。出口も何個かあるしあのどれかだろ」
この時の俺は油断してたし、ラーヴァの言ったことを覚えていなかった。目の前の溶岩の池に泡が沸き立つ。泡は次第に増えていき溶岩を膨らませた。そしてそのふくらみの中から巨大な岩が吹きあがってくる。それは溶岩を水しぶきのように跳ね上げるだけでなく壁のような津波を引き起こした。すぐに自分が立っている場所も飲み込まれるだろう。
「やべっ! クロガネ! アイアンドーム!」
視界は暗闇に閉ざされた。じゅわっと何かを溶かす音とドラを激しく叩くような音が平衡感覚を狂わせる。音が止んだのかも耳鳴りの性でわからない。壁に触れば振動でわかるかもと実行に移したのはまずかった。根本的に頭が働いてなかったのだろう。熱された鉄に手のひらを焼かれ悶絶する。現実ではないし回復魔法が使えるとはいえ必要のないダメージを食らうという失態を犯した。しかも振動がわかったのかというと熱さが先に来てわかるはずはなかった。
「またー、外は大丈夫みたいだよ」
どこからかそんな声が聞こえ、その声を信じクロガネにドームの上半分を開けるように命じた。
「これはひどい」
辺りを見回して出た言葉だ。入ってきた通路はもちろん他の通路も全て岩や溶岩に邪魔されて通れなくなっていたし、地面も溶岩の割合が増えていた。そして中央の池にはでかい岩がそびえ立っている。もちろんただの岩ではなくまるで人形のような形をしていた。そうゴーレムのような。
【
灼熱岩人形
溶岩の熱が岩に溜まり意志を持ったもの
身体を削っても周りの溶岩を身にまとい自己修復する
再生した部分は脆く一撃で崩れる
】
「お前がボスか。てかボスいるのか。シャインは大きくなって遠距離で攻撃。コウもシャインの背中から魔法で水をかけろ」
そう指示するとシャインは成竜サイズに化け、その背中にコウが乗った。とりあえずゴーレム系はコアを破壊することが討伐条件なのでシャインたちにコアが出るまで削ってもらおう。
「グウルルゥゥ!!!」
「シャーッ!」
それぞれが吼えシャインが飛び立つ。一定の距離を保ちながらゴーレムの周りを旋回し、時折虹色のブレスと水の渦が飛ぶ。そんなシャインがうっとおしいのかゴーレムは拳を振り下ろすが、うちのシャインが大雑把な攻撃に当たるわけがない。
しかし拳が地面を打ったときに飛び散る岩と溶岩は遠く離れた俺たちにも飛んでくるわけで、しかも床の揺れにも同時に襲われる。防ぐ手段はやはりクロガネが作る障壁魔法だけだ。なので揺れはどうしようもない。エンとレインには有効な攻撃手段がないことはわかっている。クロガネなら岩を飛ばすスキルでロックブラストというものがあるが防御優先だと攻撃をしている余裕はないだろう。
ここで炎耐性を優先してボス戦を想定してなかったパーティ構成があだとなっている形だ。炎耐性が強いことと炎属性にダメージを与えられるということがイコールではないということだな。
ならばできることはこっちに注意を引き付けてシャインの負担を減らしてやることだけだ。ダメージはほとんど与えられないにしても風の刃だったり細かい炎弾。これが当たれば再生した部分は崩せる。それにシャインとコウを補助する支援魔法と回復魔法を障壁に隠れながら度々放てば時折こちらに意識が向き隙が生まれる。それに合わせてシャインとコウが大技を放てば少しづつだが相手の体力は削れる。
魔力回復薬を飲みながら何度も同じことを繰り返し、作業となってきたその瞬間、灼熱岩人形の振り下ろした腕が地面に大きな穴を開けた。そしてその穴は部屋に流れるマグマを全て吸い込みそのうちに留めた。もちろん灼熱岩人形もその穴に吸い込まれた。
コアを壊したかして止めを刺したんだろう。そう思い一息つく。しかし先ほどできたマグマの池は不自然に波を打ちそれから目が離せない。手の合図でとりあえずシャインを呼び戻し横に控えさせる。そして波に同調するように輝き始め、その周期は段々と短くなる。そしてただの赤く輝く円球が宙に浮かぶ状態となりその輝きが最大に達したときそれは現れた。
大きさはさっきまでのゴーレムよりはかなり小さい。しかし形ははっきりと竜の形態をとっている。そして先ほど輝いた球体は赤黒く鼓動を打ちその体に内包しているがそれ以外の部分は向こう側の壁も見えているので半透明なんだろう。
【
フレアドラゴンの影
火と光属性を持つフレアドラゴンの実体部分を失い反属性の闇をまとった影
ブレスはすべてのものを焼き尽くすまで消えることはない
存在を保つためのコア以外には物理攻撃が効かない
】
さっきのゴーレムとは似て非なる特性だ。コアが見えている分やりやすいのか。とりあえずは
「クロガネ! コアを狙ってロックブラストだ! コウとエンもそれに続け!」
クロガネが途中で四散する岩を高速で叩きつける。違う角度からコウの放った水流やエンの炎弾も飛んで行った。ばらけて飛んでいった岩の弾丸はドラゴンが身じろぎしなくてもコアが器用に動きダメージとならなかった。そして水は蒸発し、炎は吸収される。初撃はダメージとならなかったようだった。
フレアドラゴンはお返しとばかりに息を吸い込み白金のようにまぶしいブレスを放ってきた。クロガネは先ほどと同じように障壁を魔法で作っていたが、俺はとっさにシャインに飛び乗り空を飛んだ。そうすればブレスの上をまたぐことができ、危機一髪でフレアドラゴンの上を取ることができる。
《サラマンダー【エン】が瀕死のため送還されました。この個体は15時間行動ができなくなります》
《蛟【コウ】が瀕死のため送還されました。この個体は32時間行動ができなくなります》
《ミスリルタートル【クロガネ】が瀕死のため送還されました。この個体は80時間行動ができなくなります》
システムからのメッセージが頭の中に流れる。振り向けば先ほど飛び立ったところは黄金の炎が燃えているだけだった。とっさの判断は正しかったようだ。だけど味方を3体も削られてしまった。助かったのは俺の頭にへばりついていたレインと指示もなく判断して飛んでくれたシャインだけか。どうにかしてこのフレアドラゴンを倒さないといけない。そうしないと倒れた仲間に申し訳が立たないし、先にも進めない。
なにか突破口はないか? 灼熱の風のような切り裂きや尻尾の叩きつけをシャインはうまくかわす。しかし距離を取ればレーザーのような熱線が飛んでくるので急旋回で躱さないといけない。攻撃を避けることに精一杯になっている状況では効果的な攻撃はできなさそうだ。実体がないせいでスピードが速く振り切れないこともじり貧なこの状況の原因でもある。このままでは近いうちに避けきれなかった攻撃にあたって撃墜されてしまうだろう。とりあえずはシャインに加速をかけるがそれでもほんの気休めだ。
さっきのフレーバーテキストをもう一度ログに表示し弱点を探す。そしてひとつ思いついたことがあった。




