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ラーヴァの島へ飛び立つ

 もぞもぞと身じろぎしてゆっくりと布団から這い出そうとした。けどこんなガチガチに拘束された状態で誰も起こさずに起きるというのは無理な話で、脇で寝ているシャインも起こしてしまったようだった。金色の瞳に光が灯る。そして俺のおでこに手をやって


「おはよー、またー。頭痛いの治った? 大丈夫?」


 寝る前の態度から頭痛と思ってくれてたみたいだ。システムアラートにイラついてたなんて説明できない。なのでその点は理由にさせてもらおう。


「ごめんな、頭痛くて気が立っていたみたいだ。もう体の方は大丈夫だよ。昨日は無理矢理引っ張りまわしてしまってごめんな」

「大丈夫だよ。みんなも大丈夫だよね?」

「グルルルゥ」

「シャーッ」


 他の皆もシャインの問いかけに唸り声で返してくれた。この時一番驚いたのは氷枕だと思っていたのがクロガネだったことだ。耳の横からひょいっと首が出てきたのには驚いた。

 そのおかげもあって目が覚めたのでベッドから起き上り、ベッドでログアウトすると自動的に初期装備になってるので装備画面から装備を変更し、カーテンを開けた。太陽はもう高く上っており遠目ながらも街の賑わいがよく見える。ログアウト前は急いでいて考えていなかったけどこのスイートルームはただでさえ高い建物であるこの宿の一番上のフロアにあるだけあってユンホの街が一望できるくらいに眺めが良い。せっかくなのですこしだけゆっくりしようと思い窓際の椅子に腰かけた。

 窓の外を見れば左には中央山脈、そこからいくつもの川が平原に流れ込み、次第に支流に分かれユンホの街を流れて最終的に右に見える海へと注ぐ。実際にはこの豊かな扇状地に畑ができ、その下流の海辺が大きな町に発展したってことかな。いま見えている町の南側も目の前には昨日入ってきた街門に続く大通りがあって、ここからでも街門はうっすらと見える。この中心部には高い建物が多いみたいだが川を挟めばレンガ造りの工場、倉庫街。その先は町に入ったときに賑わっていた商店街だろう。茶色や黒の建物から急にカラフルな屋根をした建物が並ぶようになるからわかりやすい。住宅はそれらの少し上流側の方にあるみたいだ。そして左側にかすかに見えるのはこの街の中心を走る壁。山脈方面の外壁と交わる部分が少しだけ見える。あれがナチュレとジンイントンの国境であり、その壁は街の外でも陸の国境線が川の国境線になる地点までひたすらに伸びている。上空からでもかすかに見えるがここまで近づいてかつ遠くまで見えるくらいの高い場所から見るというのは初めてだった。上空から見るとユンホ全体が矢の刺さったリンゴみたいな形でこの内壁も外壁とそんなに変わったようには見えない。だけど間近で見れば国境というだけあって外壁よりも重厚で頑丈な造りだった。

 ついつい街並みを眺めて黄昏てると


「またー? おでかけしないの?」


 シャインが膝の上に乗ってきた。そんな彼女を窓の外に向かせ


「大きい街だろ。昨日はあそこの海岸に降りて街を横断してきたんだ。また町の外に出るしそのときに屋台で何か買おうか?」 

「わーい、お菓子が食べたい。あとね昨日のお肉とか」

「その前にホテルの食事券があるから何か食べよう。何がいい?」

「なんでもいいの?」


 首をかしげて尋ねるシャインはかわいい。だがなんでもいいわけではないよ。一階の喫茶店かな。上にはバーや高級レストランもあるけどさすがに金がない。この宿泊費だけでも予定外なのだから。


「フロント横の喫茶店でいいかな? サンドイッチセットかケーキセットがサービスで付くみたいだし。みんなはちょっと待っててね。後で屋台で何か買ってあげるから」


 シャインだけを連れて一階に向かう。俺はサンドイッチセットにしたがシャインはやはりケーキセットだ。美味しく食べた後、部屋に戻りチェックアウトだ。フロントで手続きをすると


「では、大人一名様と子供一名様、ペット四体で25万M(メルド)です」


 ……、一瞬思考が止まった。覚悟はしていたけどそれでも高すぎだろ。一般的な宿は1人1万Mもしない。ほんとの安宿なんかは1000Mくらいだ。しかしながら魔物も一緒の部屋となると1万Mくらいからが主流であり、あまり部屋数の用意もない。だからこそ今回はこの部屋しかなかったわけだが、もっと部屋で贅沢すればよかった。文句も言わずに財布から金貨25枚を出して精算する。


「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしています」


 宿から出れば中央広場で人でにぎわっている。ここにも露店が出ており色々なものが売ってるがここはまだ加工されていない素材が多かった。例えば籠に入った魚だったり、肉も生肉がどーんとブロックで置かれている。よってあまりすぐに食べれるようなものは無い。と思ってたらクロガネたちは魚売りの方を見つめてる。少し歩いてもついてくるが見つめてる。食べたいらしい。食べたいのか確認すると全員がうなずく。さっきシャインだけが美味しいものを食べたし、屋台で買うと約束はした。


「おじさん、その中くらいの籠一つもらえる?」

「おう、1100Mだな。毎度ありー」


 籠を返せば100M返してくれるそうなのでここで全部上げてしまおう。中に入っている魚は手のひらサイズで20匹ほど。底に氷が詰めてあったので籠の大きさからすると少なかった。一匹ずつ順番に与える。みんな丸のみですぐに平らげてしまった。そして籠の中に残った氷もコウが飲み干してしまった。こいつの身体だけは不思議だ。口の中に食べ物が入るとすぐに食べ物は見えなくなる。体自体は水なので後ろの景色もぼんやり見えているのに食べ物はどこに行ったのだろう。


「またー、しゃいんの分は?」

「さっきケーキ食べただろ。今は我慢。屋台では平等に買ってあげるから」

「むー、わかったー」


 少しご機嫌斜めなのかな。だけど人化してると魚丸のみなんてできないだろ。ちゃんと調理されたものの方がいいはずだ。それとも大丈夫なのかな? 普段同じものを食べてるからわからないや。

 籠を返したら中央広場を囲うように造られている水路の船着き場へと向かう。観光客用のゴンドラや荷物を積んだ運搬船がひっきりなしに通っているのでやはりこの街の交通の要は船だったようだ。


「兄チャン、船ニ乗ッテクカイ? 南門ノ外堀マデデ途中下船モデキルヨ」


 船着き場で停まってる乗り合い船の船頭さんから声がかかる。片言だったのでよく見れば船頭はリザードマンだった。他の船も水棲の獣人が船頭のことが多い、例外としては牽引型だろうか。こちらは人間が水棲の魔物に船を曳いてもらってる。これだと水の流れに逆らって進めるようだ。

 そんな船の隙間にクロガネを浮かべて甲羅の上に乗り込む。エンは水が嫌いだからちょっと嫌そうなそぶりをしたけどちゃんと乗ってくれた。

 さてコウを一番後ろに補助でつけて出発だ。船着き場を離れて川の流れに乗る。すこし下ってから横に走る水路を使って昨日の商店街の入り口までいければいいな。


「またー、これで島まで行くの? しゃいんはもう必要ない?」

「そんなわけないよ。これでラーヴァのとこ行ったら日が暮れちゃうし、入口も変わっちゃうからね。ただ門まではこっちの方が速いし楽かなって。シャインは街の外に出たら頑張ってもらうよ」


 広場の縁を通っていくと国境の城壁沿いに出た。そこからすぐに左に入る水路があったのでコウに頼んで水を操り進路を変える。もちろんクロガネも尻尾で舵を取ってくれているようだ。シャインは「キャッキャ」と流れる水に手を付けて遊んでいる。落ちるなよと思いながらもそしてそのまま南へ向かう。ここはあまり水の流れがないので水魔法で勢いをつけながら進んだ。途中で他の船を抜かすときは惰性であまり波を荒立てないように注意したけどね。まだまだ水路沿いの建物はレンガの倉庫や工場が多い。

 しかし、しばらく進めば大きな水路と交差しているところに来た。その水路を越えると向こう建物は白く塗装された小さな家や細長い建物が見え、今までの建物と感じが違うのがわかる。さっき部屋から見た工業区と商業区の境なんだろう。

 その大きな水路を左に曲がる。すると水の流れに逆らう形となったのでコウの水魔法の威力を上げてもらった。しばらくすれば大きな橋が見えてその橋の袂に船着き場が見える。そこにゆっくりとクロガネを寄せて甲羅が桟橋にかかったところで停めた。まずはシャインを抱えて桟橋に降ろした後、今度はエンを抱き寄せて桟橋の上に降ろす。水の上が怖いのかピクリとも動かなかった。あとは俺とレインはそのまま自力で桟橋に上がり、残ったクロガネを引き上げる。コウはどうしたかというと少し川で遊んできたようで最後に勢いをつけて川の中から飛びだし桟橋に着地した。もちろんそばにいた俺たちは巻き上げられた水をかぶってびしょぬれだ。エンなんかは即座に身体を熱してすぐに水を蒸発させてた。


「うー、びしょびしょだー。あと足元がふらふらー」

「シャインから降りた時よりましだな」

「またー、しゃいんから降りるときはもっとふらふら?」

「ふわふわだな。足が地についていない感じ」

  

 比べれば多少は違うかもしれない。だがやっぱり空飛んだあとの方が三半規管は狂ってる。てかゲームなのに再現率が半端ないんだよな。いわゆるヴァーチャル酔いってやつなのかな。乗り物弱いやつは状態異常判定も食らうらしい。俺もいま剣で戦えって言われたら取り回せる気がしない。剣のスキルなんてないけどな。

 とりあえずエンに熱風を送ってもらい服を乾かす。気持ち悪くない程度に乾いたところで橋の上に上がった。予想通り商店街の入り口でここから街門までは屋台と商店が並んでる。昨日も通ったがこういう活気のあるところは何度来ても楽しい。

 ふらふらと買い食いをみんなで楽しみ、アクセサリや装備など、薬などの消耗品の中で強すぎない者をダンジョンの宝箱用にちょこちょこ買ったりして楽しんだ。その中にちょっと気になるものもあった。それはプレイヤーの商人が売っていたもので


《魔法カプセル》

【カプセルの中は夢と魔法が詰まってる】


「おじさん、これ何?」

「いらっしゃい、兄ちゃん。それは最近出回り始めたものだな。最近始めた初心者が売っていくんだ。恐らく新スキルと関係があるんだがどうも鑑定が上手くいかなくてな、一応売ってきたやつの言い分だとカプセルを割れば何らかの魔法が発動するらしい。だけどそれを手に入れるスキルを持ってないとなんの魔法が籠められているかわからないみたいだ。だから一律50Mで売ってる。いるか?」

「じゃあ少しちょうだい。10個ほど」

「ほい、じゃあ500Mだな。ちなみにNPCは一律1Mでしか買い取らないから注意な。好きなの持っていけ」


 籠の中から何個か取り出す。カプセルは半分が色がついていてもう半分は透明だった。透明な方から中を覗くが一律で微かに光っているだけだ。色は何種類かあったが検証も含めて赤と青の二色を半々にした。


「まいどあり。また来たら寄ってけよ」

「ちなみに他の街でも売ってるの?」

「初心者が初期配置される街だと多少出回ってるな。ただ扱ってる店は少ない」

「また欲しくなったら買いに来るからおじさん、フレンド登録しよう」

「いいぜ、俺はトルクってんだ。扱いはこんな雑貨品とアクセサリだな。アクセサリは俺が作ったやつだ」


 そう言って箱の下のショーケースに入ってるアクセサリを見せてきた。マントを留めるブローチや杖の装飾に使えそうな彫刻が並んでる。しかしデザインは竜の頭だったり髑髏だったりと雄々しいものばかりだった。性能自体は装着した装備のステータスが微補正されるというもので装備の増強にはうってつけだ。


「俺はマモル。しがないテイマーだ」

「おう、見りゃわかるぜ! そんだけ魔物連れてればな。そっちの嬢ちゃんは仲間か?」

「しゃいんはまたーのしもべなの」

「おいおい、こんな小さい子になにやらせてんだ?」

「一応シャインも魔物だからな。それで俺がマスター。なんかもっと良い言い方ないのか」

「ははっ、確かにな。ペットでもだめだし上手い言い方がないな。それでもへぇ人型の魔物なのか。ってことはかなりの上位種? てか鑑定が効かない」

「種族は内緒だな。あまり広まるとこの子の保護者に怒られるし」


 シャインは人型のときは簡単に抱えて連れ去られそうだしな。あまり竜って知られたくはない。誘拐でもされたら長に俺が殺されるし、街が一つ、いや国が一つ滅ぶレベルで竜が暴れ回るだろう。

 だけど俺といるとそのうちバレそうな気もする。竜に乗るってだけで有名になっちまってるみたいだしな。それで俺の周りに竜がいなくて代わりに女の子がいたら疑り深いやつと察しがいいやつは気づくだろう。やっぱり人型でもある程度は戦えるようにしときたいな。


「初対面だしそんなにしつこく詮索はしないよ。だからそんな難しい顔するなって」

「ああ、ありがとう。じゃあまた来るよ。とりあえずこのカプセルは試してみる」

「ではまたのご来店をお待ちしてるぜ、嬢ちゃんもまたな」

「またねー、おじちゃん」


 そう挨拶をして屋台を後にした。買ったカプセルはアイテムボックスにしまったがそこで不思議なことが起きた。しかしあまり大きな問題でもなかったのですぐに忘れてしまったが。

 そのあとは食べ物の屋台をジグザグに歩き気になったものをみんなで食べながら街門まで歩いた。今日のメンバーだと魚が好きな奴が多かったのでこの街の屋台は趣味にあったようだ。シャインだけは甘いものに興味津々だったけどね。街門に着いた時には結局ログインしてからゲーム内で2時間くらい経ってしまっていたが、昨日は急ぎ足だったのでゆっくり見れて丁度良かったのかもしれない。街門をくぐりフィールドに出る。街道を道なりに歩けば夜間の閉門にの間、閉め出された人間が集まる広場に着いた。昼の間はただの通り道であり足を止める人はいない。

 通行人がいなくなった隙をみて


「シャイン、ここから飛ぶぞ。人がいないうちに変身だ」

「わかった、じゃあ大きくなるよー」


 シャインを真ん中に残し広場の縁へ逃げる。光と共に大きな竜の姿が現れた。そそくさと人が来ないうちに背中に登り合図を送る。すると翼を羽ばたかせて地面に風を送り竜の巨体が浮いた。いつものように滑走して勢いを付け飛ぶわけではないのでゆっくりとした上昇だがある程度の高さになれば滑空して通常の飛行となる。ユンホの街の縁を飛びそのあとは煙が立ち上るひとつの島に向けて舵を取った。後ろではユンホの外壁の上が忙しそうだったがすぐに見えなくなったので気にしない。さてあの寂しがりやの溶岩竜は俺たちを受け入れてくれるだろうか?

 そして彼になにを言えばいいのだろうか?

 そんなことを考えながらも黒煙を上げている島は目前に迫っていた。

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