現実世界午後
だめだな、机に身体預けて寝ても疲れが取れない。それに今日は体育もあったしゆっくりできないな。眠い目を必死に開けて体育を頑張りようやく昼休みだ。飯を一緒に食べる連中は大抵決まってる。
「守田、ほんとーに眠そうだな。学食早く行こうぜ」
「早く行かないと席埋まっちまうし、列も伸びる」
声をかけてきたのは朝バスで一緒だった藤田と、同じクラスの宮本ってやつだ。他に小林ってやつがいてこの四人でよくつるんでいる。
「あー、わかった。今行く」
気だるく返事をしながら立つ。そして小林とも合流し、一緒に校内にある学食を目指した。今日の昼は軽く済ませるか。うどんだな。
ラーメンを頼む宮本に俺の分を買ってもらうように頼み、俺は席取りだ。もうだいぶ席は埋まっていたがそれでも八人掛けの半分は空いているところがあり、その中の一つを四人分確保した。
そして皆が揃ったところで食べ始める。話題は共通の趣味であるIDOのことだ。
「昨日、二時までIDOやってたんだって? さっき藤田から聞いた」
「何やってたんだ? よりにもよって体育のある日の前日にさ。それに普段は0時くらいまでしかやらないだろ?」
「ちょっとクエストが発生してついつい時間忘れたんだよ。結局連続ログインの警告出てから急いで町に宿取ったけどギリギリだった」
「クエストか、どんなのか知りたいがそんだけ夢中になるってことはユニークだよな。じゃあ聞かないでおく」
宮本と小林も詳しいことは聞かないでくれた。実際聞かれたら正直に言うか怪しい。というか信じてもらうことが難しいレア度のクエストではある。竜の谷に入れなければ確認のしようがないのだ。
もちろんラーヴァの島の攻略を手伝ってもらうことはできるだろうが、報酬も渡せない可能性もあるし、島に上陸するまでが別行動になるのでそこまでの責任も持てない。だから根掘り葉掘り聞かれないのはうれしい。
「そういえばギルドのダンジョン攻略者の記録にマモルってあったぞ。どれだけやりこんでるんだよ」
口数が減ってしまった俺を気遣うように宮本が話題を変えてくれた。それはこの間のアルティを仲間にしたときかな。報酬をギルドに取りに行かないとな。仲間のえさ代として今度リリスに渡しておかないと。
「闇系のモンスターばっかだったからうちの仲間で光の最強コンビ連れていってゲーム時間で二日分でクリアできたよ」
「何階層だっけ? 百層超えだよな」
「ボスは167階だった。四回に分けてログインしたけど最初一気に60階潜ってあとは40階ずつ、あとは最後まで一気に行った」
「早ええよ。てか百層超えをプレイヤー一人で攻略するのは非常識だろ」
最後は小林が笑いながら言った。非常識って、まあ本来なら固定パーティでも週末とか曜日を決めて地道に一月くらい攻略していくのが常識らしいからしょうがないっちゃしょうがないが。それに探索というよりは踏破っていった方が正しい進み方してたからな。普通なら一階層のマップをくまなく作って宝箱を探したりモンスターの素材を集めるのが主目的なわけで。潜って攻略するなんて実は実入りは少ない。
「てか最近よくダンジョン潜ってるよな。何かあったの?」
「シャインのレベル上げかな。もうそう簡単にレベルが上がらないから経験値稼ぎ苦労してる」
「シャインってあのドラゴンちゃんだろ。いま何レベル?」
「83だな。80でやっと完全体になれたからその強さを調べるためにちょっと深いダンジョン挑んだ」
「ひとり別ゲームだな。もうここまで来ると羨ましいとか思わない」
「知り合いだからだな。嫌がらせ受けることもあるんじゃない?」
嫌がらせか。昔は牧場を襲撃とかされたけど基本的に多勢に無勢で返り討ちだったし、テイムモンスターでもPK扱いになるのがわかってそんなことはなくなったな。あと今の牧場は精鋭部隊がいるからよっぽどのことがなければ致命傷を受けることは無いはずだ。ある意味アルティのダンジョンよりひどいな。
最後のダンジョンのくだり以外は簡単に説明した。
「精鋭部隊ってなんだよ。きっとボスクラスなんだよな?」
「きっと一人倒しても『私は四天王の中でも最弱の存在』とか言ってくれるよ」
「じゃあマスターは魔王だな。魔王と四天王」
「よし、お前のあだ名は今度から魔王だ」
「そんなあだ名はいらねぇ。てかゲーム内で呼ぶなよ。ほんとに定着したらやだからな」
「わかった、わかった。『黒衣の竜騎士』さん」
「最近、光属性特化の白いコートも手に入れたからいつも黒のコートとは限らない。残念だったな」
今日は基本的に俺が二つ名でいじられる日らしい。そんな会話をしてればいつの間にか昼休みはもう数分になっていた。急いで食器を返却口に戻して教室に戻る。
そして午後の授業はさすがにもう眠気は襲ってこなかった。なので授業を聞きながらもノートの片隅に新しい階層の構図を考えて落書きしたりしていた。
ようやく授業が終われば部活もない俺はすぐに帰り支度をまとめてバス停に向かう。やることが同じ奴らも一緒だ。
「守田は帰ってすぐにログイン?」
「いや、食事のあと風呂入ってやることを済ませてからだな。途中で中途半端に切れるのやだし、あとログイン制限が19時までかかってる」
「まあ普通そうか、それに昨日の夜更かしの性もあるのな」
「藤田たちは?」
「俺らも夜だな。現実世界の22時過ぎにジンイントン皇国のインダで待ち合わせ。鉱山で鉱石採掘も兼ねてダンジョンアタックする予定」
「武器の強化したいんだよ。守田も来るか?」
誘ってくれたのはありがたいがクエストを途中で放り投げてきてしまってるし、自分だけ別パーティーをひとつ持ってるっていうのは戦利品の割り振りなんかで功績毎にしても若干しこりが残る。だから今日はダメだな。
「そんなに気を遣うことないのにな。守田の育成方が独特なのは俺たち全員知っているから気にしなくても大丈夫だ。それに支援回復特化っていう俺たちにないものを持ってるんだし」
「そうそう、うちらは回復は薬だよりだし、バフも小林の魔法の派生で秀でているわけではないからな」
剣士に盗賊、火と雷の魔法使い。回復を担うやつが確かにいない。というか最初は俺がヒーラー兼バフ役で入ってパーティを組んでいた。だけど事前情報で魔物を仲間にできると聞いて選択したスキル構成だったので、魔物を仲間にした後は次第に離れていってしまったのだ。助けるというのは実際に評価しにくく、チーム内での戦利品の分配も皆は平等に均等割りで良いと言ってもらっていたがそれでも多少は遠慮してしまう気持ちもあった。
「今度はちゃんと予定組んで一緒にやろうな。モンスターも一体か二体連れてきていいから」
「浅そうなダンジョンを一日でクリアしようぜ」
「そうだな、久しぶりにプレイヤーと組んでみるのもいいのかもな。そのときはよろしくな」
バスは駅に着き、彼らとは方向が違うので別れた。そしてそのまま一目散に帰宅した。
家に着けばやることはたくさんある。夕食までに宿題やら何やらを終わらせて、父親が帰ってきたら夕食。そして食べ終わったらシャワーを浴び、20時を目安に布団に入る。もちろん寝るわけではなくヘッドセットを被りVRへログインした。
メインシステムのホームを駆け抜けてIDOの世界に繋がる扉へダイブ。一瞬の暗転の後に宙を舞っていた身体が横になった感覚に変わる。そして目を開ければ豪華な部屋が目に入る。しかし自分の身体が思ったように動かせない。理由は簡単で、シャインは俺の腕に抱き付いて寝ていた。そしてエンとレインは腹の上。コウは足の間で丸まっておりこんな状況で身動きが取れるわけがない。
今日の最初の行動は皆を起こすことから始まりそうだ。




