えっ!? クエスト中断
高く竜を駆り谷間を形成する山の尾根を軽々越え、数舜後にはもう遥か彼方後方にあった。正面から右手前方にかけては中央山脈の山々が壁のようにそびえたっている。更に高く舞い上がってそのまま越えてもいいが、今のよりもう一段階強力な寒さを防ぐ結界を張る必要があり、その準備のために減速をしなくてはいけない。ならばやはり海洋を目指して山脈は迂回した方がいいだろう。少しだけ進路を左に向けて正面に山脈の終わりが来るように調整する。大体の中間地点であるユンホまで20分くらいかな。さて何してよう。普段は誰かしゃべれる奴と世間話してるが今日は誰も連れてきてないしな。
ちなみに普通のプレイヤーだと町から町への移動は馬車だったり帰還アイテムを利用するのが一般的だ。あと大きな主要都市にはそれぞれを繋ぐ転移陣というものもある。ただしアイテムと転移陣は使用条件とコストが厳しいので、急ぎではない時はログアウトする前に馬車に乗って次のログイン時に目的地に着いているという手法が一般的だ。極まれに俺のような特殊な移動をする者もいるそうだが。例えば自分で空を飛んだり、ペットの馬に乗って馬車よりは早い速度で移動したりだそうだ。どちらも自分で操作していないといけないのでログアウトはできないみたいでその点は俺と同じだ。しかし航路を決めてしまえばあとはシャインに任せて、時々確認するだけでいい俺の場合、他にやらなきゃいけないことはなく暇を持て余してしまう。まぁ油断してるとこの間みたいにシャインが自由に飛んで行って他人に迷惑をかけるから手綱は放せないんだが。
それでも中盤まではおとなしく馬車に乗ってたんだけどなぁ。ペガサスのブレイドを仲間にした辺りから騎乗のスキル重点的に育てて、馬車には乗らなくなった。同じく学校でIDOをやってる友達からは移動が早くてうらやましがられるときもある。だけどシャインも含め俺のというか、テイムしたモンスターは他人を乗せようとしない。だから前に空を飛んでみたいって友達に頼まれた時も上手くいかずに友達は『いーよ、いーよ』って笑って帰って行ったけどちょっと空気がしらけて内心気まずくなった。
そんなことを思いつつエンやコウを撫でる。エンは爬虫類特有の滑らかでツルっとした手触り、しかもサラマンダーの特性として温かい。燃えるように熱くもできるが今はお風呂よりちょっと熱い位で冷えた手が温まり気持ちいい。逆にコウは水道の蛇口から出ている水に触ったような感じだ。リラックスしているときは蛇の形を保ちながらも不定形なので体の中に手が入る。すると中に水の流れが存在し手が水の抵抗を受ける。川の流れでもいいのかな? そんな感じだ。ちなみに戦闘時や移動するときなんかはちゃんと体表面に鱗ができてる。この時は普通の蛇に触ったときの手触りでしかも結構冷たい。今も抜いた手は若干濡れていて風に煽られると一気に手が冷たくなる。その冷えた手をエンの身体で温めようとすると睨まれた。そして口をこちらに向けて一息吐く。それは乾いた温風で手についていた水滴を乾かしたくれた。お礼を言いながらよしよしと撫でる。のそのそとクロガネも寄ってきて頭を押し付けてくるし、レインも頭の上から落ちてきて膝の上に陣取った。それぞれもコミュニケーションを取ってやる。
[ポーン]
[現在連続ログイン時間ガ現実時間デ7時間トナリマシタ。アト現実時間デ1時間後ニ強制シャットダウンヲ行イマス。最寄リノ休憩所デユーザー自身ガログアウトスルコトヲオ勧メシマス]
突然の電子音と単調で無粋な合成音で作られた音声が頭の中に流れる。本当に耳障りな声だ。システムウインドウから時計を確認すると確かにあと一時間だ。いままで何してたっけ? ダンジョン造りから始めて侵入者撃退するの眺めた後、竜の谷へ行った。忙しすぎだな俺。それでゲーム内では二時間あるがそれでも今からラーヴァに会って説得してっていうのは厳しいな。まず着くまでに30分くらいかかるし、ラーヴァの島全体がダンジョンでしかも地形も変わってるって長老が言ってたしな。
クエスト画面で確認しても期限が切られているわけでもない。だったら次のログイン時に進めよう。そうするとどこか町場に下りて宿を取らないとな。またはメディまで戻るか。あーっ、だったら竜の谷で泊めてもらえばよかった。だけど今からだとちょっと戻りにくい。特にグラスくんの反応が怖い。クロガネの氷魔法のエンチャントが無駄になってしまうかな。それでもしょうがないユンホで宿を取ろう。逃げたわけじゃなくてラーヴァの島に一番近いからここで休むんだ。そんなことを思いながら辺りを見渡せばさっきより中央山脈が大きくなって左手にはもう海も見えどんどんと近づいてくる。
シャインの鬣を引き減速を促した。首を傾げながらも命令を聞いてくれて先ほどまでの魔力を使った弾丸のような速さではなく翼で受けた風で滑空するだけとなった。そのままユンホを目指して滑空していく。しかし着地するのに良い場所がない。外壁を飛び越してしまうとペナルティがあるのでやはり街道沿いでどこかに降りなきゃいけない。人が多くて良い空き地がないな。てかこんな体長20m弱、翼長30m弱の完全体の竜が着地できる広場なんて限られてる。それを思うと竜の谷や俺の牧場は異常なんだな。
すこし街門からは外れた海岸に降りることに決めた。鬣を引いて指示しゆっくりと降りる。砂は巻き上げられて海も波立つがしっかりと着地した。シャインが人型に戻りこちらに飛びついてくる。
「またー、シャインもよしよしって撫でて~」
「はいはい、お疲れさま。集中して飛んでくれてありがとね」
背中でエンたちと遊んでいたのがやっぱり気になっていたみたいだ。
「だけどどうしたの? ラーヴァの島まで行くんじゃなかったの?」
「ちょっと疲れててね。今日は休んで明日行こうと思ったんだ。ほら今日は色々あったしね」
「またー、お疲れ様です。じゃあ今日は町でお泊り?」
「そうだね。もうすぐ暗くなるから急いで行こう」
「わーい。飛んでく?」
飛んでくとは翼竜体になってかな。まあまた着地する場所見つけるのはめんどうだしな。歩いていこう。そうシャインに伝えると俺の手を引いてずんずんと前に歩き出した。だけどさっき着地した時の足跡に足を取られて転びそうになったので急いで引っ張り上げた。えへへってごまかしながらやっぱり前を歩く。そんなに楽しみなんだろうか? そう言えばあんまり町へは連れていってあげてないな。一応ここも竜の国ナチュレ国内だし大丈夫だろ。てかあの長老が首長なんだよな。北のジンイントン皇国はどんなだっけ? 鉱山と製鉄の国で今日見た映像だと東のヴァン・ネージュ帝国と人族の覇権を争ってるのか。だけどあれは数百年も昔のことだしな。南に拠点持ってるせいであまり北は詳しくないんだよな。
そうこうしてるうちに街門までたどり着いた。ここでログイン時間を確認するとあと1時間ちょっと。町を楽しみにしているシャインには悪いが少し町を探索したらログアウトだな。街門ではテイムモンスターの確認を簡単に行われたあと入街税の支払いをして何もなく抜けた。
周りからの目線はちょっと痛かったが。テイムモンスターとまだ幼いNPCの幼女を連れてれば注目は集めるのはわかってるがそれでもあまり目立ちたくはない。
[ポーン]
[現在連続ログイン可能時間ガ現実時間デ残リ30分トナリマシタ。アト現実時間デ30分後ニ強制シャットダウンヲ行イマス。最寄リノ休憩所デユーザー自身ガログアウトスルコトヲオ勧メシマス]
あー、うるさい。頭に響く。だけど強制シャットダウンはアバター残されてやりたい放題やられるからそうならないためにも必要ではある。
街門から続く大通りは馬車がすれ違えるほど広く、更に脇には露店や屋台が並びにぎやかな商店街となっていた。なので露天と屋台を冷やかしながら、街の中央部にある冒険者ギルドの近くの宿を目指す。ギルドの近くの宿は一番無難だからだ。
通りを歩けば海が近いからか頬に当たる風にはほのかに潮の香りがする。屋台に並んでる食べ物も魚の串焼きや二枚貝の鉄板焼き、魚の頭が丸ごと入ったあら汁なんかも売っていた。道具も釣り竿はともかく釣り用の疑似餌や銛、誰が使うのかわからないが『網各種直します』といった看板を掲げている露店もあった。
シャインは色々なものを見てあれ何? と聞いてくるので簡単に答える。そして食べ物だった場合時々買ってあげてもいた。もちろん他の仲間にもおやつを買ってあげる。クロガネやエンは魚が気に入ったようで串焼きにパクリと食いついた。レインはエビが気に入ったようでシャインの食べてるあら汁の中から器用にエビだけを舌にからめとって横取りしてた。それに対して『む~』とシャインが膨れていたが
「お姉ちゃんだからね。別にいいもん」
そう言って急いであら汁を飲み干していた。
何度目かの運河を渡ると商店はなりを潜め、倉庫や工場が立ち並ぶ区画に出た。籠に詰められた魚が運河に浮かぶ船から引き上げられて工場と思われる場所に運び込まれていく。工場のバルコニーには開かれた魚が干されているのでここは干物工場のようだった。
そしてようやく冒険者ギルドのある公共区画に辿り着いた。さっきから警告メッセージが何度も頭の中に響いている。そして歩く速度もどんどんと速くなってしまっているようだった。
「またー、まって!」
後ろから走るようにシャインが追いかけてくる。ちょっと焦ってイライラしていたが努めて何もなかったかのように振る舞う。
てかこんなに運河が発達してるならクロガネに乗って移動すれば良かったかな。コウが水魔法使えば更に早く動けたしな。
それは反省するがもう10分もない。急げ急げ、あのギルド会館の横の大きな宿にしよう。
そのあとは飛び込みでチェックインの手続きをして部屋のベットに飛び込み急いでログアウトの処理をした。
ペットも泊まれるスイートとなってかなりの額の宿泊代になったのは致し方ない。




