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侵入者たちの撃退

 十階層を作り終えたときには侵入者たちが四階層を慎重に進んでいた。彼らの装備や戦い方を見ると前衛と後衛がバランスよく集まったオーソドックスなパーティだとわかる。

 このままだと五階層には辿り着くだろう。なぜなら四階層では彼らにダメージを与えられていなかったからだ。唯一ダメージとなったのはマギレオンが魔法使いの子に与えたものだった。これも倒せなかったから回復されてしまっているかな。ただ魔法をかなり多用しているのでMPはかなり減っているだろう。それにステータスで測れない精神的な疲労も溜まっているはずだ。

 だけど準備はしっかりと行っておきたい。彼らのパーティ内での役割もわかったしルーと作戦を立てに行こう。


「アルティ、ルーのいる五階層まで送ってくれ」

「大丈夫? そんなに時間ないよ。あいつらが五階層まで来たら帰れなくなるからね」

「転移陣張っとけば大丈夫じゃないの?」

「侵入者がいる階層は改変ができないから転移陣が消せないんだよ。マスタールームまでの転移陣なんて放置できないでしょ」

「わかった。すぐに帰ってくる」


 アルティに注意を受けながらも用意された転移陣に乗り五階層へ向かった。

 五階層はさっきまでのマスタールームと違い最低限の明かりしかないので目が慣れるまでに少々時間を取った。しかしその間に近寄ってくる気配がある。


「ご主人様、どうしたんですか?」

「ルーか。もう少しでここに侵入者がやってくる。だから撃退のための作戦をと思ってな」

「わざわざありがとうございます」


 ルーと話してると足元に三体のシャドウウルフの気配がある。気配だけで実体は見えないが腕を広げてやると影から飛び出てきた。元々結構古い仲間だったヨーテとカルとエナだ。三体同時に襲い掛かられるとどうしようもなく押し倒されてしまったが顔や腕を舐められるだけでそれが攻撃となることはなかった。


「くすぐったい。ほらほら確かに久し振りかもだけど少しは落ち着けって、これから戦闘だからな」


 撫でながらも体の上に乗ってきたやつをおろし、立ち上がる。まだ足元に擦り寄ってくるが


「あとで戦闘が終わったら遊んでやるから今は急がないといけないんだ」


 そういうと名残惜しそうにしながらも少し離れておとなしく座ってくれた。一方でこちらの様子を窺うだけのシャドウウルフも二体いる。この間捕まえた個体だ。一応名前はジャックとルフとしたが、まだ構ってやれてないことから本能値も下がっていない。なのでまだ野生が強いのだろう。近づいても耳を伏せて喉を唸らせる。それでも手を伸ばして鼻の前にちらつかせるとルフは手の臭いを嗅いできた。ちょっと調子に乗って上から頭を撫でようとする。しかしルフは少し下がり俺の伸ばした手に噛み付こうとしてきた。行動は読めていたので難なくかわすが古参の発するプレッシャーは強くなった。


「ご主人様、しつけも大事ですが敵はもうすぐ来るんですよね。決めることは決めましょう」

「悪い、ついな。ヨーテ達も仲間になったときはこんな感じだったよな。それでさっき考えた作戦なんだが」


 そう言いながらマスタールームで考えてきた作戦をこのパーティのリーダーであるルーを中心に指示する。

 その作戦とはこういうものだ。

 まず部屋同士をつなぐ三本の通路に垂直に引いた隠し通路を使う。侵入者は前と後ろに前衛を盾のように置いて真ん中に回復役や魔法使いを配置していた。なのでそれを逆手に取ろうと思う。

 まずは奴らが通路一つを選んで来るとしたら隠し通路の辺りで挟み撃ちをする。そしてその挟み撃ちは攻撃というよりは陽動だ。じりじりと下がり前衛をおびき寄せる。そうすれば後衛の守りは薄くなるだろう。そこを隠し通路から奇襲する。こんな作戦だった。正面からぶつかってもルーとヴァル、そしてヨーテ達の連携でほぼ確実に勝てるがジャックとルフのレベル上げも兼ねて作戦を立てた。

 挟み撃ちは素早さが高めのカルとエナに任せて、不意打ちの一番槍はジャックとルフだ。そして後詰をルーとヴァル、ヨーテに頼む。

 結構時間も食ってしまったので壁に向かって大きく手を振った。すると部屋の端に転移陣が現れる。最後にヨーテ達をひとなでずつして


「じゃあルー、たのんだぞ。ヴァルとヨーテ達もよろしくな」

「任せてください。ちゃんと息の根を止めます」

「おいらも頑張るんで勝ったらご褒美を」

「「ガルルッ!」」


 出現した転移陣に乗りマスタールームへと戻った。

 マスタールームに戻るとシャインが近寄ってきて足元を頭をこちらの頭に向けながら周りをうろちょろする。そんな彼女を何も言わないで撫でてやる。そうするとニコニコと笑みを浮かべて抱き付いてきた。撫でる手は止めない。すると反対側からも抱き付いてくる気配があった。そちらを見ると黒い影が。つい蹴り飛ばしてしまう。


「ひでー、マモル。野生に帰っちゃうぞ」

「いや、つい。てかなんで抱き付いてきたんだよ」

「つい出来心で。ほら小悪魔的な」

「ガブにその形容詞は似合わないだろ。てか偽装といたら子供が見たら泣くような凶悪な顔してるくせに」

「真の正体は公爵様だからな。悪魔の中でも最上級に近いから威厳も必要だろ」


 そうガブの正体はデュークデーモン。最初はどこにでもいるような魔物だったがレベルが上がりプレイヤーの職業と同じように種族がクラスチェンジしていった結果である。しかし本来の姿だとロザリーが泣くのでいつもはインプに化けているのだ。ステータスの画面もインプとなるくらいの高度な偽装だが簡単に解けるらしいので俺も何も言わない。

 そうこうしているうちに侵入者のパーティは五階層に辿り着いていた。さっき戻ってきたばかりだったので結構ギリギリだったのだろう。

 シャインを膝の上で抱えた格好で監視画面を見ていると思った通りの隊列で真ん中の通路を進みだした。それを足音なのか匂いなのか何で判別したかわからないがルーたちはすでに戦闘態勢になっていた。

 さっきの指示通りに散開する。挟み撃ちの後ろ側担当のエナは空いている通路を音を立てずに疾走する。これで回り込むのだ。逆に正面担当のカルは隠し通路のあるところの手前で待ち伏せ中だ。

 ルーとヴァルも敵が真ん中の通路ということから右と左に分かれた。ジャックとルフもそれぞれで分かれ、ヨーテは若干レベルの低いヴァルについて行っている。

 そして隊列の中心が隠し通路にかかったところでカルとエナは襲い掛かった。

 カルは初手で影の中に飛び込み前衛の一人の背後に回ってダメージを与えた。そしてもう一度影に潜って少し離れたところに姿を現した。

 相手は密集して奇襲を受けないように守りを固めている。しかしすこしづつカルが攻撃の気配を見せると盾持ちと武士が追い払う。すると少しずつ戦線は前に上がっていく。

 エナもダメージを与えてはいないがハルバードと長槍をかいくぐり、時々飛んできていた炎弾も影に潜りやり過ごしていた。そんなエナに敵は翻弄されて少しづつパーティは前のめりになり、エナに一撃でも当てようと引き寄せられていく。

 これで準備はできた。一つの軍団ではなく二つに分かれたのだ。その二つの間の闇に忍ぶ影がある。隠し通路から物音を立てずにゆっくりと近寄る。そして狙うは敵の回復役。

 ジャックとルフは各パーティの回復役と思われるプレイヤーの首に噛み付いた。そしてそのまま引きずり倒す。レベルが低いからか一撃で倒せなかったようだがそれでも回復役が機能しなくなるというのは手痛いダメージだろう。

 もちろん他のメンバーからの反撃もあったがそれはルーとヴァルが受け持つ。ルーはそこらのプレイヤーの多数よりは強いし、ヴァルだってそれに負けはしない。しかしそれは油断だったんだろう。稲光が横に走りジャックを貫いた。ジャックの身体は吹き飛び床に転がる。そしてシステムウインドウが現れる。


《シャドウウルフ【ジャック】が討伐されました。この個体は14時間行動ができなくなります》


「よし、俺が殲滅してやる。仲間の(かたき)

「マモル様ってそんなに敵を倒すほどの攻撃って持ってないですよね。基本的に仲間の補助ですし」

「大体俺たちの攻撃で敵死ぬしな」


 何か言われたが気にせずに席を立とうとした。だが膝の上に乗っていたシャインは


「またー、またー、落ち着いて。ルーさんとか頑張ってるよ」

「倒される覚悟はしてみんなを配置しないと。だからヘタレなんだよ。一度深呼吸してちゃんと結果を見てなよ」


 シャインとアルティに注意されて落ち着きを多少取り戻す。そして再度戦闘に目を移す。

 ジャックに襲い掛かられていたプレイヤーは後ろに下げられて別のプレイヤーが回復もしていた。ただの召喚士兼魔法使いと思っていたやつが支援回復だったようだ。おそらく自分と同じような構成だったのだろう。せっかく与えたダメージが回復されるのは悔しいが、まだ目覚めていないので彼女を守りながらという状況はこちらの利になる。

 ルーと戦っていた剣士も致命傷を負い死に戻っていった。さすがに召喚士の奴は蘇生系のスキルは持っていなかったようだ。

 一方でルフはというとこちらも魔法で追い払われたが死ぬほどのダメージではなく闇に紛れて潜伏中だ。ヴァルとヨーテの連携で回復役も死に戻り、こちらも回復手段が薬だけとなっている。

 こちらはもうあとがない。ヴァルとヨーテの二体にカルの方も相手をしないといけない。確実にじり貧だ。双剣士もヴァルの拳に沈んだ。ヨーテも魔法使いを牽制し魔法を撃たせないようにしている。こちらもヨーテの一撃が決まれば落ちるだろう。

 そして武士も最初のダメージが回復しきれていなかったのか鎧越しに受けたヴァルの掌底で倒れた。最後に残った大楯を使う戦士も三対一では己の身を守り切ることもできずに死んだ。

 一つのパーティが敗北し、もう一つも必死の抵抗を見せていたが、更に増えた狩猟者たちに抗いきれずに敗北した。

 

「レベル上がったよー、ヘタレ。十八になった」

「とりあえず牧場戻りませんか? ジャックちゃんも寝床にいると思いますし」

「そうだな。ルーたちが帰ってきたら牧場に戻ろう。アルティ、ダンジョンのこの先の作成はまた今度だな」

「今度は俺が侵入者を撃退してやる」

「だけどそれってルーさんたちが倒されるってことだよね」

「またー、あそぼ」

 

 侵入者を撃退出来て皆の気が緩んだようだ。口々におしゃべりを始める。

 そして戻ってきたヨーテ達に押し倒されて舐めまわされ、ルフも褒めようとしたら噛まれかけ、ルーとヴァルはどうやって褒めればいいのか悩んだ。

 さて次はどんな階層を作ればいいのだろう。今までの失敗を反省したものを考えないと。そんなことを考えながら外に出た。

 すると鈍色のどでかい山が扉の前に鎮座していた。


「マモル殿、長から手紙です。渡したらすぐに帰らないといけないのでこんな格好で失礼します」


 山は恐らく土属性の竜だった。そして彼が長というのならば竜の谷の長老からの手紙であろう。彼が背中を振るわせるとたすき掛けされたカバンからひらりと一枚の封筒が落ちた。それを拾うと


「ではそれを読んだら都合のよろしいときに谷まで来てください。できるだけ早めにお願いします」


 そう言って翼を広げて飛び去った。属性的に高速では飛べないはずだがそれでも結構急いでいるようだ。次第に黒い点となって空の向こうへと姿を消した。

 何か面倒な問題ごとが発生したような気もするが手紙を読むまではわからない。

 とりあえずその問題の手紙を開封した。



 残DP6080

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