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注文の多いボス階

 「とりあえず急いで十層を完成させよう」

「階層をいじれるのはその階層に侵入者がいないときだけだからね。だから五階層と六階層を繋げるならあいつらが五階層に入る前までにしないとダメだよ」


 アルティから時間制限をもらった。そうするとどれくらい時間は余っているんだろう?

 ずっと見て監視できない分、ヴァイスやシャインに侵入者の位置と状態を見ててもらう。ルーは五階層でボス戦の準備だそうだ。


「ガブ、悪いけどとっとと決めるぞ」

「了解だぜ、マモル。とりあえず松明で中央までの道を作ってくれ。あとさっき作った台はもう少し広くしてくれ。ポチが乗れないからな」


 ガブのいう通りに階段から部屋の中心まで等間隔に松明を並べる。並べ終わると


「台の上にも端に一つずつだ。それと肘掛けのついた椅子を用意できるか?」


 台の上にも松明を置いて、椅子が生成できるか調べる。すると宝箱や松明と同じ欄にいろんな種類の椅子があった。安いのは1DPで四つの四角い木箱からで玉座なんかは1脚10DPもした。さらに特殊効果の付いた椅子というのもあり、こちらは更に高かった。

 ガブが選んだのは5DPの座面は布張りで背もたれも幾何学的な模様が彫ってあるものだった。

 だけど椅子なんて何に使うんだろう? 不思議になって尋ねると


「椅子に座って片手でケルベロスを撫でてるって魔王っぽいじゃん。ロマンだぜ。ロマン」


 笑いながらロマンと叫びやがった。ロマンはわかるが数少ないDPを無駄遣いしないでほしい。

 

「それとイベントで俺にしゃべらせて欲しい。そんな仕掛けはできるか?」


 更に要求を積み重ねてきた。このイベントとは一定のポイントまで来たら動けなくなり設定されたシナリオを見させるというものだろう。グランドクエストのボス戦の前なんかにはよくあるやつだ。普通のダンジョンでは見たことがないができるのであろうか?

 ダンジョン生成の罠の部分を見るがそれらしきものがない。次にダンジョン特性の欄を見る。するとシナリオ作成というものがあった。消費DPは1だがシナリオの内容によっては増えるみたいだ。

 基本は足を止めた位置から敵味方双方が動けなくなり、一方的にしゃべるのみみたいだ。この際魔法で一方的に攻撃もできない。当たり前だね。それができたら確実に勝てるようになってしまうから。

 ガブにはできると伝えてどんなシナリオにするか教えてもらう。


「そうだな~、最初に部屋のまん中まで歩かせてそこから俺のセリフ。そして取り巻きを召喚したい」

「それはどれくらいだい? ガブとポチがメインボスだろう。更にモンスターを増やすとなると結構手強いぞ」


 それにイベント発生時に有利になるような設定をすると指数的に消費DPが増加する。

 例えば部屋の端にある階段から部屋の中心まで歩かせるだけで三千万DP以上を消費する。何を考えてるかわからないがシステム上そうなっているならどうしようもない。ちなみに横方向に部屋の端まで動くなら25DPで済む。多分10mが基準になっているのだろうがこの差は酷い。

 ちなみに遠回りしたり、行って戻ったりしても、元の位置からの距離と敵味方の相対距離で計算されるらしく終着点が同じなら消費ポイントは変わらなかった。結局イベントは侵入者が階段を上った瞬間に発生させてそのまま動かずという事になった。その代わりに階段の位置を100mほど中心にずらす。

 一応運営に意見は上げておく。もう少し消費DPを下げて欲しいと。

 ちなみに一方的な会話のストップモーションは1回につき時間無制限で1DPととてもリーズナブルな設定だった。

 そして最後にイベント中のモンスター召喚。こちらもある条件を満たすと消費DPの増加量は指数的になった。

 その条件が距離と数だ。距離は召喚陣と侵入者の位置で50m未満になると1m近づくごとに2倍される。50m以上だと一律10DPだ。それで数も50体までは5体で10DPだ。その後は1体目が2DP、2体目が4DP、次は8DPと増えていく。運営が2倍が好きなのかそれともただ手を抜いたのか。どちらにしてもあまり沢山DPは残っていないので節約を考えると50m以上の距離を離して最大52体かな。これで115DP。確定はしないがこれで見積もると残DPは20だな。もうDP使った作業は何もできないか。


「いま調べたところイベント中に召喚できるモンスターは52匹までだ。それ以上は先に仕込んでおくか、テイムモンスターで補うかだな。あと部屋のまん中まで歩かせるのは無理だ。てかイベント中に侵入者を動かすDPが無茶苦茶多い」

「それじゃ、『我が相手をする程でもない。我の(しもべ)たちが相手をしよう』って言って数百体の雑魚モンスターを召喚はできないのか」

「そんなこと考えていたのか。てか精鋭の四天王とかじゃダメなのか?」

「そんな強いモンスターを召喚できるのか?」


 そういわれれば確かにまだ足りないかもしれない。アルティのレベルが上がらないと召喚魔法陣のレベルも上がらないしな。それに闇属性は若干マイナスの補正がかかってるようだし。かといってモンスター生成を使うほどではない。あれはあれでリスクが多すぎる。

 さっき確認したモンスターで使えそうなのがシャドウクローとダークウィスプ。あとは有象無象の雑魚モンスターだな。シャドウウルフは五階層のボスの取り巻きで使っているので使いたくないし。

 

「じゃあ選んで教えて。数は増やさないでね。アルティに言えば配置とかもいじれるから、それで決まったら俺に見せて」

「任せて!」

「任せろ! 絶対負けないチーム作ってやるぜ!」


 モンスターのことはガブとアルティに一任して、侵入者を確認する。侵入者は

二階層を突破して三階層に入っていた。

 思ったより探索速度は早い。今までの経過を聞くと


「彼らは二度目ですね。前に見たことがあります。だから安全なルートも記録してあるんじゃないですか? それにしてもあれはひどいですね。マスターには敬語を使いなさいといつも言ってるのに」


 ヴァイスが教えてくれた。しかしそのあとのガブに対する愚痴は要らないと思うんだ。しかし道を知ってるって外から見るとこんなにもスピードが違うのか。確かに正確なマップがあれば罠も防げるし、モンスターの密度も予測できる。そしてどんなモンスターがいるのかも書いてある。だからこそ正確なマップはギルドで高値で売買されているのだ。

 三層に入っても進行速度は変わらず早い。迷いなく進んでいるのが見ててわかる。


「思い出しました。あの人たちは唯一の四階層までたどり着いたパーティーです」


 ヴァイスが突然指差して言った。詳しく聞くと先頭にいるプレイヤーとその仲間は四階層まで来て負けたらしい。なので三階層のマップデータも持っているそうだ。道理で進むのが早いわけだ。しかしその通路の先には底無し沼がある。そして今はガブリガメが潜んでいるのがわかる。そしてシャドウウルフの包囲網もできているのでガブリガメとシャドウウルフのコンビネーションで勝てるはずだ。

 しかし想定外のことが起きた。ガブリガメは前衛の持ってた槍に噛みついてしまったのだ。シャドウウルフも襲いかかるタイミングを逸しまって、結局襲いかかったのは槍からガブリガメが落とされたときだった。

 最初は善戦はするものの盾で防御されて、更にその後ろから魔法や矢が飛んで来るという状況になり決定打を与えられない。

 一体が影を使って後衛に襲いかかったが止められ魔法の集中砲火で倒れてしまった。そして次第に底無し沼からじりじりと離れ、最後は範囲魔法で突破口を作られしまった。逃げた侵入者をシャドウウルフも追いかけるが魔法で足止めされてなかなか追い付けない。

 しかも逃げる先は四階層への階段を的確に狙ってる。しばらくすれば迷わずに階段のある小部屋にたどり着いていた。そこで追ってきたシャドウウルフもすべて倒される。

 

「なんで一目散に階段のある部屋に迷わないで行けるんだよ! まだ二回目だろ。罠にもかからないし」

「もしかしたらダンジョンの作りが悪いのかもしれません」

「どうしてだ? 亀と狼は良かったと思うぞ」


 今回はうまくいかなかったがそれでもあのコンビは厄介だと思う。


「そうではなくて通路ですね。綺麗な格子状では階段の位置と現在地が分かれば通りたくない通路を迂回することも簡単です。なのでさっき彼らは迷わなかったのではないでしょうか?」


 ヴァイスの言ったことを反芻してみる。

 ……、うん、そうだ。

 確かにこれでは危ない道、罠を簡単に回避することができる。でもそれなら


「転移罠も仕掛けてある。それに嵌まれば」

「転移罠ありましたっけ? たしかこの階にはなかったと思うのですが」


 背筋に汗が垂れる。同時にゾクリと寒気も来た。ヴァイスさん、そんな目で俺を見ないで。罠を確認したら回転床だけだった。アルティは忙しそうだし侵入者もまだ三階層にいるから改変はできない。

 仕方がないと後回しにする。あとはクレイゴーレムはどうなっているんだろう?

 

「いまはクレイゴーレムはどこにいるんだ?」

「外周を時計回りに回っていますね。動きが遅いので接敵は恐らくしないでしょう」

「ぐるぐるだね。またー」


 あとで三階層は見直そう。そうこうしているうちに彼らは四階層への階段を上り始めた。もう五階層まで時間がない。ガブとアルティはどうなっているんだ。そう思い彼らを見ると


「召喚コストが高いからシャドウクローとダークウィスプはもう少し少なくしてよ。それに召喚陣はこんなに沢山一度に召喚するならもっと広い場所が必要なの」

「じゃあその召喚できる範囲で広げればいいんだな」

「まだ終わってないのか? もう四階層まで来てるんだが」

「ほらー、速く決めなよ」

「ちょっと待ってくれ。ポーンスケルトンかゾンビか選ぶから」


 ガブが悩んでいるうちにも侵入者達は前に進んでいた。階段の位置もわからないし、モンスターも無視はできないので牛歩の歩みだがそれでもタイムリミットは刻一刻と迫ってきている。焦るなか


「そうだ! オーレムボスにして九階層まで開放しようか?」


 アルティがこちらを見て言った。繋ぎでオーレムをボスにできるらしい。そうすれば時間がまた稼げる。まあルーががんばって倒してくれれば問題はないのだけど。

 結局他の手はないわけで、繋げてもらうことにした。そしてまた侵入者の方に目を戻そうとするとアルティが


「ねえねえ、ヘタレ繋げるのはいいんだけどさ。六階層から九階層までの雑魚モンスターが設定ないんだけどどうするの? たしか造ってる最中にミラージュボックスやらオーレムを造り始めちゃったんだよね」


 白い目で見られる。忘れてたなんて言えない。どう誤魔化すか。いまやろうと思ってた、いやいままででなんでやらなかったってことになる。じゃあボスを決めてから、それだとボスは最初からガブって決めてたし、ならえっと……


「言い訳考えてないで早く決めなよ。ダンジョンマスターはヘタレなんだからね!」

「落ち着いてください。アルティさん。マスターはしっかりしてくださいね。モンスターのいないダンジョンなんてどこにもないですよ」

「わかった、わかった。モンスターの召喚陣はちゃんとすぐに設置する。アルティはまだガブを手伝っていていいよ」

「マモル、どうせだったら闇系の魔物で固めといてくれ。その方が一貫性あるだろ」

「あー、はい。了解。ガブ。大きい方は闇系でまとめるよ。小迷宮はゴーレムにするからね」


 いろんな意見を聞きながらも作業を始め、深く考えずにどんどんと決めていった。六階層はまだ分かれていないのでクレイゴーレムとブロンズゴーレム、シャドウウルフ、ゾンビ、傘蝙蝠を適度に散りばめる。

 七階層からは小迷宮には新しく召喚できるようになったタールゴーレムも増やし、大迷宮にはシャドウウルフと傘蝙蝠は減らしてダークウィスプとポーンスケルトンを配置する。

 九階層の小迷宮にはもうボスとその取り巻きが設置されているのでいじらず、大迷宮もモンスターの種類は増やさなかった。

 あとはトラップを転移陣以外にも設置したかったがDPが無いためいまは諦める。そうこうしてるうちにガブのボス階も完成したようで


「見ろよマモル。俺の部屋できたぜ!」


 頭を撫でてやりながらマップを見ると、中心より上に重なりあって召喚陣が設置されているのがわかる。


「MP切れそうだよ~。ヘタレも僕のMP管理しないで召喚陣作ってたでしょ」


 涙目になってアルティが呟く。確かに倒されたモンスターの補充をしながら新しい召喚陣を作ってたらたくさんあるアルティの魔力でも辛いのかもしれない。そう思いステータスを見ると残MPは1000を切っていた。

 頭を撫でてやり労う。


「う~、しっかり守ってね。僕のこと」


 上目使いで言われると来るものがある。とりあえず十階層までは完成した。今のアルティのレベルならあと二層作れるがDPが圧倒的に足りない。

 そして今気付いたがDPを使い過ぎている。本来は十二層までのDPを十層作った時点で使いきってしまった。まだ誰も気づいていないようなので言わないが次の階層からは節約しよう。やっぱり撃退ポイントとアルティのレベルアップだけでは少ないな。そこも何とかしないと。

 ダンジョン作成でやることはなくなったので侵入者の動きを見ることにする。彼らは今、四階層を慎重に進んでいる。恐らく五階層までは到達するだろう。

 ルーはどう戦ってくれるだろうか。



残DP20

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