新ダンジョンの探索者
「ここだな、新しくダンジョンが発見された場所というのは」
「そうですねシンメイさん。ギルドの情報によるとあの滝の裏にダンジョンの入り口があるらしいですよ」
滝つぼの前に6人の探索者がやってきた。片手剣を2本腰にさした双剣士のナナエ、片手剣に大盾を装備した騎士のシンメイ、大太刀を装備した侍のトウヤ、火と風を操る魔法使いのヤクモ、支援魔法と回復魔法のテーネ、弓を背負ったハンターのセタナと前衛と後衛のバランスの良いパーティでギルドで登録しているパーティ名は『カシオペア』だ。ギルド内で受ける実力試験では中堅に入っている。平均レベルは40くらいだ。
そんな彼らは新ダンジョン発見の確認とそのダンジョンの内部のモンスターや仕掛けの難度を確認するというクエストを探索者ギルドから受けていた。そしてこの滝の裏がダンジョンの入口らしいので入る前に装備の確認を行っている。
確認が済むとリーダーのシンメイが
「これからこの新しいダンジョンに向かう。どのくらいの難度かわからないが油断しないで行くぞ!」
「了解!」「わかりました」「任せろ!」「がんばりますぅ」「任せてください」
揃わない返答にシンメイは苦笑するも先陣を切って歩き始めた。後ろに続くのは罠を見極められるセタナ、その後ろにヤクモとテーネが並んで続き、トウヤがその後ろを守る。殿は機動力のあるナナエだ。
入ってすぐに十字路があった。右と左の道には松明もなく先が見通せない。正面の道も松明の間隔が広いのであまりよく見えないが。
「みんな、どっちに行くのが正解だと思う? 俺としては右と左は行き止まりな気がするんだが」
「わたしは~、曲がったら宝箱があったりするんじゃないかとぅ」
「とりあえず見える範囲には罠は無いようだよ。別に全部行ってみればいいんじゃないかな」
「私はテーネちゃんの意見に賛成かな。何かありそうだよね。もしかしたら魔物かもしれないけど」
「何が出てきてもぶった切ってやるぜ!」
「火魔法で照らしましょうか?」
最後のヤクモの意見から魔法で照らしてみることにした。ヤクモは魔力を調整して人が歩く速度くらいのファイヤーボールを右の通路に打ち出す。それは通路を照らしながら進みその先になにがあるかを教えてくれた。
そして何かあったのかと言われたら何もなかったと答えるしかないが。反対側にも同じようにやったが宝箱も無くファイヤーボールの魔法はすぐに壁にぶつかって消えた。突き当りに通路も見えなかったのでシンメイたちは外れと判断し直進することにした。
その後は5つの分かれ道があったが行き止まりでも宝箱があったのでちょっと盛り上がる。中身はそんなに良いものでもなかったが。敵は時々こうもりが現れたり足元からねずみが現れたりしたがセタナが弓で撃ち抜きナナエが双剣で切り刻んだ。
そしてようやく通路が終わり、大広間が見えた。松明を頼りに中の様子を見ると天井にはこうもり、床にはねずみが数えきれないほどいた。
「この入口から遠距離で殲滅する。ヤクモとセタナ頼む」
シンメイの指示によりヤクモは詠唱を始め、セタナもアーツを発動させながら弓を引き絞った。
「熱き炎を司る神よ 我の前をその燃え盛る炎の力をもって全てを焼き尽くせ」
『ファイヤーウェーブ』
『クラスターアロー』
大広間が炎で満たされ床にいたねずみたちが灰に変わる。そしてセタナが撃った矢は途中でどんどん分裂しそれらが天井にぶつかるとともに爆発した。爆発に巻き込まれたこうもりはもちろん、天井が大きく揺さぶられた影響で天井から墜落したこうもりもいた。そいつらは全てまだ燃え盛っている魔法の炎の中に落ちて灰になった。
そして火が収まったとき、大広間の中はこうもりが少し飛んでいるだけだった。シンメイたちは残っているこうもりを無視して奥の通路に向かう。そこには宝箱と登り階段があった。
「よし、1階層はこれで終わりのようだな。みんなこのダンジョンどう思う?」
「罠は少ないです、今までで2回しか見つけられませんでした。それに分かれ道だけの単純なダンジョンですね」
罠の感知とマッピングを行っているセタナが言うとトウヤとテーネが不満の声を漏らす。
「敵が弱い! それに小さくて攻撃が当たりゃしない」
「さっきの広間も範囲魔法で一撃でしたしぃ。私の出番がないですぅ」
「だけど油断しないで行きましょう。まだ1階層ですし」
「そうですよ、長期戦になるような相手だったら私よりも活躍できますよ」
そんな2人を見てヤクモが注意を促す。ナナエは励ましの声をかけていた。
「よし、じゃあ少ししたら次の階に行くぞ。体力や魔力は回復しておけよ」
そして彼らは少し休んだあと2階層へ踏み入った。しかし2階層は灯りもなく何も見えなかった。
シンメイがアイテムボックスから松明を取り出してヤクモの魔法で火を点ける。その後ヤクモもファイヤーボールを待機状態で止めて灯りとした。十分な光量とはいえないが部屋の中を照らすと目の前に広い通路が1つあるだけだった。隊列を整えてその通路を歩くがカーブしており先が見通せない。いきなりこうもりやらでかいミミズが襲ってくるので気が抜けなかった。
「この分かれ道何個目ですか。こういう交差点ってマッピングしにくいんです」
「おいおい、大丈夫か? 確かここは3つ目……」
セタナがマッピングに悩み、周りを頼りにするとシンメイが答えた。が、辺りの景色が一瞬で変わる。
「……転移罠のようだな。誰か罠があることに気付けたやつはいるか?」
「魔力的な罠なので通常の罠感知に引っかかりませんでした。てかまたマッピングのし直しですか~」
「発動するまでは魔力の流れがわからなかったです。多分設置型で発動時だけ魔力を使うんだと思いますよ。セタナさん、同じ場所に出たらくっつければいいんですよ」
「ヤクモさん、同じ場所かどうかわかるまではマッピングしないといけないんですよ。同じ場所二度マッピングするのか~」
ヤクモが慰めるがセタナは手間が増えて意気消沈していた。他のメンバーもその空気に押されて少しパーティの活気がなくなる。
「まあ転移罠なんて珍しいものでもないし頑張っていくよ」
シンメイが発破をかけて探索を進める。しかし次の曲がり角で問題が起きた。人影が見えるのだ。他の冒険者かもしれないがモンスターかもしれないので警戒しながら近づくするとシンメイの方に何かを飛ばしてきた。大盾に当たって鈍い音が響く。シンメイたちも戦闘態勢を取った。
「モンスターだ。ここでは初めて見るやつだから注意しろ!」
「俺が倒す! 喰らえ!」
シンメイの陰からトウヤが飛び出して大太刀を振り払う。しかしトウヤの一振りは多少手応えがあったもののダメージを与えた感触は湧いてこなかった。そして振り切った後の隙に強烈な一撃をもらい後ろに飛ぶ。テーネがすかさず回復して事なきを得たが攻撃が効かずに反撃だけ受けたトウヤは悔しそうな表情を浮かべた。
「マッドゴーレムのようだね。通常だと物理攻撃は効きづらいかな。それじゃあ物理攻撃が効くようにするよ」
ヤクモがそう言い詠唱を始めた。パーティに向かって放たれる泥の塊はシンメイが盾で受け止めているので詠唱を妨害されることもなく
『ヒートウインド』
熱く乾燥した風がマッドゴーレムにぶつかる。すると黒かったマッドゴーレムが水気を抜かれて白くなり動かなくなった。
「今だ! コアを叩き切って!」
ヤクモの掛け声とともに回復したトウヤが一刀両断した。コアをやられたマッドゴーレムは砂となり風に乗って飛んで行った。
「お疲れさん、ちょっと厄介だな物理効かないのは」
「だけど魔法だけだとコアまで攻撃届かせるのはかなり魔力使うから効率が悪んだ」
「おいセタナは何やってんだ?」
戦闘が終わりトウヤがパーティの方を向くと、キョロキョロと辺りを見回すセタナが見えて聞く。
「床が少しづつ回転してるんだよ。とりあえずずっと来た道を見てるの」
セタナに言わせると最初は止まっていたが戦闘が始まると床が回り始めたそうだ。そして戦闘が終わると次第にゆっくりとなっているらしい。言われてみればまだ少し動いているのがわかるが言われなきゃ気が付かないくらいの速度だ。戦闘中も歩くのより遅い位の速度しか出ていないと言っている。
「来た道はこっちで一応斜めの十字路だね。どっち行くの?」
「とりあえず来た道と反対側でいいんじゃないか? それで右左どっちかだな」
「じゃあ左で、右には罠が見えるし」
「了解、じゃあ行くぞ」
一行はその後も1階層よりも増えた罠を避けつつ、ようやく階段に辿り着いた。
「やっと2階層が終わったな。ここまではどうだ?」
「もうここの地図は書きたくないです。何度書き直したことか。それに罠がそれなりに厄介な数ありました。しかも暗くて見つけにくいです」
「灯りの維持が大変ですね。あとはマッドゴーレムの対処ですか。私以外の攻撃が通りにくいのは厄介です」
「俺の攻撃がちゃんと効くやつと闘いたい!」
「ミミズが気持ち悪かったですぅ」
「1階層と2階層で全然難しさが違うね。それにセタナちゃんのマッピングがないと抜けれなかったかも」
彼らは疲労も少し溜まったので休憩を取ることにした。
「セタナちゃん、地図はつながった?」
「う~ん、多分転移罠でかなり飛ばされたのかつながりそうな部分がない。もしかしたら帰りもう一度迷うかも」
「本当か? 浅ければボス倒して街に帰還できるんだけどな。だけどこの後も2階層みたいに時間がかかると引き返さなきゃいけないし、難しいな」
「帰還アイテム高いしね。こんな浅い層で使ったらもったいない」
「MP回復終わりましたよ。とりあえず次の階層見てみませんか?」
「シンメイさんどうするんですか? 俺はまだ戦えますよ」
「落ち着けトウヤ、まあ死ぬほど敵が強くなることはないだろ。ちゃんと安全確認しながら行こうか」
「そうだよトウヤくん、さっきみたいに飛び出しちゃだめだよ」
「わかりました。シンメイさん、ヤクモさん」
そして彼らは3階層への階段を上った。手に持っている松明の灯とヤクモの炎だけでは良く見えない。シンメイが一歩踏み出すと
グチャッ
足元から嫌な感覚が這い上がってくる。思わず出した足を引っ込めた。そしてセタナから松明をもらうと地面に近づける。
「泥だ。床一面が泥で覆われているみたいだな。セタナちゃん、罠はあるか?」
「いま見える範囲にはなさそうです。それにこの泥もただの泥ですね。状態異常とかはかからなそうです」
「そっか、ただの泥なら行ってみたいと思う」
「服が汚れそうですぅ。それにちょっと不気味ですぅ」
「ちょっと動きにくそうですね。シンメイさん少し試してみてもいいですか?」
テーネは行きたくなさそうに階段の高いところにいる。そして反対にナナエは泥の上で動けるか確認したいらしく足を泥に踏み入れて剣の素振りを始めた。
「やっぱり少し足が取られますね。上手く敵の攻撃が避けられないかもしれません」
「ちょっと試したいことがあるのでナナエさんこっちに戻ってもらえますか?」
動きを確認したナナエがちょっと不安げな声をあげる。そしてそのナナエをヤクモが呼び戻し詠唱を始めた。
『ヒートウインド』
熱風が大地から水分を奪い取る。黒かった泥は白く乾いていく。しかし熱風が収まると周りから徐々に水分を補給しただの泥に戻っていった。
「やっぱりだめですか。じゃあこのまま行きましょうか」
「そうだな、足元は注意して慎重に行くぞ。テーネちゃんも転ばなければ大丈夫だって」
「わかりましたぁ。足元は注意しますぅ」
一行はグチャッグチャと音を立てながら進む。もちろんこの階の番犬たちの耳には届く。獲物が狩場に入ってからが本番のようだ。
シンメイたちは足を取られながらも先へと進む。さっきまでの2階層と打って変わって道が格子状に並んでいる。セタナは綺麗にできる地図に見とれている。もちろん罠の感知も怠ってはいないが、いままで罠が見当たらなかったこともあって油断していた。
ガブリッ
「ギャア!! イッテー!!」
戦闘を歩くシンメイの足に何かが噛み付いていた。そして通路の奥に引きずり込んでいる。ある一定の位置を越えるとシンメイが沈み始めた。最初は足首、次第に膝まで沈み……、そのとき通路には遠吠えが聞こえた。自分も危険な状況だがシンメイは
「敵襲!! 狼か犬のようだ。俺のことはいいからやつらを倒せ!!」
「シンメイさん、助けますから待っていてください」
「シャドウウルフだ。ヤクモさん影ができないように光源の炎をいくつか」
通路の奥から現れたのはシャドウウルフ。濃い影に潜って繋がっている影から飛び出してくる厄介な魔物だ。とりあえずヤクモが低速のファイヤーボールを何発か撃ち炎で影を薄くしたが後ろからもシャドウウルフが迫っていて彼らは挟み撃ちされていた。
「反対側にもいるぞ!! こっちは食い止めるから後ろを頼む」
「わかった。任せてください」
最初に気付いた前のシャドウウルフをトウヤが、後ろから来たのをナナエが食い止め、セタナとヤクモはそれぞれに遠距離でダメージを与えていく。そうこうしているうちにシンメイの体は腰まで沈み、しかも定期的にダメージが蓄積されている。テーネは近づき回復魔法をかけているが沈んでいく体を持ち上げることはできなかった。
「俺は何かに足を咬まれて引きずり込まれてるんだ。攻撃しようにも泥の中で当たらないしな。俺のことはいいからあいつらに支援かけてやれ」
「でもぅ、リーダーがいないとぅ」
「テーネちゃんが支援かければ早く戦闘が終わるかもしれないしさ」
「うぅ、わかりましたぁ。だけど回復魔法は続けますよぅ」
先頭で戦っているトウヤとナナエは1人で数頭のシャドウウルフを足止めしているのが辛くなっていた。何とか戦えているのは狭い通路なので最大でも2頭の相手だからだ。しかもレベル差的にはトウヤたちが有利のようだが足元の泥が滑って攻撃に力が乗らないし、すぐに後ろに押されていた。しかも1頭が倒れると後ろから補充されていくのが精神的に追い詰める原因にもなっている。
そしてファイヤーボールがトウヤの脇を掠める瞬間、影が濃くなった部分に1頭のシャドウウルフが潜り込みそのままトウヤの後ろに伸びていく影からから飛び出した。そして一番近いテーネの喉元に噛み付く。テーネが倒れる音に気を取られトウヤとナナエの防衛線は崩れる。
ヤクモとセタナが防衛線を破った新たな2頭を相手取るが、テーネに噛み付いているのまでは対処ができなかった。
テーネのHPバーが赤く染まりそれも次第に黒くなっていく。HPバーが黒くなったときテーネの体は光に分解されてこの場から消えた。シンメイも回復する手段が手持ちのポーションだけとなったが、それも胸まで埋まった今では取り出すのも困難だ。窒息よりは噛み付きでHPが無くなったらいいなと思いながら戦闘を見ている。
トウヤは一度に2頭のペースは変わらずだが後ろからの支援が無くなって1頭当たりの時間が増え、精神的にも限界が来ていた。それはナナエも同じでさっきより敵の攻撃が当たるようになっていた。
ヤクモとセタナは2人で3頭の相手をしている。抜けてきたシャドウウルフが倒しきれないのだ。そしてヤクモがファイヤーボールを撃つとまた1頭、影を抜けて前衛を突破してきた。背後から噛み付かれてヤクモのHPバーが赤く染まる。そしてセタナも4頭捌き切れずにHPバーが赤く染まった。最後に残ったトウヤとナナエも挟み撃ちにされてこの場から消える。
戦闘を最後まで見ていたシンメイはこのダンジョンにリベンジすることを心の中で誓い、ダンジョンから消えた。




