侵入者
チェンタからホームに帰ると時間がお昼を少し回ったところくらいだった。上空ではグリフォンとさっきまで乗っていたペガサスが競争を始めたり、植物系のモンスターが日光浴をしているのが見える。
リリスやロザリーはどこにいるかと見渡すとロザリーはユニコーンのユンと遊んでいる姿が見える。しかしユンは俺のテイムモンスターとして契約しているがシャインに惚れてついてきたので俺のことは主人と思っていない。触ろうと手を伸ばせば噛むし後ろから近づいたら蹴られた。そして最終的には近寄ろうとすると逃げる始末だ。今も視線を送っただけでこちらを睨んできた。近寄ると碌なことがないのでロザリーは後で手の空いてる時に話しかけるとしてもう一度姉のリリスを探す。
すると森から何かに追われるように飛び出してくる人影があった。よく見ると飛び出してきた人影はリリスで、彼女を追いかけているのはロケットビーという蜂のモンスターの群れだ。針をロケットのように飛ばして攻撃してくるので森の中ならともかくこんな草原で出会うと遮蔽物も少なく危ない。しかも針を後ろに飛ばした反動で突撃して噛み付いてくる可能性もあるので気が抜けない。
とりあえずスピードとディフェンスを上昇させる呪文をリリスに放つが距離が離れているので最大効果は望めないだろう。上空を見て戦えそうなやつを探す。異常を感じたのか牧場のモンスターも殺気立っているがすぐに援護に加われる距離ではない。しかし猛ダッシュを始めた奴がいた。ユンだ。背中にはロザリーが乗っているがなぜあの子が落ちないのか不思議なくらい荒々しく駆けている。そっちにもスピードの上昇をかける。するとさらに一段階スピードが上がった。リリスを見ると懸命にジグザグに走って飛んでくる針を避けている。なにか援護できる技はないかと考えていくが支援呪文を唱えることしかできない俺には継続回復の呪文を唱えるくらいしかできることがなかった。
ようやくユンがリリスの元に辿り着き、魔法でリリスとロケットビーの間に光の壁を作り出す。そして走る向きをリリスと並ぶようにするとロザリーが差し伸べた手を捕えてユンの上に飛び乗った。俺は一連の動きを見てリリスが安全なところに行くと安堵の声を漏らす。ロケットビーはいきなり現れた光の壁にぶつかって気絶や混乱状態にかかっていたのでその隙に四方八方から攻撃させる。攻撃が終わるとそこには少し荒れた地面が残っているだけだった。
ユンが連れてきたリリスは満身創痍で服も所々破れていた。とりあえずホームのベッドに横にしロザリーには替えの服を取りに行ってもらう。そして俺はヴァイスを呼んでホームの外に出た。外ではホームの窓からユンが心配そうに中を覗き込んでいたので大丈夫だよと伝え、よくやったと褒めようと鬣を撫でようとすると手を角で叩き落された。もう一回試すと今度は噛まれた。しょうがないのでよくやったと声をかけると『当然』というような目で上から見下ろしてきてちょっとイラッとした。
しばらくするとロザリーが替えの服を持ってきたのでリリスが着替え終わったら今回の事情を聴くために話がしたいと伝えた。
数分後、リリスが部屋の扉を開けて出てきた。その顔はまだ疲れが残っているのか青白くいつもの活気がない。ダンジョン内でのおやつのドライフルーツを用意していた紅茶と一緒にテーブルに並べて皆が座るのを待つ。そして今日なんであんなことになったのかをリリスが話し始めた。
「昨日からルーさんとヴァルくんがいないんですよ。それで抑えが利かなくなったフォレストウルフたちが調子に乗って森の中に逃げちゃったんです。このままだとメディの狩人さんたちにも迷惑がかかるので森の中に捕まえに行ったんです」
「1人で森の中に入っちゃ危ないよ。他の魔物は連れていかなかったの?」
「他の魔物まで逃がしたらマモル様にご迷惑かと思って1人で行きました」
「森の中は危ないから今度入るときはせめてヴァイスかユンを連れてってね。あの2人は逃げないから。まああんまり入って欲しくないんだけど。それでどうしてロケットビーに追いかけられる羽目になったの?」
「ボスのジャイアントフォレストウルフのリーフを見つけたんですよ。この子さえ連れ帰ればみんな帰ってくると思って近寄ったら逃げ始めたんです。それで逃げた方向に行こうとしたらリーフが逃げた方向にロケットビーの巣があってしかも壊れていて巣を壊した犯人を捜していました。そして近くにいた私を襲ってきたんです。そこからは無我夢中で逃げ出して牧場まで逃げ切ったんです」
「まあ無事でよかったよ。それでリーフたちフォレストウルフはまだ森の中なのか?」
「何頭かは牧場に帰っていきましたけどいま何頭いるかはわかりません。そういえばルーさんとヴァルくんはどこに行ったんですか?」
「彼らはダンジョンのボスを頼んだんだよ。だけど侵入者がいない時はこっちにいてくれって頼んだんだけどな」
「そうですか。ルーさんは獣形の魔物のボスなのであまりこちらを留守にしてもらうと困るんですが」
「ちょっとダンジョンの様子を見てくるか。みんなで一緒に行こう」
そう言ってリビングの端にできた転移陣でコアルームに転移した。
コアルームにはアルティ以外にルーとヴァル、それとなぜかまだガブがいた。
ルーになぜ牧場に帰らなかったのかを尋ねると戦闘訓練を行っていたらしい。隠し通路を使った追い込みや、味方の気配をどうやって感じるかとか色々と用意することはあったらしい。そしてルーに今日あったことの一部始終を話すと、ルーは一度戻ってリーフとのランク付けを行って調教してくるらしい。ルーがいなくなったコアルームでは物珍しいものを食い入るように見ている姉妹の姿と一触即発な状態の天使と悪魔がいた。
「昨日から見ないと思っていたらこんなところにいたんですか。マスターもあまりこっちに長居してはいけないと言っていたでしょう」
「別に俺は大丈夫だ。理性なんて元々少ないんだしな。それにマモルに付き合っていると楽しいから野生になんて帰りたくないぜ」
「マスターを呼び捨てにするとは何事ですか! 名前を呼ばれるなら様を付けなさい!」
「はいはい、それでマモルさまはこの間俺たちが言った仕掛けはやらないのか?」
ガブの後ろからヴァイスの口調がとか敬意が足りないとかいう指導が飛んでいるがガブは気にしていないようだ。そしてガブの言ってることも思い出す。一階層と二階層のダメージ罠増量と三階層の魔物にこうもりを入れたらどうかだったっけ。こうもりはすぐに用意できるからアルティに頼んで二か所に召喚陣を作ってもらった。それと壁から飛び出る槍の罠を三つずつ設置した。これだけで120P消費したので残りは取っておくことにする。
そうやって内部をいじっていると姉妹が騒ぎ始めた。
「お兄ちゃん、外に人が来たよ!」
「マモル様、鎧を着た人が3名にローブを着た人が2名、それと狩人の格好のものが1名のパーティのようです」
ロザリーが外に人が来たことを教えてくれ、更にリリスが細かいパーティの内訳を告げた。
ヴァルと取り巻きのシャドウウルフたちは闘志をまき散らして、他のみんなもその冒険者に注目する。彼らは難なく滝の裏のダンジョンを見つけ出して侵入してきた。そんなに早くは来ないと思うがヴァルたちは転移陣で五階層に行き待ち受けるらしい。
多分タイミング的にもギルドの確認班だと思うが俺はそのことを皆には黙って経過を観察することにした。さて初めての防衛戦はどうなるのやら。ちゃんと効果的にどこかで撃退できるのかを確かめるために額を注視する。
残DP 130




