プロローグ
直径が1キロもあろうかという円形の部屋でホーリードラゴンとダークドラゴンという2頭の竜が相手からの攻撃を避けつつ決定打を与えるために縦横無尽に飛び回っていた。
地上からは白いドラゴンを援護するように白いローブを着た少年と、その傍らに立っている背中から白い翼の生えているエンジェルの美女から魔法が飛ぶ。
ダークドラゴンもその少年たちを無力化しないと勝機は薄いと考えているのか隙を見て攻撃を仕掛けるが、少年と美女を守るように構えてるビックミスリルタートルの守りによりほとんどの攻撃が無力化されてしまう。
ダークドラゴンにとって一番ダメージが大きいのは美女の放つ光属性の遠距離魔法だ。元々弱点である光属性のモンスターを2体相手にしているといくら防御力があろうともじわじわと体力が削られていく。そしてホーリードラゴンに集中していればエンジェルからの攻撃が当たってしまうのだ。そこで大きく息を吸い<ダークファイアブレス>を部屋いっぱいに吐き出して牽制した。
しかし少年も負けじと「リフレクションダーク」と呪文を唱えて闇属性の攻撃を跳ね返すシールドを球状に展開しビッグミスリルタートルとエンジェルごと守る。それでもシールドでブレスは防げたものの黒い炎がダークドラゴンの姿を隠してしまう。その隙を狙ってダークドラゴンは追撃をかける。ホーリードラゴンの突撃をかわしながら先ほどのブレスを球状に圧縮した<ダークファイアボール>を溜めて放った。少年はそのときになってようやく気づくことができたが、回避するにも呪文で防ぐにしても時間が足りず思考が止まってしまった。しかし横からホーリードラゴンが<ライトボール>を当てて<ダークファイアボール>の軌道を逸らすと黒い炎の球は少年の横を通り抜け、後ろの壁にぶつかって爆発した。
後ろからの爆風で少年とエンジェルは吹き飛ばされそうになるがビッグミスリルタートルにつかまり堪える。そのまま突進してくるダークドラゴンにはビッグミスリルタートルが盾となり少年を守るが少年は衝撃で壁まで吹き飛ばされてしまった。だがビッグミスリルタートルの特性である物理反射のダメージを受けて一瞬ダークドラゴンも怯んでしまう。その隙を見逃さずホーリードラゴンが横から爪で一薙ぎ二薙ぎと斬撃を与えてダークドラゴンの体力を削る。そして壁に叩きつけられた少年とエンジェルも戦線に復帰して、体力を治癒魔法で回復してから動きの止まっているダークドラゴンに魔法でダメージを与えていく。
ダークドラゴンの体力が尽きたのはそれから数分後だった。
マモルはダークドラゴンが光になっていくのを見てホッと息をついた。そして仲間の方を見る。
「ごくろうさま。みんなのおかげで勝てたよ」
肩に乗れるくらい小さくなって近づいてきたホーリードラゴンのシャインをなでながら言う。ビッグミスリルタートルのクロガネもそばに寄ってきたのでなでるがいつもながら大きくて頭までは手が届かない。エンジェルのヴァイスはそんな俺たちを見守っている。
「しかしマスター、先ほどのダークドラゴンは強かったですね。さすがに百階層を超えるダンジョンのボスってことですかね」
ヴァイスがそう言ってさっきのダークドラゴンを評価していた。まあ俺も今回のダークドラゴンが強かったのは認める。クロガネの物理反射の特性がなければこんなにも早く戦闘が終わらなかったと今は思う。
ステータスの物理防御に関連するポイントを初期値からほとんど増やしていない紙装甲の俺は、さっきの壁にぶつけられたダメージだけでHPが半分になっていた。だからあのとき物理反射で怯んでくれなかったらやられていたかもしれない。
「まあ百階層を超えたダンジョンのボスは異様に強くなるらしいからな。今回はシャインがいたおかげで前衛が上手くできて相性が良かったけど人型とかで同じ強さの敵だったら勝てるかわからなかったよ」
そんなことを話しているうちにダークドラゴンの死体も消え失せてアイテムボックスにはドロップ品が数個入っていた。ダンジョンから出たら売るなり加工するなりしよう。
「それじゃあ宝物庫に行って財宝の回収とダンジョンコアの破壊をやってこよう」
そう言ってボスフロアに入ったのとは逆の扉を開ける。すると宝箱がいくつかと空中に浮いているキューブがあった。このキューブがダンジョンコアと呼ばれるもので大抵はボス部屋のあとの宝物庫にある。これを壊せばこのダンジョンはモンスターが新しくポップしなくなるし、数日後には入口が崩れてダンジョンそのものが無くなる。そして世界のどこかに新しいダンジョンが生まれることになるのだ。
クリアしたダンジョンコアを破壊するのは他の探検者から非難されそうなものだが、ボスと宝物庫のリポップの周期は階層の数の日数となっていることが証明された現在では二十階層を超えるダンジョンではダンジョンコアの破壊によって新しいダンジョンを作った方が効率が良いらしい。
とりあえず五つあった宝箱を片っ端から開けると《1,110,000M》、《闇の宝珠》、《夜の雫の指輪》、《闇のミスリル盾》、《影のシルクローブ》といったものだった。宝物庫ではダンジョンコアの属性に依存する品物が出ることが多いので今回のダンジョンコアは闇属性のようだ。まあボスが闇属性のドラゴンだったから予想はできたし道中のモンスターも闇属性のモンスターは多かった。だからマモルも光と闇は互いに弱点であるため、与えるダメージが大きい光属性のシロとシャインを引き連れていたのだから。
マモルは宝箱からアイテムを所持すると持っていた杖でダンジョンコアを叩く、するといつもだったらダンジョンコアが砕け散って【ダンジョンコアが破壊されました】とログに出るが今回はダンジョンコアは破壊されず、違う文字がログに表示された。
【ダンジョンコアがテイムされました。仲間にしますか?】
【 ○ YES ○ NO 】
………っと一瞬思考が止まってしまった。ネットでも聞いたことがないしバグか? GMコールしようにもこの選択肢を選び終わるまでメニューが固定されているからどうしようもないし、自分でこれから起こることを推測して選べということか。
予想としてはダンジョン経営ができる可能性と、召喚魔法を扱えるモンスターが仲間になるという可能性がある。だけど前者だった場合ダンジョンがクリアされてしまったら、なにかペナルティがあるのではないかと疑ってしまうな。後者でも召喚したモンスターがいうことを聞かないということも考えられる。
さてどうしようか。レアモンスターをテイムできるということはテイマー冥利に尽きるし何よりも面白そうだしな。ゲームで他の人ができないことをやるのは楽しい。
結局YESを選択した。するといつも通り【名前を決めてください】と表示されたので誰もクリアできない究極のダンジョンということでアルティメットから「アルティ」と名付けた。
ポーン
頭の中に電子音が響く。メッセージの受信の音だ。ダンジョン内ではメッセージを受信できない仕様だがどうしたのだろうか。一覧の一番上に表示された送り主と件名を見ると
【 from 運営 Object ダンジョンコアを仲間にしたプレイヤーへ 】
初投稿です。