番外編 12月25日
「こ、こんなの着れないよっ!」
奥ですみれの金切り声が聞こえた。
「いいから着てや。せっかく異人さんがくれはったものやのに」
次にちかの声が聞こえた。やはり大坂の言葉は独特だ。京に住んで何年も経つだが、京言葉とはやはり違う。
「……これで純さん、メロメロやで」
「わけのわからないこと言わないでよ!」
「……」
少しは声量を抑えてほしいものだが。
十二月の終わりになった。
もう少しで年が明ける。京阪での年越しは何度目になるだろうか。
純は大坂――ちかの実家に訪れていた。別に用と言うほど用はなかったのだが、年明け前に一度はちかに顔を見せておきたいと、すみれが言ったのだ。
そんなわけでちかの家に厄介になっているが、どうも話の方向がおかしい。
「無理っ!」
「着てーや、お願い~」
さきほどから、奥の部屋ですみれとちかが騒いでいる。
事の発端は純たちがちかに挨拶したとき、外国人がいたのだ。久しぶりに見る外国人に二人はぎょっとした。さすが天下の台所。港には外国船がたくさんあった。その外国人がちかに何かを渡していた。
「また来ますネ。チカさん」
「お、おおきにー」
片言の日本語で外国人は去って行った。ちかの持つ大きな箱には、大きなリボンに“ぷれぜんと”と横文字で書かれていた。
ちかは苦笑いを漏らす。
「あの外人さん、ええ人なんやけど……積極的で困るんです」
「好意を持たれているということですね」
「あたしはちょっと……」
ちかは苦笑いを続けていた。
そして、その箱の中身は恐らく衣服だったのだろう。純は中を見ていないから知らないが、予想はつく。大きな声で喋っている女子を見れば。
「ちかが着ればいいでしょっ、それはあなたがもらったんだから!」
「こんなん来たら笑いものにされるやんか! あたし、ずっとここで住んでんねんで!」
「だからって私に渡さないでよ!」
「ええから! 純さん待ってはるから!」
「で、でも……」
「純さんも気に入るって」
「う、うう……」
そんなに恥ずかしいものなのか。
少し気になった。
自然と耳を傾けている己を殴る。なんと邪だろうか。ここにいては理性が持たない。席を外そうと思い、腰を上げたとき、隣のふすまが荒らしく開かれた。
びっくりして肩を縮めると、目の前には女の子がいた。
赤と白を基調にした洋服。
胸元が開けており、丈は短い。健康的な細く白い足が露になっていた。そしてなぜか頭に三角の帽子を被っていた。
すみれは顔を真っ赤にして、少し涙目で。
「め、メリークリスマス……」
純は鼻血を飛ばし、ぶっ倒れた。




