番外編 11月11日
この番外編は活動報告に載せたものや、季節ネタを詰めたものです。
完全な遊びです、ギャグです。
十一月十一日。
寒くなってきた今日この頃。
新聞を読むと、『学問のすゝめ』という書物が流行していると書かれていた。
「あの、純さん」
「なんでしょうか」
新聞から目を上げると、彼の恋人であるすみれがいた。目が合うと、彼女は手に持っていたものを差し出した。
「これ甲斐さんから、東京のお土産ですって」
「甲斐さんが?」
袋の中には何本もの茶色い細長い棒が入っていた。
「『ぽっきー』というお菓子だそうです」
「ぽっきー?」
なんとも奇妙な名前だ。
「異国の菓子ですか?」
「あ、それ聞くの忘れました」
すまなさそうに眉尻を下げるすみれ。
「いえ。別にいいのですが……」
純は袋を持ち上げ、まじまじと見つめる。
「この茶色い固形物はなんでしょうかね?」
「あ、『ちょこれいと』という甘いお菓子だそうです」
「『ちょこれいと』とは。これまた奇怪な名前ですね」
「と、とにかく食べましょうっ」
上機嫌な彼女を見て、純は微笑む。袋から取り出してみると、この「ぽっきー」という菓子は「ちょこれいと」というもので固められていた。
「これ、どこを持てば? 手が汚れますよ」
純が眉をひそめた。「ちょこれいと」に触れると指が茶色くなった。するとすみれが口添えする。
「『ちょこれいと』のかかっていないところを持つんじゃないですか?」
「あ、なるほど」
指摘されてなんだか恥ずかしかった。それが顔に出たのか、すみれはくすくすと笑っていた。彼女から目を逸らして、純はぽりぽりと「ぽっきー」を食べた。
「甘いです、美味しいですね」
「はい」
甲斐もたまには良い買い物をするものだ。すみれも嬉しそうに「ぽっきー」を食べていた。ぽりぽりと頬張る姿は小動物みたいで可愛らしい。
何本か「ぽっきー」を食べた後、すみれが言った。
「あ、甲斐さんが二人なら美味しい食べ方できるって。文に書いてありました」
「美味しい食べ方?」
「はい」
すみれは「ぽっきー」と一緒に入っていた文を取り出し、読み始めた。
「えっと……。『ぽっきー』一本を用意して……」
「一本だけですか」
一緒に食べるのに一本でいいのだろうか。純は首を傾げなからも「ぽっきー」を手に取る。すみれは続ける。
「それで、それを純さんが咥える」
「こうですか?」
「目を瞑ってください」
「はい」
すみれの言う通り「ちょこれいと」のかかった頭を咥え、目を瞑った。何が始まるのか、内心は不安でいっぱいだった。なぜならこれは甲斐の伝言なのだから。
しばらくすると、ぽりぽりと音がする。すみれが菓子を食べ始めたのだろうか。それなら自分はなんだったのか。抗議の意味で純が目を開けた。
彼の視界に入ったものは……。
「……………」
純は頭が真っ白になった。
すぐ目の前に彼女の顔があった。しかも口には「ぽっきー」を咥えており、距離はないに等しい。
動転する純は何もできず、すみれが接近してくるのを見つめ、そして。
「んっ」
不意に互いの唇が当たった。
甘い味がする。言わば「ちょこれいと」味の口づけだった。すみれの吐息が純の口内で漏れた。
「ん……」
ゆっくりと顔を遠ざけるすみれ。彼女の顔も火が出るように赤かった。
が。
「お、美味しかったですか?」




