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剣戟のその先に  作者: ハクトウワシのモモちゃん
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第三話 遭遇


「やめてください!」

 悲鳴じみた声が聞こえた。

 純は思わず、顔を向ける。

「やめてください!」

 悲鳴じみた声が聞こえた。純は思わず、顔を向ける。

「なんやなんや」

 まわりの人々も反応した。

「なんか、騒がしいなぁ」

「また壬生狼みぶろちゃうん?」

「いやぁ、怖いわぁ」

 断片的な声を拾って、純も野次馬に紛れた。

 そこは三条大橋の手前。人々が行き交う道の真ん中で男が二人と、女が一人。

「おい。女、断るとはどういう了見だ」

「この国を思い、日々勤皇を論ずる会津志士だぞ。酌の一つや二つ自分からするものではなかろうか?」

 柄が悪い男二人はどう見ても浪士だ。言葉を知らないのか、適当なことを口にしている。

「だから、私は買い出しの途中で……」

 そして、掠れた声で答える女性。

 桜の花があしらわれた着物。癖のない黒髪をまとめている。普通の京の町娘だろう。

 純が目を奪われたのは簪だった。

 金色のそれ。高級そうだ。普通の京の町娘がするものだろうか。

「それにしても良い体をしているな」

 一人がじろじろと彼女の体を見る。

「俺、京女は抱いたことねぇな」

「よし、女。少し俺らと遊ばないか?」

 もう一人も下卑た笑みを浮かべた。

「え……」

 潤んだ瞳が大きく見開かれた。

「良いではないか。さあ参ろう」

 浪士が強引に娘の華奢な腕を掴んだ。

「やめて! 離して!」

 甲高い声が響く。だけどまわりは誰も動かない。見て見ぬふりだ。厄介事に巻き込まれたくないのは当然。町人たちは可愛そうに娘を眺めているだけだった。

「離しなよ」

 しかし純は動いた。蛮行を無視できるほど彼の情は薄くない。

「あ?」

 突然の闖入者に浪士たちは怪訝な顔をした。

「なんだお前は?」

「彼女、嫌がってる。離しなよ」

 純は同じことを繰り返す。しかし、浪士たちは鼻で笑うのみ。

「あのな小僧。俺たちをなんだと思ってるんだ?」

「偉そうに二本差しをして。なめたまねしてると斬るぞ」

 一人が鍔元に触れた。

 それを意にも介さず、純は答えた。

「なめたまねしているのはあなたたちでしょ。女性に嫌がらせして」

「てめぇ……」

「そんなに斬られたいみたいだな」

 浪士が呟き、娘を突き飛ばした。

 悲鳴を上げる彼女を、純は倒れる前に抱きとめた。

「大丈夫ですかっ?」

「は、はい……」

 驚くように目を瞬く彼女に純はにっこり微笑んだ。

「少し、下がっててください」

 彼女を後ろに下がらせ、純は浪士たちを見据えて言った。

「もう一つ言っとくけど……、言葉間違ってますよ」

「あん?」

「勤皇って言葉わかりますか? 会津藩は幕府側ですよ」

 平然と言う純に浪士たちは堪忍袋の緒が切れた。

「馬鹿にしやがって! 叩っ斬ってやるッ!」

 この場にいる誰もが息を呑んだ。

 顔を怒りに紅潮させた浪士が抜刀しようと柄を握った。

 純はそれを見逃さない。素早く己の刀を手前に突き出した。

「うぐっ!?」

 その瞬間、浪士の顔が驚愕に歪んだ。

 なんと純は、己の刀の柄頭で、抜刀しようとする浪士の手の甲を突いたのだ。

「く、くそ……っ!」

 微動だにしない自分の手の甲を見て、浪士は青ざめていく。そんな彼に、純はますます力を込めていき、柄頭を押し上げた。

「ぐあっ!」

 浪士の手の甲から嫌な音がした。

「それと。あんまり騒ぐと捕まえてくれって言ってるようなものです。ほら」

 汚い悲鳴を上げる男に純は告げた。彼が指し示す方向から声が聞こえた。

「何の騒ぎだ!」

「退け、新選組だ! 道を開けろ!」

 こちらに向かってくるのは、浅葱色のダンダラ羽織。いかつい顔をした男たちだ。

「あ、壬生狼。これはまずい」

 純は浅葱色を見つけて、すぐさま行動を起こした。腰帯から刀を抜いて、鞘ごと振り回した。

「ぐはっ!」

「ぎゃあ!」

 目の前で呻いている浪士の顔に思いきり殴りつける。もう一人には腹にお見舞いしてやった。二人はその場で昏倒。

「逃げよ」

「え……」

 純は傍で放心していた彼女に手を差し伸べた。しかし、彼女は困惑しているようで、すぐに決断してくれない。

「いいからっ」

「っ!」

 純は無理やり彼女を引っぱって、その場を後にした。




 2014年8月17日:誤字修正・加筆

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