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碧空を翔る  作者: Mr.あぶぶぶぶ
第一章
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第6話

僕は片脚の飛行具をバンクさせ、その脚をもう片脚に絡ませて自転、そのまま捻りをかけてなだらかな降下をかける。残弾ゼロのMP5を腰にマウントし格闘戦にシフトチェンジした。飛行具にフルパワーの魔力を注ぎ込む。脚が痺れるような感覚、限界出力(エクストラパワー)特有の感覚を噛み締め敵編隊の中高度側面辺りを突撃する。


「悪いけど!」


こちらに気が付いた敵がロールをかけ横に滑り込もうとしたが、限界出力で時速760㌔を出しているこちらに優速の利がある。瞬く間に必殺の間に飛び込み出力を切り滑空、音もなく敵の飛行具に刃を突き立てる。


「ひぃっ!」


敵兵の恐怖の声と共に僕は飛行具ごと下へ投げ捨てた。パラシュートの白い花が咲く。また次の目標に亜音速で接近するとまた音もなく飛行具を串刺しにする。そしてまた同じ作業を繰り返す。六騎目を叩き落としたところで第一分隊が急降下をかける。逆に僕は機を上げタカとすれ違う。タカがStg44を乱射すると曳光弾が敵に当たり飛行具を炎上させた。が、その時タカの飛行具を何かがぶち抜き、タカの飛行具は揚力を失い墜ちていく。そのまま下降しながらタカは急降下していく爆撃隊を捉え、ナイフ一本で敵の飛行具に取り付きその刃を突き立てた。


「ナイスガッツ!」


タカがこちらに親指を立てた。親友の勇気に親指を立て応える。そのままタカは飛行場へ降下していった。


「今の狙撃!あの娘かっ。」


あの氷の狙撃手、ミーシャ。辺りを見回すが姿は見えない。見回しながら八騎目を叩き落とし踏み台にしてさらに加速する。そして九騎目を必殺の間合いに収めたとき左下方に光を見た。


「来たな!」


思考よりも早く右にロールをかけ左下方に急降下をかける。命拾いした九騎目がこちらに目もくれずに爆撃態勢をとる。爆弾を抱え急降下、高度六〇〇で両手を放し爆弾を投下したが、高射砲の弾着を受け炎上して墜ちていく。爆弾が飛行場に穴を開けた。その一部始終を見送り、彼女へ一気に接近する。


「どうしてまたっ!」


軍刀を飛行具めがけて一閃、飛行具を引き裂いたと思ったその時、彼女は後方宙返りを決め身体の中心を横軸に 、宙返りしながら落ちていく。傷一つなく彼女はパラシュートの白い花を咲かせ、正方形の穴ボコまみれの飛行場に降りていった。


「一体何が…。」


彼女は予期していたかの如く僕の機動を回避し、嘲笑うかの如くひらひらと舞い降りている。そしてそれを合図に敵の大半がパラシュート降下をし始め、最後にスタングレーネードを光らせた。


「おい!これはどうなってるんだ!状況!観測兵!」


甘津少尉の声、しかしその答えは師団長から聞かされた。


「直掩、制空両隊帰還しろ。話は下でする。」


例にもなく沈んだ声、僕はただ降下し飛行場に降り立った。


「第一分隊、帰還しました。全損二、小破八、稼働実数六!分隊戦果、確実撃墜六五、不確実撃墜零。以上であります。」


航空参謀に戦果と損害の報告をして、師団長室へ向かう。何かあったのかとタカが頭に包帯を巻いた姿でついてきた。


「いいよタカ。けが人が何で報告について来んの。」


「だってよ、万が一空戦の責任とか負わされたらどうすんだよ。」


「大丈夫でしょ、師団長そんな人じゃないじゃない。」


「まぁまぁ、予科練からの付き合いだろ?そう言うなよ。」


「俺は別に予科練出じゃないし…。」


タカは帝国空軍予科練習生出身の純粋な飛行騎兵であって、僕は予科練修了相当という認定飛行騎兵だから階級的には一等飛行騎兵、下から三番目の階級、タカは飛行騎伍長、下から五番目である。ところが、認定飛行騎兵特有の特務故にタカと僕は階級が同じ扱いになっている。


「今度の特務、連邦領空の偵察って聞いたけどよ、お前それほんとにやるつもりか?」


流石タカ、耳ざとい。僕の特務にはそれなりのものがある。帝国軍が表沙汰に出来ないダークな仕事、例えば敵国領内の単独偵察などの国際法上で違反とされる行為だ。明後日僕は連邦領空サモレンスク上空を夜間偵察する予定である。


「まぁね、でも今更偵察なんて行って意味あるのかな。」


思わず苦笑いしてしまう。既に帝国軍は連邦の大規模奇襲を受け国境線を大幅に下げざる負えない状況が続いている。ただ帝国軍もある程度予想はしていた模様で、戦力の整理を進めているおかげかそう遠くないうちに国境線を取り戻せるという。飛行場脇の司令部の階段を上り師団長室の戸をノックする。


「一等飛行騎兵!結城リィン!只今参上しました!」


「入れ。」


重く野太い声が鼓膜を震わす。僕はノブを回し戸を開く。タカも入り、二人揃って敬礼をして師団長の前に立つ。


「呼んだのは結城だけだったと思ったが…まぁいい。事は急ぎだ、聞け、空襲してきた連邦兵約一千人…こいつらが全員投降してきた。」


「やっぱりあの動きはそうだったのか…。」


道理で敵が殆ど抵抗してこなかったわけだ。


「最初に投降してきたミーシャという兵士、カリサという兵士、この両名は情報部曰く連邦革命前のラズェベルン王朝時代の爵位を持った家の娘たちだ。つまり亡命をしようという魂胆で投降したというのが我々の見解だ。本国に伝われば連邦政府にも伝わるだろう。だが一千人もの敵兵を本国に伝えずにここで匿うというのも無理な話だ。」


 「しかしどうすると?まさか――――――――。」


 「連邦領内に逃がす、という案がある。がしかし聞くところによればすぐ発見され彼らは銃殺どころの騒ぎではないらしい。流石にそれを知っていながら一千人を追い出せはできまい。」


 「としますと…?」


 「数ヶ月に分けて本国に報告をすることにした。それでもって志願兵として我が基地に置くという方法だ。ここの防衛力の強化にもなる。」


 「それでしたら我々が呼ばれた理由は何用で。」


 「明後日午前一時より、敵都市サモレンスクに強行偵察を命じる。この件で連邦領内に動きがないかを探れ。いつも通り命令書簡は無い。口頭で詳細を伝える。橘タカ伍長!今回は貴様にも参加してもらう。明後日午前零時にこの部屋に二人で出頭せよ。いいか!」


 「はっ!」


 揃って敬礼をし、踵を返す。今回予想では強行偵察とは言いながらも、敵兵站線の攻撃がメインだろうから装備を今のうちに考えておこう。タカが最後に戸を閉め廊下を歩く。長靴の踵の音が心地いい。僕はわざと音を立てながら兵舎へと歩いた。

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