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碧空を翔る  作者: Mr.あぶぶぶぶ
第一章
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第5話

ミーシャとか言った…彼女と別れて僕は増援なんか送れるかと言い放った我らが第362飛行場へと歩いた。長靴も雨でグチョグチョだ。


「ふう…さっすがに疲れるなぁ…きっと第二次攻勢があるはず…それまでに戻らなきゃ。」


大きく伸びをして湿気に満ちた空気を肺に取り込む。それからただひたすらに歩いて飛行場へ到着すると不時着したタカやら早瀬やらが野戦治療所で伸びていた。


「ようリィン。お前よく無事だよなぁ。俺は一撃で墜ちた。ったく上手くユニットだけおシャカにしやがったぜあんちくしょう!もうあんなスナイパーと戦うなんてもうゴメンだ!」


タカが不貞腐れるのを眺めていた僕は静かに近くにある丸椅子に腰掛けた。確かに彼女の狙撃技術、部隊運用、目を見張る才能だ。貫通こそしてないけどシールドとアーマーには弾痕がいくつも残っている。


「タカ…多分そいつらとはすぐにやりあう羽目になるよ…参ったなぁ…。」



僕から発せられた絶望の予告にタカは深く毛布を被って現実逃避する。そんなタカをまた目で追いながら僕はおもむろにマップを開く。まさか敵も馬鹿じゃあるまいし同じところを攻めてくるとは思えない…そもそも補給はどうなっているのか…あの作戦を立てたのは僕だ、指揮も自ずと僕のようなもの…頭の痛い問題だ…


「結城 リィン一等飛行騎兵はいるかっ!」


唐突に野戦治療所に僕の名が響く。ただこの声には聞き覚えが…この野太い怖い声…第三飛行空挺師団師団長にして第362飛行場長”若草テイ”少将だ…丸々と肉のついた厳つい顔にそれを載せるこれまた丸い胴体がズカズカと僕の元へやって来てこう言い放った


「貴様の作戦見事であった!我々本部も事態の確認に手間取りおってな!てっきり貴様たちは後退すると踏んでいたが…まさかあの連邦共を撃退するとはよくやった!ガハハハハハ!」


いつも大いに不機嫌な少将が高笑いをし僕をはじめこの場にいた将兵が固まった。こわい怖すぎる別の意味で…。ただ僕としては安心などしてられない、弾薬の補充、これが最優先だ。


「しかし師団長閣下!我が基地にはもはや予備の弾薬備蓄はなくーーーー!?」


「ガハハハハハ!貴様らがここを死守している間に酒でも飲んでたとでも思うたか!ガハハハハハ!」


いつも煽りに煽っていらっしゃるではないですか!!!!体内の八割が酒かと思ってましたよ!!と言いかけて思わず笑みがひきつった…いけないいけない。


「は、はぁ…となると補給の目処が?」


おそるおそる聞く。すると自信満々に


「ワシのあらゆる手を使って入手した!これも貴様の作戦が成功したおかげだぞ?」


と聞くやいなや外から歓声があがる。タカに少し待ってろと言い外に出てみるとそこには物資の山がある。


「師団長閣下、現在の戦況を教えて下さい。」


出撃前に僕の作戦を採用してくれたメガネの将校が師団長に質問をした


「おぉ、甘津(あまつ)少尉、貴様無事だったか!んだがそもそも作戦指揮はこの坊主には無かったはずだぞ?少尉、まずそっから話をせい。」


確かに一等飛行騎兵の僕に指揮権なんてない。一瞬で場の空気が凍りつく。


 「はい、国境線を連邦軍が突破したとき我々も事態の認識に手間取りました。そこで彼が案があると言い、私は内容を聞き採用しました。内容は兵術教練にもない独特のものでしたが充分に連邦軍の撃退に成功しました。つまりどう足掻こうとも彼の作戦以外に道は無かったということであり、発案者が彼であったということだけであります。」


 この時点で少尉の立場はずいぶん情けないように思えなくもなかった。正規の用兵学を修めているはずの将校が下士官の作戦そのままに採用というのはこの帝国軍ではあまりいいことではない。


 「ふむ…、だがまぁ我々司令部が混乱しきっていたのだからな。少尉!」


 「はっ!」

  

 「残存の高射砲を集結し簡易の対空網を構築しろ!情報部の話では―――。」


 その時けたたましい空襲警報が兵舎に鳴り響く。そしてそれを上回る少将の怒号で僕らは兵舎から飛び出した。


 「配置につけっ!連邦共にここをくれてやるな!」


 僕らは飛行具を担いで飛行場に走った。既にあたりは夕暮れからさらに暗くなっている。地上要員たちが高射砲に取り付き砲身を天に向ける。僕らは少しの機甲部隊と短い打ち合わせをし、飛行具を装備した。すると櫓のサーチライトが敵の大編隊を捉えたのだ。


 「敵!距離二五〇〇!高度一五〇〇!爆装型!数一〇〇〇強!」


  目を凝らしてみると飛行騎兵が爆装しているのがわかる。


 「あいつらなめてんのか?ピクニックなら他行けってんだ。」


  負傷していたはずのタカがいつのまにか僕の隣で毒づいている。


 「ただちに飛行騎兵は制空用意!高射砲はただちに戦闘開始せよ!」


 甘津少尉が叫びながら先頭に立ち、第二分隊が真っ先に基地直掩に上がっていく。僕ら第一分隊は対空戦闘用のMG42汎用機関銃を装備し敵の殲滅のため遅れて上昇、高度二八〇〇を維持し、直掩隊と敵を挟み込む陣形をとった。


 「少尉!敵情は!」


 「うるさい、一等飛行騎兵如きが尉官に敵情を聞くな!ともかく敵は高度一五〇〇維持のまま、真っ直ぐ突っ込んでくる。貴様らは私たちが交戦し始めたら雲の切れ間から急降下、敵を叩き落とせ。」


 「了解。」


 「リィン!俺らは数が少ない。そう何回も急降下はかけられないぞ?」


 確かに先ほどの戦闘で先頭に立った第一分隊は損耗率が23%を超えており、何度も急降下をかけられる戦力を持ち合わせていない。ただ僕は腹が立って仕方がない。敵だ。さっきから自殺行為の作戦を淡々と続けていることに腹が立っている。


 「大丈夫、みんなはそのまま降下して補充受けて。僕はそのまま空戦に入る。」


 「おい!リィン!危険すぎるだろうが!」


 タカの言うことは正しい。ただ僕は許せないのだ。愛国心でもない、空を自殺行為で散る場所にしようとする人間が許せない。それだけ。


 「敵にはこの空から出ていって貰うよ。わざわざ死にに来るような敵には帰ってもらう。」


 しばらくの沈黙。そしてタカは口を開いた。


 「わーったよ。だけど俺も連れてけ。お前ひとりで何人墜とすつもりだよ…。」


 「だけどケガしてるじゃないかっ。」


 「どうせこの後もケガすんだからな、戦えりゃいつケガしてようが同じだろ。」


 タカが笑う。いい友達を持ったと思った。

  とそこに――――。


 「敵編隊攻撃圏内!制空隊急降下急げ!」


 甘津少尉の怒号が聞こえる。その声を聴くと同じくして僕らは敵機の直上へ急降下をしかけた。


 「第一分隊!突撃!」


 数秒の後、雲を破って僕らは敵高度の一五〇〇へ達した。僕らは驚く。雲を破ってみたらそこには視界いっぱいに敵に飛行騎兵の姿があったのだ。最初目を疑ったが、みんなも覚悟を決めて突っ込む。僕もMG42を敵のフライトユニットに向け引き金を引いた。瞬間、金属を引きちぎるような凄まじい音の後、敵が黒煙を上げ墜ちていった。MG42は凄まじい発射速度のため恐らくあと三斉射したら弾切れだろう。僕は格闘戦をすべくカラのマガジンケースや装備を捨てると、MG42一丁とMP5だけで敵編隊内へ突っ込んだ。

  敵も突然の奇襲に態勢が崩れていたが持ち直し、反撃を加えてくるようになった。


 「うるさいんだよ…、何回も撃たれる為みたくやってきやがって…。出てけよ!馬鹿野郎!」


 僕は怒りに満ちていた。機関銃を滅多撃ちしながら加速する。不思議と敵弾は当たらなかった。弾が出なくなる。


 「弾切れかっ。喰らえっ!」


 弾切れを狙った敵兵に銃床で手痛い一発を喰らわせそのまま機関銃を投げ捨てた。そして軍刀を煌めかせ敵に襲い掛かる。つばせりあうも帝国格闘徽章持ちの相手ではなかった。あっさりと飛行具を斬り叩き落とす。リィンの後ろではタカがStG44を撃ちまわす。


 「リィン!俺らなんてこいつら眼中にない!下の直掩が殺られる!」


 タカが怒鳴る。確かに僕らをまるで相手にしていない。ただひたすらに直掩と基地を執拗に狙っていた。基地の損害も次第に大きくなっている。各地で炎が上がっていた。


 「まずい…。タカっ!僕はこのまま敵中突破するから分隊は上空から再度突入してくれ!」


 つまりこういうことだ。下の直掩を敵は集中攻撃している。そこを僕が敵編隊のど真ん中に突っ込む。さらに上から分隊が突撃すれば敵の持ち直した編隊を再度瓦解させられる。


 「でもそれって!」


  「いいから!ここは渡さない!――――――はやく!」


  僕はそう叫ぶと敵中へと全力で飛んだ。

  

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