第2話
基地より九キロ、僕ら航空隊は二つの部隊に別れて側面の崖を高速移動していた。
「リィン、敵は砲兵部隊と交戦を開始。有利に戦況は進んでる。」
親友のタカが声をかけて来た。
「みたいだね、ここら辺かな。第一分隊上昇突撃!」
僕の号令と共に第一分隊は崖を急上昇する。僕らがまず突撃したのは敵の重戦車部隊だった。
「早瀬!ロケット弾はゼロ距離で撃てよ?」
対装甲飛行騎兵の早瀬に怒鳴る。彼らの扱うロケット弾は貫通力に乏しく、接射による装甲の粉砕が目的、早瀬率いるロケット弾小隊は動きの鈍い重戦車を機動力で翻弄、次々と撃破していく。
「タカ!僕らは狙撃兵を蹴散らしに行こう。」
「了解だ。」
タカの了承と共に二人で弾幕を張る狙撃兵護衛の部隊を襲う。次々と奇襲により敵は斃れていった。
「一気に狙撃部隊も落とそうーー、ってタカ!」
その時には、既にタカは墜ちていた。気が付くと味方航空兵もかなり減った。恐らく狙撃のプロがここに居る。ジグザグに飛びながらふと黒光りする銃身を見つけた。
「あいつか…。」
魔動機を噴かせ直線軌道で距離を詰める。マガジンを取り替えラックに残ったマガジンはゼロ。とそのときだ
パーン!
既に僕は撃たれていた。咄嗟に魔動機の出力を切り、補助翼の空戦フラップを最大までおろして一気に急降下する。そして森に突っ込み地を這うように滑空、それからまた魔動機を全力で噴かせて急上昇、この動きでおよそ15G、体重の15倍の力が全身に加わる。内臓が必死に限界を訴えるが、それを堪え敵の狙撃兵をMP5で制圧していった。
「かなり連携した攻撃…強い。」
実際避けている僕自身ここまで全方位から撃たれるような経験なんてない。かろうじて避けてはいるけどそろそろキツかった。
しかし
突如敵は引き揚げ始めた。
「どういうことなんだ?」
しかしよく見ると一人の女の飛行騎兵が炎上する重戦車へと飛んでいた。通信を聴いた限りでは戦車は全て仕留め、内部の兵士は重傷を負って戦時法に則り捕虜になっている。では今更何をするつもりだろう。
降下して森に降り立つと、その兵士は飛行具を外し、徒歩で森を歩きはじめた。
「何してるんだ…。」
MP5のセーフティをつけ、ルガーを取り出す。そしてじわりと接近して様子を窺う。その兵士は戦車に飛び乗ると内部を捜索しはじめていた。
「なるほどな…だけど連邦兵を放置するわけには…いかないよな?しかたない」
僕は自分にそう言いきかせ歩き出す。ちょうど戦車内部の捜索を終え出てきた。ちょうど背後をとり
「動くな!そのまま両手を頭に添えろ!」
敵は思ったよりも大人しく僕の指示にしたがった。
「お前…連邦兵だな?」
僕の質問に首を縦に振る。ダークグリーンの軍服の肩章にはスコープのマークがある。狙撃兵か。
「どこの所ぞ―――」
とそのとき、連邦兵は突如僕に裏拳をかまし、格闘戦を仕掛けてきた。だが強くとも相手は女、すぐさま押し倒してルガーを彼女の額に押し付ける。
「他の人なら君撃たれてるよ…まったく困るな。」
「ふん、好きにしろ。」
随分ぶっきらぼうな答えが返ってくる。
「まぁ、とにかく君の所属は?」
ルガーを彼女から離し、腕を後ろで組ませて尋問する。
「…。」
あくまでも黙っているようだ。とりあえず尋問はおいておいて先に武装解除を優先しよう。
「答えられないならあとでしっかり聞かせてもらうけど、君のその狙撃銃、ナイフ、あとそれは…拳銃か、全て没収させてもらうよ。」
「好きにすればいい。」
あいかわらずぶっきらぼうだ。
「増援を呼んだから、逃げようとか考えないでくれよ?」
ただ雲行きがかなり怪しい…今は大雨時、一度降ればここは多分洪水になる。そんな心配をよそに一人飛行具の整備をし始める。別に飛行具の整備をしたからと言ってもそんなにすぐに飛べる物じゃないから心配はしてはいないが、遠雷が鳴り始める。
「ねぇ、フライトユニットの整備は結構なんだけどさ、そろそろ雨がやばいんだ。」
「つまりなに?」
「あの少し行ったところの廃陣地で雨やり過ごそうかと…」
そう言って僕は基地とは正反対、つまり西方のさらに西の帝国の廃陣地を指差す。ここから基地までが九キロ。しかも脇には崖の川、他は森林だ。そう考えたら一キロない所で雨宿りをするのが妥当だろう
「私は虜囚の身。貴方に任せる。」
そういってドラグノフをケースに収めるその少女は、黒艶の腰まである長髪に無駄のない体躯、そして顔立ちも含め冷たい氷を連想させる。少女の鳶色の瞳には希望だのと言ったそういう類いの一切含まれていなかった。さらに気になるのはずいぶんと装備が特徴的なこと。確か去年の仮想敵国に関した講義じゃ連邦軍の兵装は狙撃兵はモシン・ナガンって言ってたはず。なのに彼女は武器商人からレアと謳われるSVDドラグノフを持っている。確か世界で十丁無いと言われてた銃だったはず。
考えても考えてもよくわからなかった。
小一時間一言も話さなかった。
これが僕らの出会いである。