第15話
17:30、僕はミーシャと別れて司令の部屋に再び足を運んだ。
「結城リィン飛行騎少尉であります!」
「おう、入れ。」
なんか機嫌がいいな司令・・・。最高に嫌な予感はするが。というか厄介事がこんにちはしてきそうな感じ。
「結城、貴様と第一分隊に命令だ。」
「昨夜よりサモレンスクに展開している敵精鋭親衛軍を殲滅せよ。」
第一分隊には現在稼働機は15騎程しかいないのだが数千倍の戦力を本当に潰せと言っている。半分は地上戦力だからほぼ一方的に殺れなくもない。がアマツカミには150発以上も30mm高初速徹甲弾を装備できるだけの余力が無い。前回は補給中の弾火薬、燃料を使って被害を増すことができたが今回はそう上手くはいかないだろう。
「編成はこちらである程度指定させてもらう。」
「はぁ・・・どのように・・・。」
「第一分隊のうち、約半分にはアマツカミへの機種転換を行ってもらう。」
いや、無理だ。アマツカミはその魔動機の高出力化に伴って、使用者の基礎魔力が低いとまともに反重力の出力すら満足に行えない。つまり飛べない。いや、多分半分くらいなら魔力の足りうるものが居るというのが判断か・・・。
「アマツカミは制式採用を目前にしているが、使用用途が現在はっきりしていない。今作戦では高速襲撃機として大型機関砲2門で出撃してもらう。残りの半分は制空権を保持してもらう。こうすることで敵地上軍の数は大幅に減らせる。」
「敵の親衛航空団はいかように致しましょう。」
「アマツカミの弾薬に15発ほど試作弾薬を入れてやる。type-3と呼ばれる対空用弾薬だ。これでだいぶ成功する可能性は高くなる。・・・やれるな?」
「はっ!」
「この作戦で我が軍は反攻作戦を開始する。総兵力500万を投入するらしい。貴様らが先鋒だ。作戦開始は30日後。それまでは小競合いがあるだろうから極力敵戦力を減らせ。」
確かに開戦から数日では反攻作戦を実行するのは難しいか・・・依然連邦軍は帝国領を 一部占領し、本土侵攻を目論んでいる。最近一気に事件があったから忘れていたが、今後は長い戦いになるかもしれない。
部屋から出た僕はまっすぐに自室に戻った。
翌朝、タカによるドアを蹴飛ばす音で目の覚めた僕はタカに引きずられ格納庫へ向かった。
「なんだよタカ!」
「いいから来いよ!本土からまた馬鹿げたプレゼントだ!」
本土?馬鹿げた贈り物?・・・。吹いた。格納庫の懸架台に固定されていたはずの僕のアマツカミは、わけのわからない巨砲を”固定”されていた。近くにいた整備員をとっ捕まえる。
「僕のアマツカミになにした!?」
「ひぃ!!ほ、本土の技研省命令です!お読みください!」
慌てた整備員から技研省からの命令書と図面、カタログスペックを受け取る。
「”試製多目的戦闘飛行具アマツカミ専用37㎜空対地機関砲”って・・・。手装備のハンドカノンじゃダメなのか?」
仕様書を見るとどうやら機体にマウントが可能になったらしい。脚部側面にマウント、重量はハンドカノンより軽いのか・・・。腕に装備したかった。というかさっきからタカが顔面蒼白なのはなんでだ?
「タカ、どうしたの?」
「なんか陽炎がアマツカミに化けてるんだが・・・。」
マジかよ。司令の冗談じゃなかったのか。
「今日から訓練しろってことだろうなぁ。」
「まぁ戦車吹っ飛ばすのがメインだしな。」
まぁ何はともあれ使ってみるか。
とか、素直に考えてた時期が僕にもありました。そんなものはド三流の顔を見て消え去ったが。
「なんで作戦の主力に第三分隊が入ってんだよ!」
指示書をグシャグシャにして地面に叩き付ける。
「今度の作戦で決着かなぁ?結城少尉殿?」
あぁ!クソッタレ!なんで一番腹立ててる瞬間にこいつはいつものこのこ出てきやがる!
「そらお前の全面敗北だろうよ。ご愁傷サマだな。」
しかもこの前から言っているこいつ、第三分隊分隊長・樺沢タク(からさわ・たく)は僕らと同じ対地攻撃班だ。これだから本土の役人てやつは!!!どうかしてる。戦場の摩擦でも起きたらどうするんだ。そもそもこの三流がアマツカミを駆って僕と同じことをしようってんだからますます腹立たしい。
「お前、思ってること半分近く口から洩れてるぞ。」
タカに言われた。迂闊だった。
「はぁ、とりあえず次の作戦指揮は僕だ。あの浮かれてる豚野郎にもよく言っといてくれ。」
「俺かよ。」
案の定タカが呆れ顔でいう。
仕方ないだろう。僕は奴が嫌いだ。
「自慢顔で言うな。」
どこに持ってるのかタカのハリセンが僕の頭を捉えた。
あぁ流石、ナイスシュート。