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碧空を翔る  作者: Mr.あぶぶぶぶ
第一章
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第14話

 謁見の間に通された私たちは恐ろしく快調に進んでいる話に恐怖を覚えていた。


 「父君の件は大変残念でした。よき科学者だったのに…。連邦は最早国家として果たすべき義務を放棄しています。かつて王政時代に同盟国であった我が爛としても、救援果たせなかったことは未だに我が国の後悔でもあるのです。ミーシャ嬢、是非とも我が国と連邦に鉄槌を下しましょう。」


 「しかし貴国には我らを助けても利点はありません。何か領土、資源か何かで目的があるのですか?」


 「確かに国境線を戻す程度我が帝國には造作もありません。妾はここで一つ貸しを作っておきたいのですよ。今後南下政策を執るためにも北方の安全は確保しておきたい。さらに王政復活後に我が国と共に南下政策を執っていただけるなら我が国にはこの上ない利点となるのです。」


 「仮に貴国の義勇軍として御味方するとすれば、我々はぜひ西部戦線に―――。」


 「問題ありません。昨日より全方面軍を統括、現在他国と隣接していない東部方面軍、南部方面軍を中央軍令部に編入中央軍令部指揮下の下西部国境、北部国境に12個師団を集結中ですから。必ず連邦と戦ってもらうことになるでしょう。」


 「私たちはその師団と合流すればよいのですか?」


 「いえ、旧第六親衛空挺師団の戦闘員は、新編帝國軍第一〇〇戦闘航空団として配備します。航空団司令は貴女にお任せしたい。」


 おかしい、なぜ一兵卒の私が航空団の司令なのか。


 「貴女の指揮は的確且つ迅速であることが我が軍との交戦記録でも判明、さらに貴方はかの”碧の魔弾”と恐れられた狙撃騎兵、我が軍内部で厄介事に巻き込まれないためには相応の階級かと?」


 なぜか二つ名がここにまで知られていたとは…。まぁ悪くない。受けよう。


 「承知いたしました。ありがたくお受けいたします。」


 「ではお二人とも西方へお戻りなさい。第362飛行場を第一戦闘航空団と共用するように。」


 会見はほんの一時間もかからず終わった。


 「速かったですねぇ!まさかミーシャさんが団長とは!」


 「連邦の寄せ集めの戦闘団に帝国の軍人なんか置けないってことでしょう。」


 「なんにせよまずは戻らないといけませんね。急ぎましょう。」


 私たちはそのまま大陸へと引き返した。362飛行場か…そういえば彼はあのあとどうしているのだろうか。まだ連邦の侵攻再開は聞いてないけど…。


 戻りは早かった。帝國唯一の大型四発輸送機連山に乗せてもらい、5時間。大量の支援物資と共に362飛行場に降り立った。


 「ハッハッハッ!流石は陛下だ!これで我が基地は連邦共を一匹残らず追い出せるわ!」


 不愉快な笑い声と共にあらわれたのは若草少将だったか…私は淡々と6日ぶりの兵舎に戻った。何もない。ハンモックに木の机と椅子、ドラグノフは…あぁそうだ。私は外に出て格納庫から愛銃を入れたケースを取り出す。6日振りに見たドラグノフはなんだかひんやりとしていた。頬がバレルに触れる。奴らがお父様を殺したあの日…私は何もできなかった…。家に突然現れた暗緑色の軍服をまとった男たちがお父様を庭に連れ去りその場で射ち殺したあの光景。硝煙の臭いが鼻孔をつく。私はただお父様の言いつけを守ることしかできなかった。陛下より賜ったこのドラグノフと共に12歳の私は逃避行を続けた。が、たかが12歳の少女が連邦の国家警察から逃れられるわけなく、捕まり政治犯専門の兵養成施設に入れられた。ひたすらに愛銃だけを頼りに殺しの技術を磨いた。反乱鎮圧に駆り出され、何人も一緒にいた仲間が死んだ。いつしか私だけが初期のころからの兵隊だった。うれしくもない二つ名でもてはやされ、こうして母の母国である帝国の軍人になろうというのだから皮肉なことだ。母はお父様と結婚寸前であったが脚気に罹りこの世を去ったのだと言っていた。ただお父様は母の前に一人妻を迎えていた。けれども連邦警察に監視され妻に危機を及ばせまいと別れたのだという。


 「お父様……。」


 視界いっぱいに涙が広がる。前が見えない。…誰かいる…。入口の裏に人の気配を感じた。私はナイフを思い切り木製のドアに突き立てる。貫通した刃は相手を威嚇するのに十分だった。


 「誰!」


 怒鳴る。


 「ゆ…結城だよ。」


 流石に焦ったのか。声が僅かに震えていた。


 「これは少尉殿…失礼しました。」


 かろうじて言葉にしナイフを引き抜いた。


 「いや当たるとは思わなかったからいいんだけどさ…。君特別編成の戦闘航空団の団長だって?内部通達で来てた。」


 「そうよ…何か問題でも?」


 「いや全く。だけど君らが亡命してまでやりたいことがあるなら力になりたいな。」


 「へぇ、でもあなたは直接は関係ないんじゃないの?」


 「まぁそうなんだけどさ、守るものがあるとかさ、生き延びたくて戦うならそれは正しいと思うさ。けど奴らは兵の損耗を考えてないじゃんか。最早戦争じゃないよ。7年前の粛清の時と同じだよ。」


分かったことを言ってくれる……こいつに何がわかるの?


 「はぁ…呆れた。とんでもないお人好しなのね。」


 「残念だけど結構よ。私たちだけで連邦は屈服させてみせる。それと少尉、貴方たちは自国の任務に忠実であるべきよ。それが軍人の本分。それに遠からず貴方も連邦領侵攻に参加させられるでしょ。」




 踵を返すと自室へと入った。父を直接射殺し現在連邦政府最高主席の座に上り詰めた屑。奴の頭に風穴を開けるのは私だ。

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