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碧空を翔る  作者: Mr.あぶぶぶぶ
第一章
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第10話

僕とタカはギリギリ少将の指示した時間丁度にドアをノックすることに成功した。M36野戦服に着替え、階級章と国章、機体のマーキングも外した。装備も準備万端、つまりあとは指示を受けるだけ。


 「結城リィン飛行騎少尉、橘タカ飛行騎伍長!参上しました!」


 「入れ。」


 少将の声と共に僕らはドアを開ける。


 「時間ピッタリに来るとは良い心がけだが廊下を走るなと何度言えば理解する貴様ら。」


 「はっ!申し訳ありません。」


 「まぁそんなことを言いに呼び出しているわけではない。聞け。」


 そう言い少将が作戦棒を伸ばし、近くの端末に軽く触れた。すると僕らと少将の前に大きな光のマップが現れる。


 「一昨日貴様らに言ったように目標はサモレンスク。ただ我が帝國は連邦の攻撃に対して被害者的立場を政府はしている。つまり大々的に連邦領内を攻撃する訳にはいかない。」


 「それは今まででもそうですが…。」


 「しかしサモレンスクは連邦の優秀な軍需都市だ。ここから生産される機甲師団の数は馬鹿に出来ん。そこで貴様らの二騎でサモレンスクに強行偵察の上軍需工場をできる限り破壊してほしい。」


 「具体的な場所と配置、目標の最低数はどれくらいですか?」


 「あとで情報部の偵察情報を回す。確認しておけ。なお捕虜になりそうな場合は今まで通り自爆してもらう。目標帰投時刻は帝国時間午前五時までとする。いいかっ!」


 「「はっ!」」


 敬礼をすると僕らは再び格納庫へ走り飛行具を装備する。膝下が呑み込まれ魔力が魔動機と接続され、飛行具を装備すると逆三角形の大型翼がスライドする。格納庫要員が機体拘束具をパージし機体が浮き上がる。大型の魔動機につながったジェット羽が爆音を立てて回転する。5Cm対空砲を担ぎ給弾ベルトを巻き付ける。


 「やっぱり重たいね。演算結果より重たいから後で調節が要るかもなぁ。」


 「対戦車砲担いで言うセリフじゃねーよ。とりあえずその様子だと俺の制空次第ってわけだ。」


 「今回ばかりは託したよ。これじゃあ空戦ができないからね。」


 「じゃあ一丁暴れ倒すとすっか!」


 「了解!特務を開始するっ!」


 四つの魔動機の青白い灯りが瞬く間に真っ暗な夜空を駆け抜ける。




 




 飛行場の森に怪しげな影が一つ。



 「敵は二騎、片方は見たこともないバケモノ装備の模様。進路〇二、予測ポイントはサモレンスク。守備隊は厳戒態勢を敷かれたし。」


 「了解、アサシンご苦労だった。そのまま帰投せよ。」


 「は。」



 怪しげな影はそのまま連邦領内の方へと溶け込んでしまった。





 「タカ、嫌な予感がする。視線みたいなの感じた。高度を上げて雲の中に入ろう。」


 「何も感じなかったし魔力針にも反応ないよ。さっさと終わらせるなら高度上げなくてもいいだろ。」


 「いや、たぶん連邦に見つかった。このままだと敵は三十分足らずで迎撃態勢を整えてくるから。針路も変えよう。予定より大幅に遅れれば油断すると思うんだ。」


 「分かった。ちょっと抱えるぞ。」


 そういうとタカは僕を機体ごと抱え鈍重な分の上昇力をカバーする。


 「いざとなったら爆撃みたいに放り出すからな。」


 なんというかさながら輸送されているようでおかしかった。


 「高度五〇〇〇まで上昇。耐寒術掛けとけよ?」


 「オーケー!少尉殿。」


 「止めてくれよタカだってあと一五騎でしょ?」


 「お前一五騎を数騎と勘違いしてねーか?あと数か月はお預けだな。」


 「ほら、今夜だって勲章の方からこっちに飛んでくるよ。」


 飛行騎士としてスコアを稼ぐのは自信にもなる。ただ最近は命まで奪う飛行士が出てきているため手放しに喜べなくなってきているのが現状。


 「さすが帝国の撃墜王は次元が違うね。」


 「試しに3Cm対空砲でも使う?僕の苦労が分かるよ。」


 「俺が好きなのはヘッドオンと巴戦だけだ。ロマン砲なんて御免だね。」


 「好き嫌い言ってられないのが撃墜王なんだよ。」


 「雲の上に出るぜ。丁度三〇〇〇メートルつったとこだな。」


 雲を突き破り上へ出ると銀に輝く月光が眩しかった。雲量は少ないものの雲を抜けて見る月は格別だ。


 「データを確認。なんだこりゃ、攻撃最低数で三十箇所、予測される戦車の数は六百両…。いくら格納庫にしまわれてるとはいえ…。」


 「そろそろ針路を戻して。緩やかに下降してこう。五〇〇〇メートルも要らないかもね。降下角マイナス五度。」


 タカは僕から手を放し並列に編隊を組みながら緩やかに下降し始める。


 「了解だ。この地点からなら想定会戦時刻より四十分は遅れるな。」


 「敵が油断かあるいは警戒騎が着陸してくれてればいいんだけど。」


 「お前は地上目標が最優先目標だ。敵の飛行騎士は俺が機銃掃射で上がれないようにする。」


 「期待してるよ。もしかすると一五騎くらいあっという間に片付くかもよ?」


 「そういうお前は今度は地上の天敵にジョブチェンジか。」


 「いいかもね。低空のスリルってやつは早瀬から散々聞かされてるし。僕としては腕試ししたくなるよ。」


 「実戦で腕試しとか気持ち悪いわ。でもお前の基本回避行動ってツリートップ飛行じゃん?慣れてね?そういうの。」


 「まぁそうなんだけど。っと、そろそろお喋りはお終いだよ。」


 「雲を下ったらサモレンスク直上だ。電波探針儀にも引っかからなかった。敵騎の反応も少ないな。気味悪いくらいだ。」


 「じゃあそろそろ仕掛ける?」


 「直角降下で六〇〇まで降りたらお前は更に降下して出動してきた戦車を片っ端から潰してくれ。特に対空戦車は真っ先に潰せ。お互いに厄介だからな。」


 「了解。ホバリングで移動するからなぁ。上からの攻撃はタカに任せた!」


 「おし、じゃあ突っ込むぜ!」


 「降下!」


 一気にスラスターを全開にする。速度計はみるみるうちに上昇していく。最高に気持ちいい。風を切る。ゆっくりと対空砲を正面に向けた。照準器を覗き込む。十字の真ん中には重戦車の天板。いける。


 「ひとつ!」


 引き金を引く。金属の炸裂音と共に砲弾が光の尾を引き重戦車の天板、さらにその砲塔後部末端に吸い込まれた。瞬間の沈黙の後凄まじい爆音と閃光に呑み込まれる。重戦車の弾薬庫を吹き飛ばされ付近の戦車の弾薬燃料が誘爆、格納庫もろとも工場が崩壊する。


 「よしっ!情報通り。次っ!」


 ほぼ直角地表数メートルのところを飛ぶ。けたたましいサイレン音とともに基地中に灯りが灯る。


 「リィン!奴らがお目覚めだ!それと警戒騎の撃ち漏らしが来るかもしれない!そのバケモンで吹っ飛ばしてくれ!」


 「タカもまだまだだね!いいさ、片っ端から叩き落とすだけだ!」


 「お前の後ろっ!敵騎がニ!真っ直ぐ突っ込んでくる!」


 片っ端から落とすとは言ったものの、正直ハンドカノンで飛行騎士を撃ったら木端微塵だ。正直MP5だけで対空戦闘は厳しい。


 「騎士を相手にバケモノ撃つのは気が引けるからなぁ…こいつで勘弁!」


 僕は対空砲を右手で肩に添え、左手でMP5を撃つ。構わず敵は突っ込んで来た。


 「手加減すんなってか…。」


 仕方ない。右手の怪物で彼らを撃たなければならない。この精度と距離なら直撃、彼らは即死だろう。かと言ってミーシャのように飛行具の出力部だけを消し炭にするなんて芸当は出来ない。でも今まで不殺で撃墜してきた僕にとっては撃ち殺す決心がつかなかった。


 「どーすっかなぁ…。」


 引き金に指をかける。頼む、頼む―――――。心臓が苦しい。一秒が何十分にも感じられた。とその時―――――。 


 「ウラァァァァァァ!」


 その叫び声とともに目前のニ騎が揚力を失い地面に不時着した。


 「は?」


 「わりぃ!リィン!って、ああ?」


 「地上攻撃に俺を呼ばないとかふざけてんのか!てかイジメかっ!」


 「特務だし、むしろ何で来たし。」


 その雄叫び急降下をした男、それは対装甲科の早瀬タケヲ(はやせたけお)だった。早瀬は多連装ロケットランチャーを担ぎ、もう片手に軍刀を煌めかせていた。


 「お前が軍刀使うガラかよ。てか空戦出来んのかよ鈍足。」


 おうタカ、ストレート過ぎるよそいつは。


 「一応予科練同期に何て言い草だよ。まだ一か所しか吹っ飛ばせてないじゃないか!」


 「そうだな!お前も手伝え。」


 「ハハハ、虫が良すぎだろドングリ頭。」


 「鈍足、テメェはリィンと仲良くブリキ缶飛ばしして来い。本気出せよ?クソッタレ。」


 適当に罵倒しきった僕らは迫りくる敵騎と砲弾、銃弾をすり抜けながらそれぞれの目標を殲滅して行く。


 「早瀬がいると早いねぇ!装甲なんてクッキーだ!」


 「喰えないのが残念だがな!」


 そう言い早瀬はまたロケット弾を放つ。着弾するとまるで格納庫の装甲を紙のように圧し折り、さらにもう一発を放つことで周囲が阿鼻叫喚地獄絵図のような大火災に見舞われている。


 「こいつもロケット弾みたいに派手に吹っ飛ばせればね。」


 「さっきっから迎撃してくる戦車片っ端から吹き飛ばしてるお前にロケット弾なんていらねぇよ!」


 「ここで最後だ!タカ!降りてきて!帰還しよう!」


 「了解!」


 タカはバンクしてこちらに降りてくる。


 最後の格納庫に早瀬と照準を合わせた―――、その時。




 「人んちに土足で上がりこんで荒らしまわるゴミどもはテメェらか?あああぁぁぁん?」


 格納庫の扉が自動で開き屈強そうな影が姿を現した。


 「やべぇぞリィン…。」


 「結城、逃げるぞ…。」


 「どうやら手遅れだよ…、二人とも…。」


 まばゆいサーチライトに僕らは照らされた。特務だから自爆相当の場面。ただ僕らの国籍は今はない。飛行具にも装備にも帝国の国章である鷲と赤ぶちの黒い三日月は描かれていない。


 「ドォォォコの野良犬だぁ!あぁぁぁん?」


 奴が怒鳴り喚く。無視して言葉を続けた。


 「あいつ諸共サモレンスクの連絡線一帯を潰せば万事解決だ。」


 「「ナニイッテンダオマエ」」


 


 撃墜王は頭のネジが足らないようだった。否、ネジ留めなんてされてなかった。 

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