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海賊と私  作者: アルタ
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イカレタ厨房

 ただいま戦場にて待機中。

「図面もって来たぞ!」

 クルーの一人がと手書きの図面を広げると、大きな部屋にあちこち物品の配置が描かれていた。ただ、描いた本人もいまいちわかっていないのか、物品の後ろに?マークがついているものもしばしば。シムはゆっくり頷く。


「よーし者共!今より”オペレーションD”開始する!

 作戦名うきうきキッチンピカピカ大作戦!!!!!

 油飛び散り、しょうゆこびりつく、このイカレタ厨房をピッカピカにしてやろーぜ!

 イエアーー!!!」

「「「「「おおおおー!!!!!」」」」」

 アリシアもモップとゴミ袋を片手にいざ戦場へ走っていった。




「……なんか騒がしいな」

 キースがふと航海図から目を離してつぶやいた。

 確かに遠くから、どんがらがっしゃんという金属の音から「うおーー! 下敷きになったばい!」という叫び声のオプションまで届いてくる。確かにいつもと違う光景にヨシも航海図に印をしてから目を上げた。


「ああ、多分シムたちとアリシアが厨房の掃除をしているのだろう」

 料理当番は交代制なものだから、次の奴が掃除すれば良いとばかりに押し付けた挙句の結果が、汚れが積もっていくばかりの厨房である。まあ、これまでは多少の食中毒が出たとしても、強靭なる胃腸のおかげで乗り切ってしまえたが、さすがに一般人を巻き込むのは甚だ不名誉であると考えたのだろう。


「料理が安全で美味いことにこしたことはないが」

 キースはなんとなく不服そうに少しかがんでブーツの紐を結びなおし、「あまり深入りしない方がいい」と加える。そう言っているキースが一番気になるようなのだが。


 皆、この100年で充分すぎるくらいわかっている。

 ゆっくりと、でも確実に周りでは時間が流れ、歳をとっていくのに、いつまでもかわらない乗組員。それに気がつかれないように、ひとところには落ち着けない日々。人とかかわりあうことを避けるのが辛くて、人が恋しくて、陸へ降りた奴らもいた。だが、20年もすれば大抵のものはここに戻ってくる。


 いまアリシアと一緒にいるのは、多分、それでも、それでも一緒にひと時の時間を過ごしたいと思うからじゃないだろうか?

 大抵の者はヨシの妹のアリシアを知っている。それで少し祖国を思い出し、懐かしみたいのかもしれない。


 まだ声が聞こえてくる。

「あれー? この大きなお鍋、壁に食い込んでいるみたいなんですけど?」

「ほんとだ。適当に積み上げて押し込んだから食い込んでしまったのかなぁ?」

 その瞬間、キースは勢いよく立ち上がって台所へと走っていった。

「そういえば40年前くらいの嵐の晩、暗礁にぶつかって……とりあえずなんか詰めようって……ん?」


「おい! 待て!はずすな!!!」


 キースの大声が響くのと、ザバーーーっという水が入ってくる音が重なって……ヨシも緊急事態であることを察知し、急いで台所へ向かった。


「まったくあの時の修理班、完全に忘れていたな? まあ少々海に投げ出されても、サメの餌になるような奴は……」

 そこまで考えて彼は、はっと気がついた。


「アリシア!」


 勢いよく台所の扉を開けると、大量の水が流れ込んだ影響で船が揺れる。


「うわっと! どうなってる!」

「よっさん! 何人か放り出されて! アリシアさんがその中にいて!!! キースさんが『シートですぐフタしろ!』って叫んで海へ飛び込んだ」

 シムは大鍋で穴を押さえようとしながら、どばどば流れてくる水をかぶりつつ叫ぶ。


「海に放り出された??? 外はサメがいる地帯だぞ! おまけに潮の流れも速い、流されたらまず助からない。」

 アリシアはもちろんのことだが、キースも無傷じゃすまない事態に彼は真っ青になった。

「そこの3人はシムを手伝って穴をふさげ。手があいた奴ら! こっちへこい!」

 なるべく冷静になるよう言い聞かせながら、サメが嫌がる薬品とロープの準備を手早く近くにいた奴にいいつける。急いで甲板に上がり、はしごを下ろした。


 ――あまり深入りしない方がいいだなんて、そういうキース自身が一番深入りしているのではないか。


 次々と流されたクルー達が戻ってくるが、彼にはキースとアリシアの帰りが遅いことが気に掛かる。

「おい、もしかしてサメがでたのか?」

「よっさん、サメ出てます。この船の近くは薬のおかげで急いで戻ってこれましたが……。アリシアさん、体重が軽かったのと穴の近くにいた分……げほっ」

 流された可能性が――


 ヨシは上がってきたクルーに船を潮の流れに沿って移動させるように指示すると、祈るような気持ちでマストに登って二人の姿を探した。それほど波が強くなかったのが幸いして、ほどなくして二人の姿を見つける。

「右舷面舵いっぱい! 目標! キャプテンキース!」


 しかし、単純には喜べなかった。

 なぜなら、そこは血の色で少し赤く染まっていたからだ。

 心臓が……早鐘のように鳴っていた。

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