海賊船長の配慮
――ここが俺の部屋
キース様がそう言ってしっかりとした樫の木で出来たその扉を開けると、奥には広い個室があった。小さなテーブルと椅子。ワイングラスと、ベット。
「ここは鍵がかかるからな。安心しろ」
くっくっくと笑いを押し殺したような声がしてドアの後ろを見ると、確かに小さな錠前がついていた。
いや~その~あの~……助けてもらったことには感謝してますけど、(ちなみに人工呼吸とはいえキース様、キスは上手かったですけど)そ、そこまでやれと~~!?
覚悟はしたものの、ぐあああああっっと顔が真っ青になってくる。
暗いから見えないだろうけど、うわー、うわー、キース様の手が近づいてっ!!!
!!!
ぎゅうううううううっと目を瞑ると、ぽんと頭の上にキャプテンハットがのせられた。
「っ?」
恐る恐る目を開けると、
「っ、はっ! ははは。笑って悪かっっぷくく」
キース様が腹を抱えて笑っているではありませんか!
「な! なんだってんですか!」
ぎゅむっと頭の上の帽子をにぎって、少し後ろに下がって眉をひそめると
「愛妾だの、メイドだの、ご奉仕だの言ってるから、どんだけ男スレしてるかと思ったら……逆にあんまりにも免疫なくっくくく」
と、手をパタパタ振りながらうつむいてキース様は息を整えた。まだ肩が震えているから笑っているのだろう。
ちょっとムッとする。そ、そりゃあ、知識は一応ありますけど、実践は別問題です!
「アリシアは愛らしいな」
そ……それって……
「馬鹿にしてます?」
むむむ。なんだかすっごくからかわれた気がするんですけど。
もう一歩、じりっと後ろに下がって睨むと、
「いや。むしろ、そっちで良かった」
なんて少し優しく口元を緩めてキース様が微笑むものだから、また顔が真っ赤になりそうで、慌てて顔をキャプテンハットで隠す。自意識過剰だった自分が恥ずかしくて、どんな顔をしたらよいのか分からないし、もちろん顔を見られるのも恥ずかしいけれど、キース様の顔を見ると、ますます紅くなりそうで。
そうしたらきっとまた、からかわれるに違いないし! 帽子で顔を隠した上に、目もぎゅううううっと瞑る。
「じゃあ、今晩はここで寝ろ。俺はヨシ達のところへ行く。明日朝食のとき全員にお前の紹介をちゃんとする。それまでその帽子を持ってろ。一応船長の俺が認めたと言う証だし。気に入ってるから、なくすなよ」
キース様は、ゆっくりと言い聞かせるようにそれだけ私に伝えると、小気味よいブーツの音を響かせて去っていった。
おそるおそる帽子の横から顔を出すと、もう、キース様の姿は見えない。
――もしかして気を使ってくれたのかな?。
夕飯が4人だけだったのは、私が事情を話しやすくするため?
キース様が鍵付きの自分の部屋を貸してくれたのは、私が安心して眠れるように?
それから、この帽子は、私が船で困らないように?
そこまで考えて、それからキャプテンハットを、少し握り締めすぎてしわが寄ってしまったそれを見つめる。赤と黒のそっけなくて、シンプルなそれからはかすかにシャンプーのいい香りがした。
頬を寄せてみると、これからどうしようとか、この先どうなるんだろうとか、そういった不安もなんだか丸ごと包まれているようで安心する。
「こんなに優しくしてもらったのって……初めてかもしれない」
意地悪で自由で優しくて同じ目線の人。
「あ、キースさん帰ってきたー」
「シム、お前の考えは邪推だったろう?」
キースがヨシの部屋へ行くと、部屋の主は丸めたハンモックを1個脇に抱えて迎えてくれた。
「なにが??」
ハンモックを受け取りながら怪訝そうにシムを見る。
「キースさんが破廉恥なこと、アリシアさんにするんじゃないかと心配で心配で」
「……(無言でパンチング)」
「うっす!」
「キースは信頼があるんだか、ないんだか、よくわからんな」
苦笑しながら部屋一番の大きな主が、ふっとランプの光を消す。就寝の時間だった。




