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海賊と私  作者: アルタ
2/15

嵐の晩に出会ったもの

「キース、今日はやけに湿っぽい風が吹いている。嵐がきそうだ」

 航海歴100年ともなると近衛隊員殿もさすがにベテラン航海士なるらしい。以前から鍛えあげた体躯を持つヨシは、あっという間に海賊船になじんでしまった。まあ、人それぞれで、相変わらず雷が怖いというシムのようなケースもあるのだが。

「後は任せても?」

 対するキースも同じようなものだ。100年も彷徨ってりゃ、王宮にいた生活からすっかり海賊生活になじんでもおかしくないだろう。

「おう、ここは任せて、先に風呂でも入ったらどうだ?」

「じゃあ、そうさせてもらおう」


 ぽつり、ぽつりと雨が降り出し、風が出てきた。空はどんよりした雲で覆われており、次第に低くなり始める。だんだん雨が激しく叩きつけ、空が光ったかと思うと轟音を轟かせる。船は上下に大きく揺れて、優雅なバスタイムどころか、ぐしょぬれになった船長が窓の外を見ると、何か白いモノが窓に当たった。


「!!!」


 それを見たキースは天井から下がった赤い紐を力強くひっぱり、出てきたラッパのような伝言機に向かって思いっきり叫んだ。

「人が浮かんでる!」


「よっさん! キャプテンキースがどざえもんを見つけたそうです」

 クルーの一人が伝言機から耳を離して、甲板で帆を片付け終わったヨシに向かって叫ぶと、彼はマストに捕まったまま目を凝らして海を見やった。波しぶきがひどくて大変見えにくいが、何かが浮かんでいる。

「あそこだ! おい! ロープ貸せ!」

 そういうなり投げられたロープを引っつかんで嵐の海へ飛び込んでいく。波が高い上、雨が横殴りに降っているので落ちたかどうかさえ分からないのだが。ロープを掴んだままのクルーは急いで太いマストにその一端を括りつけた。シムがロープを伝って下を覗くとヨシが白いものを抱えて手を振っている。


「手が空いてる奴ら! 引き上げ手伝え!」

 歳をとらないぶん体格は大人の海の男には負けるものの、体力と経験は豊富なため、数人がかりで何とか引き上げることが出来た。

「おい。生きてるか?!」

 白い服の少女の生死を確認しようとヨシは彼女の顔を見て、そのまま固まってしまった。

「アリシア? なぜこんなところに……」

 なぜなら彼に生き別れの妹にそっくりだったからである。


「よっさん!息しとらん!」

 脈をみていて、ハッと気がついたようにシムが叫んだ。

「!」

 何とか事情を聞きたい、本当に妹なのか、どうなのか、今までどうしていたのか。100年も経っていたら記憶もあやふやだが、ここで失ってしまってはいけないと彼は我に返る。

「シム、人工呼吸。俺が手ぇ出す訳にはいかん」

「よ! よっさん!!俺とアリシアさんは、まだそんな関係じゃ……」

「あほう! 迷っとる場合か!」

 そのとき大急ぎで服を着たキースが走ってきてシムに1発蹴りを入れると、彼はわき腹を押さえたままもんどりうって甲板に倒れこむ。

 キースは腰のベルトにはさんだナイフを取り出すと、彼女の肺を圧迫していたドレスの組み紐を切り裂いて気道を確保した。


「シム。見たくなかったら後ろ向いとけ」

 それから大きく息を吸い込んで、ゆっくりと空気を口から送ってやると、



「う……げほっげほっ」

 その少女は息を吹き返したのである。

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