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海賊と私  作者: アルタ
12/15

引き止める声

「そこの2人、待て!」

 不意に俺たちは呼び止められて身を堅くした。

 この声。

 アリシアが帽子を深くかぶってチラッと後ろを振り向くと、シャムロック提督が息を切らして立っていた。

 手にはアリシアの白いドレスを持っている。あいつからの贈り物だったのだろうか。質の良いものだから店主が飾っていたのかもしれない。とはいえ見つかるのがあまりにも早いことに唇をギュッと噛む。


 まずいな。


 逃走経路をいくつか考えるが、ここまでくると道はほとんど一本で、途中で巻くことはできない。

 もう船まで一直線に走るしかないが、相手は健脚のようだし追いつかれてしまう可能性が高い。


「アリシア……なのか? この服、見たことがあると思っていたら、今度は入ったパスタの店で、アリシアの作った料理の味がして驚いた」

 ストーカーかよ!?と突っ込みたくなるシックスセンスに、がっくりくるが、落ち込んでいられない。あいつもだてに最年少で提督はやっていないはずで、つまりは頭が悪くないということだ。


「人違いだろ? 悪いが、そろそろ船の出港時間なんでな。失礼する」

 アリシアの手を引っ張って逃げようとすると

「どうせ今、どの船も抜き打ち捜査をやっている。それより俺の人違いかどうか確かめさせてくれないか?」

逆に近づいてきた。


「提督かお偉いさんか知らんが、そうやって女を連れ込もうとするのは気にいらないな」

 アリシアを後ろに回して俺は出来るだけ余裕の笑みを浮かべる。


「そんなことはしない。ただ、純粋に探しているんだ。船から落ちて、もうだめだと思っていたら彼女の服が売られていて、聞いたら君たちが売ったものだと聞いてね」

「あんたが会いたいと思っても、向こうは会いたくないかもな。まあ、どちらにせよ俺らは別の大陸から仕入れたものも売っているから、単なる似た服だったのかもしれないし、その探し人が向こうで売ったものかもしれない」


 自分でも苦しい言い訳だと分かっていた。

 店の店主に確認までとられてしまっていては、何らかのつながりがあるとの証拠を提示してしまったようなもので、向こうが手がかりほしさに詰め寄ってくることは考えるまでもない。

 何もいえず、じりじりと後ろに下がる。

 とっくに集合時間は過ぎている。ヨシたちが近くまで迎えにきているはずだ。そこまで下がれたら。

 しばらく睨みあいが続く。


「……お前、どこかで見た顔だな?」

 そりゃあ、海軍の執務室で話題の海賊キャプテンキースとは俺ですが。

 よくもあんな古ぼけた手配書まで覚えていたな。

 感心しつつもこんな状況でばれそうになっているのがなんとも情けない。

「同じ海にいるなら、すれ違うこともあるだろうよ」

 奴の勘のよさにつくづく舌打ちしたくなってくる。


「違う。そういった記憶じゃなくて……」

 何かを思い出すように、奴が何かを思い出すように頭に手をやったそのとき、

「提督!そいつ!超大物指名手配犯のキャプテンキースです!!!」

後ろから聞こえた大声と同時に俺はアリシアの手を引っ張って全速力で走り出した。

 あまりのスピードに彼女の顔を隠していたフードが背中に落ちる。


「アリシア!」

 シャムロックの「やっぱり」という意味を孕んだ声が追いかけてきて、

「捕まえろ!」

続いて命令が飛び、

「まっかしてくださいっす!」

という明るくもこの場にそぐわないのんきな声が側面から現れる。


 買い物袋を放り出し、できるだけ身を軽くして、その買い物袋で側面から出てきた奴を上手く交わして、進路を阻みつつとにかく逃げる。まあ補給用の日用品なら次の港でも問題ない、……て!???


 さっきの側面からの男が全速力で迫ってくる。足が速すぎるだろう! お前!

 こっちは2人で分が悪い!


「キース様っ!」

「しゃべんな! 舌噛むぞ」

 もう少しで港につく。船まで行けばなんとかなる可能性が高い。

「ミルフォード様が、待ち伏せていらっしゃいます」


 ふと前を見やると、さっきテーブルに座っていたタレ目の男がいた。

「……ちっ」

 かなり距離は縮まっていて、追いつかれるのも時間の問題だ。


「キース様! 置いていってください! 一人なら逃げられますっ。このままじゃ私、キース様に大迷惑を!」

「この余裕がないときに馬鹿言うな!」

「キース様は海賊なんでしょう? でしたら、私待ってますから」

 そこまで言って、アリシアはにっこり笑うとパッと俺の手を離した。



「奪いに来てください」



 スローモーションのように離れるアリシアをみて、まるで演劇のようじゃないか、と、どこか冷静な自分が囁いた。

 それも彼女が反動でしりもちをついた音で我に返る。

 白い石畳の上なのに、立っている感覚があまりないが、これが演劇ならば、第2幕のために役者は引っ込まなければならない。


 追いついてきたシャムロックが急いで駆け寄って彼女を助け起こすのが視界の端に見えた。

 このままでは俺も捕まると判断して、壁を蹴ってミルフォードとやらの海兵の上を飛び越える。


「捕まえろ! キャプテンキースだ!」

 警報音が鳴るが、それを聞きつけてやってきたシムたちと合流して逃げ切った。

 海へ出てしまえば、俺たちに敵う奴はいないが……


「アリシア」

 あんなに帰りたくないといっていたのに、守れなかった。


 守れなかった……。

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