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海賊と私  作者: アルタ
11/15

港町での買い物

「……ということでアリシアが正式に船の一員となった」

 俺がさっと告げると、船員たちは全員ガッツポーズをして喜んだ。

「上手い飯が食える!」

 まあ、たいがいの共通した理由はそれだったのだけれども、一部はほのかな気持ちを抱いて喜んだのであった。


 そういうわけで、船はヨシに任せて俺とアリシアは町へ買い物に出掛けた。

 勿論色々ばれてはまずいので、俺は普通の船員服に帽子をかぶって、アリシアも同じような格好をしたのだが、よく考えればこんな子供が伝説の海賊などと思うはずがない。

 あと、「何枚でも買ってやる」というのに「そんなに働いてませんから!」とアリシアは、初めて会った時に着ていたヒラヒラのドレスを売ってお金にするらしい。


 最初は見慣れない町の様子に驚いたアリシアも次第に打ち解けていく。

 この町は青魚のオリーブオイル漬が特産だというと、魚屋の幌の前でウンウン唸り、買い食いできるようになっているポテトフライ(皮付きのままわざわざ二度揚げしてあるのでカリッカリになっている)の前でまた唸っているのを見ると、意外と食い意地が張っているんじゃないかと疑ってしまう。

 実際口に出してみたら、「新メニューの検討のためにですね、美味しい料理を食べてみたほうがいいかなって」などと反論していたが、目が屋台に向かっていたから多分図星だったのではないだろうか。


 しかしまあ、洋服に関しては、

「キース様! これ、キース様に似合いそうですよ!」

 うきうきと買い物に出掛けたわりには自分のものより俺のものを選びたがるらしく、もともとの性格なのか、習性なのか分からない。


 かわりにアリシアの服は俺がそろえる羽目になってしまった。

「そうだな……これと、それと、あ、あの服が良い」

 アリシアが例のドレスを見せるとその細工に驚いた主人が3着の庶民服と交換してくれる。随分と値打ちものだったようだが構わないのかと問いかけると、

「私、黒と白以外の服が着てみたかったんです!」

とわけのわからない返事が帰ってきた。確かに白と黒の服は染色の関係からカラフルなものよりも安く手に入る場合が多いが、そもそも高い服を着ているというのであれば、関係ない気がする。まあ、本人が喜んでいるなら問題ないか。


 ついでに軍手や雑巾などの日用雑貨と、新品のロープを購入し、通りから1本路地に入ったところに面している日当たりの良いカフェに、2人で食事をとろうと店に入った。直栽培しているトマトを使ったトマトソースで作った料理はどれも美味しい。魚の類が新鮮で生臭さを感じさせないのは勿論のことだ。

 知る人ぞ知る人気店なのだが、まだ昼間なので客もまばらであり、適当にパスタを頼む。

 ふと、前を見るとアリシアは買い物袋をぎゅーっと抱きしめて嬉しそうだった。


「……顔が揺るんでいる」

 いくつかの買い物袋をできるだけまとめて、盗まれないように足元へ置くと

「初めてなんです。買い物したのって、選んだものを手に出来るっていいですね」

と、さらに嬉しそうに笑った。

 たいしたものは買ってないが。


 ちょっと戸惑う俺の前に、ウェイトレスがパスタを置く。

「お待たせしましたー。って!いやん、かわいいカップルさんねぇ」

 心なしか頬が上気しているように見えるのは気のせいではあるまいが、外から見るとやはりその……そう見えるのだろうか?

 本当の歳の差を考えると、犯罪のような気がして落ち込みそうにはなるが、まあ、プレゼントをもらって喜ぶ彼女を見ていると、それも別に構わないか、と思う。とりあえず料理が冷める前に食え、と勧めておく。


「おいしい!」

「当たり前!」

 後は会話もなくズルズルと夢中になって食う。アリシアはいたく気に入ったようで、さっきのウエイトレスにいつの間にかレシピを聞いている。さすが、というべきか。


「えーと、じゃあにんにくを先に炒めて……」

「そうそう、うちのマスターが説明してやるって言ってるから、ちょっと厨房に来る?」

「ええっ! いいんですか?」

「いーのよー。うち今の時間は暇だからマスターも嬉しがってるみたいだし」


 俺はやることがなくなったので、コーヒーを注文してしばらく荷物番をする。

 ちらりと時計を見ると、まだ込み合う時間には遠いことだし、のんびりしてもいいはずだ。

「彼女、可愛らしいわねぇ」

 カチャッとコーヒーをテーブルに置くと、ウエイトレスは新聞を俺に渡した。


「そういえば、若くてハンサムな提督がこの町に来てるって噂よ? とられないように気をつけなきゃね。ほら、ここ。最年少海軍提督」


 ――シャムロック提督。


 その名前を見た瞬間、一瞬いやな予感がよぎった。

 アリシアが愛妾として出される予定だった提督。

 一度もまともに話したことがないという話だったが、万が一、アリシアに興味があるなら、ここで鉢合わせするのはまずい。幸い店の中に破壊軍関係者はいないようだがと思い、ふと、窓の外に目を向けると……噂のシャムロック提督が店に入ってきた。


 まったくややこしいことに巻き込まれるもんだ。


「提督! ここ、パスタの美味い店と評判なんですよ。他の船に乗っている海兵が自慢していました!」

「そうなのか? それは楽しみだな」

 のんびりした会話をする新客から顔が見えないよう新聞で顔を隠しながら(一応俺は大物指名手配犯)、ゆっくりと覗き込むと、提督と呼ばれた人物は奥の席に座った。


 少し癖のある蜂蜜色の髪に、誠実そうな顔立ち。最近の海軍は海賊まがいのことをやったり、規律が乱れている奴もいるが、軍服をパリッと着こなし、穏やかに微笑を浮かべるあいつはどうみても、愛妾を囲うと申し出るような奴とイメージが一致しない。

 正直驚きつつも厨房の方に移動する。何とか裏口から出してもらえるよう頼まねば。


「あーっ。有名人さんですね~、シャムロック提督。記事読みましたよ」

 俺と入れ替わりにウエイトレスが例のテーブルに移動した。

 一人……2人……4人か。

 シャムロックと、あとたれ目の好色そうな奴(多分こいつがミルフォード副提督だろう)とあと2人。

 俺一人ならなんとか振り切れそうだが、アリシアも一緒となると難しいな。


 特別に厨房へ入れてもらった俺は、アリシアをちょいちょいと手招きすると、小声で「シャムロックが来たぞ。裏口からずらかる」と囁いた。とたんに彼女の顔がきゅっと引き締まったものになる。

「知り合いかい?」というマスターに、「海軍は苦手なもんでね」といいつつ、少し多めに勘定を払って俺たちは店を出た。


 そうしてあまり目立たないよう港へ向かって歩き出す。

 そろそろと店から離れて、さっき服を売った洋服屋のおやじに手を振って、もう十分な距離を取った頃、アリシアは複雑な顔して、クスリと笑った。


「シャムロック様が注文されたパスタ。私がお手伝いして作ったものなんですよ」

 最後の最後で、一つお詫びが出来たみたいですね。

 良かったと、呟いて彼女は荷物を持つ。特にそれに返答はせず、一緒に隣を歩いた。


「じゃあ、帰るか」

 皆の船に。

「はい」

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