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第九話 『合わせ鏡の呪い』

 半年ぶりです。浪人生となった受験戦争敗北者のロサです。一年間がんばって生きます。

 今回はcarzooさんのリクエストで『合わせ鏡の呪い』です。詳しい都市伝説はなかなか無かったのでそれらしい要素を詰め込みつつ今回の話を書かせていただきました。

 それではどうぞ!

 夕暮れの中、俺は学校の階段を上っていた。

 それというのも、学校で流れている一つの噂を聞きつけたからである。

合わせ鏡の呪い。校舎東側の二階へ下りる階段と屋上へ向かう階段の手前の踊り場を挟むように壁に埋まっている鏡の場所に人が立つと鏡から現れる悪魔に連れ去られるらしい。

 連れ去られた証拠に、そこには一対の上履きが残されているのだが、最近それが四つほど同じ場所で見つかった。

「……なんで俺がこんな面倒くさい話に巻き込まれるんだよ」

「オカルト研究部なのだからがんばろう!!」

「アンタ卒業生だろ」

「気にしなさんな!」

 俺の隣、卒業生の奥行小鳥おくゆきことりはケタケタと笑った。

「で、なんでそんなのを見つけてきたんだ?」

「先輩として敬えよ。後輩」

「一人で十分だ」

「あー、鳳山だけ贔屓にしやがって。部長を敬えよ部長を」

「一人で十分と言っただろ」

「……後輩の癖に生意気だぞ」

「尻に敷かれているくせに」

 ニヤリと笑って奥行を見る。俺の言葉に彼女は顔を青くしながらワナワナと震えた。

「ちょ、誰情報だ!?」

「卒業生代表」

「……どんだけ情報網広がっているんだよ、お前」

「ちなみに敷いているのは卒業生代表だ」

「知ってるよ!!」

 俺は自然と頬が吊りあがっていくのを感じる。こういう話題で人をからかえるのは最高の気分になる。性格が悪いな、俺。

 そんな話をしているうちに、話題の場所へたどり着いた。わざわざ西側から階段を上って三階に辿り着き、階段を上って疲れている情けない棒の足を動かして東側の階段前まで来たのだが。

「……五足目」

「悪戯もここまで続くと厄介だね。まめなのかな?」

「さあ。悪戯だろ」

「あ、ちょっと」

 俺は上履きを蹴飛ばして合わせ鏡の右側を見つめる。

 解決するつもりは無い、好きなだけ世界を貪れ。人が口頭で伝えた淡い物語はいつか白い世界を塗りつぶしていく。それが都市伝説、怪談となり息づいていき、世界へ羽ばたく。誕生を見たいわけじゃない、俺はいつまでもそれを人へ語る語り部として生きていく。

 何が起きたのか、何があったのか、何が原因でできたのか。そして、それを二度と起こさないための方法。それが、俺の今の生きがいだ。

 ニヤニヤ笑う俺を鏡は正面から映しその顔と立っている姿が全て見える。その後ろには俺の後姿が、またその後ろには俺の正面が。永遠に続く世界の奥底で、黒い何かが動いた。

「……やぁ」

 俺の言葉とともに、黒い何かは俺へ向かって出てくる。

「なっ、おい! お―――――」

 俺の名前を呼ぶ前に、黒は俺を捕らえると鏡の中へ引きずり込む。

 立っていた場所を見ると、なぜか俺の上靴だけが綺麗に残っていた。なるほど、話どおり、上靴だけ残るのか。

 黒い何かを見ると、俺を見てニヤニヤ笑う。

「アナタモ、ヒトリナノネ」

 白い三日月のような口から言葉を発した。

「ダイジョウブ。ココハ無限ノ世界。過去モ未来モ好キナ場所ヘ」

 黒い何かは笑う。ケタケタと、ニヤニヤと、ワハハと、フフフと、笑って笑って無限に続く鏡の中へ引き擦り込む。

「永遠ヲ楽シミマショウ」

「俺の時間は有限だ」

「……友達ガ死ンデシマッタノネ」

「……」

「親友ガ笑ッテ目ノ前デ血塗レ。ズットト誓ッタ人ハ『キミノメノマエニ』落チテ来テ信ジタクナカッタ直感ハ現実サヲ強調シテシマウ。幼馴染モ自分ノ前カライナクナッテ、探シテ見ツケタ時ニハ『クチサケオンナ』トナリ、自殺シタイト泣イテキミノマエデ謝リ続ヅケルタ」

 その言葉に、俺は黒い何かを見つめ続けた。

「張リ裂ケソウナ思イヲ胸ニ学校ヘ通ウト彼カラノ手紙ガ机ノ中ニ入ッテイテ、名前ノ主ヲ探シテイルト、階段の下から生気を失った目をした女の子が現れ親友を髣髴とさせる。自殺するのだと直感的にわかった瞬間に手紙を彼女に預け、自分は二度とその光景を見たくないからと逃げ出した。階段を下りていると教師と出会い彼女も幽霊のようにふらふらと屋上へ向かっていく姿を目撃。何も言えずそのまま階段を下りて自分の机から鞄を手に取り早退する」

 急に流暢に喋り出した黒い物体は人の形になって行き、長い髪をした女の姿へ変わった。

 その姿に、俺はただ、驚愕の表情しか浮かべることができなかった。

「私は全て知っている。永遠の時間を、過去を未来を見られる私は、全てあなたを知っている。あなたを受け入れられる、あなたの過去を全て塗り替えられる。私なら」

 そこまで言うと、彼女は振り返って俺に笑いかけた。

 今までのニヤニヤとした笑い方ではなく、優しく包み込むような笑顔で、俺を見る。

「……だから、私とこの世界で過ごそう?」

「……みや、び?」

 クラスのなかでも比較的中の良い友人、雅は笑顔で俺を見つめ続ける。

「ここには何でもある。あなたが夢見た世界が」

「なんの、冗談だ」

「冗談じゃないわ。あなたが望んだ永遠を、この無限の世界なら叶えられる。あなたが『語り部』とならない世界。あなたが『語り部』となることを望まなかった世界へ。私なら導けるの」

 ゆっくりと、ゆっくりと俺に迫る。

 俺はその姿に呆然として見つめ返し、この世界へ解けて行く様に意識がまどろむ。

「さあ、私と一緒に行こう」

 彼女の言葉に、頷こうとしたそのとき。

 鏡に血のように赤い文字が刻まれた。

「な、何!?」

 雅が驚いた様子で鏡を見る。

 この字もまた鏡に反射して永遠に刻まれていく。俺は、目の前の文字を見た。

『語り部は、消えない』

 その文字を、この学園の人間なら誰もが知っている赤い血文字。そして、俺はこのメッセージの主を知っていた。

「……そんな、こんなことあるわけがない!」

「鏡に刻まれた文字は、永遠まで続く。永遠の世界なんて、不完全なものだな」

「……ありえない、こんな、こんな」

「俺は別に、お前が嫌いなわけじゃない。お前が好きなわけでもない。ただ、面白かったよ。自分の過去を語られるというのはな」

「待って! なんで、そんな、こんなことがあっても貴方は!」

 俺はニヤニヤ笑って鏡に語りかける。

「そりゃ、支えてくれる人がいるから、だろ」

「……!!」

「お前みたいな『独り善がり』と一緒にするなよ。俺は俺で交流があるし、純粋に楽しんで人生を送っているんだ」

 鏡はありえないと言わんばかりに俺の手を握る。

 何度も何度も握っては、ただ同じ言葉を連ねるだけだった。

「そんな人生でよかったの? こんな最悪のスタートで良いの? 今ならやり直せる。間違っていない。貴方のその心の奥の葛藤は正しいもの!」

 次第に弱くなっていく手を俺は握り返した。今度は、俺のほうがしっかりと。

「大丈夫だよ、由香さん。永遠と思われているこの世界に、出口はあるから」

「……なんで、私だって」

「見ればわかるよ。貴方がこうなった経緯も、人を引き擦り込んだ理由も」

 彼女は、何も言わない。ただ、俺のほうを見て、泣きながら頷いた。

「ほら、他の『四人』も連れてきな」

「……わかった」

 彼女は鏡の枠に立つと、手を右へ伸ばす。

 すると四人のブレザーの襟とスカートの端が鏡の見切れている右側から覗き込み、由香さんが引っ張るとスゥスゥ寝息を立てている四人が掴まれていた。

「怪力」

「ここなら私はなんでもできるの!」

「……そういうことに、しといてあげよう」

「わ、私握力二十キロしかないんだから」

「それは女性として普通のような」

「……皆、四十キロ近くあるんだもん」

「それは周りがヤバイ」

 どういう握力してるんだ、三年女子。もしかして、二年の女子も……?

「まあ、いいや。帰ろうか」

「ど、どうするの?」

「こうするの」

 携帯電話から自宅にかける。取ってくれるのは一人だけだろう。

「もしもし」

『私メリー。いま貴方の後ろにいるの』

 メリーがそういうと、俺の背中が急に重くなる。

「な、なんちゃって」

「どこがだ。しかしよくやったメリー。いや、よくやった俺の携帯電話。鏡の中からでもよく繋がった!」

「なんで私をほめたのに訂正して携帯電話をほめるの!? うれしかった私の心を返して!」

「嫌だ!」

「即答!?」

 メリーは背中でわんわん泣き始めた。鳳山がここにいたら俺が殺されていたから鏡の中って素晴らしいよね。

 そんなことを思っていると由香さんが「手の平返すの早いですね」と俺を貶す様な目で見ていた。それも無視。

「さあメリー。今からこいつの電話にかけるんだ。ただ、台詞はこういうんだぞ」

「ふんふん、よくわからないけどわかったの!」

 メリーは通話ボタンを押して相手が出るのを待っていた。

 俺は由香さんの手を握って他の三人は由香さんに握らせる。そして、メリーの空いているほうの手を握った。

「へ、お兄ちゃん大胆!」

「いいから。相手出たか?」

「もうちょっとみたいなの」

『お前、どこに行ったんだよ!! 鏡の中とか分けのわからないところに行ったって部長が言っていたぞ!?』

「私、メリーさん。今、皆と一緒にあなたの背後にいるの」

「え、だ―――――――」

 メリーのその言葉とともに、世界が一瞬暗くなったかと思うと夕暮れの赤い日差しが窓の隙間から差し込む合わせ鏡の有る階段にでてきた。

「いでっ!?」

「きゃっ!?」

 俺は地面に胸をおもいきり打ちつけ、由香さんは背中から地面に落ちたようだ。

 メリーだけは得意気にふふんと笑っていた。

「え!?」

「……よ、雅」

 目の前に、驚いた顔で立ちながら振り返り俺を見下ろしてあるだろう雅の姿があった。

 そして、片足を少し浮かして顔を上げている俺の頭を踏んだ。

「見るなああああああああああああああ!」

「いだああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 コンクリートに鼻が、鼻がつぶれる!

 がんばって両手を地面についてこらえているが、時間の問題だろう。

「お前というやつはスカートの中がそんなに気になるのか! 風紀の乱れだ、殺してやる!!」

「物騒だな待て待て待て悪かった謝りますから力を込めないで潰れる!!」

 土下座のような体勢をがんばって保ちながら頭を踏まれている。傍から見れば何が起きたのかわからない状況で誤解しか生まないだろう。

「で、それが『合わせ鏡の呪い』の主犯か?」

 奥行がケタケタ笑いながら俺に声をかける。この状況で話を整理しようとはやるな元部長。流石尻に敷かれているだけの事はある。

「雅。もう少し力強くしていいよ」

「了解です」

「主犯じゃなくて最初の被害者! まず最初に鏡の中へ落としたのは宮川と隣にいる女子を除いた二人。名前は岬と奏だ!」

 俺の言葉に、雅が固まる。事情を知らない奥行は「誰?」と疑問符を浮かべていた。

「由香さん、事情説明してあげて」

「……あ、あなたからしてください。私が言っても、どうせ」

「こういうのは、自分から言うのがいいんだよ。な、雅」

 土下座しながらだが、雅に確認を求める。

 彼女は踏む力を少し緩めた後、足をどけて俺を普通に座らせた。

「……私は、信じる。この馬鹿が私の話を信じてくれたみたいに、私もあなたを信じるから。だから、話してください」

「……わかり、ました」

 決心したように彼女は胸の前で両拳を握って俺たちを見る。そして、口を開いた。


Part2へ続く


次回予告(風)

 『合わせ鏡の呪い』誕生の秘話が明かされる。

「……私は、信じてたのに」

 その言葉に、語り部は真剣な顔で言った。

「言っただろ。『人を呪わば穴二つ』ってな」

 語り部の言葉に、由香は崩れ落ちる。



 一話では収まりきりませんでした、次回の『合わせ鏡の呪い~Part2~』へ続きます。

 半年振りなので上手く書けているかはわかりませんが感想を書いていただけるとうれしいです。

 でわでわ!

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