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第八話 『メリーさん2』

 やっと、書く暇が出来たよ……。てか息抜き。

「あの、その、私を住まわせてください!!」

「いや、二度も言わなくていい。ちゃんと聞こえているから」

「は、はい」

「おい、どういうことだい?」

「俺が分かるかよ……」

 語り部は溜息を吐くしかなかった。どうしてこうなったと、こいつはとんだ疫病神だと、思考を少女へと向けるしかなかった。

「……理由は?」

「え、えっと。あなたなら、安心できるかな、なんて」

「……」

「なぁ、やっぱりこの子と出会ったことあるだろ」

「いや、本当に、ない」

 語り部は思考の海に潜る勢いで掘り起こしていくが、彼女と邂逅した話など思い出せるわけもなく。溜息しか吐くことの出来ない状況にまた溜息を吐いた。

「えと、人を探していて」

「……誰だ?」

「……私を捨てた人。私という存在を否定した人です」

「……名前は」

「……」

 少女は首を振った。涙を目にためながら、首を横にふるふると、力なく振るしかなかった。

「……君は、見つけてどうするつもりだ」

「私は、もう一度その人と一緒にいたいだけです」

「……はぁ。君は本当にわけが分からない。それならなんで俺を知っている。俺のほうが赤の他人だろう」

「……違うんです。あなたは、忘れられないんです」

「あ?」

「あなたの記憶だけが、私の中に色づいていて。私は、あなたしか覚えていないのです」

「……」

「なぁ君。彼女と出会ったことは、ないんだよな」

 そのはずだと語り部はつぶやく。誰に言い聞かせるつもりもなく、ただただ彼は記憶の海に潜り思考回路を巡らせる。

「……」

「……」

「俺は、君を知らない。いや、忘れてるのか?」

「分かりません。ただ、私の記憶に残るのは黒い人とあなたが仲良く話をしている記憶しかないのです」

「……」

「俺が、仲良く、話をしている人物?」

 語り部の顔が、初めて疲れ以外の表情を見せた。鳳山が驚くほどに、その表情は一変していた。

「どこでだ」

「私は人形から成ったものなので、多分、その人の家」

「……」

 ――――俺が楽しく話をしていた人物。俺が話なんてものをする人物。俺自身が、笑って話なんてものを行う人物。

 語り部の顔は、どんどん歪んでいく。

「そのときのあなたは幼くて、それでいて幸せそうで、なんて、美しいんだろうと、思った」

「……初めて、断定したな」

「……私は、あなたになりたかった。あなたのような、美しい人物に」

 語り部は自分の顔に手を持って行きゆっくりと天井を見上げた。そして、のんびりとした雰囲気で乾いた笑みを零した。

「大丈夫か、おい」

 鳳山がついに声をかける。心配そうな表情で語り部を見る。

「……はぁ、畜生」

「どう、でしょう」

「わからん。会えるかどうか不明だぞ」

 少女はうつむいた。そして、自分のスカートのすそを握り締めながら語り部に、言う。

「それでも、私は会いたいです」

「……そうかい。じゃあ、会えるまで待てるか?」

「は、はい!」

「ったく、おい君。いつも以上に甘いじゃないか」

 鳳山が語り部を小突く。語り部は、悲しそうな表情で返した。

「待つ奴の気持ちは、痛いほど分かるよ」

「……そうかい」

「ふ、不束者ですがよろしくお願いします!!」

「まぁ、よろしくな」

 語り部はのんびりと、お茶を飲み干してゆっくりと天井を見た。

「あ、そうそう君」

「なんすか?」

「私もこの部屋に泊めておくれ」

「は!?」

 鳳山の言葉に彼は驚愕する。

 語り部は人生最大の敵が現れたかのような顔をして彼女をみつめた。それに対し鳳山は満足そうにふふんと鼻を鳴らす。

「終電ね、過ぎちゃった」

「……OH」

「外国人も真っ青の発音です!」

「流石だね」

「そこ、よく分からないけれど感動しない」

 語り部がお母さんのような口調になり、メリーさんは背筋をぴんと伸ばした。まるで親子のようである。

「……まぁ、なんだ。終電が過ぎたなら仕方がないな。泊まっていけ」

「そうさせてもらうよ。いやー、君の家って初めてだなー」

「わ、わたしもですよー!」

「そこ。この空気に便乗しなくていいから。先に風呂へ入ってくれ」

「ん。いこっか、メリーちゃん」

「え、あの……」

「……いいから、ね」

「あ、はい」

 鳳山がメリーを引っ張っていく。

 ―――――俺のほうを一瞥したのだから、気を利かせてくれたんだろう。

 語り部はそう思い、携帯のアドレス帳を開いた。

 そして、一人の名前を見つける。

「……」

 ―――――思い出す、小と中学時代の記憶。

 急にいなくなった親友。一日後に発見された赤い死体。

 急に消えた幼馴染で姉のような存在。調べて調べて調べ尽くして、やっと見つけた手がかりも既に役立たずで、終わった。

 再会したのはつい最近で。彼女は泣いて、謝るばかりで。

『ごめんなさい、ごめんなさい』

 そう泣きじゃくる彼女に、声をかけることが出来なかった。

「……」

 俺は、泣いてほしくなどなかった。笑っていてほしかった。

 手掛かりなど嘘っぱちで、実は三姉妹で海外旅行とか、そんな淡い期待を抱いて、ずっと過ごしてきた。

「……甘いなぁ、本当」

 だから、俺は。

 そういうと、彼は通話ボタンを押した。

 この時間に、公園へ呼び出すために。








「……」

 足音が聞こえる。きっと、語り部が待ち望んだ人物なのだろう。

「……久しぶりね」

「そうだな」

「……ねぇ」

「ん?」

「君は、私を好いていてくれる?」

「……好きだよ」

「そっか……」

 公園で、マスクをつけた女は嬉しそうにつぶやいた。

「……ごめんね。何も言わず、いなくなって」

「いいって。それでさ」

「ん?」

「お前、この街を去るときに人形を捨てたか?」

 マスクをつけた女性は、目を見開いて彼を見る。

「……うん。捨てた」

「そうか」

「どうして、知ってるの?」

「人形がたずねてきた」

「……いつの間に、君はメルヘンの世界へ」

「おおい、引くな引くな引かないでお願い!!」

 とりあえず、落ち着かせるために公園のベンチへ座らせる。

「……なあ、咲」

「なによ」

 咲と呼ばれたマスクの女性は、少し悲しそうに語り部を見る。

「……また、ここで住まないのか?」

「……うん。姉さん二人と、アパートに泊まってるから」

「そう、か」

「……わがままを言えば、もう一度と思うんだけどね」

「……」

「自殺しようとも思った」

「……そう、か」

 語り部は夜の星を見上げ、息を吐く。白い息が夜の闇へと消えていった。

「あの人形は、捨てた人形は、もう、私の決意の証なのよ」

「……そうか」

「うん」

 語り部はポケットから一枚のメモを取り出す。

「……一応、俺の住んでいる場所の住所、渡しとく。何かあったらたずねてきてくれ」

「……ありがとう」

 マスクをはずし、彼女は語り部へと向いて、笑った。

 頬を超え、耳元近くまで裂けたその口で、本当に嬉しそうに笑って。

「……またね」

「じゃあな、咲」

 メリーの捨て主である『口裂け女』は、そういって消えていった。





「おや、お帰り」

「ああ。ただいま」

「あ、お兄さんお帰りです!」

「おう。ただいま」

「……何か、あったのかい?」

「人形の捨て主に会ってきた」

「「!」」

 二人の顔が驚愕の色に染まる。語り部は、自分の前髪を手でかきあげると、メリーに向かい、口を開いた。

「……会えないってさ」

「そう、ですか……」

「お前を捨てたのはこの街を出る決意のため、だそうだ」

「そうですか」

「……どうする?」

 語り部は、彼女の顔を覗き込む。

 少女は笑って、語り部を見て、目を輝かせた。

「ではここに住まわせてください」

「……え?」

「行くあては最後、ここだけでした。あなたの隣です」

「……どうして?」

「私は、あなたのようになりたい。そういったはずですよ?」

「そうだけど、さぁ」

「私がこの後外に出て、見知らぬ男にさらわれたり警察に補導されても良い、と?」

「なんで脅されてんの!?」

「手段は選べないのですえっへん!」

「……住まわせてあげたらどうかな?」

「……お前は本当に優しいねぇ」

「君ほど甘くはないよ。優しいけれど、甘くない」

 メリーは語り部をちらちらと見る。それどころか勝利を確信したかのようににっこりと笑うほどだ。

「……メリー、本当に住む気か?」

「警察に補導されたらこの場所を言ってやるです」

「どんだけ公務員に迷惑をかける気だ貴様」

「ひぃ!」

「一番迷惑がかかるのは君だと思うけど」

「……俺はいいが、人様に迷惑はかけられないな。わかった、ここに住め」

「わーい!」

 メリーは語り部に抱きつき、嬉しそうに彼を見上げる。

 鳳山はそれをほほえましそうに見た後、語り部の方に腕を絡ませ抱きつくようにして話しかけた。

「私も住んでいい?」

「お前は寮があるだろ」

「えー。だって家賃こっちのほうが安いし」

「俺が払うんだけどな」

「割り勘にしてあげる。メリーちゃんの服とかはどうするつもり?」

「……しかし、お前には寮が」

「ああ、門限過ぎたから出て行けって言われるかも。そのときは、頼むよ?」

「……」

「メリーちゃんと同じように言おっかなー☆」

「なんでお前まで俺を脅すんだ!」

「決まってるだろ?」


 君が面白くて、君のことが好きだからだよ。


 そう耳元でつぶやいた彼女の表情は見えなかったが、語り部は顔をそらして猫のようなメリーの笑顔を見て、溜息を吐くことしか出来なかった。

 今日、語り部の家族が、増えた。

「よろしくね、お兄ちゃん!」

「……分かったよ、メリー」

 語り部は、苦笑交じりで彼女の頭をなでた。

「よろしくね、弟君」

「お前は明日次第だな」

 鳳山の言葉には、真顔で答える。

「つれないなぁ、弟君は」

「誰が弟だ。せめて後輩にしてくれ」

「ふふっ、まぁそれにしてあげよう。もしかしたらよろしくね、後輩君」

 











 追記。

 翌日、さらにもう一人住人が増えました。


「じゃ、よろしく、弟君」

「後輩で」

「つれないねー、後輩君」

「お姉ちゃんができましたー!」

「いえー!」

「はぁ……」

 息抜きですよ! 「勉強の程は」って? がんばってますよ(遠い目)

 次の話はcarzooさんのお願いで、『合わせ鏡の呪い』です!

 でわでわ!

 注意、更新はできたらしますので!!

 感想、誤字脱字の指摘などなどよろしくお願いします! 

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