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第2部3話 その覚悟の裏で

 その日、蒼真の帰りは夜だった。


「ただいまー」

いつもと変わらない、ダルそうな蒼真の姿。


「遅かったな」

「あー親父がさ、酒飲みだしちゃって」

天音さんの酒癖は悪いと橘さんから聞いたことがある。

と、言っても泣き上戸らしいが…。

シラフで相手はキツイぜ。と蒼真が愚痴をこぼす。


「ねぇ、蒼真…」

陽葵が遠慮がちに蒼真に声をかけた。

「んー?」

「蒼真のお父さんって…天音さんなの?」

蓮から聞いたのだろう。

「うん、そうだよ」

まぁ、普段の俺たちを見ても陽葵には親子と結びつかないかもしれない。

もちろん、連盟の人間は全員知っている。


「でも、苗字が神代と久遠って…」

いくら考えても分からないと陽葵は頭を抱えている。


「…あー、それな。俺、神代 久遠蒼真って名前なのよ、正式名称」

ははっと蒼真は笑う。

「んで、全部説明するとややこしいんだけど…まぁ、神代は屋号みたいなもんっていうか…当主しか神代は基本的に名乗らないんだよね」


そこまで聞くとハッと陽葵は何かを思い出したように話し出す。

「お父様から聞いたことある…神代久遠家ってこの国で一番古い家系で…神の末裔って呼ぶ人もいるって…」


「…神の末裔って!何それ、初めて聞いたわ!」

大きな声を出して蒼真が笑いだした。

蓮まで巻き込んで、ねぇ俺、神?と笑っている。

「間違っても、お前は、神じゃない」

「神だったらもっとまともだろ」

と蓮は冷静に答えている。



「でも、連盟の執事さんたちって…次男が選ばれるんじゃ…」

「あー本来はそうなんだよな。神代久遠家が連盟を創立したから、神代久遠家の男は必ずって決まりなんだよ」

マジでめんどくさいよなぁ。と蒼真は頭を掻く。


「なんか…蒼真って私よりすごいお坊ちゃまだったんだね」

とぽつりと陽葵が呟く。

蓮はギクリとした。蒼真はお坊ちゃまと呼ばれるのが大嫌いだと言っていたことがある。

礼儀だ、マナーだ、危険な事はするな。

幼いころ使用人たちが過保護にされ「お坊ちゃま」と祭り上げられたという。


「…お坊ちゃま、か。…守られてたのかも知んないね、俺」

ニッと蒼真が笑った。

笑う蒼真に蓮は違和感を感じたがそれを言葉にすることはなかった。







――深夜


昼の曇り空は嘘のように晴れ、満月の光が蒼真の髪を輝かせる。

蒼真は1人、バルコニーに立ち、ウィスキーを口に運ぶ。


「珍しいですね、蒼真さんが1人で飲んでるなんて」

奏の声が聞こえた。

黒影の事件後も夜の警戒が解かれることはなく、奏を筆頭に見回りが行われている。


「交代の時間か?」

「はい、庭から戻るときに蒼真さんの姿が見えたので。俺にもください」

「お前、未成年だろ」

ごんっと蒼真が奏の頭を小突く。

「ひでぇ」

「お酒は大人になってから」

「なんで、そういうところは真面目なんすか」

「お前は真面目なのにそういう所は緩いよな」


くだらない事を話しながら蒼真は呑み続けていた。

ペースが早い。蒼真さんはこんなに呑む人だったか?と奏は疑問に思う。


「奏でさぁ、蓮好き?」

「嫌いです」

「いや、即答かよ。…まぁ、俺も嫌いっていうか、苦手なんだけど…クソまじめで堅物で不器用で」

「それ、好きで蓮さんのことめっちゃ見てません?」

「好きじゃない」

蒼真も即答する。

「でもさ、それがあいつの良いところじゃん」

蒼真はグラスに残ったウィスキーを一気に呑みほした。

なんだか今日はやけに喉が乾く。

そして奏の目をまっすぐに見つめた。


「…なぁ、奏。俺に何かあった時は、蓮の背中はお前が守れ」


強い言葉だった。

まっすぐに迷いのない視線で奏は蒼真に射貫かれた。

異論は認めない。とでもいうかのような視線だった。









麗華は薄暗い、光の届かない部屋にいた。

隣には神楽坂が静かに佇んでいる。


「お呼び出しとは珍しい」

ふふっと麗華は暗闇の奥に腰掛ける人物へ声をかける。

暗闇の人物は麗華の問いかけには答えず

ただ、静かに「ーーやれ」とだけ命令を下した。


それを聞くと麗華は無視されたことに不満そうな顔をしながら

神楽坂を従えて暗い部屋を後にした。


「さぁ、朔…暴れていいわよ」

楽しそうに麗華は神楽坂へ命令を下した。

だが、その瞳の奥は笑ってはいなかった。

「承知しました」

神楽坂はただ、それだけを返した。



---再び動き出す闇。

日常はまた崩れていく。



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