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第2部2話 守るための代償

その屋敷は煌びやかに見えて、どこか影のある屋敷だ。

テラスで星を眺める九条麗華。


音もなく後ろに神楽坂が現れた。

「どうだった?」

「未熟です」


ふっと麗華は笑う。

「守り切れるからしらね、彼ら」

ワインを一口含み、間を開け口を開く。

「守られているだけの子なんて、私たちの敵じゃないわね」

ワイングラスを持ち立ち上がり、麗華は神楽坂へ視線を向ける。


「私が壊します」

神楽坂もグラスへワインを注ぎ、手に持つ。


チンッ。


2つのワイングラスが重なり合う。

終わりを知らせる鐘のようにその音は響いた。






どんよりとした空模様の朝だ。


「おはよう」

陽葵はいつも通りリビングへ入ると、蒼真と目が合った。

蒼真が先に起きているなんて珍しい。


「おはよう、陽葵。わりぃ、俺ちょっと1日出てくるから」

ジャケットを羽織り、「じゃ!」と蒼真はリビングから足早に出ていく。


「珍しいね、蒼真が朝から出掛けるなんて」

「今日は…お母さまの命日だそうだ」

一瞬、息が詰まってしまった。

確かに蒼真も蓮もご両親の話をしたりしないけど、

私は勝手に2人ともご両親が健在だと思っていた。


「お父様とお墓参りに行くと言ってたよ」

少しほっとした。

お父様はいらっしゃると聞いてこれ以上、私は何も聞く必要はないと感じた。

蓮のご両親のことは、本人が話してくれるまで触れなくていいよね。

「でも、蒼真のお父さんってどんな方なのかなぁ」

蒼真と同じ髪色なのかなとか、同じようにダルそうな人なのかなと想像していると

蓮がきょとんとした顔で私を見ていた。

どうしたのかと私が首をかしげると蓮は口を開いた。


「蒼真のお父様って…天音さんですよ?」

「え…?」






ーー雨の匂いだ。

笑顔が似合う母さんなのに

いつも命日は天気が悪いのはなんでだろうな。


墓に花を添えると、コツコツと足音がきこえてくる。


「今年も負けましたか」

ニコッと天音が笑う。

「この日だけは早いね」


俺にしか見せない親の顔だ。


天音はそっと花を添え、手を合わせる。

そして慈しむ様に母さんの墓を見つめる。


会話だ。

墓参りの時、天音はいつもこうだ。

悲しい顔をするときもあれば笑う時もある。

今年は…悲しい顔だな…。


天音が立ち上がり、俺の方へ向く。

「さて、どうする?」

「とりあえず、どっか話せるところ」


この日は2人とも絶対に予定を入れない。

普段、連盟の総統と部下として動いている為だ。

年に1度だけ、俺たち親子は親子に戻る。

行く先も決めない、俺が初めて買った車でドライブする事もあれば、

キャバクラをリクエストしたりしてみたこともあったり。


「わかった。車のキーを貸しなさい、私が運転しよう」

ギクリとした。

天音は運転のセンスが全くない。

ここへも橘さんに送ってもらっている。

「いや、いい」

バッサリと言い切ると残念そうにする天音。

「なんでみんな、運転させてくれないんだ?」

運転センスに関して、自覚がないのが恐ろしい。


ーーブォン!

エンジンを掛け「どこ行けばいい?」と聞くと


「神代の別荘に行きましょう」

「…神代…ね」


あの別荘は好きじゃない。

古ぼけた屋敷だ。

言われたら行くしかない。

俺はハンドルを強く握って、神代の別荘へ向かった。





---神代家 別荘



「おーい、ついたぜ」

助手席でいつの間にか寝ていた天音を起こす。

「ああ…すまん」

普段、仕事で忙しくしている天音だ。

今日くらい、寝ても文句は言わない。


別荘の鍵はいつも天音が持ち歩いている。

ぎぃぃぃ…軋む音を立てながら扉が開く。

外観は古ぼけたままだが、中はきれいに整えられている。

使用人が管理をしてくれている。


居間のソファーにドサッと俺は腰掛けた。

天音は運転お疲れと言いながら、缶コーヒーを差し出す。


「話しなんて珍しいね。いつもはもっと派手なことを言うのに」

「んー…親父にはさ、ちゃんとはなしとこうかと思って」

缶コーヒーのタブをいじりながら俺はどれから話そうか悩む。



切り出し方がわからない。

沈黙したまま時間が過ぎていく。

けど、親父は何も言わずに同じ缶コーヒーを飲んで待っている。

俺は目を閉じ、大きく息を吸った。


「…力の事なんだけど」

ゆっくりとでも、はっきりと切り出した。

「うん」

「全部、思い出したんだ。…俺、陽葵と契約してる」

パチンっと俺は缶コーヒーを開けた。


「限界を超えて守るって、命掛けるってことじゃん。だからさ…」


ぐっと目を閉じた。

言えない…やっぱり本当の事を口にするのは怖い。


「蒼真、時間はあるよ」

わかってる…親父はゆっくりでいいよと付け加えた。


「…ごめん、これ最後にするわ。…九条家の麗華が来た。九条家の動きが怪しい」

そうだ、自分の事よりも陽葵の事だ。


「蒼真、それは仕事の話だよ」

苦笑いする親父。

確かに…俺はすっかり仕事脳になっている。

「まぁ、陽葵さんの事だし、気になっても仕方ないよね。九条家か…調べておくよ」


「悪い…いいや、やっぱグダグダ話すの無理だ、俺」

手に持った缶コーヒーを一気に飲んだ。

苦い…ブラックコーヒーだ。




「もしもの時、おれは守るために死ぬ」




まっすぐに親父の目を見た。

親父は驚くでもなく、怒るでもなく、穏やかだ。

まるで、全て知っていたかのように。


少しの沈黙が流れた。




「なんも言わねぇの?」

怒られると思ったのに。


親父は俺の目をまっすぐ見つめたまま口を開いた。


「その選択を怒ることなんて俺にはできないよ」

「君が出した答えだ。…ただ、それだけが正解でもないんだよ」


優しく、静かに。

でも、力がこもっている。

親子の瞳には一遍の悲しみも見えた。


また、俺は守れない。

お前も俺の手からすり抜けて行くのかと。


「…正解とか、不正解じゃないのは俺もわかってる。……それでも…」


俺は一瞬、口を噤んだ。

でも、親父には伝えておこう。

他の誰にも言わない、本当の事を。


「俺、陽葵が好きだ。その為に守る。陽葵を守る為の選択だ」




—俺の中で、覚悟が完成した瞬間だった。





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