第5話 拡張された0.5平方メートルのセーフエリア
土曜日。夕方3時。いつもより2時間早くセーフエリアC-7に来た。
澤村さんに頼まれた。管理局の測定。配信の前に。
ゲートを通ると、測定員が2人待っていた。白衣。クリップボード。機材を載せたカート。
「柏木さんですね。ダンジョン管理局測定課の佐伯です」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「こちら、助手の中川です。今日は座標安定度の精密測定を行います。30分ほどお時間いただきます」
「わかりました」
佐伯さん。30代の女性。眼鏡。声が落ち着いている。中川さん。20代の男性。機材の操作をしている。2人とも俺を見る目が、少し違う。好奇心と困惑が混じっている。
「機材を設置しますね。セーフエリアの中央に」
「はい。バジ太郎を踏まないでください」
「バジ太郎……?」
「バジルです。そこの」
佐伯さんがバジ太郎を見た。葉が8枚に増えている。先週の6枚から。茎が太い。根元がしっかりしている。
「ダンジョンの土にバジルが……? 普通、ダンジョン土壌では一般植物は枯死するはずですが」
「枯れてないです。むしろ通常より早く育ってます」
「……あとで報告書に追記させてください」
中川さんが機材を起動した。円形のセンサーを地面に置く。3カ所。三角測量。
数値が表示された。佐伯さんがクリップボードに書き込む。ペンが止まった。
「……中川さん、この数値」
「見てます」
2人が顔を見合わせた。それから俺を見た。
「柏木さん。座標安定度が、想定よりかなり高いです」
「かなり、というのは」
「通常のセーフエリアよりも、はるかに安定しています。正確な倍率は本部の解析を待ちますが……ここまでの数値は見たことがない、というのが率直な感想です」
佐伯さんの声は抑制されていた。科学者の声。驚きを数値の中に閉じ込めている。
「機材の故障を疑うレベルです。数値が変動しないどころか、『現実世界(地上)』と地続きになっているような固定値が出ています」
「現実と地続き……」
「あと1つ。セーフエリアの面積測定を」
中川さんがレーザー測定器を取り出した。境界線に沿って歩く。数値を読み上げる。
「12.6平方メートル。前回測定が12.1平方メートル。0.5平方メートル拡がってます」
「拡がった? セーフエリアが?」
「はい。通常、セーフエリアの面積は固定です。変動した記録は、少なくとも国内にはありません」
佐伯さんの声が少し硬くなった。
「機材のログを見る限り、0.5平方メートルの拡張も、単に広がったのではなく……」
「なく?」
「ダンジョンの浸食を押し返して、現実が上書きされたように見えます」
「現実が、上書き」
「柏木さん、ここで何をしていますか?」
「庭いじりです。土壌操作でpHを調整して、水分を管理して、植物を育てて」
「それだけ?」
「それだけです」
佐伯さんがペンをクリップボードに戻した。少し間があった。
「報告書を上に回します」
「俺、何かまずいことしましたか」
「いいえ。まずいどころか……」
佐伯さんが言葉を切った。何か言いかけて、やめた。
「配信、頑張ってください。ファンです」
「え」
「中川も私も、見てます。バジ太郎、応援してます」
「……ありがとうございます」
測定員2人がカートを押して去っていった。
†
1人になった。セーフエリアC-7。
座標安定度。想定より「かなり」高い。機材の故障を疑うレベル。現実世界と地続きみたいな固定値。面積拡張0.5平方メートル。国内に記録なし。ダンジョンの浸食を押し返して、現実が上書きされたように見える数値。
佐伯さんの目。中川さんの目。2人とも「わからない」という目をしていた。説明できない現象を前にした科学者の目。
手を土に当てた。脈動。温かい。
俺が毎週やっていたこと。pH調整。水分管理。根止め壁。バジルの世話。トマトの観察。ミントの制御。そのたびに手のひらから魔力を流していた。無意識に。庭いじりの一環として。
それが、ダンジョンの空間を変えていた?
怖い。正直に言えば、怖い。
面積拡張だの座標安定だの、そんな大層な言葉で俺の庭を呼ばないでほしい。
俺はただ、おばあちゃんに教わった通りに土をトントンして、バジルに話しかけているだけだ。それを「空間の上書き」なんて呼ばれたら、このバジルの匂いまで別のものになってしまいそうで怖い。
俺はただバジルを育てたかっただけだ。12人のリスナーに見てもらいながら、土をいじりたかっただけだ。数値がどうとか、記録がどうとか、報告書が上に行くとか、そういうのは俺の庭の話じゃない。
俺の庭は604円の庭だ。バジ太郎とトマ次郎とミン三郎がいて、カケルとチビケルが境界の向こうにいて、毎週土曜にリスナーが見てくれる、それだけの場所だ。
「ただの庭じゃないかもしれない」という言葉が、頭をよぎった。
嫌だ、と思った。ここはただの庭でいい。俺の庭だ。データポイントじゃない。
バジ太郎の前に座って、葉を数えた。8枚。1枚1枚触った。柔らかい。バジルの匂い。ダンジョンの土の匂い。混ざって、甘い。1ヶ月前と同じ匂い。
俺は変わっていない。やっていることも変わっていない。ここはまだ、俺の小さな庭だ。
配信の時間まで1時間ある。バジ太郎の横に座って、ぼんやり薄紫の空を見上げた。魔力の粒が光っている。ダンジョンの星。本物の星じゃないけど、毎週見ている。見慣れた光。
土に背中を預けた。温かい。脈動が背中にも伝わってくる。手のひらから感じるのと同じリズム。ゆっくりで、規則正しくて、安心する。
5回目の土曜日。1ヶ月前、ここに初めて来たときは何もなかった。土だけ。6畳の空き地だった。今は植物が3株、グラスバードが2羽、土壁がある。10センチの壁。まだ残っている。最初の防衛線。
何もなかった場所に、少しずつ何かが増えていく。それが庭というものだ。多分。
†
「第5回、ダンジョン庭いじり配信です」
「視聴者数……134人。切り抜きの再生数が10万を超えました。えーと、信じられない」
(Comments)
【常連A】134人!
【常連B】3桁きた!
【gardenFan_03】10万再生おめ!!
【カンナ先輩】おめでとうございます!
【毒舌キノコ】人が増えたな。古参の居場所がなくなりそうで不安だ
【新規6】初見。海外の友達に勧められた
【新規7】初見です。管理局の人が見てるって聞いて
【GreenThumb】134 viewers. Congratulations, Tsuchinoko-sensei.(134人。おめでとうございます、つちのこ先生)
【常連A】毒舌キノコの不安わかるw
【gardenFan_03】大丈夫、ここは6畳の庭だから。座る場所は増やせる
「毒舌キノコさんの不安、わかります。俺もちょっと怖い。でもgardenFan_03さんの言う通り。庭は増やせる。バジ太郎の横にトマ次郎を植えたみたいに」
「今日、配信前に管理局の人が来ました。測定。結果は、ちょっと驚く内容でした」
(Comments)
【常連A】管理局!?
【常連B】何があった
【gardenFan_03】やばいやつ?
【GreenThumb】Tell us everything.(全部教えてください)
「座標安定度がかなり高いらしいです。正確な数値は本部の解析待ちだけど、通常のセーフエリアとは比較にならないくらい安定してるって」
「あと、セーフエリアの面積が拡がってた。0.5平方メートル。畳の3分の1くらい。普通、セーフエリアの面積は変わらないらしくて、拡がった記録は国内にないって」
(Comments)
【常連A】面積が拡がった!?
【常連B】セーフエリアが広くなるの?
【gardenFan_03】それ世界初じゃね
【カンナ先輩】面積変動の記録がないって……すごいことですよ
【毒舌キノコ】サミットのバジルがダンジョンの空間構造を変えてる。意味がわからん
【GreenThumb】I expected something like this. But the spatial expansion is remarkable.(こうなる予感はしていましたが、空間の拡張は驚異的ですね)
【新規8】他の配信だと、魔力干渉で砂嵐みたいなノイズが乗るのに、ここは実写映画みたいにノイズがゼロだ
「GreenThumbさんが予想してたって」
「映像のノイズ……? 新規8さん、カメラがいいとかじゃなくて?」
(Comments)
【新規8】カメラの問題じゃない。ダンジョン配信って普通、空気がザラついて見えるんだよ。ここだけ違う
【GreenThumb】It's not your camera. It's the space itself.(カメラのせいじゃない。空間そのもののせいです)
【GreenThumb】I'll be honest — where I am, dungeons feel like a sandstorm. Noise everywhere. But your stream is the only one where the image is perfectly clear. Like 4K in the middle of static.(正直に言いましょう。私のいる場所ではダンジョンは砂嵐のようです。どこもかしこもノイズだらけ。でも、あなたの配信だけは映像が完璧にクリアだ。ノイズの海にある4K画質のようにね)
【毒舌キノコ】比喩がいちいち格好いいなこの人
【カンナ先輩】魔力による空間のゆらぎが、ここだけ抑え込まれてるってことですよね
「空のゆらぎとかノイズとか、正直よくわかってないんですが……とにかく、ここの空間が他と違うのは確かみたいです」
(Comments)
【毒舌キノコ】関係あるに決まってる。だが答えが出るのは先の話だ
「……正直、俺には意味がわかりません。俺はpHを調整して水やりしてるだけですよ」
(Comments)
【GreenThumb】That's exactly the point. You're not trying to stabilize anything. You're simply connecting with the soil through your magic. And the soil is responding.(それがまさにポイントです。何かを安定させようとしているわけじゃない。ただ魔力を通じて土と繋がっているだけ。そして土が応えている)
【毒舌キノコ】『土が応えてる』。詩的だけど、科学的にどういうことだ
【カンナ先輩】柏木さんの土壌操作が魔力を土に定着させてるとしたら、それは新しいタイプの能力ですよ
「GreenThumbさんは俺の魔力に土が応えてるって言ってくれてる。カンナ先輩さんは新しいタイプの能力かもって。……ありがたいけど、よくわからないです。俺はD級で、できることは10センチの壁を作ることくらいで」
「とにかく今日も庭いじりします。わからないことは、わからないまま置いておく」
(Comments)
【毒舌キノコ】わからないことをわからないまま置けるの、実は強さだぞ
【GreenThumb】Keep doing what you're doing. The garden will show you in time.(今やっていることを続けてください。庭がやがて教えてくれます)
「じゃあ今日の庭を見ましょう。まずバジ太郎。8枚葉。先週から2枚増えた。順調。分析器でEM値を……0.92。先週の0.87から上昇。魔力濃度がまだ上がってる」
「トマ次郎。花芽が開きました」
カメラを寄せた。トマ次郎の茎の先。小さな黄色い花。5枚の花弁が開いている。1センチにも満たない小さな花。
「黄色い花。5弁。小さい。でもちゃんと花です。ダンジョンの薄紫の空の下で、黄色い花が咲いている」
「ダンジョンの中で花が咲いたの、これが初めてです。1ヶ月前に248円の苗を植えて、毎週水をやって、土壌を管理して。それだけで花が咲いた」
「俺は戦えない。ダンジョンを攻略できない。でも花は……咲かせられた」
(Comments)
【常連B】花!!!
【常連A】ダンジョンで花が咲いた!
【gardenFan_03】世界初のダンジョン開花
【カンナ先輩】写真撮ってください!論文の参考資料になります
【毒舌キノコ】D級が世界初の快挙を達成。しかもトマトの花。シュールすぎる
【GreenThumb】A flower blooming in a dungeon. This has never been documented before.(ダンジョンで花が咲いている。これは今まで記録されたことがありません)
「カメラ近づけますね。見えます? 黄色い。小さい。でもちゃんと花です。トマ次郎が花を咲かせた」
(Comments)
【毒舌キノコ】ダンジョンに花が咲いた。D級が咲かせた。なろう小説の1行目みたいだ
【カンナ先輩】花弁の色が濃い気がします。ダンジョン土壌の影響かもしれません
【GreenThumb】The petals look healthy. Strong color saturation. This basil-tomato companion setup is working beautifully.(花弁が健康的ですね。色の彩度が高い。バジルとトマトのコンパニオンプランツが美しく機能しています)
「ミン三郎。あ」
(Comments)
【常連A】あ、って何
【常連B】何があった
【gardenFan_03】ミント暴走?
「根止め壁を越えてる。ミン三郎の根が。地下の壁を越えて、バジ太郎のほうに伸びてる。ミントめ」
(Comments)
【常連B】暴走きたwww
【常連A】やっぱりミントは信用できない
【毒舌キノコ】三男坊は裏切ると言っただろ
【GreenThumb】The magical soil accelerated the mint's growth beyond the barrier. You'll need a deeper wall.(魔力のある土がミントの成長を壁の外まで加速させた。より深い壁が必要ですね)
【カンナ先輩】ミント強い……
「壁を補強します。深さ15センチじゃ足りなかった。25センチまで伸ばす」
手を土に当てた。魔力を流す。地中の壁を深くする。
「よし。壁の補強完了。ふう。地中に壁を作るの、意外と魔力使うんですよ。D級だから魔力の総量が少ない。pH調整とか水分管理は省エネだけど、壁の構築は重い。肩が重い。頭がぼんやりする」
「でもミン三郎の暴走を止めないとバジ太郎が征服される。ミン三郎、お前は暴君だけど、嫌いじゃないよ。生命力がある。D級覚醒者としてはうらやましい」
(Comments)
【常連A】ミントをうらやましがるD級w
【毒舌キノコ】スケール感が今日もD級。安心する
「カケルとチビケルは……来てますね。境界の外に。今日はバジルの葉を3枚投げます。チビケルが大きくなったから、食べる量も増えた」
3枚。カケルが2枚。チビケルが1枚。チビケルの体長が25センチになった。先週は20センチだった。グラスバードも成長する。
(Comments)
【カンナ先輩】チビケルも大きくなってますね。バジルの栄養効果かも
【gardenFan_03】ダンジョンバジルで育ったグラスバード。なんかスペシャル感ある
【常連A】カケル親子も庭の住人だよな。もう
「カケルが最初に来たとき、バジ太郎を食べようとした敵だったんですよ。今は毎週来て、バジルの葉をもらって、チビケルと一緒に境界の外で昼寝してる。1ヶ月でここまで変わった」
(Comments)
【毒舌キノコ】敵が隣人になるの、この庭の縮図だな
【GreenThumb】Ecosystems are built on relationships. Your garden is becoming one.(生態系は関係性で成り立っています。あなたの庭がそれになりつつあります)
「さて、今日の配信はここまで。5回目。1ヶ月やりました」
「来週、何が起きるかわかりません。管理局の報告書がどうなるか。バジ太郎が10枚葉になるか。トマ次郎に実がなるか」
「でも俺は、土をいじるだけです。いつも通り。D級の庭いじり」
(Comments)
【常連A】来週も来る
【常連B】絶対来る
【gardenFan_03】通知オン
【カンナ先輩】来週こそ薬効成分の分析結果持ってきます
【毒舌キノコ】来る。このコメント欄が居心地いいんだ。悔しいけど
【新規7】毎週見ます
【GreenThumb】The garden grows. And so does the gardener. See you next week, Tsuchinoko-sensei.(庭は育ちます。庭師もまた育ちます。来週また、つちのこ先生)
「『庭が育つ。庭師も育つ』。かっこいいな。俺もいつかそうなれるかな」
「おつかれさまでした。来週土曜、夕方5時に」
†
配信を切った。152人が見てくれた。最大瞬間。
セーフエリアC-7。1人。薄紫の空。バジ太郎の8枚葉。トマ次郎の黄色い花。ミン三郎の暴走した根。カケルとチビケル。
手を土に当てた。
脈動。温かい。強い。1ヶ月前の微かな振動とは別物だ。生きている土。
俺の魔力が、この土を変えている。佐伯さんはそう判断したんだろう。報告書が上に行く。管理局の本部に。
怖い、と思う。
この庭は俺の庭だ。サミットの苗と、D級の魔力と、8人のリスナーから始まった、小さな場所だ。管理局の報告書に載るものじゃない。上に行くものじゃない。ここに留まっていてほしい。俺と、バジ太郎と、土曜日のリスナーの間にあるものでいてほしい。
でもそうはいかないんだろうな。数値は嘘をつかない。佐伯さんの目は嘘をついていなかった。
GreenThumbさんの言葉を思い出した。「Your garden is more interesting than you realize.(あなたの庭は、あなたが思っている以上に面白い)」。
面白い、か。俺にはわからない。俺にはただ、温かい土と、バジルの匂いと、薄紫の空がある。それだけでいい。それだけがいい。
トマ次郎の花に目をやった。黄色い花弁。小さい。でも咲いている。ダンジョンの薄紫の空の下で、黄色が鮮やかだ。花が咲いたということは、いずれ実がなる。実がなったら食べられる。ダンジョン産のミニトマト。世界初の。
バジ太郎の隣に座り直した。土に手を当てた。脈動。今日の分の挨拶。
「来週も来るよ」
声に出して言った。配信は切ってある。誰にも聞こえない。バジ太郎にも聞こえていないだろう。植物だから。
でも言いたかった。ここが俺の庭だと。どんな数値が出ても、どんな報告書が上に行っても、ここは俺が198円のバジルを植えた場所だと。
立ち上がった。帰る。
新宿御苑跡のゲート。澤村さんが待っていた。
「柏木さん、佐伯さんから聞きました。数値のこと」
「はい」
「報告書が本部に行くんですけど……その、あんまり心配しないでください。佐伯さんも『まずいことじゃない』って言ってました」
「大げさなことにならないといいんですけど」
「……正直、なるかもしれません。でも柏木さんは今まで通りでいいと思います」
「今まで通り?」
「庭いじり。来週も来るんですよね?」
「来ます」
「じゃあ大丈夫です。あ、それと」
「はい?」
「今週の火曜に、本部から誰か来るかもしれません。連絡があったら、またお伝えしますね」
「……わかりました」
ゲートを出た。新宿駅。中央線。帰りの電車。
スマホを見た。Twitterの通知。200件超え。
「つちのこ先生の庭で管理局が測定したらしい」
「D級覚醒者のセーフエリアが拡がってるって、ソースは?」
「配信アーカイブ見ろ。本人が言ってる」
広がっている。情報が。俺の庭のことが。198円のバジルと248円のトマトと158円のミントの庭が。
通知をオフにした。開くと止まらなくなるから。
窓の外。新宿のビル群。夜の灯り。向かいの席に高校生のカップル。スマホを見ている。DunCastのアプリ。A級覚醒者のダンジョン攻略配信。派手なエフェクト。爆発。歓声。
俺の配信はあんなふうにはならない。バジルが育つだけ。土が温かいだけ。グラスバードがバジルを食べるだけ。
でも152人が見てくれた。
月曜からはExcelの日々。棒グラフと円グラフと経費精算。
でも土曜が来る。6日後に。バジ太郎に水をやりに。トマ次郎の花を見に。ミン三郎の暴走を止めに。カケルとチビケルにバジルの葉を投げに。
152人と、GreenThumbさんと、カンナ先輩さんと、毒舌キノコさんと、常連たちが待っている。
本部から誰か来るかもしれない。火曜日に。
何が起きるかわからない。でも俺は来週も土をいじる。バジ太郎の隣に座って、土に手を当てて、脈動を感じる。それだけは変わらない。
604円の庭の先に、何があるのか。
まだ、わからない。
でも来週が楽しみだ。D級覚醒者になって初めて、来週が楽しみだと思った。バジルの匂いが、指先に残っている。ダンジョンの土の、温かい記憶が、手のひらに残っている。
それだけで、悪くない土曜日だった。




