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第1話 D級の10センチ土壁

ずっと読み専でしたが、生成AIとなら、と思い一緒に書き始めました

「配信を始めますね」


「えー、こんばんは。柏木ハルです。本日もダンジョン庭いじり配信やっていきます。視聴者数は……8人。いつもありがとうございます」


(Comments)

【常連A】きたきた

【常連B】今日も8人で草

【gardenFan_03】安定の過疎

【常連A】過疎って言うなw

【GreenThumb】Good evening. Ready for today's session.(こんばんは。今日のセッションの準備ができています)


「英語の人もいる。GreenThumbさん。毎週来てくれますよね。たぶんアメリカのどこか。時差的に向こうは朝のはず。朝から日本のD級覚醒者の庭いじりを見てるって、どういう生活してるんですか」


「……あ、自己紹介しますね。毎回同じ8人だから要らない気もするけど」


「柏木ハル。24歳。平日はIT企業で事務やってます。覚醒者ランクはD級。能力は『土壌操作』。戦闘能力はゼロです」


(Comments)

【常連B】毎回自己紹介する律儀さ

【gardenFan_03】D級って何ができるの?

【常連A】土いじれるだけ

【gardenFan_03】それだけ?

【常連B】それだけ。


「それだけです。土のpHを調整できる。水分量を操作できる。あと、10センチくらいの土壁を作れる。以上」


「戦闘? 無理です。スライムにすら勝てません。覚醒者適性テストで測定員に『まあ……農業とか向いてるんじゃないですか』って言われました。目を合わせてもらえなかった」


(Comments)

【常連A】毎回この話するじゃんw

【常連B】定番のくだり

【GreenThumb】The look-away is the worst part lol(目を逸らされるのが一番きついよね笑)


「はい。定番です。でも語りますよ。D級覚醒者の悲哀は何度語っても足りない」


 †


「場所の説明をします。ここは星2ダンジョン『新宿御苑跡』の第3層、セーフエリアC-7」


「新宿御苑跡。名前の通り、かつての新宿御苑がダンジョン化した場所です。地上は管理局のゲートがあって、中に入ると亜空間。外とは時間の流れが違う。中の1時間が外の40分くらい」


「セーフエリアC-7は、第3層の東側にある小さな空間。広さは6畳くらい。天井がない。上を見ると……カメラ上に向けますね。ダンジョン特有の薄紫色の空が広がっています。光源不明の柔らかい光。昼なのか夜なのかわからない、永遠の夕暮れみたいな空」


「きれいでしょう?毎回見ても飽きない」


「で、足元は土。ダンジョンの土。普通の土とは違います。魔力を含んでいるから、手を置くと……ほら、こう」


(Comments)

【常連A】手置いて何が起きてるの

【常連B】画面じゃわかんないんだよなこれ

【gardenFan_03】感覚なの?

【GreenThumb】Can you describe what you feel?(感じていることを説明してもらえますか?)


「えーと、微かに温かいんですよ。脈拍みたいな……いや、これは俺の能力が感知してるだけかもしれない。普通の人には冷たい土に見えるらしいです」


「土と会話してるみたいな感じ? いや、会話は言い過ぎか。聴診器を当ててるみたいな。土の声が聞こえる……わけじゃないけど、状態がわかる」


(Comments)

【常連B】D級の能力、地味だけどロマンある

【常連A】土の声聞こえるの詩人かよ

【GreenThumb】Soil auscultation. That's actually a real concept in agricultural science.(土壌聴診。それは農業科学では実際にある概念なんですよ)


(Comments)

【gardenFan_03】毎回背景きれいだよな

【常連A】ダンジョンの空ほんと好き

【常連B】この薄紫がいい

【GreenThumb】The twilight sky never gets old.(夕暮れの空には飽きませんね)


「でしょう。ダンジョンの空は綺麗ですよ。戦闘してる覚醒者は見上げる余裕ないだろうけど。D級の特権。空を見る余裕がある」


「さて、本題。今日は……バジルを植えます」


(Comments)

【常連A】バジルきた

【常連B】ついにか

【gardenFan_03】ダンジョンでバジル育つの?

【常連A】わからん。実験

【GreenThumb】Basil in a dungeon... interesting.(ダンジョンでバジル……面白いですね)


「育つかどうかわかりません。ダンジョンの土は魔力を含んでいるので、通常の植物がどう反応するか未知数です。でもセーフエリアはモンスターが入ってこないし、光はあるし、土はある。条件としては……悪くないはず」


「持ってきたのはこれ。スーパーで198円のバジルの苗。新宿のサミットで買いました。店員さんに『ダンジョンで使います』って言ったら2度見された」


(Comments)

【常連B】スーパーのバジルをダンジョンにw

【常連A】世界初のダンジョン農業

【gardenFan_03】198円で世界を変えるやつ

【常連B】変えないだろw

【GreenThumb】$1.50 basil in a magic dungeon. I love this stream.(魔法のダンジョンで1.5ドルのバジル。この配信最高です)


「変えませんよ。庭いじりするだけです」


「じゃあ、植えます。まず土壌操作で……こう、手を土に当てて、魔力を流す。pH値を確認。6.2。バジルの適正は6.0から6.8。大丈夫。水分量……やや少ない。少し上げます」


「手のひらから魔力が流れると、土の中の水分が移動する。乾いた部分に水が集まる。見た目には何も変わらない。地味。めちゃくちゃ地味。配信映えしない能力ナンバーワンです」


(Comments)

【常連A】地味ーーー

【常連B】見た目変化なしw

【gardenFan_03】何が起きてるか全くわからん

【常連A】pHが変わったらしいよ

【gardenFan_03】pH見えねぇよ

【GreenThumb】Trust me, what he's doing is remarkable. Soil conditioning without tools is incredible.(信じてください、やっていることはすごいです。道具なしでの土壌改良は本当に驚異的です)


「GreenThumbさんがフォローしてくれた。ありがたい。この人、農業に詳しいんですよね。いつもコメントが専門的で助かります。soil conditioningって土壌改良のことですね。英語で言うとかっこいい。俺の能力もsoil conditioningって言えば多少マシに聞こえる」


「はい、植えました。バジルの苗。ダンジョンの土に。指で穴を掘って、根を入れて、土をかぶせて、軽く押さえる。農作業の基本。能力は使ってません。ただの手作業。D級の本領発揮は土壌調整であって、植える行為は普通の人間と同じです」


「……ちっちゃいな。6畳のセーフエリアに、バジルが1株。荒野にポツンと一軒家みたいな」


(Comments)

【常連B】ぽつーん

【常連A】寂しすぎるw

【gardenFan_03】これが庭?

【常連A】庭の第一歩だ。敬え

【GreenThumb】Every garden starts with one plant.(すべての庭は一本の苗から始まります)


「その通り。すべての庭は1株から始まる。GreenThumbさん、いいこと言いますね」


「名前つけましょうか。この子に」


(Comments)

【常連B】バジ太郎

【常連A】即答w

【gardenFan_03】バジ太郎て

【常連B】バジルだからバジ太郎

【GreenThumb】Baji-Taro. I approve.(バジ太郎。いいと思います)


「バジ太郎。いいですね。じゃあ君はバジ太郎。よろしく」


「……返事はない。植物だから」


(Comments)

【常連A】当たり前だろw

【常連B】返事待ってるの好き

【gardenFan_03】このゆるさが癖になる


 †


「あ、ちょっと待って。何か来る」


「セーフエリアの境界……ぼんやり光ってる線があるんですけど、その向こうに影が見える」


(Comments)

【常連A】え、モンスター?

【常連B】逃げろ!

【gardenFan_03】セーフエリアって安全じゃないの?

【常連A】中には入ってこない。はず

【GreenThumb】Stay calm. Safe Areas are monster-proof.(落ち着いてください。セーフエリアはモンスター無効です)


「大丈夫、大丈夫。セーフエリアにはモンスターは入れない。ただ……境界の外から覗いてる」


「あれは……グラスバード。星1の最弱モンスター。鳥の形をした草の塊みたいなやつ。体長30センチくらい。くちばしが尖ってる。目が……こっち見てる」


「バジ太郎を見てる」


(Comments)

【常連B】バジ太郎狙われてる

【常連A】守れーーー

【gardenFan_03】D級で倒せるの?

【常連A】倒せない

【gardenFan_03】え

【GreenThumb】He can't fight it. But Safe Area barrier should hold.(戦えないけど、セーフエリアの結界は持つはずです)


「倒せません。グラスバードは星1だけど、俺の戦闘能力はゼロだから。スライムにすら勝てないって言ったでしょ」


「でもセーフエリアの結界があるから中には……」


「あ」


「入ってきた」


(Comments)

【常連A】!?

【常連B】入った!?

【gardenFan_03】結界破られた!?

【常連A】グラスバードって植物系だから!セーフエリアの判定が甘いのかも!

【GreenThumb】Plant-type monsters can sometimes bypass barriers. This is known.(植物系モンスターはバリアを迂回できる場合があります。これは知られています)


「え、ちょっと。入ってきた。グラスバードがセーフエリアの中に入ってきた。植物系モンスターはセーフエリアの判定をすり抜ける場合がある……って、今知った。今知ったんですけど」


「バジ太郎に向かってる。くちばし開けてる。食べる気だ。198円のバジルを」


(Comments)

【常連B】バジ太郎逃げてー

【常連A】逃げられない。植物だから

【常連B】そうだった

【gardenFan_03】柏木!何かしろ!

【GreenThumb】Use your ability. Anything.(能力を使ってください。なんでもいい)


「能力……土壌操作。戦闘用じゃない。でも」


「土壁。10センチの土壁。それしかない」


 手を地面に叩きつけた。魔力を流す。バジ太郎の周囲に、土が盛り上がる。10センチ。高さ10センチの、円形の土壁。


 グラスバードが止まった。くちばしが土壁に当たる。こんこん。つつく。首をかしげる。もう1回。こんこん。


「……10センチの壁。グラスバードの体長は30センチ。飛び越えられる。普通に」


(Comments)

【常連A】10センチwwww

【常連B】飛び越えられるだろwwww

【gardenFan_03】意味ある?それ

【GreenThumb】It's... symbolic at best.(まあ……象徴的な意味くらいはありますかね)


「意味ないかもしれない。でも、これしかないんだ」


 グラスバードが首をかしげた。こんこん。もう1回。壁は崩れない。土壌操作で魔力を流し込んで固めた土。見た目より硬い。コンクリートとまでは言わないが、粘土よりは確実に硬い。


 こんこん。こんこん。こんこん。


「……粘ってるな。諦めてくれ……」


 諦めた。


 グラスバードがくちばしを引っ込めた。首を傾げて、ぴょん、ぴょん、と3歩下がって、境界の向こうに戻っていった。最後にこっちを振り返った。恨めしそうな目。草の塊のくせに表情豊かだな。


(Comments)

【常連A】勝った!?

【常連B】10センチの壁で!?

【gardenFan_03】グラスバード、飛べなかったの?

【常連A】飛ぶ知能がなかっただけでは

【常連B】最弱モンスターの知能に助けられた

【GreenThumb】The wall held. Soil hardening under magic compression—that's actually impressive technique.(壁が持ちました。魔法圧縮による土壌硬化、実際には印象的な技術ですよ)


「勝った……のか? 10センチの土壁で。グラスバードが飛び越える知能を持っていなかったから助かった。D級の勝利。世界一ギリギリの勝利」


「バジ太郎は無事です」


(Comments)

【常連B】バジ太郎!!!

【常連A】よかったー

【gardenFan_03】ハラハラした

【常連B】198円のバジルを命がけで守る男

【常連A】命がけは盛りすぎ

【常連B】盛ってない。グラスバードでもD級には致命的

【GreenThumb】Well done. Your basil lives another day.(よくやりました。バジルがまた1日生き延びましたね)


「はい。今日の配信はここまで。バジ太郎を植えて、グラスバードから守って、10センチの土壁で勝ちました。D級の大冒険」


「来週もこの時間にやります。土曜の夕方5時。バジ太郎の成長を見届けてください」


(Comments)

【常連A】来週も来る

【常連B】絶対来る

【gardenFan_03】俺も来るわ。面白かった

【常連A】お、新しい常連が

【GreenThumb】See you next Saturday. Take care of Baji-Taro.(来週土曜にまた。バジ太郎の世話をしてあげてください)

【常連B】おつかれー

【常連A】おつー


「配信を終了しました。視聴者数……12人。始めたときより4人増えてる」


 †


 セーフエリアC-7。配信を切ったあと。


 1人。バジ太郎と2人。


 10センチの土壁に手を当てた。まだ残ってる。魔力で固めた土。崩れていない。


 10センチ。


 俺にできるのはこれだけだ。10センチの壁と、土のpH調整と、水分の移動。


 覚醒したとき、期待した。


 覚醒者適性テスト。新宿の管理局ビル。地下3階の測定室。白い壁。白い床。白い服の測定員。


 最初の測定。魔力量。「平均の0.4倍です。低いですね」。


 次。属性判定。「土……ですね。土壌操作系」。


 次。戦闘適性テスト。模擬戦闘室に入れられた。目の前にスライム。世界最弱のモンスター。


 何もできなかった。


 土壌操作で土を持ち上げようとした。持ち上がらなかった。スライムが近づいてきた。逃げた。測定員がため息をついた。


「D級ですね。戦闘不能。補助・生産系です」


「何か……できることは」


「まあ……農業とか、向いてるんじゃないですか」


 目を合わせてもらえなかった。視線が壁のポスターに逃げていた。「覚醒者のみなさんへ……あなたの力が世界を守る」。守れない。俺の力じゃ。


 会社の同期は3人覚醒した。1人はC級の炎属性で、ダンジョン管理局に引き抜かれた。もう1人はC級の風属性で、探索チームに配属された。3人目はB級の強化系で、覚醒者専門の民間警備会社に転職した。給料が倍になった。


 俺は事務のまま。デスクのパソコンでExcelを叩いている。覚醒前と同じ仕事。同じ給料。


 D級覚醒者の手当ては月額3,000円。JR中央線の定期代にもならない。


 でも、バジ太郎。


 ダンジョンの土に植えたバジル。薄紫の空の下で、緑の葉が揺れている。風はないのに、魔力の流れで、微かに揺れている。


 8人の……いや、12人のリスナーが見てくれた。グラスバードが来たとき、「守れ」って言ってくれた。バジ太郎が無事だったとき、「よかった」って言ってくれた。


 10センチの壁。198円のバジル。D級の能力。


 悪くないかもしれない。


 バジ太郎の葉に触れた。柔らかい。匂いがする。バジルの、青くて鋭い匂い。ダンジョンの土の匂いと混ざって、少し甘い。


 来週も来よう。


 新宿のサミットでバジルの追加苗を買って。予備の苗。全滅したときのために。


 全滅って。植物を全滅させる男。D級らしい心配だ。


 セーフエリアを出た。ダンジョンの通路を歩く。星2だから弱いモンスターしか出ない。グラスバードが遠くで鳴いている。


 新宿御苑跡の出口。地上。ゲートを通る。


「お疲れさまです」


 管理局の職員が言った。20代の男。制服。名札に「澤村」と書いてある。戦闘痕のない俺を見て、少し不思議そうな顔をした。


「あの、怪我はないですか?」


「ないです。D級なので。戦闘してません」


「え、じゃあダンジョンで何を」


「庭いじりです」


「……庭?」


「はい。バジル植えてました」


 澤村さんが目を丸くした。口が半開き。何か言いかけて、やめた。「お疲れさまでした」と繰り返した。


 ダンジョンのゲートから出てくる覚醒者は、普通は汗まみれで、装備がボロボロで、魔力が枯渇した顔をしている。俺はスーパーの袋を持って出てきた。中身はバジルの予備苗。サミットのレジ袋。


 場違いにもほどがある。我ながら。


 新宿駅。中央線。帰りの電車。土曜の夕方、車内は空いている。


 向かいの席にダンジョン帰りらしいB級の覚醒者が座っている。腕に傷。鎧の胸当てが凹んでいる。目が疲れている。あの人は戦ってきたんだ。俺は土を触っていただけ。


 B級の覚醒者がスマホを見ている。DunCastのアプリ。画面にはA級の派手な戦闘配信が映っている。爆発。閃光。歓声。覚醒者の世界は、戦うことで回っている。


 俺はそこに入れない。最初から弾かれた。D級。補助・生産系。戦闘不能。


 でも今日、バジルを植えた。10センチの壁でグラスバードを追い返した。8人のリスナーが12人になった。


 スマホを開いた。配信のアーカイブ。再生数……47。リアルタイムの12人と、あとから見た人。


 コメント欄を読み返した。GreenThumbさんのコメント。「Every garden starts with one plant.」


 すべての庭は1株から始まる。


 そうだ。10センチの壁も、198円のバジルも、8人のリスナーも。


 全部、一から始まる。


 電車の窓に映った自分の顔。24歳。IT事務職。D級覚醒者。月額手当3,000円。


 来週、トマトの苗も持っていこう。


 バジ太郎の隣に植える。6畳のセーフエリアに、2株目。


 庭と呼ぶにはまだ早い。バジル1株。6畳の空き地。10センチの土壁。


 でも、始まった。


 手のひらを見た。指の腹にまだ土がついている。ダンジョンの土。少しだけ温かい。この温度を、覚えている。ずっと昔のどこかで、同じ温度に触れた気がする。


 思い出せない。でも、手のひらが覚えている。土を触ると安心する理由を、頭ではなく手が知っている。


 それだけで、十分だ。

漢数字表記を現在修正中です。4月第一週には全話修正予定です。

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