勇者パーティですが魔王討伐をバックれます
初投稿作品です。拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。
「それでは行ってまいります」
そう言って城を後にしたのは今から30分前のこと。僕たちは人類を魔の手から守る為、悪の根源である魔王の討伐に向かう勇者パーティだ。世界でも選りすぐりの一流たちが集まっており、人間の中では最強の名を欲しいままにしている。
「よし、この辺でいいか」
僕は人の目が完全になくなったあたりで立ち止まった。仲間たちも僕に合わせ立ち止まる。
「ルークリス、頼む」
僕は、パーティメンバーである魔法使いのルークリスに声をかけた。
「わかった」
ルークリスは要件を聞くことなく、行動に移った。他のメンバーも何も言わずにことの成り行きを見守っている。
「行くよ。“ワープ”」
ルークリスが一言、呪文を唱えると、パーティメンバー全員が一瞬にして光に包まれた。そしてすぐにその場から全員が姿を消した。
「ついたよ」
その一言で全員が目を開けると、そこに広がっていたのは先ほどとは全く違う景色。先ほどまで町のはずれにいたのに、今いる場所は森の中。誰一人この事態に驚いてはいない。
「何回体験しても便利よね。」
「そうだな。一瞬でこんな遠くまで来れるのだからな」
僧侶のティンクルと剣士のドランスは感心したように話す。
「予定通り、ここからは名前を変えていこう。」
「なら、私は今からティルね。」
「俺はドラスだな。」
「僕はセイドだ。」
「僕はルリス」
確認を兼ねてそれぞれの名前を改めて言い合う。
僕たちは、勇者パーティ。だけど、今この瞬間からはただの一冒険者パーティだ。魔王討伐?そんなものはしない。人類のためだろうがなんだろうが僕たちが命をかける必要がどこにある?このパーティには、正義感なんて持っている奴はいない。だからこそ満場一致で決まった。
『魔王討伐をバックれよう』と。
それに、魔王は特別悪いことはしていない。ただ魔物たちの王というだけで、世界征服や人類滅亡を望んでいるわけではない。ただ勝手に一部の魔物たちが人間を襲っていただけで、魔王は全く関係ない。だというのに、人間の王、特に僕たちを集めたケリトン王国の王はなぜか魔王を絶対なる悪と断言し、討伐を目的としている。意味わからんし、興味もないのでバックれることにした。
「お尋ね者生活スタートだね」
「それ明るくいうことか?」
明るく新生活のスタートを宣言したら、突っ込まれた。
「ふふ、なんだかんだ楽しくなりそうね」
「…うん」
お尋ね者にはなってしまったが、きっと僕らなら楽しめるだろう。
あれから半年の月日が経った。お尋ね者ということで色々覚悟していたが、それは杞憂で終わった。追手は来る気配がなく、それどころか僕たちがバックれたことのニュースすら耳にすることがない。これは憶測だが、もしかしたら魔王だ、勇者だと騒いでいたのはあの国だけなのかもしれない。あの日、森から出て、一番近くにあった国にきたが、魔王のまの字すら聞いたことはない。僕たちは一冒険者として冒険生活を謳歌している。冒険者ランクは一番下からのスタートだったが、着実に依頼をこなしていき、今ではBランクまで上がることができた。
「よう、今日も依頼受けに来たのか?」
「ああ、Aランク目指してるからな」
ギルドに依頼を受けに来ると、馴染みの冒険者から話しかけられる。
「頑張ってんなー。Aランクなったら飯でも奢ってくれ」
「なんでお前に奢んなきゃいけないんだ」
そんなふうに軽口を叩けるものも増えた。冒険者というのはあまり上下関係など気にしないので、同じ冒険者ならこうやって気安い仲になることは珍しくない。
「これなんてどうだ?」
依頼の掲示板を眺めながら、いい感じの依頼があったのでメンバーに聞いてみる。
「うん、いいんじゃない?」
「…なんでもいい」
「いいと思うぞ」
三者三様だが、みんな賛成なようなのでその依頼書を剥がし、受付に向かう。
「依頼の受注ですね。冒険者カードの提示をお願いします。」
「はい」
依頼書を受付に出して、冒険者カードを見せる。
「はい、確認できました。受注を認めます。頑張って来てください。」
無事に依頼の受注を完了し、僕たちは冒険者ギルドを後にした。
「オーク5体の討伐、ね」
「…すぐ行くの?」
「そのつもりだが、行けるか?」
「愚問だな」
念の為、確認するがそんな確認は必要ないとばかりに即答された。他のメンバーもうんうんと頷いている。
「じゃあ、行こうか」
僕がそういうと、それが合図となり、ルリスの転移魔法が発動した。これで依頼場所まで一瞬で移動できる。時短だ。
「2キロ先に三体、3キロ右に一体、1キロ左に2体いる」
目的地まで着くと、すぐにルリスが魔力探知を使用し、オークを探した。
「一匹多いが、いい感じだな」
「私とルリスは正面にいくわ。」
ティルは早い者勝ちとばかりにいち早く行く方向を宣言した。
「じゃあ俺は左な」
一足遅れたが、ドラスも続いて宣言。
「なら僕は右だね」
どんどんと行き先が取られてしまったので、仕方なく余ったところに行くことにした。全員決まったところで、それぞれそこへ向かって走り出した。今回は苦戦するような相手でもないので、タイムアタックになるだろう。油断はしないが、一番乗りになれるようにしたい。ちなみに、ティルとルリスは必ずセット行動する。ティルが回復メインの戦闘職ではないことと、ルリスは魔法使いで単独戦闘は向いていないからだ。
「居た!」
少し走ると、すぐに対象のオークを発見した。まだこちらには気付いてない。剣の柄に手をかけ、戦闘体制に入る。3、2、1ズバッ
「よし、一撃だ」
オークまでの距離残り3歩からカウントを始め、一番いいタイミングで攻撃することができた。一撃で勝負が決まった。
「ギャー!!」
討伐証明の部分も拾い、そろそろ戻ろうとことが踵を返したその時、誰かの叫び声がこだました。咄嗟にその方向へ向き直し、急いで向かう。
「オーガか!」
叫び声が聞こえた場所と思われる場所は比較的近く、すぐに着いた。近づいてみれば、オーガの姿が見えた。よく見ると、その近くに人が見えるので、その人の声だろう。その人に害が及ぶ前に、急いでオーガを切り付ける。幸い、弱い個体だったようで一撃とはいかなかったが二回目で倒すことができた。
「大丈夫で…すか」
その一言は最後まで言う前に、言葉は尻すぼみになってしまった。理由は簡単だ。
「なんで、王様がここに…」
僕たちを送り出した本人、ケリトン国の国王その人だったからだ。
「お主は勇者セイリード!?」
驚いたのはお互い様のようで、王様も目を見開いて驚いている。まさか、王様本人が追ってくるなんて想像もしていなかった。助けなかったらよかったと少し思ってしまったが、まずは状況を聞いておこうと思う。
「…一応聞きますけど、なぜこんなところに?」
「そ、そんなの決まっておろう!お主たちを探しに来たのだ!」
僕の予想は当たっていた。やはり追って来たらしい。
「護衛はどうしたんです?」
「…いない」
どうやら考え無しなのは王様だけなのかもしれない。予想するに、誰も付いてきたがらなかったと言ったところか。
「僕たちは魔王を討伐する気はありませんよ」
ついでにめんどくさいので、言われる前に魔王討伐をする気はないと宣言しておく。どうせ、魔王を討伐しにいけと言うんだろうからな。
「なぜだ!?」
「なぜって、そりゃあ魔王悪いことしてないんで」
「何を言っておる!魔王は存在そのものが悪であろう!?魔王討伐は人類に必要なことなのだ!」
話が通じない。理屈も意味不明ときた。
「魔王討伐にいけ!これは命令だ!」
今度は権力を振り翳して来た。僕が頷かないことを理解したため、権力に頼ったのだろう。だが、よく考えて欲しい。今いるこの場所は、ケリトン王国ではない。つまりこの王様の命令を聞く奴なんてどこにもいなければ、聞く理由もない。だってここ、他国だから。この王様に権力はないのだから。
「そうですか。それじゃあ僕はこれで」
「ま、まて!聞いていたか!?命令だと言ったであろう!」
今度こそ帰ろうとすると、うるさい声で止められた。めんどくさいことこの上ない。
「なぜ、あなたの命令を聞かなければいけないのですか?状況わかってますか?」
仕方ないので、教えてあげることにした。今の自身の現状を。
「いいですか?ここは他国です。加えてあなたは一人です。そんな状況で誰があなたの命令を聞くのですか?誰も聞きませんよ。」
子供を諭すように、丁寧に教えてあげる。いつの間にか来ていた他の三人も静かに頷いていた。状況は見てわかったようだ。一応改めて王様の現状を説明すると、護衛はおらず、一人だけ。さらに武器は護身用の短剣一本で、荷物はない。この王様に従わなければいけない要素など一つとしてない。
「なっ!」
反論もできないようで、言葉が出て来ていない。命令と言えば素直に従うのだと思っていたのだろう。愚かすぎて可哀想になって来た。
「なんで!?なんで言うこと聞かないんだ!?王様なのに!」
突然叫び出した。しかも子供のわがままみたいな癇癪を起こして。
「……」
いい年したおじさんが急に癇癪を起こし始めて、全員ドン引きしている。ドン引きしすぎて、みんな言葉を失ってるくらいだ。正直、見てるこっちが痛々しいくらいだ。
「なあ、これどうしたらいいんだ?」
ドラスが僕に聞いてくるが、聞かないで欲しい。僕だってわからない。
「ん?お前らこんなところで何してんだ?」
どうすべきかと戸惑っていると、背後から第三者の声が聞こえてくる。咄嗟にバッと振り返ってみれば、そこにいたのは奢られようとしたあの馴染みの冒険者。
「ガイルド、どうしてここに?」
予想もしていなかった人物の登場に少々驚いたが、よく考えてみれば不思議な話でもない。冒険者だったらこの森にだってよくくるだろう。たまたま、タイミングが重なっただけだろう。
「薬草をとりに来たんだよ。小遣い稼ぎでな」
「僕たちも依頼で来たんだが、ちょっと厄介な人物に出会してしまったんだ」
そう言って、目の前にいる王様に視線を向ける。ガイルドは、それだけで訳ありだと察してくれたらしく、「そうか」と詳しくは聞かないでくれた。
「そ、そこのお前!お主からもこやつらを説得してはくれんか?金なら出すぞ!?」
これは好機とばかりに王様がガイルドを巻き込み始めた。無関係の人物さえ巻き込もうとしている愚かさに「はあ…」と思わずため息すら出てしまった。
「説得?なんの話だ?」
この件にはあまり関わらないつもりだったガイルドは、自分が巻き込まれたことで関わらずにはいられなくなった。
「僕から説明するよ…」
こうなっては仕方ないので、王様からややこしい説明をされる前に自分から説明することにした。僕たちがお尋ね者ということも言わざるを得ないが、まあたいして問題はない。
「なるほどな…お前らも大変だな」
全てを説明し、これまでの経緯も教えると驚くでもなんでもなく、ただ同情された。しかも哀れみの目を向けて。
「だが、そういうことなら話は簡単だな」
「は?」
唐突な簡単発言に僕たちは思わずこいつ何言ってんだという目を向けてしまう。話を聞いていなかったのか?とも思ったが、とりあえず口には出さずに見守る。
「魔王を討伐したいんだろ?なら、今ここで俺を殺せばいい」
「「「「「え?」」」」」
脈絡のない俺を殺せ発言に、王様を含めて全員が同じ声を出した。何を言ってんだ?全員の心が一つになった瞬間だった。
「おま、お前何言ってんだ?」
噛みながらも詳しい説明を求めると、
「え?だって魔王俺だもん」
となんでもないことのように衝撃発言をした。
「「「「「え?…えー!!」」」」」
またしても全員の声が揃った。あまりの驚きに、冒険者の基本である大きな音をたてないということさえ忘れて思いっきり叫んでしまった。
「え、おま、ま、まま」
衝撃のあまり言語を話せなくなってしまい、驚かせた超本人に「落ち着け」と宥められる始末だ。
「落ち着いたか?」
「ああ、すまない取り乱した。」
しばらくしてやっと落ち着いた僕たちにガイルドは「それじゃあ本題に戻ろう」ときりなおした。
「改めまして、冒険者ガイルド改め、魔王ガイルリードだ。騙していてすまなかったな」
改めて自己紹介を聞いて、嘘じゃなかったんだなと密かに思った。
「俺は確かに魔物たちの頂点だ。だが、俺は人間を襲うことも、世界の支配もするつもりは一切ない。信じられないかもしれないが、人間たちとは友好的にしたいとさえ思っている。」
「…僕は信じるよ。ていうか、悪さするつもりがないの知っていたからバックれたんだしな」
他の三人も頷いている。これはみんなの総意だからこそバックれるということができたんだから。
「わしは騙されんぞ!魔物の主が、悪さをしないわけがない。騙そうとしても無駄だ!」
なぜかどこか勝ち誇ったように王様が叫び出した。バカなのかなとさえ思ってしまう。
「そうか、残念だ。」
残念そうにそんな一言だけ言ってガイルドは、突然魔力を放出し始めた。ブワッとあたり一体が、膨大な魔力に包まれる。慣れていないものなら気を失うほどだ。
「俺はな、人間と敵対したくはない。だが、こちらに害をなすなら話は別だ。不穏分子を放置するほど俺は優しくないぞ?」
王様はガクガクと恐怖で震え出し、「ヒ、ヒー!」と情けない声を出していた。
「ゆ、許してくれ!いや、許してください!死にたくない!」
ついには命乞いさえ始めた。あまりの情けなさに僕たちは言葉も出なかった。
「ふむ、いいぞ許してやっても。」
王様の情けない命乞いにどう反応するのかと思いきや、予想していたよりもあっさりと許してしまった。あ、許すんだ…とさえ思ってしまった。
「随分とあっさり許すんだな?」
「もちろん、タダではないぞ?」
優しい魔王だなと思っていたら、そういうわけでもないらしい。条件付きのようだ。それもそうか、魔王だしなと内心納得した。
「な、なんでもします!お金でも女でもなんでも渡しますのでどうか!」
「そんな物はいらぬわ!あまり俺をみくびるでない!」
王様の言葉にガイルドの言葉に怒気が混じった。みくびられたと感じたようだ。まあ、確かに捉え方によっては、ガイルドがお金も女も自力では手に入れられないと言っているような物だからな。怒るのも当然だ。
「お主が退位せよ。王位を次のものに渡し、お主自身は今後一切政治に関わらないと約束せよ。それならば、お主の無礼も含めて許してやろう。」
条件は、一見寛大に聞こえるが、王様のような権力に執着しているようなタイプにはかなり厳しいものにだ。しかし、魔王ともなれば国を滅ぼされても文句は言えない相手だ。その程度で済むのだから、寛大な方かもしれない。
「わしが…退位…」
思った通り王様には厳しい条件だったようで、呆然としている。
「断っても構わんぞ?そうしたらお主の命をもらうがな」
ガイルドが呆然とする王様に追い打ちをかける。悩むまでもないだろうにと僕は思ったが、これは と王様の問題なので、口は出さない。
「わ、わかりました。国に帰ったらすぐに退位し、隠居します!今後は政治にも関わりません!」
流石に命を奪うと言われたら権力にはあきらめがつくのか、すぐに条件を承諾し、退位と政治への不干渉を宣言した。
「その言葉、違えるでないぞ?違えたその時は…わかっておるな?」
「はい!」
最後に王様に念を押して脅し、この話は完結した。予想外な結末ではあったが、王様が気に入らなかった僕たちはスカッとした。 、 、 の三人も少しスッキリした顔をしている。
「なあ、聞いてもいいか?」
話がまとまったところで、少し気になっていたことを聞くことにした。
「なんだ?」
先ほどまでとは打って変わって、ガイルドは冒険者モードで聞き返した。
「冒険者はこれからも続けるのか?」
僕たちに正体がバレてしまったので、もう冒険者はやめるのかと思い、聞いてみた。
「もちろんだ。正体はお前たちにバレてしまったが、お前たちが黙っていてくれればいいだけだしな。」
さらっと、正体は話すなよと言われたようにも聞こえるが、続けるのならよかった。正直、仲のいい冒険者がいなくなってしまうのは、少し寂しいからな。
「なぜそんなことを?」
「いや、気になっただけだ」
寂しいというのは気恥ずかしいので、理由は言わなかった。
あれから数日、ケリトン王国の王が突然の退位を発表したことは、他国にいても大きなニュースとして耳に入った。なんでも王様は退位発表の際に、完全に政治から離れることも宣言してらしく、約束通り隠居した。
「よう、今日も依頼か?」
ギルドに依頼を受けに来ると、いつものようにガイルドから声をかけられる。あの時言っていた通り、ガイルドは冒険者を続けている。僕たちも正体は知っているが、態度を変えることはしなかった。ガイルドはガイルドで変わらないからな。
「ああ、Sランクを目指してるからな」
あれからまもなく僕たちはAランクになった。コツコツと依頼をこなしていたのが功を成した結果だ。
「Aランクになっても変わらないな。Sランクになったら酒でも奢ってくれよ?」
いつぞやと同じことを言って笑いながら自分のパーティに戻って行った。ちなみに、パーティメンバーも全員魔王であることを知っているらしい。全て知っている上で、パーティを組んでいるそうだ。
「ねえ、この依頼なんてどう?」
「俺はいいと思うぞ」
「僕も異論なし」
ティルが良い依頼を見つけて見せに来る。ドラスとルリスも賛成なようだ。
「うん、良いんじゃないか」
全員賛成になったのでいつも通りに依頼書を持ち、代表して受付に向かう。
「よし、行くか」
受付が終わり、依頼を正式に受けた僕はパーティメンバーに声をかけ、ギルドを出る。
「すぐに行くの?」
「そのつもりだが、行けるか?」
答えはわかっているが、一応聞いてみると、
「愚問だな」
と聞き覚えのある答えが返ってきた。ティルとルリスもうなづいている。
「それじゃあ、行こう」
「ああ」
「うん」
「ええ」
お読みいただきありがとうございました。




