第8話 奇跡の子と祭り
――村は、生き残った。
小型魔物の襲来は、犠牲者を出さずに終わった。
それだけで、本来なら十分すぎるほどの幸運だ。
だが、人は理由を求める。
なぜ助かったのか。
なぜ被害が最小で済んだのか。
そして――
誰のおかげなのか。
俺は今、母の腕の中で、村の広場を見下ろしている。
(嫌な流れだな……)
広場には、簡素だが明らかに“特別”な空気が漂っていた。
普段は使われない飾り布。
急ごしらえの台。
焼きたてのパンの匂い。
「よく集まってくれた!」
村長が声を張り上げる。
「昨日の魔物騒ぎ……我々は奇跡的に、全員無事だった!」
どよめき。
(奇跡、ね)
俺は、パネルを開く。
事象評価:偶発的成功
寄与因子:複数
奇跡判定:過大
(盛られてるなぁ……)
「これは――」
村長が、一瞬言葉を区切る。
「この子のおかげだと、皆が言っている!」
視線が、集中する。
母の腕の中の、俺――レオンに。
(やめろ)
「光ったと聞いた!」
「魔物が急に動きを変えたって!」
「守護の祝福だ!」
(全部“結果論”だよ!)
だが、空気はもう止まらない。
村人たちは、恐怖の後に残った“安心”を、
何かに結びつけたがっている。
「奇跡の子だ……」
「守られてる……」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が、すっと冷えた。
周囲評価:過剰
信仰形成:初期段階
危険度:上昇
(ああ……始まった)
母は、困ったように笑っている。
「そんな……この子は、ただの赤ん坊ですよ」
父は、黙ったままだ。
だが、その表情は硬い。
(分かってるな……)
父は戦場を知っている。
“目立つ存在”の末路も。
その時。
「……レオン」
聞き覚えのある声。
ミアが、人混みの端に立っていた。
少しだけ、近づいてくる。
俺を見て、首を傾げる。
「……みんな、へん」
(だよな)
俺は、視線だけで彼女を見る。
ミアは、にこっともしない。
怖がりもしない。
ただ、不思議そうな顔。
(……救われる)
特別視:なし(継続)
祭りは、始まった。
パンが配られ、酒が振る舞われ、
子どもたちは走り回る。
その中心に、
俺が置かれている。
「触れるといいことがあるらしい」
「ほら、拝んどけ」
(やめろやめろやめろ)
俺は、全力で赤ん坊らしい反応をする。
よだれ。
ぼーっとした視線。
(“奇跡”を否定する術がないのが、こんなに不便とは)
対応策:
・否定:不可(言語未実装)
・回避:困難
・秘匿:低成功率
(詰んでる)
夜。
祭りが終わり、人が散ったあと。
家に戻った父が、静かに言った。
「……見られたな」
母は、唇を噛む。
「そんな……ただの村のお祭りよ?」
父は、首を横に振った。
「違う」
低い声。
「“奇跡”は、広がる」
「いずれ、村の外に届く」
その言葉に、
母は何も言えなかった。
俺は、静かに天井を見つめる。
外部観測:確率上昇
推奨行動:分離・隔離
(……だろうな)
胸の奥が、重くなる。
今日の祭りは、祝福だった。
だが同時に――
別れの予告でもあった。
その夜。
ミアが、こっそり家の外から声をかけてきた。
「……レオン」
母に気づかれないよう、
そっと窓を開ける。
ミアは、小さな木の実を差し出した。
「……これ」
(食えないやつだ)
俺は、首を横に振る。
ミアは、少し考えてから、木の実を置いた。
「……また、あそぼ」
(……ああ)
それが、
いつまで許されるかは分からない。
関係性:維持困難
将来予測:分離イベント高確率
俺は、瞬きを一度だけした。
ミアは、それを見て、満足そうに頷いた。
「……やくそく」
彼女が去ったあと、
俺は一人、考える。
(守るって……)
(守り続けるって、
同じ場所にいることじゃないのかもしれないな)
祭りの残り香が、
まだ村に漂っている。
だが――
この平穏は、もう長くは続かない。
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